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11 錬成と雑談








「ふん、アンタもだいぶ慣れてきたね」


「これだけやったら慣れもしますよ。 ...で?」



私は今、薬屋「ポアロ」で<錬成>のお手伝いをしている。他の皆は今頃、カーネルと義太夫を誘って一緒にレベル上げの真っ最中だろう。

では、なぜ私だけ別行動をしているのかというと、薬屋の魔女クリスに聞きたいことがあったからだ。

部屋に置いてある鏡に映った私を見る。塗りつぶしたような真っ黒な髪色でゲームを始めたはずなのに、今では白いメッシュが入っている。

光の当たり方によってまるでCDの裏面のように複雑に光るという、なんというか見たことがある感じの髪色にいつの間にかなっていた。いや、いつの間にかじゃない。転職のタイミングで、だ。



「何故こうなったんでしょうか」


「...」



クリスは答えてくれない。


今日は2月24日、キャンペーンが始まって3日目だ。

昨日皆で頑張ってレベル上げをして、そろそろ寝るって時にギリギリでレベルが15になった。喜び勇んでウキウキ気分でギルドに向かい、そこそこ並んでいる転職の列に並ぶ。

私の番が来て、受付嬢さんに私の転職リストを見せられ困惑した。


▽解放済み職業を選択してください

 ▽魔法系職業

 [水魔術師] [鏡魔術師]


 ▽生産系職業

 [見習い服飾師] [見習い解体師] [見習い錬成師]


 ▽便利系職業

 [鑑定士] [見習い測定師]


 ▼固有(ユニーク)系職業

 [鏡の魔女]



そう、[鏡の魔女]である。

どうやら予想通り<鏡魔術>は既に1次スキルだったようで、初期スキルの最大レベル15を通り越して今ではLv17まで上がっている。


それはさておき、こんな「固有(ユニーク)」とかついている選択肢があって、それを選ばないとかありえないわけで。速攻で指が自動的に動いて、[鏡の魔女]を選択した。

それから受付嬢さんが1次スキルについての説明などを教えてくれたのだが、何故か私より上を見ていた。

ギルドを出るときもやたら視線を感じたが、いつもの視線とは質が違う気がした。

その違和感は、ギルドを出た時にすぐ分かった。



「あ? あっははは! なんだその髪!」


「にゃー!? マリが髪染めてるにゃ! ヤンキーにゃ!」


「今どき髪染めたくらいでヤンキーって...それよりも、それも転職の影響かい?」



すぐに私は鏡を召喚して髪色を確認する。例の色になっていたのだ。

普段の街中では魔女っ子感が思いのほか強すぎたので、魔女帽子を外している。それが裏目に出た。



-----------------------------------------------------------


<マリカード> ヒューマン ♀ Lv15

 職業:鏡の魔女 SP:20

▼装備

<R> 薄手の黒ローブ 

<R> 見習い魔女の帽子

<R> フリル付き白ワンピース

<R> 薄手の黒ケープ

<HN>オーバーニーソックス

<HN>兎革のローファー

<-->古い心の首飾り


▽有効スキル

 ▽魔法系スキル

  <水魔道> 鏡魔術 Lv17 水魔術 Lv1

  ▽複合魔法

   <水鏡魔法>

 ▽生産系スキル

  服飾 Lv7 解体 Lv11 錬成 Lv5

 ▽便利系スキル

  <目利き> 地図 Lv12 夜目 Lv5 察知 Lv3 鑑定 Lv1

 ▽パッシブスキル

  魔攻微上昇 Lv13 魔防微上昇 Lv13 物防微上昇 Lv13 器用微上昇 Lv12 敏捷微上昇 Lv12

  物攻微上昇 Lv8


▽称号

 【合鏡(あわせかがみ)の邂逅】

 【Dランク冒険者】

 【悠久の魔女の弟子】

 【魔女】



-----------------------------------------------------------




転職の結果こうなった。<水魔道>がLvMaxになった結果、<水魔術>が新たに解放された。その<水魔術>を有効化したら、

『<水魔術>、<鏡魔術>を有効化したため、複合魔法<水鏡魔術>を解放しました』

というアナウンスが流れた。有効化にSPを5要求してきたが、せっかくだし取っておいた。

ついでに、日ごろの価格調査が実を結び、ついに<鑑定>を手に入れた。早速<鑑定>に対して<鑑定>をつかうと


<鑑定>

 スキルの詳細やステータスなどを確認できるスキル。

 Lv1 スキル詳細鑑定

 Lv10 ???

 Lv20 ???

 Lv30 ???


と読み取れた。

どうやら今はまだスキルの詳細しか鑑定できないようだが、これから鑑定できる対象が増えていくようだ。

それはそれとして、まったく魔女らしいことしていないのに称号の【魔女見習い】が【魔女】になった。


【魔女】のことは[魔女]に聞こう。と、今日は錬成のレベル上げも兼ねてクリスのところに寄ったのが事の次第だ。



「別にいいんですよ、髪色は。これはこれで限定感ありますし」


「ふむ。あたしも中々いい髪色じゃないかと思ってたところさね」


「ですが、【魔女】とは? 私この前クリスさんに[魔女]か聞いたら、違うって言われましたよ」


「...はて? そんな事言ったっけかね?」


「...」


「くく、別に隠したいことでもないんだがね。[魔女]と明かせば目の色を変える輩も多くいるのさ。あたしはそれが気に入らなくてね」


「だから隠したんですか? 私は別に――」


「――隠さなくても態度は変えなかった。そう言いたいんだろう? 実際アンタは、あたしが[魔女]だってことに薄々気が付いていたはず。それでも目の色を変えたりしなかった。まさか話そっちのけで<服飾>を始めるとは思わなかったがね?」


「[魔女]なら慣れていますし」


「...それもどうかとは思うがねぇ。ま、その時気に入っちまったのさ。[魔女]と[精霊]を相手にして態度を変えない不敵さに。その時決めたのさ。

決めちまったら後は早い。<錬成>を[魔女]のあたしが教えて、アンタが学んだ。これが一つの契約なのさ」


「だからあの時、私に手伝わせたんですか?」


「事後承諾なのは申し訳ないがね。「何かを教え、授ける」というのが師弟契約の条件の一つ。【魔女見習い】になっていれば、職業に[魔女]が出る。もしそれを選ばなければ【魔女】関連は消失するのさ」


「そして私は[鏡の魔女]を選び、正式に【魔女】になった...」


「そういうことさね」



そういう事らしい。

【魔女】関連の称号を持っていれば、何かしらの[魔女]職業が出現する。私の場合は[鏡の魔女]だったが、もし<鏡魔術>を持っていなければ[水の魔女]だっただろうし、<水魔術>も出ていなければ<鑑定>によって[見定(みさだめ)の魔女]になっていたらしい。ちなみにそれすらなければ[魔女見習い]。

CD裏みたいな派手派手メッシュは案の定ミラの影響のようだ。



「おさらいはここまでにしようかね。アンタもだいぶ<錬成>に慣れてきたろう?」


「まだ塩しか作ってないですけどね」


「<錬成>の基本さね。さ、次はHPポーションでも作ろうかね? 最近、なにかと物騒だからねぇ」


「物騒?」


「アンタ冒険者なら聞いてないのかい? 東の森がおかしいって話さ」


「あぁ、それなら聞いてます。魔物が増えてるんでしたっけ」



「見習いを卒業しよう」キャンペーンに含まれている「東の平原魔物ポップ数増加」の事だろう。運営がキャンペーンとして打ち出しているけど、ゲーム内の住人からしてみれば異常事態なのだろう。



「それは少し前の話さね。今は、そこにリーダー種がいるんじゃないかって噂になってるよ」


「リーダー種?」


「そう、リーダー種。魔物が多く生まれるとな、そこそこの確率でリーダー種もそこに生まれるのさ。

今回の東のゴブリンどももその傾向にあってな...地元の冒険者が調査に出たはずさね」



思っていた話と違ったようだ。これはもしかして、キャンペーンとは関係ない何かが起きているのでは?



「ま、そういう意味でポーションが入用(いりよう)なのさ」


「なるほど」


「というわけで、次はこっちさ」



と言って、クリスは私が塩作りに使っていた黒い板に手を触れる。板に描かれた文字が動き、新しい形の陣に変化する。まるで眼鏡のような形の魔法陣だ。

その後棚から薬草とガラス瓶を取り出し、片方に薬草、片方に瓶を置く。

魔力を流し込むと薬草はじわじわと干からびていき、瓶の中に透明な濃い緑の液体が溜まっていく。



「ほれ、こんな感じさね。あとはこの液体を適度に薄めりゃ完成さ」


「そのままじゃダメなんですか?回復はしそうですけど」


「飲んでみるかい?」


「いえ、いいです」


「くくくっ、それが利口さね。昔、あまりの苦さに舌を切り落とした魔女がいたよ」



危なかった。その辺に生えてる草でも、<錬成>で濃縮したら兵器になるという事か。覚えておこう。


その後クリスから注意事項やコツを一通り教わり、また山のように薬草と瓶を積み「あとは任せたよ」とどこかへ行ってしまった。

<鑑定>のレベルも上げながらポーションの原液を作る。私が摘む薬草の品質は、<採取>を取っていないこともあってまだ「E-」だ。それに比べて、ここに積まれている薬草は平均して「C」くらい。今何かを作るとしたら、NPCの持ってきた素材を使った方が品質が良くなりそうだ。


というか、<錬成>でポーション量産できるのなら、そろそろ<採取>取った方がいいのかもしれない。

残りSPが20、初期スキルでそろそろLvMaxになりそうなものは<解体>、<地図>とパッシブスキル5種の全部で7個だ。

PLv(プレイヤーレベル)アップ時にもらえるSP1と、SLv(スキルレベル)5刻みでもらえるSP1で賄える範囲だ。ここは迷いなくとっておこう。


と、色々考えつつ手を動かし、そろそろ薬草がなくなるかなぁと言ったところでクリスが戻ってきた。



「ふん、やはり手際がいいねぇ。今回はぎりぎり捌ききれない量を置いたつもりだったんだがね」


「趣味悪いですよ」


「これも修行のうちさね。 ...そう言えばアンタ、<鑑定>出来るようになったんだろう?

自分のスキルに<鑑定>は使ったのかい?」


「<鑑定>に<鑑定>を使いましたが、他はまだです。この薬草の山を使ってSLv(スキルレベル)上げて、後でまとめてやろうかと」


「そうかい。いざって時に自分のできることを把握できていないようじゃ、生き残るなんて難しいからね。

ただでさえリーダー種が出たかもしれないんだ。やれるときにやっておくのが身のためさね」



どうやら身を案じてくれているらしい。今日はもう終わりだそうなので、薬屋を出てバザースペースに向かう。

自分のスキルに<鑑定>を使って自分の持つスキルの能力を把握しながら、売り物のシャツや鎧下、動きやすいズボンを作っていく。

良い感じの時間になったらログアウトする。今日も一日頑張った...


追記:2019/4/12

マリの選択できる職業の元となったスキルは


<水魔術> → [水魔術師]

<鏡魔術> → [鏡魔術師]

<服飾> → [見習い服飾師]

<解体> → [見習い解体師]

<錬成> → [見習い錬成師]

<鑑定> → [鑑定士]

<地図> → [見習い測定師]

<鏡魔術>+【魔女】→ [鏡の魔女]


Q. 転職後に【魔女見習い】が【魔女】になったのなら、最初から[鏡の魔女]はおかしくない?

A. おっしゃる通り、おかしいです。ですがここではこういうものだと思っておいて問題ないです。

  後に回収されるでしょう。多分。

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