表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/30

夜月龍

「見せてあげるよ、聖天使の力ってやつを!」


 変身した恭兵は一瞬で距離を詰めると、袈裟がけに大鎌を振るう。


 仁は魔法で盾を作り攻撃を防ごうとする、だが彼の大鎌はそれを容易く裂いて仁を斬る。


『ぐっ……! あ、があああああ!?』


 左肩から右脇腹にかけて、大きな傷が出来上がる。焼けるような、なんて表現ですら生温い、溶けて消えいくような激痛が仁を襲う。


『なん、だこの痛みは……!? お前さん、なにを仕込みやがった!?』


 傷を押さえ蹲る仁を見て、恭兵は見下した笑いを浮かべる。


「なんだ、きみ聖属性の攻撃を受けたの初めてなんだ」


 聖属性の魔力、それがこの痛みの原因。聖属性の魔力は天使や神、及びそれらが魔力を付与した武具と一部の人間にのみ宿るもの。


 その聖属性の魔力、それは身体全てが魔属性の魔力によって構成されている悪魔を殺す属性。


 それが込められた一撃は、他のどの属性攻撃よりも強く、重く、そして深く悪魔を傷つける。


 もし仮に下級悪魔を消滅させるために百の火属性魔力を使うとする。だが聖属性であればその一割、十の魔力で事足りるのだ。


 悪魔としては半端な仁も、悪魔体の今は身体の九割が魔属性の魔力によって構成されている。


 故に、本来なら即修復可能なただの斬撃も、聖属性の魔力が込められることで致命傷となってしまう。


──くっそ……滅茶苦茶痛てぇ……! ただの斬撃よりよっぽど効く、しかも修復に腕を治したときより多くの魔力を必要としやがる。面倒な……!──


 仁は傷を修復しながら立ち上がり、どう戦うべきかを考える。


 彼の速度は目で追えない程では無い、されど攻撃は威力も突破力も格段に上がっているため、守ることは難しく、安易に受けることも許されない。


『まぁ、だからって対策出来ないわけじゃないがな……』

「やっぱ一撃じゃ倒せないかー。けどまぁ、そっちのが楽しめていいけど!」


 恭兵は鎌を振り上げて真っ直ぐに突っ込んで来る。それに対し仁は創造で鉄の壁を作り、視界を塞ぎながら道を阻む。


 だが当然、そんなものは紙程の防御力も持たない。


「はっ! そんなもので防げるわけないだろ!」


 勿論、ただの一振で両断される。切断された先に見えたのは、もう一枚の壁と十個程の手榴弾。


 気づいた時にはもう遅い、彼が驚くよりも先に爆発音が連続し破片が飛び散る。


 窓を割り、道端の木箱を割りと様々なものを壊すも恭兵にダメージは無い。


「そんな小細工で僕が倒せると思ったのかな!?」


 もう一枚の壁も、紙細工のように両断しようとしたその瞬間、仁が叫ぶ。


変換(コンバージョン)!!』


 すると鉄壁の中心が歪み、螺旋を描いた槍へと変化し恭兵の腹を貫ぬこうとする。


 迫る槍を彼は易々と片手で掴み止めると、もう片方の手で首を狩るため鎌を振るう。


 仁は鎌の下を潜るように躱すと鎖刃四本を使って鎌を捉え、残り四本で恭兵を拘束する。


 抵抗を封じてる間にと、短剣を創造し首を狙って突いた。


 お互いに派手な技こそ無いもののその戦闘は激しく、どちらも致死の一撃を当てることに集中する。


 そしてその戦闘に恭兵は胸を踊らせ、逆に仁は焦燥に駆られていた。


 死んでもコンテニュー可能な恭兵と、不可能な仁では死の重さが違う。


 そしてその心の余裕は、徐々に戦況に影響してくる。少しづつだが、確かに恭兵が押し始めたのだ。


 重く、速く、鋭く、強い攻撃を何度も何度も避けながら細々と隙を突いて攻撃する。その行為はとてつもなく神経をすり減らし、余裕の無い仁にミスを招いた。


 恭兵が右手で大きく鎌を後ろに振りかぶると同時、今がチャンスと軸足である左足に鎖刃を刺して動きを止める。


 痛みに顔を歪める恭兵の心臓を狙い、剣を突いたその瞬間、彼は刺された足を無理矢理に動かし体を右回転させた。


 そして回転すると共に鎌の刃先を反転させ、勢いのままに仁の首を目指して振るわれた。大量の聖属性魔力を込めて。


 気付いて背を反らすももう遅い。断首こそ間逃れたものの、振るわれた鎌は光の奇跡を描いてその胸に一文字を刻んだ。


 切り裂かれた傷は薄く血線(けっせん)を浮かび上がらせ、次の瞬間には白く爆発し、深く大きく仁の体を破壊する。


『ごぼっ……! お"……あ"……』


 吐血し、黒い粒子を傷から煙のように漏れしてくゆらせる。漏れ出すそれらは全て、仁の体を構成する魔属性の魔力だ。


 ふらついて、一歩二歩と後退り膝を折る。傷はとても深く、肺と心臓を裂いていた。


「傷から魔力が漏れだしてる、体が消滅してる証拠だ。きみはもう絶対に助からない。勝負は僕の勝ちだけど、その様子じゃもう喋れないよね〜、残念残念」


 つまらなさそうに吐き捨てる声を最後に、仁の意識は闇の中へと沈み込む。


 冬の海を思わせる暗く、深く、冷たい闇に沈む中、仁はその奥に人影を見る。


 仁はそれが誰かは分からない、けれどもそれが笑っているのだけは何故かわかった。


 そしてその人影は闇の底から浮上し、すれ違いざまに楽しそうな声音で仁に話しかける。


「あとは任せな後輩、今回限りだが助けてやるよ」


 それは一回きりの安全装置(セーフティー)。当代の魔神が死に瀕したとき、魔神の魂に記録された先代の魔神が、その危機から救出してくれるというもの。


 彼の名前は夜月龍、仁の先代の魔神。仁と同様にその身に魔神の魂を宿し、一度は神として完成したそんな彼が今、死という概念の海から浮かび上がる、仁の体を借りて。


『何年ぶり、いや、何百年ぶりか? まぁなんにせよ、久々の現世には違いないわな』


 傷を完全に修復し立ち上がった彼は、体の調子を確かめるように捻り、回し、骨を鳴らす。


 そしてそれと同時、娼館に戻ろうとしていた恭兵の足が止まる。


 彼は振り向き、その悪魔を睨む。先程と一切姿が変わらないにも関わらず、異様な雰囲気を放つその悪魔を。


「きみ、なんで生きてるのさ。あの傷、完全に致命傷だったよね? 消滅してたんだから、治るはずないよねぇ!?」


 殺したはずの相手が生きている。その事実を受け入れられない恭兵は取り乱し、怒りに顔を歪める。


『いやいや確かに死にかけたけどもね、うん、死にかけた。だからこそ、俺が出てきた。アレだよ、有り体に言えば魂に刻まれたもう一つの人格的なのだよ』


 あっけらかんとした声音と、ふざけた身振り手振り。その全てが恭兵の神経を逆撫でする。


 ふざけるな! そう叫ぼうとする恭兵に向かって彼は指を鳴らす。するとその瞬間、恭兵の喉に太いストローが創られた。


『まぁまぁ落ち着けって。対峙したら自己紹介、お前はそれを望んてたんだろ? やってやるから待てよ』

「ひゅっ……!? ふっ……はあ!!」


 喉のストローを引き抜き、空いた穴を魔法で治す。


 痛みに顔を歪めながら、恭兵は彼を睨みつける。


 その視線を意に介さず、彼は飄々した態度でもって笑いながら口上を述べた。


『初めましてだ天使もどきの人間もどき、俺の名前は夜月龍。一度は完成に至り、聖神と相討った真性の化け物。元魔神、夜月龍だ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ