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第120話~大量の元奴隷達をお迎えしました~

完結に向けてぎゅんぎゅんいくよー!_(:3」∠)_

 どうも、タイシです。

 空き巣狙いの恥知らず共に色々と落とし前をつけさせたと思ったら、また駄神の手の平の上でコロコロと転がされたタイシです。ちくしょうおぼえてろよ。


『もう忘れたよ☆』

 ああ、その後マールに赤面させられて撃退されたからとっとと忘れることにしたんですね、わかります。いやぁ、あれは見事な逃げっぷりでしたね。

 俺と末永く一緒に居るためにあの手この手を使って俺を昇神させようとするリアルさん可愛いっすわー。ええと、堕落と快楽を司る邪神でしたっけ? 純真と健気さを司る女神の間違いかな?


『う、う、うるさいよ!? そ、そういうキミこそ思いっきり動揺してたじゃないかっ!?』


 いやー、あの後根掘り葉掘り俺とお前との関係を尋問されましてね。俺の覚えている限りの全てのやり取りをゲロったというかゲロらされたんですわ。


『……は?』


 その結果、見事お前は嫁達から仲間判定を受けました。まさかお前がなぁ。ははは、声だけじゃなくて姿も見せてくれて良いんだぞ? 来いよ、何処までもクレバーに抱きしめてやる。


『なっ、なっ、そ、そんなんじゃないしっ!』


 奴の気配が消え失せる。勝った、第三部完ッ! いや、第三部とか適当だけど。


「どうしたんですか? 急にニヤニヤして」


 なにか面白いことでもあったんですか? とか言いながら鳶色の頭部が視界内にフェードインしてくる。いや、別にこの書類に面白いことが書いてあるわけじゃないから。

 彼女の名前はマール。本名はマーリエル=ブラン=ミスクロニア。大陸東部に版図を持つミスクロニア王国の第一王女で、俺との子供をその身に宿している最愛の妻だ。今はゆったりとした服を着ているためにあまり目立たないが、最近はお腹の膨らみが大きくなってきた。お腹の子供に響くかもしれないからそういう無理な体勢はやめなさい、ほら。


「駄神からの電波を受信したからマールのアドバイス通りに対応してみたんだ。見事に逃げ去っていったぞ」

「なるほど、リアルさんが来てたんですね! どうせなら顔を出してくれればいいのに。可愛いですよね、リアルさん。あの綺麗な髪の毛とか、真っ白でぷにぷにのお肌とか、きらきらのおめめとか。一回思い切りぎゅーってしてみたいです」


 俺の見ていた書類から視線を上げ、マールがにへらっと笑みを浮かべる。

 ここは勇魔連邦の首都、クローバー。その中央部にある領主館の執務室である。外部の様々な勢力が関係するゴタゴタはある程度片付けたわけだが、そうすると次に目を向けなければならないのは内側にある問題――つまり勇魔連邦自体が抱える様々な問題である。

 どちらかと言うと体を動かして様々な破壊活動をするのが得意な俺はそういった内向きの問題の処理を優秀な嫁達にほぼ丸投げしていたわけだが、身重になっている嫁達にブラック企業も真っ青な労働をさせるわけにはいかない。というわけで、今日は朝から執務室に缶詰になってデキる嫁達の負担を減らすべく、絶賛手伝い中だ。


「それにしても、こうしてみると結構勇魔連邦も問題だらけだよなぁ」

「そうですねぇ。身体の大きさも、文化も、習慣も、寿命も、食生活も、何もかもが違う人達が寄り集まっているわけですから」


 唇に指を当て、視線を彷徨わせながらマールが再び小首を傾げる。

 今、このクローバーに住む種族は全部で何種だっただろうか? ええと、獣人、アルケニア、鬼人族、リザードマン、サハギン――サハギン? 河童? いや、とりあえずサハギンで良いや。サハギン、水棲の川エルフ、ケンタウロス、アンティール族、森エルフ、ドワーフ……あと、ごく少数だけどハーピィ、夜魔族、晶人族、翼人族、単眼族もいるか。それと人間。そういや妖精族なんかもいるな。あと厳密に言うと獣人族も大雑把に草食系獣人と肉食系獣人がいるよな。それも入れると、ええと……十八種族か。


「ざっと数えても十八種族だもんな。そりゃトラブルも起きるわ」

「そうですね。あとは農業や魔物素材を使った加工品の製造などを始めとした産業の立ち上げ、資源調査と採掘、クローバーや大樹海横断ルート周辺の魔物問題、クローバーと大樹海内に点在する集落との連絡手段の確保、法と税制の整備に……それに、あれももうじきですよね」

「もうじきって、何がだ?」


 俺の問いかけにマールの目がジトーっと細められる。あれ? なんだろう、俺はなにか悪いことを言っただろうか? 考えても心当たりが……。


「タイシさんがゲッペルス王国からぶんどったものが、そろそろ届く頃ですよ?」

「おっ、おお……そうだな?」

「問題が山積みなのになぁー」

「反省してます」


 最愛の嫁に両手を合わせ、拝むように頭を下げる。

 ゲッペルス王国の地方貴族達が企てた勇魔連邦への侵略行為――その代償として俺がゲッペルス王国に要求したもの。それはゲッペルス王国に存在する全ての亜人奴隷の身柄だ。

 老若男女、種族は問わず、借金奴隷、犯罪奴隷、生まれながらの奴隷も問わず、ゲッペルス王国に存在する全ての亜人奴隷。それが戦争の対価として俺が要求した『戦利品』だった。

 別にこの世界の、というかこの大陸の奴隷制度に異を唱えたいわけじゃない。経緯はどうあれ、借金まみれになった人間が奴隷として使役されるのはそう悪いことではないと思うし、犯罪者が過酷な労働に駆り出されることに関しても特に文句はない。

 何故かと言えば、借金奴隷は辛い思いはするかもしれないが十分な水準の衣食住を提供することが義務付けられていることによって一種のセーフティネットとして機能しているからだし、犯罪奴隷に関しては……まぁ実質死罪みたいなものなんだよな。その是非についてはなんとも言えない。基本的に解放されることはないらしいし、すぐに使い潰されるものだそうだけれど、うちのフラムみたいな例もあるしね。冤罪云々を言い始めるとキリがないし。死罪の代わりに犯罪奴隷、というシステムそのものを否定する気にはなれない。

 では何故わざわざ大量の亜人奴隷をウチで引き受けることを決断したのか、というと大森林で人間の奴隷狩りについて耳に挟んだからだ。そうやって連れ去られた奴隷がいるなら、返してやりたいと思った。だがどこにそんな奴隷が居るのかはわからない……せや、いい機会だから今回の戦争のカタとして亜人奴隷を片っ端から貰ったろ! という短慮を起こしたわけです、はい。

 結果として内向けの仕事を司るお姫様三人に絞られました。物理的にも精神的にも色々と。ええ、色々と。もう許して。


「ま、良いです。色々と大変でしょうが、人が増えるのは現状ではマイナスばかりでもありませんし」

「うん、それはそうだな」


 実の所、何につけても今は人手が欲しい時期なのだ。産業の立ち上げにせよ、建築にせよ、防衛戦力にせよ、貿易にせよ何にせよ、回していくには人が要る。

 未来に向けては単純な労働力だけではなく人材の育成も必要だ。その辺に関してはゲッペルス王国から来るであろう知識奴隷達にも多少期待していたりする。貴族や大きな商会で使役される奴隷の中には官吏や経理担当、教師や医師、職人などの専門的な知識や技術を有する知識奴隷と呼ばれるような者達がいる。そういった人材の獲得を期待できるから、というわけで俺は許されたのである。

 そんなことを考えていると、俺達が執務をしている机のすぐ横に設えられた通信の魔道具が光と音を発し始めた。三つあるうちで、一番新しいやつだ。


「噂をすれば、ですかね?」

「そうかもな」


 俺はそう言って口元を笑みの形に歪めながら受話器へと手を伸ばした。


 ☆★☆


「というわけで、ゲッペルス王国から奴隷の第一陣引き渡しの通知が来たわけだが……」


 ゲッペルス王国からの一報を受け、領主館では緊急の家族会議――もとい、勇魔連邦運営会議が開かれていた。この場に居るのは俺の家族である嫁達だけでなく、クローバー内で様々な要職に就いている人材も混じっていたりするわけで、家族会議というのは少し無理があるな、うん。


「まずは現状の確認じゃな。ヤマト」


 どこか古めかしい物言いでクスハが場を仕切り始めてくれる。

 彼女は勇魔連邦が存在するこの大樹海に古くから棲んでいたアルケニアと呼ばれる種族の長で、俺の嫁の一人だ。

 彼女の見た目はこの場に居る誰よりも人間離れしている。太ももの辺りから上は艶やかな黒髪の美女だが、そこから下は凶悪な見た目の大蜘蛛なのだ。この異形とも言える姿がアルケニア達のスタンダードなのである。

 上半身、というか人間と同じ太ももから上の身体は精々二十代半ばくらいにしか見えない若々しい容姿のクスハだが、その実年齢は軽く五百歳を超えていたりする。長年アルケニア達の長を務めていたということもあり、新米国家元首である俺としては非常に頼りになる女性だ。

 ちなみに、夜のアレは激しい。物理的に。ぶっちゃけて言うと血を見るレベルで。

 噛みつかれたのも十回や二十回ではすまない。爪で引っかかれたのは百回を越えるだろう。でもその逞しい大蜘蛛の前足、ごっつい攻撃腕で殴打するのはやめて欲しい。今はそんなことももう殆ど無いけどね。お互いに慣れてきたので。


「はい、食料の備蓄は十分です。先日、ミスクロニア王国やカレンディル王国から供与された保存食や穀物だけでもクローバーの住人が三年は食べていけます。時空庫には新鮮な野菜や果物、肉も確保されており、少なくとも即座に食糧危機に陥るということはないかと」


 一息で説明を終えたヤマトがブルルンと嘶く。うん、彼は馬なんだ。いや、正確には馬の獣人なんだが……顔も馬、足も蹄、手や胴体は人間っぽいんだが、何にせよ大柄で馬がそのまま二足歩行しているように見えてしまう。

 しかし外見に騙されてはいけない、彼はデキる馬である。それこそ文字通りに朝から晩まで馬車馬のように働き、クローバーにおける物資の管理や流通を一手に引き受けてくれているのだ。元奴隷の中に使えそうなやつが居たら部下として彼の下につけて、その激務を軽減してやりたいと思っている。いればね。


「そいつは重畳、俺もあちこち飛び回った甲斐があったってもんだな」

「そうじゃな、お疲れ様であった。次はティナからの報告が良いかの」


 次にクスハに発言を促されたのはティナ――マールと似た顔立ちをしている彼女の本名はティナーヴァ=ブラン=ミスクロニア。元ミスクロニア王国の第二王女で、マールの妹で、俺の嫁の一人でもある。


「受け入れ施設の準備と整備は万端ですね。捕虜の受け入れ施設を流用した形ですが、様々なパターンを考えてちゃんとプライバシーを守れるように改装してあるので、当面は問題ないと思います」

「ちゃんとした家もおいおい作っていかないとな。そのへんの人材が居ると助かるが」

「どうですかね? その辺りの事情って私はよくわからないんですけど」


 マールが首を傾げる。まぁ、そうだよな。マールもそうだけど、ティナもネーラも正真正銘のお姫様だ。奴隷と関わり合いになることなんて殆どなかったはずである。俺も興味を惹かれて一度奴隷市場に足を運んだが、精神的にボロボロになっていたフラムを見つけて引き取って以来、なんとなく苦手意識を持ってしまって寄り付かなかった。

 その他のメンツはどうか? というとエルフのメルキナ、エルミナさん、リファナは恐らく奴隷に関わることはあまりなかったんじゃないだろうか。メルキナは大森林の外を旅して食道楽をしていた時期があるから、もしかしたら知ってるかな? 獣人三人娘とデボラ、クスハはそもそも棲んでいた森や里から出て人と交わることが無かっただろうから知らないだろうな。


「私はあんまりよく知らないわよ? 売り飛ばされそうになったことが何度かあったし、基本的に奴隷市場の類には寄り付かなかったから」


 すぐ隣から向けられる俺の視線に気づいたのか、メルキナはそう言って首を振った。

 彼女も俺の嫁の一人で、出会った時はツンデレどころかツンツンツンくらいの塩対応エルフだったのだが、俺が有言実行で獣人達の世話をして、大樹海に新天地を用意したら急に嫁になる宣言をしてダダ甘のデレッデレになった。別人かと思うくらいの変わりっぷりに最初は大いに戸惑ったよ。

 でもまぁその、俺としてもそんなに慕われて悪い気がするわけもなく、マールとほぼ同時期に俺の子供をお腹に宿してくれた。大事な大事な愛妻の一人である。


「となると……」


 俺の言葉とともに奴隷と接する機会がそれなりにあったと思われ、なおかつこのメンツの中では比較的常識人枠であるフラムに視線が集まる。


「わ、私ですか?」


 全員から注目されたフラムがちょっと引き気味で体を仰け反らせる。

 フラムは元々はカレンディル王国の騎士家の娘で、剣士としての腕が良かったのと、色々な不運が重なってカレンディル王国の暗部――暗殺部隊に所属していた。勇者として頭角を現しつつあった俺を暗殺するべく襲いかかってきたのだが、俺はフラム以外を返り討ちにして暗殺部隊を壊滅させた。フラムが生き残ったのは偶然だったが、その後色々あって犯罪奴隷として奴隷市場で売られていたフラムを偶然発見した俺とマールが引き取り、色々あってそういう関係になった。そして今では俺の嫁である。嫁の中ではマールの次に付き合いが長い間柄だ。

 最近判明したことなのだが、彼女も俺の子供をその身に宿してくれている。今までは防衛部隊の訓練や指揮、防諜活動などに精を出してくれていたのだが、それも今はお休み中だ。子供に何かあったら大変だからな。


「そう、ですね……私もそこまで奴隷市場に精通しているわけではないのですが、取引される奴隷の大半は農奴でしたね。知識奴隷の数は少なくて、かつその値段は農奴の五倍から十倍くらいだったと思います。必然的に、数もかなり少なかったですね。あとは上級貴族の間で獣人の愛玩奴隷が取引されていると聞いたことがありますが、私には縁がありませんでした。知識奴隷にも格付けがされていて、読み書き計算が最低限可能な者、十分以上にこなせる者、それらの教育ができる者の順に値段が跳ね上がっていきます。この辺りは大体商人や官吏などが借金によって奴隷になった者達ですね」

「なるほど。じゃあ新しく来る人達はだいたい元農奴で、特別なスキルは持っていないって考えたほうが良いわけだ。大工や職人は期待できそうにないな……希望者がいれば見習いとしてミスクロニア王国で学ばせて貰えるよう手配しないとな」


 もしかしたら大半の人々は再び土を耕す道を選ぶのかもしれないが、中には自分の夢を持っている人達だっているはずだ。武器を振るって誰かを守りたい、美味しい料理やお菓子を作ってみたい、武器や防具や服、装飾品を作ってみたい、本を書いてみたい、絵を描いてみたい、歌を歌いたい……挙げ始めるとキリがないけど、そういう今までの自分とは違う何かになりたい人だっているんじゃないかね。


「どうした?」

「いえ、その……凄いことを考えているんだなと」

「そうかね? 上手くいくかどうかは別として、色々とやってもらいたいと俺は思ってるよ。何せ彼等はこの国に来た時点で奴隷じゃなく一国民になるんだからな」


 いきなり慣れない仕事をするのは無理だろうから、まずは簡単な仕事や馴染みのある仕事からやってもらうことになるだろうけどな。


「入ってくる人達を受け容れるにあたって衣食住の問題はとりあえず無さそうだ、ってことで良さそうかな? 衣類や寝具その他生活雑貨も当面は問題無さそうか?」

「はい、その辺りの備蓄もそこそこにありますので。ただ、毛皮はともかく布の備蓄が心許ないですね」

「布かぁ……綿も羊毛もゲッペルス王国の特産なんだよなぁ」

「そうですね。ミスクロニア王国やカレンディル王国でも生産はしていますが、やはり布製品や織物と言えばゲッペルス王国です」


 ゲッペルス王国とミスクロニア王国、カレンディル王国の三国は国土の広さそのものに大きな差は無いのだが、人間が生活できる領域という意味ではゲッペルス王国が一番広い。どういう要因によるものかは不明だが、ゲッペルス王国の国土には強力な魔物の生息域が非常に少ないのだ。若干土地が痩せ気味な場所もあるが平野が多く、牧畜が盛んで大規模な農地も多い。魔物との戦闘が少ない分、兵が弱いという欠点もあるようだが。


「気は進まないが、いつまでもいがみ合っていても仕方ないしな。ここは一つ、こっちから歩み寄ってみるのも手か。断られたり、不利な条件を突きつけられそうになったりしたらミスクロニア王国やカレンディル王国に頼ればいいし」


 ゲッペルス王国にもある程度の利益供与を図ることで仲間、とまでは行かなくとも対等に取引できる相手を作っておくのは無駄にならないだろうと思う。商売を通じて関係性を構築するというのは悪くない手だろう。


「というかまぁ、伝手を作るって言ってもその取っ掛かりが無いんだけどな……また王城に殴り込むか?」


 あの沸点の低い冷血王子をからかいながら伝手の紹介を強請るのも悪くない。むしろありなのではないか? 主に俺が楽しい的な意味で。


「おやめなさい。ちゃんと伝手はありますから」


 三度目の王城襲撃計画をポロリと漏らしたらネーラに窘められてしまった。

 煌めくような金髪と文字通り宝石のように美しい碧眼を持つ彼女の本名カリュネーラ=アーヴィル=カレンディル。大陸西方部に領土を持つカレンディル王国の元王女で、俺の嫁の一人である。彼女ともフラムと同じようにそれはもう色々とあったのだが、ゲッペルス王国の王城に軟禁されていた彼女を助けたことを切っ掛けに外堀を埋められて嫁に迎えることになった。

 物言いが少しばかり高慢で高飛車な感じがする娘なのだが、心根の優しい恥ずかしがり屋で、からかうととてつもなく可愛い。そして自分の仕事や役割にはものすごく真面目で、苦労人でもある。


「ネーラの伝手って?」

「お姉さまですわ。前に少しお話ししませんでしたか?」

「おお、そういえば。ネーラのお姉さんがゲッペルス王国の貴族に嫁いでるんだっけ」


 そういえばゲッペルス王国の王城からネーラを助け出す時にそんな話を聞いた気がする。なるほど、それならなんとかなるかな?


「ふむ、では近い内に主殿とネーラはその姉君の元に訪問するということで予定を立てるべきじゃな」

「そうですね、それが良いと思います。あとは実際に元奴隷の人達を迎える際の段取りですね」

「段取り? 普通に連れてくるだけじゃ?」


 マールの発言に首を傾げる。転移門で向こうに行って、転移門で全員連れて戻ってくるだけの話だと思っていたんだけども。何かセレモニーでもやるつもりなんだろうか。


「タイシさん一人で迎えに行くのはちょっと見栄えが悪いですよ。転移門を使えるのはタイシさんだけですから、タイシさんが行くこと自体は仕方がないですけど、一人も随員を伴わないで行くのは良くないです」

「そういうものか。そうなると、マールとメルキナ、フラムとカレンは留守番だな」


 カレンのお腹にも俺の子供がいるからね。特に彼女は妊婦の中でも年若いし、獣人ということで妊娠から出産までが人間やエルフより短いらしいから色々と心配だ。

 空間魔法による転移がお腹の子供にどんな影響を与えるかわからないので、妊婦の転移は俺が禁じている。俺ですら一瞬意識が遠くなるような刺激をお腹の子供に与えるのはあまりにも怖い。人によっては転移酔いを起こすこともあるくらいだし。


「うむ。では誰がついていくかじゃが……」

「私はこっちで出迎え役をするわ」


 エルミナさんが機先を制するようにそう言って微笑む。彼女はメルキナの実の母で、俺の嫁さんの一人でもある。

 うん、みなまで言わないで欲しい。業が深いことをしているのは俺にもよくわかっている、わかっているのだが、彼女は神々にボコボコにされて大森林に落ち延び、彷徨っていた俺をそれはもう色々とお世話してくれた女性なのだ。

 結構な長い期間を共に過ごし、また俺は嫁達から長期間離れざるを得ない事情があり、エルミナさんも夫を随分前に亡くして寂しかったというのもあり、そして行き場もなく彷徨っていた俺に旦那さんの姿を重ねてしまったのもあり……と様々なことがあってそういう関係になったのだ。

 幸いなことにエルフ的にも嫁達としてもメルキナ的にもギリギリ許容範囲内ということで俺は許された。いや、許されたのか……? 結構こってりと絞られた気がするが、今現在無事なので許されたという判定で良いはず。

 当のエルミナさんは色々と経験豊富ということもあり、嫁達の間でも頼りにされているようである。色々と引け目があるのか、クローバーでは一歩引いた立場で皆のサポートに回ってくれることが多く、皆の頼れるお姉さんという感じだ。最近はクスハですらエルミナさんに頼ることがあるくらいだしな。


「それじゃあ俺、クスハ、デボラ、リファナ、シェリーがゲッペルス王国に行って、エルミナさんとシータン、ヤマトはクローバーで出迎え、マールとメルキナ、フラムとカレンは留守番で、ティナとネーラは館で執務ってことで」


 皆から了解の旨が返ってくるのを確認し、俺は頷いた。よし、明日が本番だな。何事も無ければ良いけど……無いよな? うん、そういう要素は無いはず。無い。

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