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ベルンで見る夢(連鎖) 2

 =====



「うわあぁっ!!」

 大きな叫び声を上げて起き上がったのはメルではなく、隣にいたベルンハルトだった。

 驚いてメルがまだボンヤリとする意識のままベルンハルトの方を向くと、薄暗い部屋の中で体を起こしたベルンハルトがほんの少し頬を染めた状態でゼーゼーと肩で息をしている姿が目に入った。


「ベルンハルトさん?」

 穏やかな人という印象の強いベルンハルトが動揺した様子で顔を赤くしたり青くしたりしているのを見て、珍しいなとメルは首を傾げる。


 ベルンハルトは声をかけられ、そこで漸くメルを起こしてしまった事に気がついて申し訳なさそうにポリポリと頭を掻いた。

「すみません。起こしてしまいましたね。なんか妙な夢を見てしまって……」

「いえ、叫ぶ前に多分ボク起きてましたが……大丈夫ですか?すごい汗ですよ?」


 ベルンハルトをーよく見れば、額からダラダラと大粒の汗が流れている。メルに指摘されて、ベルンハルトは羽織っていた布で泡てて汗を拭き取ると、「大丈夫です」と言って大きく深呼吸をして呼吸を整え始めた。


 一体どんな夢だったんだろうと気になりながらも、メルは起き上がって部屋にあった壺の中から小さなお椀に水を組んでベルンハルトへ手渡す。


「ありがとうございます。あ、僕もしかして殿下も起こして……」

 申し訳なさそうにチラリとメルの寝ていた奥の方へとベルンハルトが視線を移すのを見て、メルも何となくライマールの寝ている方向へと視線を移す。

 すると案の定というか、いつも通りライマールはスヤスヤと心地よさそうに寝息を立てながらあどけない顔で寝ている姿が目に入った。


 何時もの事ながらメルはしょうがないなと苦笑する。

「大きな魔法を使った後は起こしても中々起きないんですよ。寝付いたばかりの時はともかく、多少大きな声で話した位ではピクリともしないんで大丈夫ですよ」

「そうですか……」

「ところで、一体どんな夢だったんですか?あ、話したくなければ別に良いんですが……ベルンハルトさんが動揺してるのってなんか珍しいなと思って」


 一緒に過ごした時間は然程でも無いが、ベルンハルトはいつものほほんとしている印象が強かった。

 本人もその自覚があるらしく、少し恥ずかしそうに俯いて「いやぁ」と頭を掻きながら枕元に置いてあったメガネへと手を伸ばした。


「もう朧げでしかないですが、なんか自分にそっくりな男性に口説かれる様な夢を見てました。あ、でも、夢の中ではボクは女性だったんですよ?そ、そこのところ誤解しないで下さい!!」

 そういう趣味は無いですから!!と、力説するベルンハルトにメルは「はぁ……」と、曖昧に返事を返す。


 夢の中で女性だろうとベルンハルトは実際男なのだから誤解も何もとも思うのだが、メルはふとベルンハルトの説明に引っかかりを覚えた。

「ベルンハルトさん、今、自分にそっくりな男性に口説かれたって言いました?」

「えっ?は、はい。あの、本当に僕そういう趣味があるわけでは!!」

「うっ、はい。判ってます。判りましたから。ボクそこ気になってないですから」

「えっ……気にして下さい。受け入れられるのは大いに困ります」


 真顔で説得に出るベルンハルトにメルは「ははは」と苦笑する。

「そうじゃなくてですね、あの、ベルンハルトさんにそっくりな男性っていうのに凄い引っかかるんですよ。ボクの夢にも出てきたんですよね。ベルンハルトさんにそっくりな人が」


 以前の夢と違って、メルはハッキリとついさっき見た夢の内容を覚えていた。

 ベルンハルトにそっくりだったのは初代皇帝と思しき男性だった。

 何故そう認識出来るのかは分からないが、確かに彼は初代皇帝だとメルにはハッキリと判った。

 そしてその近くには以前は出てこなかった面立ちがアディに似た女性の姿があったのだ。


(あの人が初代皇帝なら、あそこに現れた人は多分その妃だ)


 二人は誰か大事な人を亡くした様な会話をして寄り添いあっていた。

 その姿は昔話に聞く様に仲睦まじく、お互い支え合っている印象を強く受けた。


「僕に似た?まさかメルさんも僕そっくりな人に口説かれ……」

「てませんから!多分出てきた人は一緒な気はしますが、内容は違う様な気がします。口説くというより悲しそうな印象を受けましたし、側には女性が立ってました」

「側に女性が……もしかして金髪の女性ですか?」

「えぇ。髪は高い位置で纏められてて……肌の色は白かったですが………何処と無くアディに似てました」


 そう答えてメルは少々むっとする。

 どちらも当人では無いにしろ、アディがベルンハルトとキスを交わす様な夢を見てしまったのかと思えばなんとなくムカムカと腹が立ってきてしまった。


(あれは別人!別人だ!確かに二人に似てたけど、似てただけで、女性の方はそっくりってわけでは無かったし、アディの方が美人だと思うし、決して二人が抱きしめあって、キ…キ、キスしてたわけじゃ無い!!)


 昨日のアディの態度を見れば始終ベルンハルトに引っ付いたままだったし、自分は今避けられたままだしで部が悪すぎる状態なのは一目瞭然な訳で……

 ベルンハルトは対象外だと言っていたが、あれだけ可愛いのだからこの先の事なんて判ったもんじゃない。

 少なからずアディ自身はベルンハルトに懐いているのは明らかで、今の状況では振り向いてもらうにはかなり分が悪いと、今更ながら思い出して、気がつけばメルは半泣きになりながら恨めしげにベルンハルトを睨みつけていた。


 何故自分が睨みつけられているのか分からないと言った様子でベルンハルトは肩を竦める。

 そしてほんの少しだけ気まずそうにおずおずとベルンハルトは口を開いた。


「あのぉ…もしメルさんの夢に出てきた男性と女性が同一人物だったとするなら、なんですが、女性の方は多分僕だと思います」

「……はい?」


 この人は一体何を言っているのだろうとメルの目が点になる。

 顔をきちんと凝視したわけでは無いが、確かにあの女性はアディに似ていたし、ベルンハルトに似ている要素は全くなかった。


(もしかして、ベルンハルトさんはアディみたいな女性になりたいとか……そういう願望があったりなかったり実はするのか?)


 そんな考えに行き着き、うろんげな目でメルがベルンハルトを見ていると、ベルンハルトは困った様子でブンブンと首を振って見せた。


「……違いますよ?僕は本当にそういう趣味は無いですから!」

「ええ。ワカッテマスカラ」

 何と無く視線をそらしながらメルが感情を込めずに言えば、ベルンハルトは真っ青になってブンブンと更に首を横に降ってみせる。


 その二人のやりとりを何時から見ていたのか、メルの膝の上で辛抱たまらないと言った様子でゼイルがゲラゲラと大きな声を上げて腹を抱えていた。


「アッハッハッハッハ!サイコーすぎんだろ!そこまで見ててなんで気付かねぇんだよ!」

「ゼ、ゼイル様!?き、気付かないってな、何がですか!?」


 ひーひーと苦しそうに腹を抱えながらゼイルは何とか笑いを収めようとするものの、メルベルンハルトを見比べてまた可笑しそうに爆笑する。

 一体何がそんなに楽しいのかとメルもベルンハルトも不可解に眉を顰める。

 ゼイルは暫く笑い転げたのち、メルの膝にしがみ付いた状態でくつくつと声を漏らしながらニヤニヤとメルを見上げた。


「何がってそりゃお前、お前らがあいつらのう……」

「五月蝿い!」


 べちりと平手で弾かれる様な音と共にメルの膝の上に居たゼイルは忽然と姿を消す。

 五月蝿いと声のした方向を見上げれば、メルのすぐ横に不機嫌そうに仁王立ちするライマールのムッとした顔がそこにあった。

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