第十一話:爺さんとスラムの住人
まだバリアしか出してないんですよね。あ、異空間収納は出てるか。
姿が見えんがどこまで行ったのかのう。年寄りじゃからそこまでスピードは速うはないが日頃から歩いとったから遅いとも言えんはずじゃが。そういえば杖などはとんと縁がなかったのう。歩けんようなってからは病院のベッドの上じゃったからな。筋肉が弱っとるかと思ったがちゃんと歩けたのは幸いじゃったな。
「おい、じいさん、こんなところに入ってくるなんて危ねえぞ」
「ほほう? こりゃあ親切にどうも。しかしのう、ここにおる奴に用事があるんじゃよ」
「穏やかな話じゃねえなあ。誰だよ?」
「名前までは知らんが金貸しみたいな事をやっとる。阿漕なやつじゃよ」
「シャイロックかよ! よりによってこのスラムの元締の一人じゃねえか。くわばらくわばら」
ほほう? どうやら知っとる人の様じゃ。ここは聞いてみるかのう。親切に知っとる事を話してくれるかもしれんがそれはいささか楽観的じゃなあ。こういう時は袖の下が有効じゃと仕事で外国に行った時に学んだわい。
「まあまあ、その住処を教えてくれるだけでええんじゃ。なんなら礼もするぞ?」
「礼って言われてもなあ」
ワシは異空間収納から金貨を二枚取り出して渡す。
「これでどうじゃ?」
「……金貨持ってたらヤバい。銀貨でくれねえか?」
「よかろう」
金貨をしまって両替。銀貨を取り出す。ご丁寧に袋までついてきとる。まあ手では持ちにくい量じゃからなあ。
「どうも。あそこの廃ビルに事務所構えてんぜ。手下が固めてるから注意しろよ」
「そうか。どうもな」
「……死ぬなよ、じいさん」
「なあに、心配は要らんよ。そうじゃな、戻ってこんかったら巡回のメリッサ嬢に伝えてもらえんかの。ゲン、というジジイがあのビルに向かったと」
「気が向いたらな」
ああいう事を言うやつはだいたい知らせてくれるもんじゃ。どうやらお人好しの性質みたいじゃからなあ。もしかしてワシが年寄りじゃからかもしれんが。
途中でチンピラに何人か絡まれたがバリア張っとったらそのまま逃げていきおった。しかし少し歩いただけでこれでは金貸しなぞ事務所構えても仕方ないと思うのじゃが。まあ恐らく手下が歩いて獲物を見つけて貸しとるんじゃろうのう。
「げげっ、ジジイ、こんなところまで来やがったのか!?」
おや、先程の威勢のいい男じゃな。という事はここで間違いないのかの。
「な、何しに来たんだ?」
「あの親子の借金の事で話があっての」
「こっ、こっちにはねえんだ。さっさと失せろ!」
周りから武器……と言っても角材とか鉄の棒とかじゃがそんなので殴りかかって来おった。なるほど。こんな事に使える程には鉄は使われとるんじゃのう。
当然ながらバリアにはばまれてワシの身体にはひとつも届かんよ。
「さて、責任者は奥かの?」
ゆうゆうと歩いていくワシの後ろを少し遠巻きながらついてくるチンピラども。まあおったところで害にもならんじゃろう。
奥かの部屋の扉を開けると、そこには少しでっぷりしたスーツ姿の男とハゲでマッチョな護衛らしき奴が二人ほどおった。
「なんだ、テメェ?」
「あんたが金貸しのシャイロックさんかの?」
「ああ、そうだ。金でも借りに来たのか? だったら歓迎するぜ?」
そんな事はないだろうが、という感じで身体を揺すらせながら笑う。
「いかんなあ。そんな体型じゃと早死するぞい。大方暴飲暴食しとるんじゃろうが運動せんとなあ。ワシの友人も肥満の奴ほど早う死んだもんじゃ」
「余計なお世話だ。で、何しに来たんだ?」
少しイラついたのかワシがいるにも関わらず葉巻をふかし始めた。まあ肥満にタバコと来ればいつお迎えが来ても不思議ではなかろうに。
「母ひとり、子どもひとりの家庭の法外な借金を無しにしてくれんかのう?」
「そんな事例多過ぎてどれの事かわかんねえよ。だけど返事はNOだな。そしてテメェの人生にもNOだ! やっちまえ!」
シャイロックの号令で二人の護衛がつかみかかって来た。当然ながらバリアにはばまれるんじゃが。
「ボス、こいつに触れません」
「何か壁がある様で」
「だらしねえな、どいてろ!」
シャイロックがワシに向かって手にジャラジャラ嵌めとる指輪を向けた。
「火球よ、そのジジイを焼き尽くせ!」
そう言うと指輪からワシの顔面ほどの大きさの火球がワシに向かって来た。もちろん直撃。避ける暇すら無かったわ。
「どうだ!」
「さすがボス!」
「素晴らしい手際でした!」
やれやれ、こんな程度でワシがどうにかなるとでも思っとったのかのう? 温度すら熱いと感じんわい。そう考えると実はすごい性能なんじゃのう、このバリアは。
「な、なんで、なんでまだ生きてんだよ、火球よ、直撃したはずだろうが!?」
焼け跡に立っておるワシを見て取り乱した様に狼狽えるシャイロック。さて、これからどうしてくれようか?




