第124話~元お姫様と冒険者デートをしました~
明日からは21時更新!_(:3」∠)_
「うう、この感覚はやはり慣れませんわね」
「そうですね、なんだかゾワゾワします」
「わかる」
一瞬の視界の暗転と浮遊感、そして眼の前には昨日ぶりのゲッペルス王国軍駐屯地。うーむ、兵士達の視線が凄い。突如現れてびっくりしたというのも有るんだろうけど、それ以上にティナとネーラが目を引いてるんだろうな。二人とも可愛いからね。でもこれは俺のだ、やらん。
「勇魔連邦のタイシだ。物資を引き取りに来た、案内してくれ」
「は、はっ! 少々お待ち下さい!」
あとの流れは昨日と同じである。今日も担当はルトナー氏だった。この人はゲッペルス王国で俺担当ということにされたんだろうか? 聞いてみた。
「はっ、当面の勇魔連邦関係の案件は私が担当することになっております」
「そうか、じゃあ付き合いが長くなるかもしれないな。これからよろしく頼むよ」
「こちらこそよろしくお願いいたします。ご婦人方もどうぞお見知りおきを」
うーん、身のこなしにそつがないというかなんというか、これが瀟洒ってやつなんだろうな。俺もこんな立ち居振る舞いができれば男が上がるのかもしれないが、無理だな! やはり立ち居振る舞いの稽古とかするべきなんだろうか。いわゆる礼儀作法ってやつ。今度マールに相談してみるか。
ルトナー氏に案内されて現物を確認し、代金を払って契約書にサインをする。契約書についてはティナとネーラの二人にもよく確認してもらったが、特に問題はなかった。ゲッペルス王国は布を提供し、勇魔連邦が対価を貨幣で支払う。ニコニコ一括現金払いである。
「では、これで失礼する。妻達と一緒に義姉の邸宅を訪ねる予定でね」
「奥様の……よろしければ馬車を廻しましょうか? 直ぐにご用意致しますし、先触れも出しますが」
ふむ、馬車と先触れか。確かに必要なのかな? ネーラとティナに視線を向けると二人とも頷いていたので、ルトナー氏に馬車と先触れを頼むことにする。ネーラから義姉さんの屋敷の場所が告げられ、早馬に乗った兵が凄い速度で駐屯地を走り去っていった。
「義姉さんとその旦那さんってどんな人なんだ?」
「お姉さまは、そうですわね……優しい方ですわよ。義兄さまは……情熱的な方ですわ。ゲッペルス王国の使節団がカレンディル王国に訪れた際に開かれたパーティでお姉さまに一目惚れして、それはもう熱烈に求婚したのですから」
「へぇ、そりゃまたなんというか、剛毅な人だな」
ネーラのお姉さんということは、カレンディル王国の第一王女である。その第一王女に一目惚れして熱烈に求婚とは……なかなかブッ飛んでるな。普通は身分差とか職務とか柵とかが邪魔してそうそう行動に移せないと思うんだが。割と猪突猛進気味な人なのだろうか。
そんな話をしながら待つこと数分でそこそこ豪華な箱馬車が到着し、ルトナー氏に別れを告げて馬車に乗り込む。ネーラに聞いてみると、どうやらここから馬車で二十分くらいはかかるらしい。歩いていこうとか言わなくてよかったな! 俺はともかく、二人にはキツそうだ。
異国情緒溢れるピドナの風景を楽しみながら馬車に揺られる。ゲッペルス王国は東西に広い領土を持っていて、地域によって建築様式やファッションがかなり異なる。西側には不毛な荒野が多く、日干し煉瓦を使った建築が主流だ。人々の格好も元の世界で言うところの中東風な感じで、白いロブのような服装にターバンを巻いている人が多い。逆に中央部から東部にかけては肥沃な平野や穏やかな丘陵が多く、建物の建材も石材を使ったものが多い。服装に関しては男性はシンプルなシャツとパンツ、女性は赤いワンピースドレスを着ている人が多いな。流行りなのだろうか? 民族衣装とかかな?
馬車で街の風景を楽しんでいる間に偶然お目当ての建物を見つけたので、マップにマーキングしておく。ネーラのお姉さんに挨拶を終えたらティナとデートだからな。だいたいあの施設の周辺には必要なものが揃う店が集まっていることが多いから丁度いいだろう。
馬車は大通りを進み、程なくして貴族街らしき区域に辿り着き、更に奥に進む。そうして辿り着いたのは中々に大きな邸宅だった。門構えも立派だし、敷地面積もかなり広い。庭も手入れが行き届いているな。
馬車を降りて門を潜ると、俺達を出迎えるように大勢のメイド達が前庭に立ち並んでいた。
「大歓迎じゃないか」
「当然ですわ。彼女達にとって私達は主人の奥方の妹とその夫ですもの」
「そうですね。それに私とネーラ姉様は嫁いだ身とは言え元王族ですし、タイシさんも勇魔連邦の国家元首ですから」
「……おお、そういえばそうなのか」
勇魔連邦は新興国家とはいえ、ミスクロニア王国とカレンディル王国の姫が嫁いで成立した国だ。
両国が後ろ盾となっていると考えるのが自然であるし、事実良い関係を築いている。それに国家元首である俺はゲッペルス王国の人間にとっては泣く子も黙る暴虐の化身である。丁寧な対応になるのも当然といえば当然なのか。自覚がまったくなかったぜ。
壮年の執事に先導されて屋敷の扉の前に立つ。うーん、なんか少し緊張するな。
扉が開かれると、玄関ホールには二人の男女が佇んでいた。一人はどこかネーラと似た雰囲気の綺麗な女性で、もう一人は……一見小さな男の子である。童顔で、多分俺より頭一つ半分くらいは背が低い。素直に言えば、まだ十五歳にもなっていない男の子にしか見えない。
「初めまして、勇者殿。お会いできて嬉しいです。私の名はヘリアン=ベルン=オーフェルヴェーク。ゲッペルス王国で伯爵位を賜っています。どうぞよろしく」
「私はレイレーラ=ベルン=オーフェルヴェーク。ヘリアンの妻です。カリュネーラの姉でもありますわ。よろしくおねがいしますね?」
マジか。この小さいのが旦那さんで、しかも伯爵なのか。確かに子供にしては大きすぎるし、義理の弟って距離感でも無いとは思ったけどマジか。と、びっくりして固まっていると左右から肘でつつかれたので、咳払いをしてから自己紹介を始める。
「ええと、タイシ=ミツバです。爵位は特にありませんが、勇魔連邦の長です。どうぞよろしく」
「私はティナーヴァ=ブラン=ミスクロニアです。元ミスクロニア王国の第二王女で、今はタイシさんの妻です」
うん? ティナの自己紹介を聞いて一つ疑問が浮かんだ。
「こっちの世界だと名字――あー、家名ってどういうタイミングで改めるんだ?」
「普通は結婚した時に、ですわね」
「ということは?」
「あ、ええと……ティナーヴァ=ミツバです」
「私もカリュネーラ=ミツバですわ。あまりこうやって名乗ることはありませんから、まだまだ慣れませんわね」
「初々しいわねー」
レイレーラさんが頬に手を当ててにこにこしている。ああ、なんかネーラとはだいぶ雰囲気が違うな。なんかフワッとしてる。
「立ち話もなんだ。お茶でもいかがかな?」
「ご馳走になります」
「勇者殿、私を相手にそんな丁寧な言葉遣いは必要ないよ。なんせこんなナリだしね」
「あー、まぁ、その。そういうことなら、遠慮なく。俺もそういうのは苦手なんで、そちらも楽な言葉で頼むよ」
「勿論だとも。世に名だたる英雄が僕の義理の弟になるなんてね。正直に言うとその話を妻から聞いた時は嬉しさのあまり飛び上がったくらいさ。僕はほら、こんなだろう? 昔から英雄譚には目がなくてね」
前を歩くヘリアンが大げさに身振り手振りをしながら目を輝かせる。後ろではレイレーラさんとネーラ達が何か話しながら楽しそうにしていた。
「そうか、なら喜んでもらえるかな。実は手土産に俺の打ったミスリル剣を持ってきたんだ」
ストレージから鞘に収まったままのミスリル剣を取り出して見せると、ヘリアンは剣を見て立ち止まり、たっぷり五秒くらい固まった後に喜びを爆発させた。
「本当かい!? 本当に良いんだね!? ああ、嬉しい! 凄く嬉しいよ! 天にも昇る気分とはまさにこのことだ! この剣はオーフェルヴェーク家の家宝にするよ! 今日は抱いて寝よう! わぁい!」
「お、おう。そこまで喜ばれるとは思わなかった」
剣を胸に抱き、柄に頬ずりしながらぴょんぴょんと飛び跳ねるヘリアンには流石の俺もドン引きである。
「あら大変、私の旦那様が貴方の旦那様の剣に寝取られてしまいそう」
「何を言ってるんだレイラ! 君が一番だよ!」
「でも、今日は私ではなくその剣を抱いて寝るのでしょう?」
「それは言葉の綾ってやつさ! 剣と君、比べるまでもないじゃないか!」
「うふふ、ありがとう。流石は私の旦那様ね」
そう言ってレイレーラさんがヘリアンを抱きしめ、額にキスをする。レイレーラさんは結構背が高め、ヘリアンは子供みたいな背丈だから立ったままだとあれが限界なんだろうな。
「砂糖を吐きそうですわ」
「ネーラさんもタイシ様と同じようなことをしていますよ?」
「その言葉、そっくりそのまま返しますわよ」
確かに、屋敷だとあれくらいのスキンシップはしょっちゅうだな。というか、俺がよく膝枕とかを所望するからね。俺は甘えたり甘えられたりするのが大好きだからな。はっはっは。
程なくして落ち着いた雰囲気のリビングに到着する。調度品はどれも高品質でありながらギラギラとしたところのない趣味の良いものばかりで、この館の主のセンスを感じさせる。ヘリアンのものか、それともレイレーラさんのものかはわからないが。
席に着くと、すぐに紅茶とクッキーのような焼き菓子がテーブルの上に用意された。うん、美味しい。
「今日はゆっくりしていけるのかい? 良かったらタイシ殿の武勇伝を是非聴かせて欲しいな」
「あー、すまない。挨拶を終えたらティナとデートに行こうかと思っててな」
ティナに視線を向けると、彼女は微笑みながら薄っすらと頬を染めた。ここのところずっと働き詰めだったし、楽しんでくれると良いんだけどな。
「それは残念ね、私も聴きたかったのに。ネーラはゆっくりしていけるの?」
「ええ、お邪魔しては悪いですもの。お姉さまの都合が良ければ一緒にお買い物に行きたいですわ」
「タイシ殿が出掛けて、レイラまで妹殿に取られてしまったら僕は一人になってしまうじゃないか!」
大げさに嘆くヘリアンにネーラが口の端をわずかに持ち上げる。ネーラ、悪い顔になってる、悪い顔に。お前は乙女ゲーの悪役令嬢か何かか。
「大丈夫ですわ。お義兄さまは忙しくてそれどころではなくなりますから」
「どういうことだい?」
「勇魔連邦ではまだ布の生産体制が整っておりませんの。差し当たって緊急に必要な分についてはゲッペルス王家を頼りましたが、これからもずっとそうするわけにはいきません。そこで、オーフェルヴェーク家を頼ろうかと思いまして」
「それはつまり、勇魔連邦に卸す糸や布の商いをうちに任せるってことかい?」
「そういうことですわ。ね?」
「ああ、可能であれば」
ネーラの言葉に頷く。勇魔連邦としても生活必需品と言える布や糸が安定供給されるようになるなら助かるし、個人的にもネーラの親族とはしっかりとしたコネクションを持っておきたい。血の絆というのは強固なものだが、その上で金銭的な繋がりもあればその関係は盤石なものとなる。
「勿論可能だよ! うちの領地の特産品は羊毛と亜麻なんだ! 知っているかもしれないけれど、大樹海からも結構近い位置なんだ! こちらから頼みたいくらいだね!」
聞いてみると、大樹海に隣接した位置に領地が有るらしい。クローバー侵攻軍が大樹海の突入路を切り拓いた位置からは離れているが、大樹海に近い位置ってのは都合が良いな。
「大樹海横断街道の影響でオーフェルヴェークの領地でも隊商が減っていましたの。旦那様が王都に詰めているのも、領地の産品をどうにか王都方面で売れないかと動き回るためでしたのよ?」
「レイラ、やめないか。そんなことはタイシ殿達には関係のない話だ」
「あら、恨み言の一つや二つは言っても良いのではなくて?」
「それはお門違いというものだよ。タイシ殿は自らの民のために最善手を打っただけだ。その煽りを受けて損をしたからと文句をつけるのは僕の流儀じゃない」
「そうね、ごめんなさい。ね、かっこいい旦那様でしょう?」
顔を綻ばせながらへリアンを抱きしめるレイラ、中々のサイズのお胸に小さなお顔が埋まって暴れるも、離してくれず諦めるヘリアン。なにそれ羨ましい。帰ったらクスハかフラムにやってもらおう。
「痛いです」
「随分熱心に見てましたわね?」
「そういうのはよくないと思います」
左右から抓られた。
「ああいうのも実に良いと思って見ていただけだ。帰ったら二人にやってもらおうかな?」
「そ、それはまぁ、そう言うなら吝かではありませんけれど」
「私ので足りるでしょうか……」
何かを言うとろくなことにならなさそうなので沈黙しておく。こういう時は慰めの言葉をかけたつもりでも地雷を踏みぬく可能性が高いからな。俺から言わせてもらえば大きければ大きいに越したことはないけど、小さいのは小さいので大好きだから気にしないで欲しいと思う。大きさに関係なくおっぱいは男を救うのだから。
「さて、それじゃあ短い時間だったけど俺とティナはここらで一度御暇させてもらおうかな。そうだな、夕方頃に迎えに来るよ」
「わかりましたわ」
「夕食は食べていってくれるのでしょう?」
「ええと……」
ティナとネーラに視線を向けると二人とも頷いた。
「ご迷惑でなければ」
「勿論迷惑だなんてことはないわ! うふふ、楽しみね」
「布の件については私がお義兄さまと詰めておきますから、お二人ともごゆっくり」
「わかった、ありがとうな」
「ありがとうございます、ネーラ姉さま」
二人で礼を言ってリビングから退室する。ヘリアン? レイレーラさんの胸で息絶えてたよ。いや、生きてるとは思うけど精神はどっかに飛んで逝ってたね、間違いない。
「今日はどこに連れて行ってくれるんですか?」
「多分、ティナが一度も見たことがない場所だな。ワクワクドキドキするぞ、きっと」
「うーん?」
ティナが首を傾げる様子にほくそ笑みつつ、馬車を出してもらうのも断ってオーフェルヴェーク家を出る。どこか良い場所は……あったあった。ティナを連れて屋敷の敷地と敷地の間にある人通りの少ない細い路地に入り込んだ。
「えっと、タイシ様?」
「いいか、ティナ。ここから先は俺を様付けで呼ぶのは禁止だ。それ以外なら好きに呼んでいい。呼び捨てでもいいし、マールみたいにさん付けでも良い。ただ、様はダメだ」
「? はい、わかりました」
「あとは……まぁいきなり立ち居振る舞いを変えるのは無理だよな。まぁそこは適当にいこう」
「はい、あの話が見えないのですが……」
「まずは服と装備だな……」
ストレージを操作し、詰襟にマント、制帽にミスリル刀のスタイルから地味で丈夫なリネンのズボンとシャツに着替え、鉄製のダガーだけを装備する。うん、どこからどう見てもそこらにいる貴族の従者って感じになっただろう。
急に地味な服装になった俺を見てティナの目が丸くなる。
「ではお嬢様、お召し物を買いに行きましょうか」
「え、ええと?」
ティナの手を取り、予め開いてあったマップからマーキングした地点へと転移する。
「ここは……?」
「ピドナの中心街、冒険者ギルドの近くさ」
路地裏からティナを連れ出して辺りを見回す。お、あの子供がいいかな。すぐ近くで人の流れを見ていた少し小汚い感じの子供を手招きして呼び寄せる。あんまり幼すぎてもダメだからな、恐らく十三かそこらくらいの子供を選んだ。
「なんだい、にーちゃん」
「こちらのお嬢さんを目立たない格好にしたいんだ。冒険者御用達の服屋に案内してくれるか? 高くてもいいから質の良い服を扱ってるとこな」
懐から取り出すふりをしてストレージから取り出した大銅貨を見せながらそう言うと、子供はニヤリと笑って手を差し出してきた。その手に大銅貨を握らせ、歩き出した子供の後を追う。もちろん、はぐれないようにティナの手を握りながらだ。
「あの? タイシ……さん?」
「今日のデートは一日冒険者体験ってのを考えてるんだ。どうだ? ワクワクしないか?」
困惑を宿していたティナの瞳がやにわに輝きを帯び始める。
「……ワクワクします!」
胸の前で拳を握って鼻息荒くフンスフンスし始めるとやっぱりマールの妹だなぁって思う。なんかこう、犬耳と尻尾が幻視できそう。
「ここだよ、にーちゃん」
「おう、ありがとな」
少年を見送り、大通りに面した中古服店に入る。見た感じどの服もちゃんと綺麗に洗ってあるし、ほつれなんかも几帳面に直してある。この店は当たりだな。
おばちゃん店員に冒険者向けの丈夫な服の上下を選んでもらい、それぞれ着替える。
「ちょっと地味ですね」
「パーティーに行くわけじゃないから地味な方が良いのさ」
可愛い=目立つだからな。普通の冒険者家業を体験するならそういうのはちょっと選べない。マールが派手で可愛いドレスアーマーを着てたのは大氾濫の戦場で味方の騎士達がわかりやすいよう目立つ必要があったからだからな。
おばちゃんに代金を支払い、今まで着ていた服はストレージにしまいこむ。やっぱりこういう収納系の能力は珍しいのか、おばちゃんが感心していた。
「次は防具だな」
「はい! でも、武器じゃないんですか?」
「武器よりも先に防具を揃えたほうが良いな。剣帯とか矢筒とかを先に買って鎧と合わなかったら二度手間だし」
「なるほど」
次に向かったのは二軒隣の防具屋である。中古服屋のおばちゃんのオススメなので、恐らく品質に問題はあるまい。
「うっ、独特の臭いがしますね」
「革と鉄の臭いってやつだな」
ここでも店主お薦めの品を聞いてみる。この世界に来たばかりの頃とは違って金に余裕はあるので色々見せてもらったが、魔物素材の防具が高いな。聞いてみると、ゲッペルス王国ではあまり強力な魔物が出ないので、魔物素材の革鎧はお高くなるらしい。逆に金属製の鎧のほうがお手軽感があるくらいだ。
「どれがいいでしょうか?」
「ティナは身軽な方がいいだろうな。体格的にも、体力的にもガチガチの金属装備で固めるのは無理があるし」
トロール革のソフトレザーアーマーがあったので、本当はこれが良いんだが……調整に時間がかかるからな、こういうのは。牛革のソフトレザーアーマーが良いだろう。
俺は冒険者としては一般的な体格なので、色々選べる。まぁ、そこまで頑丈な装備はいらないな。というわけで俺の方はチェインメイルと牛革の鎧の裏地に長方形の金属片を打ち付けて作った鎧――所謂ブリガンダインを選ぶことにした。クロースアーマーの上にチェインメイルを着込み、その上にさらにブリガンダインを装備する。上腕を守るハードレザーのプロテクターや篭手、爪先に金属を仕込んだレザーブーツも購入する。
「動きづらいところとか無いか?」
「大丈夫です! いっきにそれっぽくなってきましたね」
「まぁ本物だからな」
それっぽくも何も、ガチの本物の防具なんだからそれらしく見えるのも当たり前である。次は武器屋へと向かう。これも防具屋の店主のオススメ以下略だ。
「ティナは何か武器の扱いは習ったことがあるのか?」
「うーん、一応護身術として少しだけ剣を習いましたけど……」
「身にならなかったのね」
「はい……」
「マールも最初はへっぴり腰だったんだぞ。ゴブリンと戦って漏らしたりもした」
「もっ……ぷふっ!」
ティナが驚愕の表情をしたあとに噴き出す。まぁうん、あまり触れてやるなよ。あと俺から聞いたとか絶対に言わないでほしい。間違いなくやべーことになる。
「うーん……」
名前:ティナーヴァ=ミツバ
レベル:4
スキル:礼儀作法3 演奏2 交渉3 奉仕1 水魔法2 始原魔法2 王族のカリスマ(愛)
称号:元ミスクロニア王国第二王女 成功者 運命を覆す者 敏腕執政官 魔王の妻
賞罰:なし
久々にティナのステータスを見て思わず唸る。見事に戦闘向きのスキルがない。水魔法がレベル2なのがせめてもの救いか。
「魔法の発動補助効果のある武器がいいな」
となると、最低でも魔鉄、できればミスリルを使用した武器である。刃筋を立てるのは難しいと思うので、鈍器が良いだろう。数々ある武器の中から俺が選び出したのは――。
「これはメイスですね?」
「うん、メイスだ。ミスリル製の逸品だな」
「うーん、やっぱり私は剣のほうが……」
「いやいや、鈍器は良いものだぞ? 実用的で、大概の生物に有効で、扱いも刃物に比べれば比較的容易だ。何より頑丈で、切れ味の鈍りや刃こぼれを心配する必要がない。それにこれはミスリル製だから魔力の伝導性も高い。魔法も使うなら良い選択だと思う」
俺の説明に納得したのか、ティナはミスリルのメイスを買うことに決めてくれたようだ。俺の武器? 剣ならなんでも良いんだが、ポキポキ折れるのは困るんだよな。そうなるとミスリルか?
「お、これにするかな」
「兄さん、そいつは展示用の品なんだが……」
俺が選んだのはバカでかい刀身の大剣だ。普通の鋼鉄製だが、幅は広く、刀身も分厚い。一応刃はついているようだが、鈍いな。重さで叩き切る感じか。
「タイシさん、それは街中を歩く時に邪魔では?」
「む、それは確かに」
片手で持って重心を確かめているとティナにそう言われたのでやめておくことにする。別に一日冒険者体験って言ってもこんな武器が必要になるような相手と戦うつもりはないしな。
「じゃあどうっすっかな……これでいいか」
俺が選んだのは大型のファルシオンである。峰がまっすぐで、切っ先に行くに従って幅広になっていく片刃の刀剣だ。普通は短めに作られるものだが、これは中々長大な作りだな。質はそんなに良くもないが、研ぎは悪くないし頑丈そうだ。
「なんだかこう……悪そうな剣ですね」
「悪そう!?」
「山賊っぽい感じが……」
「ああ、うん……いかにも蛮刀って感じだよな、ファルシオンって」
確かにこういう扱いが楽で、刃が鈍っても重さで叩き切れるからメンテナンスをサボってもそこそこ使える武器っていうのは山賊とかに好まれるんだよな。とにかくこれで装備は揃った。どこからどう見ても今の俺とティナは駆け出し冒険者……というのはミスリルメイスのせいで無理があるかもしれないが、とにかく見た目だけは冒険者である。
「じゃあ、満を持して行くか」
「……はい!」
メイスを握りしめてフンスと鼻息が荒いティナを宥め、メイスを腰からぶら下げるように言いつけてから武器屋を出る。街中で抜き身の武器を握りしめて歩いてたら完全に不審者だからな。
武器屋から少し離れた場所にあった冒険者ギルドに入る。うん、冒険者ギルドっていうのはどこも似たような作りなのかね? 入って正面に長いカウンター、右に掲示板、左手の方は酒場が併設されている。出入り口に居座っていても邪魔なので、俺はすぐにカウンターへと向かった。向かうのは、真正面の新規登録受付カウンターである。依頼状の張り出された掲示板に近い右側が依頼の受付カウンターで、左手側は依頼終了の報告カウンターであるようだ。やっぱり作りはどこも同じようなもんなんだな。
「冒険者の新規受付ですか?」
「ああ。俺は経験者なんだが、暫く活動してなくてな。冒険者証も紛失してしまったんだが、新規登録でいいのか?」
「再発行できますが、手数料は銀貨五枚ですね」
「別に金は惜しくないんだが……良い意味でちょっと俺の名前は有名過ぎてな。色々と面倒事は避けたいから新規発行、ってのはアリなのか?」
「お受け致しかねます」
「ですよねー。じゃあ俺は再発行で、こっちのティナは新規登録だ。ただ、一つだけ約束してほしいんだが」
「はい?」
「騒がないでくれ、いいな?」
「はぁ……? と、とりあえず再発行申請書と新規登録申請書にご記入いただけますか?」
「あいよ」
俺は自分の名前を書き、ティナには正式名称ではなくティナとだけ書くように言っておく。ええと、最後に冒険者として活動した場所……? 多分カレンディル王国の王都アルフェンだな。前にマールとデートした時には身分証として提示はしたけど、冒険者ギルドで活動はしなかったし。
ええと、得意な戦闘方法? 剣と魔法でいいか。
ティナの新規登録用紙を覗き見てみると、得意な戦闘方法は水魔法と書いてあった。うん、まぁ妥当だな。出身地はミスクロニア王国、と。問題はなさそうである。
「書けたぞ、これを頼む」
「はい……はい?」
受付のお姉さんが俺の顔をガン見してくる。うん、まぁそうなるよね。
「あの、再発行手続きで虚偽記載をして、他人の冒険者証を発行しようとすると結構な罪になるのですが……それをわかってのことですか?」
「そうなのか? それは知らなかったが、俺には何も後ろ暗いことはないぞ。血液で魔力照合すればわかるよな?」
「は、はい……只今照合機を用意します」
「お姉さん、大事にならないように頼むぞ」
「ええと……鋭意努力します」
受付のお姉さんが頬を引き攣らせながらカウンターの奥へと消えていく。
「大事にしないようにってのは無理だと思いますが……」
「いやぁ、まぁそうかもしれないけども」
二度も王城を襲撃し、過去には大氾濫の撃退で八面六臂の活躍をした人が『身分証無くしたんで再発行してください』とかいきなり訪れてきたらびっくりするよな。多分騙りもそこそこいるだろうし、騙りに正規の身分証を発行したりしたら大問題だ。かといって、露骨に疑って機嫌でも損ねたらそれはそれで大事である。相手は単身で王城に殴り込みをかけて無事に生きて帰ってくるやべー奴である。もしかしなくても冒険者ギルド壊滅の危機だ。
「お、お待たせしました。お二人とも、こちらに指をお願いいたします」
顔面蒼白な受付のお姉さんが持ってきた魔導具に指を入れて血液から魔力を照合してもらう。ティナの場合は魔力パターンの登録だな。同じ作業を一つの魔導具でできる。実に機能的だね。この魔導具と冒険者カードの発行・管理技術は是非モノにしたいな。裏から表から権力をフルに使って手に入れてみようかな?
「ええと……はい、確認できました」
「確認できましたか」
「はい、残念ながら確認できてしまいました」
残念ながらってなんだよ。ツッコミを入れたい気持ちをグッと抑え、懐から硬貨を何枚か取り出す。
「ええと銀貨五枚だっけ。登録は一枚だったよな?」
「はい、全部で六枚ですね。少々お時間を頂きますので、こちらの番号札をお持ちください」
「はいよ、よろしく」
番号の書かれた木札を手渡しで受け取り、ティナに視線を向ける。ティナは冒険者ギルドが珍しいのか、ちょっと興奮した様子でキョロキョロしてるな。冒険者ギルドに入ったことなんて無いだろうし、珍しくも感じるか。
「よう兄ちゃん。いい女連れてるじゃねぇか」
さて、時間を潰しに酒場スペースへと移動しようかと思ったところでそんな声をかけられた。
「ウッソだろお前……」
げんなりしながら声の方向に振り向くと、酒が入っているのか赤ら顔をした野卑な雰囲気の男がこちらへと歩み寄ってきている。その後ろからも同じような雰囲気の男が四人ほど、ニヤニヤとしながらこちらの様子を窺っていた。
「タイシさん?」
「まぁなんだ、冒険者ってのにも色々いてな。礼儀正しい真面目なやつもいれば、あんな感じのチンピラに毛が生えたようなのもいるんだよ。それに酒が入るとああなるわけだ」
「なるほど」
「冒険者ってのはアレだ、腕っぷしはあるけど普通の働き口じゃまともに働けないような奴らの受け皿でもあるんだよ。勿論魔物や魔物を倒して人の役に立とうとか、自分の才能を活かすためってまともな奴らも沢山いる。全員が全員ならずものってわけじゃないから勘違いはするなよ」
「はい!」
「無視してんじゃねぇっ!」
男が殴りかかってきたが、気配察知と危険察知のおかげでどこを目掛けて殴りかかってきたのかなど視線を向けるまでもない。男の拳を掌で受け止め、払って少し強く押す。
「ぐぼぁっ!?」
それだけで男が真後ろに吹き飛び、後ろでニヤニヤとこちらの様子を見ていたお仲間達に突っ込んでいった。弱い。
「でな、ああいう手合いは基本的に雑魚だ。向上心もなく、日銭を稼ぐのがやっとで、昼間っから安酒を飲んで管を巻いては新人冒険者に絡んで憂さを晴らすようなアホどもだからな」
「てんめぇ……安物のなまくらを腰に下げてるくせに吹くじゃねぇか」
吹き飛ばされたアホとそれを受け止めたアホ共が額に青筋を浮かべながら自分達の得物に手を伸ばす。あー、なんかこういうの前にもあったよなぁ。カレンディル王国の王都アルフェンでも同じようなことあったわ。あの時はメイスを握り潰してやったんだっけ。
「今ならまだ許してやるが、得物を抜いたら容赦できんぞ? とても無様な姿を晒すことになる」
「うるせぇー! くたばりやがれーッ!」
最初に絡んできた男だけでなく、他の四人もナイフやら剣やらを抜いて斬りかかってきた。そう来るのであれば仕方があるまい。我が奥義で葬ってやろう。
両手に魔力を込め、拳を振るって男達の武器を叩き折る。よほど質が悪い武器だったのか、折れるというか砕け散るものもあった。お前らこそなまくら使ってるじゃねーか。
「ば、馬鹿な!? 素手で剣を折るだと!?」
「まとめて逝け」
チンピラ共の身体の中心に一発ずつ拳を振るい、ぶっ飛ばす。ぶっ飛ばした先はちょうど冒険者ギルドの出入り口付近だ。勿論、狙ってあそこに飛ばした。
「うわらばっ!? ……ってあまり痛くない?」
「お前達はもう死んでいる……社会的にな!」
そう俺が言った瞬間、男達が弾け飛んだ。極めて残酷に、体中を覆っているモノが千切れ飛び、おぞましいその中身が曝け出される。そう、この秘拳は魔力撃の応用で対象の体表面に浸透し、外側への衝撃を発生させる社会的殺人拳――その名も、被服爆砕拳!
「キャー!?」
「へ、へんたいだー!」
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
体中の装備と服が弾け飛び、後に残るのはムサいおっさん達のあられもないZENRA姿……場は阿鼻叫喚である。ティナ? もちろんティナにあんな汚いものは見せられないから後ろに回って目を塞いでいるよ。
「あの、タイシさん? 何も見えないんですけど」
「アホ共が部様な姿を晒してるだけだから。見る価値もないぞ」
できれば俺も見たくない。流石に全裸はやりすぎだったな……次は下着姿くらいまでにしておこう。俺の全裸神拳を受けた男達は両手で股間を隠しながらギルドの外へと走り去っていった。頑張れザコ冒険者ども。衛兵に見つからないと良いな! HAHAHAHA!
「あの……できればギルド内をゴミだらけにするのはやめて欲しいのですが」
「むしろゴミ掃除をしたんですがね」
後ろから声をかけてきた受付嬢に木札を渡し、俺とティナの分の冒険者カードを受け取る。
「はぁ……要件はこれで終わりですか?」
「そうだな。この辺りで初心者にオススメな手頃な獲物っているのか?」
「そうですね――」
☆★☆
「はい、というわけであちらがティナの初陣の相手、ミニチュアウルフです」
「あの可愛いらしい生き物ですか……?」
俺の指さした先にいるのは灰色の毛玉である。灰色で少し小汚い感じではあるが、つぶらな瞳に巻き尻尾を持つ子犬の如き毛玉である。アレで一応成体であるらしい。
「たしかに可愛らしいかも知れないが、穴を掘って畑は荒らすし、鶏を集団で襲うしという感じで農家の皆さんにとっては許されざる存在であるらしいぞ」
俺達の現在地はゲッペルス王国の王都ピドナ、その東側に広がる農地の脇にある林である。俺の気配察知で獲物を探し、風下の茂みに潜んで待つこと五分、標的のミニチュアウルフ達が俺達の目の前に姿を表していた。
「小さくてすばしっこいから、待ち伏せして遠距離攻撃で倒すのがセオリーだそうだ」
「うぅ……気は進みませんが、これも生存競争ですね」
ティナがミスリルメイスを取り出し、鎚頭だけを茂みから出して魔力の集中を始める。俺に比べると扱う魔力も少ないし収束も遅いが、ティナの性格をそのまま表すかのように実に丁寧な魔力の構成だ。
掲げたミスリルメイスの鎚頭の周辺にいくつもの拳大の水の塊が現れる。
「アクアアロー!」
水の塊が矢のような形になってミニチュアウルフ達に向かって飛んでいく。流石に魔法名を叫んだティナの存在には気付いたようだが、時既に遅し。回避行動を行う間もなく襲いかかった水の矢がミニチュアウルフ達を貫いていく。
「流石に何匹かは逃げたな」
「最近魔法の練習はしていませんでしたから」
茂みから出てティナの魔法で倒されたミニチュアウルフ達の元へと移動する。即死しているミニチュアウルフは少数で、まだほとんどのミニチュアウルフ達が生きているようだった。でも、どのミニチュアウルフも深手を負っているし、放って置いても全部死ぬだろうな。
「トドメは俺が刺そうか?」
「いえ、私が……」
小声で『ごめんね』と謝りながらティナがミスリルメイスを振り下ろす。程なくして全てのミニチュアウルフにトドメが刺された。
「討伐証明部位は尻尾だな。肉は臭いし量も少ないしで人気が低く、毛皮もあまり利用価値が無いみたいだ。一応魔物らしいけど、魔核を持ってる個体はほとんどいないらしいな」
「となると、尻尾だけ切り取って死体は処分ですか」
ティナがなんだかもの悲しげな表情をする。まぁ、殺されたのに食われるでもなく、その毛皮を利用されるでもなく、ただ尻尾だけ切り取られて処分されるってのは哀れではあるよな。
「でもこれで被害に遭う畑も鶏も減ったわけだ。少々哀れではあるけど、これも生存競争だからな」
「そうですね……気持ちを切り替えていきましょう」
その後はティナの魔力が尽きたら俺が始原魔法で補充し、また狩りをして、ストレージから出した料理で昼食を済ませてまた狩りをして……という流れで、午後三時過ぎくらいまでに三十八匹のミニチュアウルフを仕留めることができた。
ミニチュアウルフの討伐は尻尾一本につき大銅貨一枚の報酬なので、銀貨三枚に大銅貨八枚の報酬だ。三十八本もミニチュアウルフの尻尾持っていったら冒険者ギルドの人驚いてたけどね。新人冒険者だと上手く行っても一人三本から五本くらいが関の山なんだとか。俺の気配察知で索敵してティナの水魔法で常に先制攻撃したからな、こんなもんだろう。
「というわけで、これがティナが稼いだお金だ」
「ふわぁ……なんだか感慨深いですね。はい、どうぞ」
ティナは自分の手に銀貨一枚だけを残し、残りを俺に手渡してきた。
「タイシさんのお膳立てがあっての成果でしたから。これでも私が貰いすぎなくらいだと思います」
「別にいいんだけどなぁ……まぁ、そう言うなら貰っておこうかな?」
これで何か食べ物でも買って帰ってティナの稼いだお金で買ってきたんだぞーと、皆に言ってやろう。
「よし、それじゃこいつをパーっと使ってから屋敷に戻ろうか」
「使ってしまうのですか?」
ティナなんだかちょっと残念そうな顔をする。恐らく、ティナはあの銀貨を記念にとっておくつもりなんだろうな。
「ああ、何か土産を買って、皆にティナが冒険者として稼いだお金で買ってきたんだぞー、って言ってやろう」
「……それはいいですね!」
残念そうな表情から一転して輝くような笑顔を見せるティナに俺も笑みを返し、冒険者ギルドを後にする。午前中にあった事件を耳にした者が多いのか、絡んでくるようなやつはいなかった。居たらまた社会的に死んでもらってたけどな。
「何が良いかな?」
「形に残るものでもいいですけど……やっぱり食べ物が無難でしょうか?」
「どうせならこの街ならではってのがいいよな」
二人で楽しくお喋りをしながらショッピング、という典型的なデートを楽しみながら屋敷に帰ることにする。夕暮れまでにはまだ時間があるし、ゆっくりと買い物ができそうだった。




