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神獣思考 3

 =====



 ゼイルが何とかするから、ゼイルがいれば大丈夫。という眠虎と鯨波の言葉を聴き続けて3日が経ったところで、アディの苛立ちは限界を超えた。


 そのゼイルはいつ来るのか?もう中でベルンハルトを探しに行ってるのか?と色々聞き返したものの、2人は「大丈夫、大丈夫」を繰り返すばかりで、事態は何も進展する事なく、3日も過ぎてしまったのだ。

 2日したあたりで、自分だけでも何とか壁の中に入り込めないだろうかと、体当たりを試みようとしたのだが、全力で止めに入った3人に、三方向から羽交い締めにされ、失敗に終わり、とうとう3日目が来てしまったのが主な理由だった。


 それからはアディが無茶をしない様にと、眠虎がずっとアディの手を握りしめ、離そうとしないので無茶も出来ず焦りばかりが募る。

 それでもアディは何処かに隙がある筈だと、3人のに隙が出来る時をただひたすらじっと耐えて待ち続けた。


 夜、アディは寝たふりをして3人とも寝静まるのを待ちに待った。

 鯨波は元から寝つきがいいのか、アディよりも早く寝てしまっていて、ケット・シーはアディが眠ったのを確認すると、ホッと溜息を履いてその場から姿を消してしまった。

 残ったのは眠虎で、依然、モチモチとした小さな手でアディの手を握りしめていたが、小さな子供の身体の所為なのか、その手はすぐに熱を帯びて、スヤスヤとすぐ横で気持ち良さそうな寝息を立て始めた。


 アディは恐る恐る目を開けると、静かに身体を起こして辺りを確認する。

 焚き火を囲んで横たわる2人の姿を確認すると、アディは起こさない様に、慎重に眠虎の指を一本一本開いていく。


 ぎゅっと握られていた所為で、手がかなりふやけてしまっていたが、気にする余裕もなく、アディは思い腰を上げて音を立てない様に不気味な黒い壁の方へと近づいて行く。


 誰も頼りにならないのは、もう痛い程判った。

 少なからず自分は剣を扱える。大丈夫、何とかなる。

 言い聞かせ、アディは再び体当たりをしようと後退り、力の限り大地を蹴り飛ばした。


 ぎゅっと目を瞑り、息を止め、訪れるであろう得体の知れない不快感に備える。

 獣の唸る様な大きな音が耳朶をかすめ様としたその時、ドンッ!と、暖かい筋肉質な壁にぶつかる衝撃がアディの全身に伝わってきた。


「いっ!……てぇーー!!」

 そんな声が頭上から聞こえて来たかと思うと、アディの背に細くて、しかし力強い腕が回される。

 ギュッと抱きしめられた状態で、ぶつかった衝撃からか、アディを抱きしめた人物が2,3歩後ろによろけた後、アディを抱きしめる腕に力を込めて「はあぁぁ〜…」と、深く大きな溜息をアディの耳元で吐き出した。


 アディはパチリと目を開いて、その人物を見上げると、肩越しに銀河の様にキラキラと輝く銀色の長い襟足が視界の中に飛び込んできた。


「……っぶねぇなぁ!何してんだバカッ!!おい眠虎!!お前判ってただろうが!!ちゃんと監視しとけ!!」


 チラリと横へ視線を移すと、鬼の形相で怒鳴り付けるゼイルの横顔がそこにあった。

 ゼイルの視線の先にはいつの間に起きたのか、ギュッと小さな眉を顰めて涙を浮かべながらも、眠虎が不満そうにゼイルを睨め付けていた。


「だってゼイルくるから大丈夫だもん!ゼイルは絶対アディ止めるんだもん!」

「俺込みかよ……」


 ゼイルがガックリと項垂れたところで、アディはハッと我に返る。

 たとえまた失敗したのだとしても、もう悠長に神獣達に付き合って居られる程アディに余裕は全くなかった。


「離すクサイ!!貴方、皆、あて、ならないでス!私、ハル、助け行クまス!!」

「いてっ、暴れんな!落ち着けっつの!お前が行ってどうなるってんだよ!迷子になって死ぬのがオチだぞ。時期を待て。俺達が絶対何とかすっから。お前、生まれ変わってもそういうとこ変わんねぇなぁ……」

「きゃぁっ!?」


 頭の回転が遅い分、タチが悪くなってる……と、ブツブツと何やらボヤきながら、ゼイルはアディを腰から抱えて、肩に担いで壁から離れる。

 それでもアディはジタバタと暴れて、ゼイルの腕から逃れようとしたが、背中を叩こうが、爪を立てようが、ゼイルはびくともせずに、アディを焚き火の前まで運んで行った。


「どうせろくに寝てねぇんだろ。暴れ回られてもめんどくせぇし、ライム達が来るまで寝とけ寝とけ。食事の時には起こしてやっから。ほれ」


 ゼイルに降ろされて、アディが抗議しようと口を開こうとした矢先、パチリッと、ゼイルがアディの目先で指を弾く、乾いた小気味いい音が耳に届く。


 虚を突かれて、目を瞬いていると、アディのすぐ目の前で、銀色の粒子がゼイルの指の先からキラキラと霧散する。


 その光を見て、何かの魔法だと気づいた時には、アディは抗えぬ睡魔に襲われ、膝から力を失って、主を失ったマリオネットの様に地面へ向かって崩れ落ちた。


 その身体をなんともない様子でゼイルは飄々と受け止めると、割れ物を扱うかの様に、丁寧にアディを抱きかかえてその場に座り込んだ。


「……まぁ、頭回んねぇ分、扱いやすくはあるな」

 気持ち良さそうに眠るアディの顔を覗き込むと、サラサラとした彼女の金髪を梳きながらゼイルは苦笑する。


「ズルい!ゼイルっ、ぼくも、ぼくも抱っこ!!」

 それを見ていた眠虎が、胡座を掻いたゼイルの袖を引っ張りながら訴えれば、ゼイルはビシリと眠虎の額にデコピンをかました。

「なぁに寝ぼけた事抜かしてんだよ。何が悲しくてジジィ抱きしめなきゃなんねぇんだ。俺様に抱いて欲しけりゃ今すぐ女に生まれ変わってきやがれ」

「ぼくジジィじゃないもんっ!それに、ゼイルに抱っこして欲しいんじゃないもん!アディのお膝にのりたいんだもん!」

「……ふざけろエロダヌキ。ライリに言いつけっぞ」

「言えるもんなら言ってみろー!ぼくタヌキじゃなくてトラだもん!ゼイルのけーち!けーち!!」


 眠虎はヒリヒリと痛む額を押せながら、イーッと、可愛らしく歯をむき出しにする。

 怒りの沸点が低いゼイルが激昂するには十分な挑発となり、ゼイルはそっとアディを下ろすと、ユニコーンの姿へ変化し、頭を低くして蹄を鳴らす。

 それに応える様に眠虎も大きな成人の虎の姿へと変化すると、耳を伏せながら鋭く尖った猛獣の牙をむき出しにして唸り声を上げた。


 2頭が角と牙で牽制しあい、今まさにぶつかろうとした矢先、横からドドドッとものすごい勢いで大波が立ち上がり、2人は草原の奥へと押し流されて行った。


「だめだよー。喧嘩はルール違反だよ。なんで二人ともいつもいつも喧嘩するのー?アディも起きちゃうでしょー?」


 2人のやりとりで目を覚ましたのか、鯨波が首を傾げながら、津波で奥へと流されて行った2匹に呼び掛ける。

 ずぶ濡れになった2人はまた人の姿へと戻り、奥の方で何やら鯨波に向かって怒声を浴びせていたが、鯨波はへらりと笑顔を浮かべながら、片手を振ってそれに応えた。


「やっぱり皆仲良しがいいよね〜?」

 鯨波はウンウンと頷いて、勝手に満足すると、足元で寝ているアディに向き直り、ポンポンと軽く頭を撫でる。

 これだけの騒ぎでも一向に起きる気配がないアディを確認した後、鯨波は大きなあくびを一つして、限界とばかりに、アディの横で、再び自身もスヤスヤと気持ち良さそうな寝息を立て始めた。

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