表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/30

狂気の転生者

 十字架を破壊した仁は、部屋の奥にあるもう一枚の扉に手をかける。


 薄暗い部屋の重厚な扉。それは開こうとする者を威圧し、先へ進む覚悟を問うかのように閉ざしていた。


 だが仁は、それを嘲笑うかのように扉をそっと押す。それだけで扉は錆びた音を立てて開き、乱痴気騒ぎの凶音が扉の奥から溢れだす。


 血が滴る水音、女性の叫び、観客の歓声。深い深い、歪んだ欲と禍々しい闇が渦巻く、ドス黒い狂気を孕んだ喧騒が仁の耳をつく。


 部屋に踏みいれば、最初に目に付いたのは盛り上がる客達、次いで目につくのは彼らの視線の先、部屋奥にあるステージ台。


 そのステージ上では、一人の女性が目隠しをされて十字架に拘束されていた。そしてその彼女には左腕と右足が無く、今まさに右腕を切断される寸前と言ったところだった。


 そして彼女の足元に出来た血溜まりが、ここで彼女の手足が切られたことをありありと示し、十字架を伝う半透明の液体が彼女の恐怖を表している。


 嫌だ、助けて、やめて、と泣き叫び痛みに顔を歪める彼女の声をかき消さんばかりに観客達は興奮の声を上げる。


 血を見るのが好きなのか、苦悶の表情を見るのが好きなのか、悲鳴を聞くのが好きなのか、どれであれ仁にとって気分が悪いことに変わりない。


 仁の侵入にボーイ達が気づき、即座に動く。武器を取り仁に向かう者、客を避難させる者、商品を撤去する者。それぞれがそれぞれの役割を真っ当するため行動する。


 (うごめ)く有象無象達、物と変わらぬ扱いを受ける女性数人、そして我先にと逃げようとする観客達。それら全てが仁にとっては気持ち悪い。


 募る嫌悪感と憤り。仁は大きな溜息と共に、迫るボーイを羽虫を払うかのように(はた)く。


 裏平手、とでも言おうか。文字通り虫を払うような仕草でボーイの顔を叩いたのだ。


 それだけ、たったそれだけでボーイの頭は弾け、汚い血肉を撒き散らす。意外な程の脆さに一度首を傾げるも、気にするべきことじゃないと切り捨てる。


 汚ぇな……。人の頭を粉砕し、散らされた血肉を見て最初に出た感想がそれだった。


 呆気ない同僚の死により他のボーイ達に動揺が走る。それによりボーイ達は攻めることを躊躇いながらも、警戒態勢で仁を囲う。


 一方の仁はというと、爆ぜた血肉と転がる肉塊を見て心の底から嫌悪感を湧き上がらせる。


──全部が悪だ、全てが醜悪だ。汚い……汚い……気持ち悪い……。こんなやつらは、死ぬべきだ……。こんなやつら、殺すべきだ……。アァ、ナラバ……コイツラ全テヲ……──


   喰ラオウカ


 魔神の魂が、仁の怒りに呼応する。知識を流し、魔力を与え、魔神としての成長を促進させる。


神 装 変 化(アームズ・バース)……《鎖 刃 八 手(シルバー・オクトパス)》ッ……!!』


 仁の背中から、先にサバイバルナイフの刃が付いた鎖が八本生える。それはまるで、触手のように揺らめいて喰らうべき、殺すべき獲物を狙う。


 ボーイ達がその鎖に驚たのも束の間、その八本の鎖は激しく暴れだし、ボーイと客を次々と切って刺して殺していく。


 有象無象の誰か達、それは次々と物言わぬ肉塊へと変えられていく。それは十を超え、二十を超えた。


 商品だった女性達を除き、その場から生者は消える。仁は肉片の一つを拾い、大口を開けて放り込む。


 鋭利な牙がズラリと並ぶ口に放り込まれた肉片は、グチャクチャグチャクチャという咀嚼音と共に細かく刻まれ、飲み込まれる。


 鼻腔に通る血の匂い。口に広がるのは生々しい脂肪と筋肉の味。少なくとも、それを仁は美味いとは思わなかった。


『ン? ン、ン……? アァ、人肉ッテノハ……コンナ味、ナノカ』


 一つ拾っては放り込み、飲み込むとまた拾って放り込む。やがて手だけではなく背中から生えた刃付きの鎖も、肉を刺して回収し出す。


 大量の血と肉を摂取した仁は、ふと頭を抱え座り込む女性達を目に止める。女性達全員の体は傷だらけで、手枷と首輪をはめられていた。


 彼女達はここの商品であり娼婦達、仁の姿と悲惨な光景に腰を抜かし、巻き添えにならないよう一箇所に固まって怯えていたのだ。


「いや……嫌ぁ……! たす、けて……来ないで……!」


 似たような言葉を全員が呟きながら、涙を流して震えている。


 怯え震える彼女達を前にして、仁の頭に声が響く。


 まだ食い足りないだろう? 目の前に肉がある。上等な肉、柔らかな肉。多少傷んでいようとも、食ってしまえば問題ないだろう? と。


 だが仁はその声が届いてないかのように無視しつつ、掌に薄緑色の液体、回復薬(ポーション)を創造する。


 掌から溢れる程に回復薬を創造すると、それを娼婦達に振り撒いた。


 ひっ!? と短い悲鳴を上げた娼婦達にかけられた回復薬は、シュゥゥ……という溶けるような音をあげつつ傷を直していく。


 みるみる治癒されていく傷に驚きながら、娼婦達は仁を見上げる。娼婦全員の視線が集まると、仁は苦しそうな、(ども)ったような声で問を投げる。


『オ、前サン達、ハ……生キタイ、カ……?』


 突然の問いかけに一瞬戸惑うものの、全員が即座に首を縦に振る。涙に濡らした顔で、嗚咽を漏らしながら垂らされた蜘蛛の糸に縋り付く。


『ナラ、バ……他ノ女共ヲ、連レ……外ニ、出ロ……。宛ガアル者ハ、去リ……俺ト共ニ、来ル者、ハ……赤髪ノ、女ヲ待、テ……。分カッタ、ラ……動ケ!』

「「「は、はい!!」」」


 仁に指示され娼婦達は動こうとした、その瞬間。


「はいそこまで」


 高校生と思しき青年の声が響き、仁の両腕が切り飛ばされる。重たい肉の落下音が連続した後、傷口から夥しい量の血が吹き出す。


 声のした後方を向けば、そこには学ランを纏い大鎌を持った青年が、薄気味の悪い笑みを浮かべて立っていた。


 黒い髪と黒い目、日本ならどこにでもいそうな普通の青年は、この世界この環境においてとても異質な存在感を放っている。


「あーあー、随分と派手に殺したみたいだね。どこもかしこも血みどろで見れたものじゃないね、くく……。死体が無いってことは、食べちゃった感じ? はは、随分と大食らいなんだね」


 ヘラヘラと笑う彼の目には光がなく、この状況を本当に楽しんでいるか、面白いと思っているのかは理解が難しい。


 両腕の傷口を黙々と眺め、そこに魔力を集中する。すると傷口を黒いモヤが覆い、腕の形へと変化してモヤが散る。モヤが晴れたそこには、何事も無かったかのように元の腕が生えていた。


 握って開いてを繰り返して手の調子を確かめる。その動きに問題なく、さっき切られたことがまるで嘘のように思えてくる。


『お前さんは誰で、何者だ』


 血と共に魔力を大量に排出した仁は、許容量を超えた分の魔力が抜けたのだろう。口調は元に戻り、先よりも幾分冷静さを取り戻していた。


「人に名前を聞く時は先ず自分から、っての知らない? 人間とまともに会話出来るレベルの知能があるんだから名前くらい貰ってるんじゃないの?」

『仮に名前があったとして、お前さんに名乗る義理はねぇよ』


 冷めた態度の仁に対し、彼は大袈裟に肩を竦めて、呆れた顔で不満を口にする。


「連れないなー、こういうバトル前ってのはお互い名乗って煽ってさぁ殺そうってなるもんじゃないの? まぁいいや、それじゃあ僕が先に名乗るからキミも後から名乗ってよ」

『そんな約束をす……』

「僕の名前は黒井恭兵(くろいきょうへい)、何を隠そう僕は別世界からやってきた転生者ってやつなのさ。信じる信じないはキミ次第だけどね」


 彼の口から出る転生者という言葉。その言葉を聞いて、仁は警戒心を強める。


 転移してきた自分と、転生者を名乗る椿誠、黒井恭兵。現時点で三人もの異世界人が存在することに、仁は内心驚く。


 魔王に連れられた自分とは別に、人間に呼ばれた転移者転生者がいたとしてもなんとも思わない。けれどもそれが複数となれば話は変わってくる。


──今後俺は、複数の転生者を相手にすることを前提にしなきゃならねぇのか。どいつもこいつもがラノベに書かれるようなチート持ちってなら、それは少し面倒だな……──


「さぁさぁ僕は名乗ったんだから、キミも名乗ってよ」

『断るって言ってんだろ、その耳は飾りか? もう一回言ってやる、俺がお前さんに名乗る義理は無い』


 再度、拒絶の言葉を叩きつける。今度は強めに、煽るような物言いも含めて。


 するとその態度が勘に障ったのか、恭兵の態度が一変する。


「ちっ……! つまんないな〜……本当につまんない……。キミさぁ悪魔の中じゃそれなりに強いんだろうけど、どうせ僕には適わない、僕の物語(ストーリー)に出て即落ちする一雑魚キャラでしょ? ならもう少し演出っていうかさー、それっぽい雰囲気を楽しませるぐらいはしてよ。使えない……」


 さっきまでのヘラヘラした軽い態度はどこえやら、心の底から苛ついた様子で顔を険しく歪め、意識を戦闘モードへと切り替える。


『随分な物言いだな。厨二病患者か? 小物地味た台詞吐いて、自分は特別です、主人公なんですだなんてイキってると、死ぬぜ? そうでなくとも、お前さんにはここで死んでもらうがな。俺、お前さんみてぇなの嫌いなんだわ……』


 剣呑な空気が二人の間に流れる。一触即発の雰囲気、どちらから動いてもおかしくないそんな空気。


 それを壊し、最初に動いたのは勿論恭兵からだった。背負う大鎌を二度振るい、鎌先から氷の刃を発射する。だがその攻撃の対象は、以外にも仁ではなかった。


 飛翔する氷刃が自分に向かわない、それを理解した瞬間飛翔先に回り、背中に生える鎖刃を使って二枚の氷刃を砕く。


 仁の背中には先程仁が指示した女の子が、別部屋に入れられていた女の子に肩を貸して立っていた。


『お前さん、どういうつもりだ? なぁ?』


 初撃から自分ではなく、抵抗できる力を持たない女を相手に刃を振るったことに怒りを湧かせ、その言葉に怒気を込めた。


 だが仁の怒りを何処吹く風と受け流し、また元のヘラヘラとした顔に戻って恭兵はその質問に答える。


「だって、ねぇ? 従業員も客も一から集めようとしたらやっぱり(どうぐ)があった方が楽じゃない? それに、僕としてもこのバトルが終わったらまた使いたいんだよね、それ」


 恭兵は視線を仁から外し、後ろの女の子達に向けた。女の子達は恭兵の視線でそれまでの恐怖を思い出したのか、顔を青くし身体を小刻みに震わせる。


『お前さん、相当に屑だな。駆けつけるのが随分遅いと疑問に思ってたが、成程、お前さん周りの人間を道具や玩具としか見てねぇ訳か。ならば納得の屑っぷりだわ』

「だーいせーかーい。僕にとっちゃ女はただのオナホやサンドバッグだし、男は駒、手足に劣る召使い的な存在かなー。あ、勿論客は金蔓ね。せっかくルールの埒外に居座れる力があるんだもん、二度目の人生常に楽しみたいじゃない」


 そう語る彼の顔は、過去を思い出したのか影が刺し、それでいて心底『今』を楽しんでいる、楽しもうとしているような歪な笑顔が浮かんでいた。


『その願望は否定しねぇよ、正しいとも肯定しないがな。人生を楽しみたいって願望は誰もが持つもんだ、それが誰に迷惑かけるような、傷つけるようなことに繋がらなきゃ俺は口を挟まない。けどお前さんのは違う、現にここの女共は心身共に傷を負っている。ならば俺は、これを悪としその元凶をぶちのめす。覚悟しろよ屑野郎、(クズ)を相手にする俺は、化け物染みた強さだぜ』


 仁は腰を低くして、鎖刃をくねらせる。そして両手に赤黒い双剣を創造し、構えることで戦闘態勢が整ったことを相手に示す。


「キミを適当に流すのは難しそうだね。いいよ、さっきより少しやる気出てきた。ちゃんと、キミと戦って殺して、きちんと事を終えてからまた商品を確保させてもらうよ。で、キミの名前は?」

『知りたきゃ勝ちな、屑野郎』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ