91:マスゴミとはよく言ったもの
こ、これは……まごうことなく世羅高原のダリア!!
さばは絵も描ける猫だったのか!!(知ってた)
魔鋼少女<マギメタガール>ミハル・Shining!
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嬉しかったから2話更新する。
目を覚ましてカーテンを開けると今日も晴天だった。
ひょっとして、さばがどこかで丸まっていたりしないか……なんて。
ある訳がない。いなくなったのは尾道でのことだったのだ。
聡介は自虐的に苦笑いを浮かべ、ゆっくりと肩を回した。
昨日の疲れが少し残っているが、孫達も娘夫婦も喜んでくれたので、いいとしよう。
ただ、どうしても気になることがあった。
リョウのことだ。
あまり彼のことを疑いたくはない。だが……。
考えを切り替えよう。
聡介は食パンをトースターに突っ込み、テレビのスイッチを入れた。
マスコミの報道合戦は日ごとに加熱していた。
被害者である山西亜斗夢の通っていた学校に取材を申し出、無理矢理、校内に踏み込んで行く厚かましい記者もいるらしい。何度か地域課の警官が通報を受けたと聞いている。
その上、どこから引っ張り出してきたのか被害者が書いた『将来の夢』についての作文だの、遠足に行った時の写真だの、どうでもいい情報を垂れ流している。
一方。容疑者についてはこれまたどうやって入手したのか、小学生の頃の文集を引き合いに出し、子供の頃からサイコパスの片鱗を見せていたのではないかなどと、まことしやかにコメンテイターが語っている。
まして過去には傷害致死で刑務所に入っていた、暴力団関係者である。
上層部の思惑通りだ。
山西亜斗夢は悲劇の主人公であり、何の罪もない可愛そうな犠牲者。
そういう認識が世間に広まるだろう。
ただ……心のどこかから、それで良かったんじゃないかという声も聞こえてくるのも確かだった。
醜い【裏事情】をわざわざ世間に報せることもない。
その時、オーブントースターがパンを焼き上げた音を鳴らした。
和泉が独立してからと言うもの、朝食をまともに食べなくなった。
が、これではいけないと最近は一応、トーストぐらいは用意するようにしている。基本的に紅茶派の聡介だが、朝は時間がないので、ペットボトルの緑茶や麦茶で流し込んでいる。
それから時計を確認する。
今日はビアンカと会う約束をしていた。
大宮桃子と言うのはいったい誰だろう?
もしかして和泉が最近、守警部と一緒に調べている件だろうか?
報告義務を怠っていると彼女はひどく怒っていたが、物理的に時間がなくて、把握できていなかったというのが現状である。
どうも彼女は息子のことを良く思っていないようだ。
いや、むしろ和泉に好感を覚えている女性の方が貴重なのでは?
息子のことを良く言ってくれる女性は漏れなく既婚者。しかもたった2人、という事実。
これじゃ再婚は難しいだろうなぁ……と自分のことは棚に上げ、聡介は和泉のこれからを慮って深く溜め息をついたのだった。
※※※
路面電車を降りた聡介は、ビアンカがどこにいるのかを探した。
「高岡さん!!」
彼女は通りを渡った商店街側に立っていた。
手を大きく広げて振っている。聡介はそのことに妙な安心感を覚えていた。
「おはようございます」
「おはようございます、今日はお時間を取らせてすみません」
「いえ、何か大切なお話しがあるとか?」
ビアンカは謎の頬笑みを浮かべる。
「この近くに、美味しいコーヒー屋さんがあるんです。行きましょう?」
※※※※※※※※※
今朝早い時間、和泉に宛て怒りのメールを送っておいたので、今はスッキリした気分でいる。そこでビアンカは聡介に、帝釈峡で遺体となって発見された女性が同僚の御堂久美だったこと、彼女の結婚は、大宮桃子という女性から恋人を奪った挙げ句の縁談だったということを説明した。
「そんなことが……」
聡介は黙って最後まで話を聞いてくれた。
「だから御堂さんの遺体が帝釈峡で見つかったって聞いて、もう会社の中では……大宮さんの呪いじゃないかって大騒ぎだったの」
バカバカしい。どうして日本人は呪いだの祟りだの妙な怖れを抱くのだろう。それも一つの文化なのかもしれないが。
「私はその大宮さんって人をあまりよくは知らないんだけど、噂では皆に慕われるいい人だったらしいわ。ちっとも偉ぶらないし、感じ良くて……まぁ、言ってみれば御堂さんと真逆のタイプってところね」
ビアンカ自身も正直、御堂久美に良い印象を抱いていない。
彼女は人種偏見があまりにもあからさまだった。
「でもどうして、帝釈峡になんて行ったのかしら。和泉さんはそこを知りたがっていたみたいだけど。私もそれとなく古くからいる社員達に訊いて回ったんだけど、判明してないのよね……」
帝釈峡は、長く広島に住んでいるビアンカでもまだ足を踏み入れたことはない。
ネットで調べた限り交通の便がひどく悪そうだった。
「変な言い方かもしれないけど、誰も彼女……御堂さんのこと、プライベートはほとんど知らなかったみたい。だって彼女、口を開けば自慢話ばっかりだったし。仕事中の態度が態度だったから、休憩時間なんかも一緒に過ごそうって言う人もいなかったわ。皆が御堂さんのこと嫌ってた。でも……それって、思えばかわいそうな話よね? 人同士のつながりって……ないと寂しいじゃない」
わりと裕福な家庭に育ったらしい御堂久美は、常々そのことを自慢していた。でもそれは自分に興味を示して欲しいという願いの裏返しだったのかもしれない。
そんなことをすれば利益目的で近づく人間しかやって来ないことを、彼女は気付いていなかったのだろうか。もし彼女を支える肩書きが、地位が剥がれ落ちた時に、果たしてそれでも傍にいてくれる人間なんているのだろうか。
彼女は常に孤独だったとビアンカは思う。
「かわいそう……ですか」
「まぁ、その言い方が上から目線だって思われるかもしれないけど? でも、本当にそう思うのよ」
今にして思えばかくいうビアンカ自身、怒りや腹立ちが前面に立って、ちゃんと彼女のことを理解しようとはしなかった。
じっくり話してみれば、もしかしたらもっといろいろ……彼女を知ることができたかもしれないのに。
ふと。急に聡介が黙りこんでしまったのを見てビアンカは不安を覚えた。
何か妙な発言をしただろうか?
ビアンカは基本、沈黙に耐えられないタイプである。
もしかして彼は何か頭の中で必死に考えているのかもしれないが、この空気は苦痛だ。
何かないか、何か、話のネタは……そうだ!!
「そうだ。あれは……いつの話だったかなぁ? 御堂さんのところに黒い葉書が届くようになったって言いだしたの」
「黒い葉書?!」
聡介が思った以上に強い反応を返したので、ビアンカは驚いた。
「いや、違うか。うーんでも……黒猫がどうの、そんなことを言ってたような」
「それは……自宅に届いたんですか?」
「えっと、ちょっと待ってて」
ビアンカはバッグからスマホを取り出した。
確か、社員宛ての通信物を取りまとめている同僚がいる。
「あ、井上さん? 前に刑事さんから御堂さんから話を聞かれた時、黒猫の葉書がどうって言ってたじゃない? そう……わかった、ありがとう」
一体どういう訳か、真剣な表情で聡介はこちらを見つめている。
「何度か会社の方に届いたそうですよ」
すると。
「ビアンカさん、これから会社へ行きましょう」
「え、ええ……どこの会社?」
「ビアンカさんのお勤め先です。その、井上さんと言う人を紹介していただけますか?」
聡介は立ち上がる。
「え、ちょ、ちょっと待ってください……!!」
ビアンカは慌てた。
焦っているこちらを他所に、彼はさっさと店を出て行く。
ビアンカの勤務先はコーヒーショップから、通りを挟んだすぐ近くのビルである。
信号待ちの間、
「ねぇ、もし誰かに高岡さんのこと訊かれたら……彼氏です、って紹介してもいい?」
彼は何か別のことを考えているようだったが、ついそう訊ねてみる。
「彼氏でも俺氏でも、なんでもいいです。早く行きましょう」




