41.5 ミーナと共同作業
閑話みたいなお話なので急遽差し込み。読み飛ばしてOKです。
次回投稿は変わらず 2019/08/28 20時
店番NPCについて難波さんに聞いてみると、「申し訳ないんやけど、詳しいことまでは分からんねん...生産商業ギルドで募集とか出来るんちゃいます?」と言われた。
とはいえまだ店内の商品が揃ってないし、本格的に開店するまでは時間がかかりそうだ。店番NPCは商品が揃ってからでも遅くないよね。
「マリさーん。き、来ましたぁ...」
「いらっしゃい、ミーナさん」
ドアに付けた木製のベルがカランコロンと音を鳴らす。清算するカウンター奥に作られた作業部屋、その扉を開けて[細工師]のミーナさんがおどおどと入ってきた。今日は彼女と販売用のアクセサリーを量産する約束をしていた。
「に、賑わってますね...」
「そうだね、フリマ時代に比べたらすごい多いよ。やっぱり新築だと物珍しいのかな?」
難波さんの商品とミーナさんのアクセサリーがまだ並んでいないけど、服と消耗品についてはいつも通り販売中だ。コピスク買えなくなったら困る人も出てくるだろうし、その辺を鑑みて私が店にいる間だけ開店することにした。
丁度クロエとショーイチが暇そうにしていたので、給金というエサでレジを任せた。コピスクもある程度はカーネルさんが作ってくれた金庫に保管してあるから、問題ないはずだ。
作業部屋と店舗スペースを隔てる窓ガラスから、今の賑わいがよく見える。ミーナさんの言う通り、フリマ時代とは比べ物にならない賑わいっぷりだ。最近建築で忙しかったから店を開けてなかったし、色々と物入りの人が多いのだろう。
「さて、早速始めましょう」
「は、はい...」
私の隣の椅子をぽんぽん。立ったままだったミーナさんを私の隣に座らせると、ミーナさんは広々とした作業机にインベントリからたくさんのアクセサリーを取り出していく。鉄製の無骨な指輪やバングルから、彫刻のように繊細に彫られた可憐な木製のブローチやネックレストップまで、素材もデザインも様々だった。
「金属製、木製、これは革製? いろんなのが作れるんだね」
「は、はい...さ、最近知り合いの人に<革細工>のスクロールを戴いたので...」
「すごいなぁ...あれ、これって」
「あっ、それは」
目についたのは鉄製の指輪。シンプルなデザインだけど、ところどころに穴が開いている。
まるで宝石が抜け落ちたような...
「ほ、宝石が見つかったら、はめ込もうと思って...」
「宝石かぁ」
「とりあえず魔石で代用しようと思ったんですけど、魔石のカットがどうしても上手くできなくて...」
魔物から稀にドロップするアイテム「魔石」。黒い水晶の中に暗い靄が渦巻くようなそれは、ぱっと見美しい宝石のようにも見える。[細工師]としての腕は全プレイヤー中トップクラスのミーナさんでも、そんな魔石の加工は出来なかったのか...
魔石自体の加工が出来ないようにできているのか、宝石を加工するスキルが必要になるのか...それとも魔石を加工するためにまた別のスキルが必要なのか...
「...加工できればよかったんだけどね」
「残念です...」
「仕方ないね、とりあえず作業を始めよっか。素材なら共有箱のを使っていいからね」
作業部屋においてある大きめの箱は「共有箱」といって、その家の管理者が許可した人であれば誰でも使える大容量のインベントリだ。建築中に使わなかった色んな素材が仕舞われており、イザムとクロエが各地で集めまくった魔物素材から、難波さんが寄付してきたレンヴァイツ、ドライアのアイテムまで色々だ。
ミーナさんは最初遠慮していたが、私が押し続けると折れて共有箱の素材を使うようになった。
ミーナさんが作業を始めると、部屋に静寂が満ちる。手作業で削ったり曲げたりして作るようだ。スキル<細工>で加工がしやすくなっているのだろう、鉄ですらその細い指で曲げ、ナイフで削っている。
しばらくその様子を眺めていたけど...そろそろ私も作業を始めるとしよう。
私は共有箱から使わなかった魔物素材を取り出すと、ミーナさんが作ったアクセサリーを一つ選んで机の上に置く。
レンヴァイツ北の川沿いに出現する魔物のドロップアイテム、「青いカラスの爪」。そしてミーナさんの作った鉄製の無骨な指輪。
準備が整うと、私はスキルを発動する。
「<紋章術>」
「青いカラスの爪」が光に溶けてなくなると、鉄の指輪をその光が包み込む。
目の前に一つのウィンドウが表示されると、付与可能な能力がズラリと表示される。...といっても二つだけなんだけど。
「敏捷上昇(微)」と「水系威力上昇(微)」のどちらかひとつ。「青いカラスの爪」程度の素材だとこんな感じだ。それでも商品の価値は上がるし、お守り程度には効果がある...はずだ。
「水系威力上昇(微)」を選択すると、鉄の指輪を包み込んでいた光が一点に集まり、よく分からない文字が指輪に印字される。名前は...そうだなぁ...「ちょっとだけ水の威力が上がる指輪」でいいか。
<R+> ちょっとだけ水の威力が上がる指輪 製作者:ミーナ、マリカード
鉄を使った無骨な指輪。ほんの少し防御力が上がる。
<紋章術>付与→水系威力上昇(微)
出来た。結構いい出来かな? そこそこの値段で売れそうだ。
この調子でバリバリ作っていこう。私は共有箱に手を伸ばした。
※
「た、たくさん、出来ちゃいましたね...」
「どれだけ作っても売れるし問題ないよ、多分」
「多分...」
気付いたら外は薄暗くなっていた。結構な時間集中して量産していたみたいだ。
目の前には大量のアクセサリー。...作りすぎちゃったかな?
「...これだけたくさんあるし、お試しで少しだけ売ってみよっか」
抱えられるだけのアクセサリーを持って、作業室を出る。長時間の労働でぐったりしているクロエを傍目に見ながら、まだ何も置かれていなかったミーナさんのアクセサリ用の商品棚に陳列する。
一応念のため「1人1点まで」と設定して陳列を終わらせると、クロエとレジを交代する。交代を言い渡されたクロエは「お仕事終わりにゃ!!」と風のように速く2階へ飛んで行った。
ショーイチは...疲れてなさそうだから続投。
「作業はもういいのかい?」
「思ってたよりもたくさん作れたからね。しばらくは大丈夫だと思うけど」
「...需要甘く見てない?」
「?」
レジに並ぶとショーイチがそんなことを言ってくる。自分のアクセサリーの売れ行きが気になったのか、ミーナさんも私の隣についてきた。
需要を甘く見ているとは...? その答えはすぐにわかった。
ミーナさんの作ったアクセサリーのデザインは女性用、男性用と幅広く、その上秀逸だ。さらに能力付与されたアクセサリーは今のところダンジョン産のみ。瞬く間に完売した。
「そりゃフリマで話題の美少女2人の名前が刻まれたお手製アクセサリーだぞ? 売れるに決まってんだろそんなもん...」とは、後日話を聞いた義太夫さんのコメント。
「ミーナさんすごいね、思ってたより需要が大きそうだよ」
「わ、私一人じゃ、こんなに売れたことないです...全部マリさんのおかげです」
「どちらか欠けたら作れなかったものだよ」
「お、お役に立てて、良かったです。お姉...マリさん」
微笑み合う二人を遠くから見つめる多くのプレイヤー。その尊すぎる状況を前に、尊死。
後にこの場面をスクショした写真立てを売って回るエセ関西弁の商人がいたという。
「お姉...?」
聞かなかったことにしよう。きっと言い間違いか何かだろうし。




