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第十三話 襲撃

途中から視点が変わります。



※※※



 ガーデンパーティーから数日後。


 私は伯爵家の自室で力をコントロールする練習をしていた。


 聖女の力に関する文献は少なく、また、ロクサーヌ様がお亡くなりになってから現在に至るまで、他国にも私以外の聖女が現れていないため、教会の司祭様らと共に文献を読み解きながら、試行錯誤をしている状況だ。


 力を与えられた時の願いゆえか、治癒に関しては発動がしやすい。

 一方、ロクサーヌ様が使えたという"浄化"や"結界"に関しては、まだまだこれからといったところだ。


 コンコンコン


「はい、どうぞ」


 扉をノックして入ってきたのは着飾ったお義父様、お義母様、そしてお義兄様だ。


「イザベラ、無理は禁物だぞ」

「そうよ、あなたが無理をして倒れてしまったら大変よ」

「はい、気をつけます」


 お義父様とお義母様からかけられる言葉に、いつも心が温かくなる。


「イザベラ、帰ったら一緒にケーキを食べよう。今日はフルーツタルトらしい」

「フルーツタルトですか!お義兄様が一番お好きなデザートですね!楽しみです」


 お義兄様は甘い物に目がなく、特にフルーツタルトは3回はおかわりされる程お好きだ。


「じゃあそろそろ行くか」

「ええ」


 会話を交わしながら門へと向かう。

 王宮に向かう馬車は既に門の前で待機していた。


「後は頼んだぞ」

「はい、いってらっしゃいませ」



※※※



 伯爵達が予定通りに出発していれば、そろそろここを通るはずだ。


 次期侯爵が用意した偽の手紙には、人目を出来るだけ避けるように森の中を通り王宮へ向かうように指示が書かれている。


 俺達は草木の陰や木の上に潜み、息を殺して伯爵家の馬車がここを通りかかるのを今か今かと待っていた。


 俺達が今からやろうとしているのは貴族殺しだ。

 未遂でも捕まれば命はない。

 確実に、そして迅速に3人を殺し、逃げねばならない。


 久しぶりの大仕事に、今まで何人も手にかけてきた俺も身体中に緊張が走り、ドクドクドクと、やけに心臓が脈打っている。


 ……ガラガラガラガラ

 ……カポッカポッカポッ


(きた……!!)


 車輪と蹄の音。

 馬車の近づいてくる音と共に、仲間が手を挙げる。

 ローズデール伯爵家の馬車が来たという合図だ。


(よし、今だ!!)


「かかれ!!」

「「おおー!!」」


 俺の声を皮切りに待機していた仲間と共に馬車の前に躍り出てると、御者が慌てた様子で手綱を引き、馬がヒヒーン!!と声を上げて仰け反り、止まった。

 その隙に、馬車をぐるりと取り囲み、剣を構える。


「この馬車をローズデール伯爵家の馬車と知っての狼藉か?」


 馬車の中から威厳のある男の声が聞こえる。

 恐らくローズデール伯爵、その人だろう。


「そうだ!!楽に死にたきゃ大人しく出てきな」

「……」


 沈黙が走る。

 俺は仲間に合図し、馬車の扉を無理矢理開けさせようとした。その時だった。


「かかれ!!」


 御者がいきなり立ち上がり大声を発したかと思うと、あっという間に騎士に囲まれ、抵抗虚しく仲間と共に地面に捩じ伏せられてしまった。


(クソッ、何がどうなってる?!なんでここに王国騎士団が……)


 何が起きたのかわからず混乱している間に、猿轡を噛まされそうになっている仲間が目に入る。


(まずい!!捕まって拷問されるくらいならいっそ……)


 ガチンッ


「ぐっ……」


 奥歯に仕込んでいた毒を歯で噛み砕くと、一気に胸が焼け爛れるように熱くなる。


「おい!しっかりしろ!クソッ自決しやがった!!」


 意識が遠のいていく中で、焦る騎士の声を聞きながら、ざまあみろとほくそ笑む。


 しかし、次の瞬間、陽だまりのような暖かさに身体中包まれたかと思うと、胸の焼け爛れるような痛みはすっかり消え失せていた。


 一体何が起こったのかと、地面に伏せていた顔を上げると、俺と同じように自決したはずの仲間達が、みな呆けた顔で馬車の近くで祈りを捧げるように立っている人物を見つめていた。


 癖のある茶色のショートヘアに分厚い眼鏡をつけた若い従者の男。


(……いや、あの体格は男じゃねえな。それにこんな芸当ができるのは聖女以外ありえねえ)


 本来馬車にいるはずのなかった聖女。

 御者の合図で俺達を取り囲み制圧した王国騎士団。

 今指示を飛ばしている様子から見ると、御者も騎士団の一員だろう。


 これらの事実から導かれる答えはひとつしかない。


 俺達はまんまと嵌められたのだ。手のひらで踊らされていたといってもいい。

 だが、一体誰が?

 サマンサか?いや、サマンサが俺達を嵌めるメリットはない。

 では他に誰が俺達を嵌めたというのか。


 俺が考えを巡らせていると、猿轡を噛まされ、腕を後ろでに縛り上げられてから無理矢理立ち上がらされた。

 縄が食い込んだ腕にビシッと痛みが走る。


「話は後でゆっくり聞くとしよう。こいつらを連れて行け」


 団長と思われる男の指示を受けた騎士達に、次々と仲間が連れられていく。


(何がどうなってるんだ?一体誰がこんな事を……)


 混乱する中、俺も仲間と共に罪人用の馬車に乗せられる。


 ガチャン!!と檻を締める音が響き、カチャカチャと鍵も閉められると、ブルルッと馬の鼻息が聞こえ、馬車が走り始めた。


(誰が裏切ったにしろ、俺達は終わりだ。こうなったら全部話してやる)


 拷問を受ける前に素直に自白することを心に決め、出来る限りの奴を道連れにしてやろうと、ガタガタと不快に揺れる馬車の中で俺は自白する内容を整理していた。

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