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デール帝国の不機嫌な王子  作者: みすみ蓮華
デール帝国の不機嫌な王子
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運命の歯車 3

 課外活動の他にも、ライマールは定期的に騎士学科の生徒達とのディスカッションの場を提案したりと革新的な活動を行っているらしい。

 ライマールが行った改革によって、ここ数年で魔術師の地位は少しずつ回復してきているとテオは説明する。


「かなり変わった先生ですが、生徒達の間では割と人気があるんですよ。必要なこと以外は喋らないけど、講義はとても分かり易いし、ライム先生の講義がある時は数人の騎士学科の生徒がこっそり紛れているなんてことがあったりもするんですよ」


 先ほどのイルミナ同様、得意げに話すテオに、エイラは、ほぅ……と、感嘆する。

 ライマールがとても優秀な魔術師だということは、メルの話でも判ってはいたが、こうして聞けば、また改めてライマールの凄さを知ることができた。

 メルが自分から忙しくしていると嘆いていたのも頷ける。


「死霊の討伐に研究に教員……それに魔術団の団長としての仕事と王子としての仕事……寝食はきちんと取れているのでしょうか……」


 改めて指折り口にしてみて、全てこなすなんて不可能じゃないのだろうか?

 するとエイラに改めて言われて、イルミナも目を見開いて同意した。


「言われてみれば確かに……ライマール様はお一人でそれだけのことをなさっているのですよね。常にお城の外で動き回っている印象はありましたが……クロドゥルフ様より明らかに働いてます。働きすぎです」

「それ僕も聞いたことがあるんだけど、スケジュール管理はメルさんがやってるから、割と時間に余裕があるらしいよ? 団長の仕事はギリファン様がほとんど請け負ってるみたいだし、講義は本当に空いた時間にしかやらないから、常に学校にきてるわけでもないし。あ、実務優先で無理はしてないって言ってました」


 大変なのはむしろメルさんの方じゃないかな? と、テオは苦笑する。


「ライム先生ってああ見えて、頼まれたら断れないところがあるから、割となんでも請け負っちゃうんだ。で、大体メルさんが悲鳴上げながらそれを手伝ってて……そうそう、この間なんか講義そっちのけで、僕達だけじゃなくて初等部のチビ達まで借り出されて、理事長先生に大目玉食らってたよ」

「まぁ……」

 なんとなく叱られるライマールを思い浮かべて、エイラは思わずクスリと笑いを漏らす。

 きっとライマールならシュンと項垂れて、泣きそうな顔をするに違いないと、エイラは楽しそうに目を細めた。


 テオもその時のことを思い出し、クスクスと笑っていたが、しばらくすると、ふとその笑みに影を落とした。

 どうしたのだろうとエイラが首を傾げれば、テオは少し憂いを帯びた表情で「ただ……」と話を続ける。


「ライム先生は学校では割と人気なのに、お城に住む人や街の人からはまだまだ理解してもらえてないところが多くて……とても残念です。卒業してお城に上がった先輩達は、学校内と城内のライム先生と魔術師の待遇の差に驚きを隠せないって、口を揃えて言いますし、課外活動があるといっても、先生が直接出てくることは滅多にないですから……ライム先生はとても凄いのに、誰もそれを判ってなくて皆、歯がゆく思ってます」

「テオさん……」


 じっと床を見つめ、悔しそうにするテオを見ながら、エイラもギュッと胸を押さえた。

 エイラの切ない声に、ハッとしたテオはまた、「すみません!」と、慌てて謝ってくる。


「こんな話、女王陛下にお話しすべき内容ではなかったですよね。不快な思いをさせてしまいました!」

「いいえ。ライマール様を理解して下さる方が、周りにちゃんといるのだと知ることができてとても嬉しいです。私はまだテオさんほどライマール様と時を過ごしていませんから、普段のライマール様がどのような生活をなさっているのかとても興味深いです。他にも色々教えてくださいませんか?」


 両手を添えて本当に嬉しそうに話すエイラに、テオも嬉しそうに頬を染めて、目を輝かせた。

 今まで学校の生徒以外に、ライマールに興味を抱く人なんて皆無だった。

 興味を抱いた相手がライマールの婚約者とあれば、テオはこれほどの理解者はいないだろうと、嬉々として何度も頷いた。


「僕でよければいくらでも! あ、立ち話もなんですから食堂の方へ行きませんか? 姉さん、お弁当持ってきてくれたんでしょ?」

「ええ。ふふふ。やっぱりここに来て正解だったかしら? テオならライマール様のこちをいっぱい知ってると思って、エイラ様を連れてきたんです。昼食もお口に合うと良いんですが」

「まぁ……お気遣いありがとうございます。私も頂いて宜しいんですか?」

「ええ、そのつもりで作ってきたので。お城での会食とはかなり異なりますが……宜しいですか?」


 イルミナ自ら料理を作ったのかと、エイラはまたも驚いたが、会食とはまた違うと聞き、わくわくと胸が高鳴った。

「それはとても楽しみです」と、エイラが目を輝かせて答えれば、イルミナもテオも嬉しそうにエイラの手を引き、初等部の生徒から職員達も利用する、大きな天窓付きの食堂へと移動した。


 三人が楽しそうに話していれば、食堂を利用していた生徒が、チラチラと興味深げに注目をする。

 それに気がついたイルミナが皆に手招きをすれば、待っていたかのように人が押し寄せる。

 エイラは生徒の昼休み終了の時間ギリギリまで、ライマールの話を引っ切りなしに皆から聞かされ、帝国に来てから今までで、一番楽しいひと時を過ごした。

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