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第110話〜久々に料理を振る舞いました〜

今回は少し長めです_(:3」∠)_

「おかえりなさい、タイシさん!」


 クローバーの領主館に戻るなりマールが抱きついてきた。俺もマールを抱き締め返し、鳶色の頭に顔を埋める。あー、落ち着く。


「うへへ……」


 俺の胸元に顔を擦り付けながらマールがだらしない笑い声を上げる。可愛いさが色々と台無しな気もするが、マールだしこんなものだろう。

 マールを抱きしめたままズルズルとしゃがみ、額、唇にキスをしてから少し膨らんだお腹に頬ずりしながらそっと抱きしめる。ああ、ここに俺とマールの子供がいる。なんて愛おしい、


「ふふ、タイシさんも子供みたい」


 マールが頭を優しく撫でてくれる。やばい、幸せすぎて泣きそう。帰ってこれてよかった。


「ちょっとマール。独り占めはいけないと思うわ」

「そうですね!」


 俺の頭を撫でていたマールの手が離れ、代わりにメルキナが俺の頭を抱いて頭を撫でる。マールに抱きついていた腕も外されてメルキナに抱きつかされた。


「ほらタイシ、こっちにもあなたの赤ちゃんがいるわよー?」

「あ゛ー……」


 マールと同じく少し膨らんだメルキナのお腹に頬ずりしながら頭を撫でられる。ヤバい、知能指数が著しく低下する。バブみがすごい。尊い。


「ああしてるとただの男の子よね」

「そうだね、ちょっとお馬鹿みたいになってるけど」

「ずるい。私もタイシ撫で撫でしたい」

「やっぱりややこをさずからないと……」

「頑張る」


 なんかカレンとシェリーが恐ろしい決意をしている気がする。あんまり急がずに、ゆっくりね? こういうのはホラ、授かりものだし? あー、いけません。いけませんマールさん。そんなメルキナと二人で挟んで撫で撫でなんてされたら溶けてしまいます。いけません。


「デレッデレね……」

「ふふ、お二人は夜の触れ合いができないのですから、仕方ありませんわ」

「そうじゃの。日が高いうちはお嬢達に譲ってやるのが良いじゃろ」


 理解のある嫁達に囲まれて俺はとても幸せです。でもこれ、あれですね。ハーレムというよりは俺が上手にシェアされてる感じですよね。いや、それでいいんですけどね。平和なのが一番です。

 メルキナとマールにキスをしてから立ち上がり、その場に居合わせた嫁達ともハグとキスをする。

 マールとメルキナが俺を撫で撫でして俺が溶けてたのが面白かったのか、皆に撫で撫でされた。脳みそが蕩けて耳から出るかと思ったよ!


「なでなで攻勢は危険だ……俺の威厳が溶けて無くなる」

「威厳ですか」

「ない」

「あるぇー?」


 カレンにばっさりと威厳なんて無いと斬り捨てられてしまった。馬鹿な、俺は威厳溢れる勇魔連邦の主だったはずでは……?


「無いわけではないがの。威厳のある時とそうでない時の差が激しいのは確かじゃな」

「そうねぇ……でも、私はいつも眉間に皺を寄せて威厳を振りまいている人よりも、タイシくんみたいな人のほうが好きよ?」


 愕然としているとクスハとエルミナさんがフォローしてくれた。ならいいや! 俺はオンオフがきっちりできる男なんだ。うん。


「ところでティナとかデボラとかフラムは?」

「三人とも捕虜収容所よ。管理とか尋問とか色々あるから」

「シータンも向こうで手伝ってる。私とシェリーは今日も畑の拡張してきた」

「魔力切れで戻ってきました」

「シータンもか。てっきり夕飯の準備をしているのかと……ん? デボラもシータンもフラムもいないのか? 今日の晩飯は誰が作るんだ?」


 俺の言葉を受けてエルミナさんが手を挙げる。


「ははは、ご冗談を」

「作るわよ?」

「「「駄目です」」」


 俺とリファナとメルキナの声が見事にハモった。一度でもエルミナさんの手料理を食ったことがあるなら当然の反応である。


「妾が作るか? これでもずっと自炊してきたんじゃぞ」

「ちょっとキッチンが小さいんじゃないですかね?」

「ぐぬぬ」


 クスハの申し出はマールのツッコミで頓挫した。リファナはお茶を淹れる腕はともかく料理の腕は今ひとつだし、マールは俺の雑な野外料理で感動していたことがあるので期待はできない。メルキナは……メルキナの料理の腕はわからんな。カレンとシェリーはたまに手伝ってるみたいだし戦力にはなりそうだが、任せるのは無理だろう。ネーラとステラにも視線を向けてみるが……。


「あなた、上に立つ者は下々の仕事を取り上げてはいけませんのよ?」

「申し訳ありません。私も侍女の端くれではありますが、そちらは担当ではないので……」

「ですよね」


 俺も詳しいことは知らないが、ステラのような侍女というのはメイドよりも上の立場の人間であるらしいということは知っている。家事を行う使用人ではなく、貴婦人の付き人として髪を結ったり化粧を施したり服の着付けをしたりするのがお仕事だとか言ってたかな。要は、より上の身分のお嬢様のお世話をするお嬢様なのだとか。

 要はお姫様も、その身の回りの世話をする侍女も一般市民から見れば同じお姫様なのだ。ましてやステラはいざという時にネーラの身代わりも務める影武者みたいな子らしいしな。

 実際に顔つきもとても似ている。姉妹と言われても不自然に感じないくらいだ。


「つまり今日は俺の出番だな」

「おー」

「タイシさんの手料理は久しぶりですね!」


 喜ぶカレンとマール。シェリーも尻尾をフリフリして嬉しそうだな。


「大丈夫ですの?」

「それが意外と美味しいのよ。ね? リファナ」

「大森林をあちこち旅していた時はずっとタイシが作ってたわ」


 俺の手料理を食べたことがないネーラが首を傾げ、つい最近まで俺の手料理をよく食べていたエルミナさんとリファナがその心配は無いと太鼓判を押してくれる。うん、君達はよく食べたよね。


「あんまり期待されても困るぞ。雑なのは雑だし」

「確かにあまり雅さは無いの。だが妾は好きじゃぞ?」

「私もタイシの料理は好きよ?」


 ストレートにそう言われるとなんだかやる気が出てくるな。外に視線を向けると、そろそろ日が暮れようかというところだ。時間はそんなに多くないが、大至急作らないといけないというほどでもない。


「んじゃー適当に作るか。カレンとシェリーも手伝ってくれるか?」

「うん」

「はい!」

「ありがとう。んじゃみんなは適当に寛いでいてくれ」


 カレンとシェリーの二人を引き連れて厨房へと向かう。久々にキッチンに立つから、今ある調味料や食材なども確認しなければ。


「二人は主食は作れるか? 米を炊くかパンを焼いてくれると助かるんだが」

「どっちもできる」

「できます。両方作りますか?」

「そうだな。余ったら俺がストレージに入れとくから、両方作ってくれ」


 ストレージに入れておけば炊きたて焼きたてのまま保管しておけるし、いつでも食える。余らせても一向に困らない。キッチンの冷蔵庫の中を見てみると、マッドボアのロースが塊で入っていた。ふむ、メインはこれで作るか。他にもサラダに使えそうな野菜や、薬味に使えそうな野菜も入っている。味噌、醤油、みりんに各種スパイスや油なんかも揃ってるな。ああ、食材や調味料の揃っているキッチンって素晴らしい。

 お米を研いだり小麦粉を捏ねたりし始めているカレンとシェリーを横目に見ながらまずはソースを作ることにする。まぁ、ソースというかポン酢とゴマダレなんだけども。

 ポン酢は醤油と酢とみりんを五対四対三で混ぜ合わせ、酸っぱい柑橘類の汁を適度に入れれば良い。もちろん拘るのであればこれに昆布や鰹節などを漬け込んで旨味を更に追加するのが良いのだが、今日すぐ使う分にはこれくらいで良いだろう。まぁ、飯時になるまで少しでも旨味が出ると良いので、鰹節と刻んだ昆布を放り込んで冷蔵庫に入れておく。

 ゴマダレは大量のごまをすり鉢で摺りまくる。俺のでたらめなステータスをもってすればフードプロセッサーも顔負けの速度で練りごまができるので、これに普通に摺ったごまと醤油、酢と味噌と砂糖などを混ぜ込んでゴマダレを作る。良い匂いがするのか、カレンとシェリーが鼻をスンスンしながらこちらを見てくるので出来上がったゴマダレを指先に付けて味見させてやる。


「美味しい。これ好き」

「甘じょっぱくて香ばしいです」


 二人とも気に入ったようだ。ポン酢の方はどうだろうと舐めさせてみる。


「酸っぱい。でもさっぱりしてて良い」

「こっちも好きです」


 こっちも好評のようだ。俺はポン酢はあんまり得意じゃないんだけど、妊婦さんにはさっぱり食べられるこっちが良さそうだろうと思ったのだ。大根も恐ろしておろしポン酢にしても良いし、大葉を刻んでしそポン酢にしても良いだろう。


「そしてこれだ」


 ソースができたので、メインディッシュの調理にかかる。俺が取り出したのは巨大なマッドボアのロース肉だ。

 やはりゴマダレとポン酢とくればしゃぶしゃぶだろう。だがこの世界にはガスコンロやホットプレートのような便利グッズはない。作ろうと思えば作れるが、残念ながら必要に駆られていないので作っていない。いつか作ろう。だが今はそんなものを用意している時間はないので、今日はしゃぶしゃぶはしゃぶしゃぶでも冷しゃぶにする。

 茹ででさっと冷水で洗ってサラダの上に乗っけてドン、と出せる冷しゃぶの方が今日の食卓には向いているだろう。というわけでデカいロース肉を程よい大きさに切り分け、薄切りにする。

 しかし、ここで俺の前に立ちはだかるものがあった。


「クッ、俺の調理スキルでは肉の薄切りは難しいというのか……!?」


 そう、肉の薄切りである。俺の調理スキルでは常温の肉を包丁でしゃぶしゃぶに適する薄さに切ることができなかったのだ。これは由々しき問題である。ポイントはあるが、調理スキルのために使うのはいかがなものか。

 考えろ、考えるんだタイシ! いい方法があるはずだ!


「薄切りにする……切る……斬る……!?」


 閃いた!

 頭の上にピコーンと電球を浮かべた俺はおもむろに肉を手にしてキッチンの勝手口から外に出る。そして極光剣を取り出し、念入りにその刃に浄化をかけた。そしてロース肉を高く放り投げ、極光剣を構える。


「ハァッ!」


 裂帛の気合でもって極光剣を振るうと、無数の斬撃がロース肉に襲いかかった。そう、神をも切り裂く剣の勇者の最終奥義、百閃である。緻密に制御された目に見えぬ斬撃が空中でロース肉を薄切れにした。所詮はただの肉塊、抗う術などあるはずもない。


「完璧だな」


 キャッチした肉が手の中で形を崩し、無数の薄切れになっているのを確認する。コツを掴んだ俺はロース肉をことごとく薄切りにしてやった。奥義である百閃と対神兵器である極光剣が何故か嗚咽を漏らしている気がしないでもないが、きっと気のせいだろう。

 後は一枚ずつさっと湯通しをしてストレージに放り込み、まとめて冷水でさっと洗って再びストレージに収納。大皿にサラダをこさえて、肉を盛り付けてまた収納。ストレージを使うと調理したての状態で料理を保存できる。とても便利だ。流石にあの駄神もこんな使い方をされるとはしていなかっただろう。ふはははは。

 冷しゃぶだけでは流石に食卓が寂しいので、温野菜のサラダや豚ロース肉の厚切りステーキ、昆布出汁の野菜味噌汁なども作る。食材が豊富なのは本当に良いな。塩くらいしか無かった大森林での調理に比べたら天国だな。


「ハンバーグを作る時間は……無いか」


 いつもならもうそろそろご飯を食べている時間だ。品数もこれで十分だろう。パンも炊いたご飯もさっさとストレージに収納したから何も作った感が無いな。


「よし、片付けたらご飯にしよう」

「うん」

「はい」


 カレンとシェリーと俺の三人で台所を片付け、食堂に向かう。


「お、みんな揃ってるな。お疲れ様」


 食堂には外で働いていたフラムやティナ、デボラにシータンも戻ってきていた。


「今日はタイシが夕飯を作ってくれたんだってね。楽しみだよ」

「なんだかすみません。私のお仕事なのに……」

「いいんだよ。いつも作ってもらって俺こそ申し訳ないと思ってる。それに、今日は大変だっただろ?」


 よく見るとフラムは少し疲れた様子だ。まぁ、尋問なんて精神的に疲れる仕事だよな……勿論フラム一人でやったんじゃないだろうけど。


「私は大丈夫ですよ」

「あんまり大丈夫そうに見えない。今日はゆっくり休んでくれ」


 フラムを労いながらストレージから次々に料理を取り出していく。冷しゃぶ、厚切りステーキ、温野菜サラダだ。マールとメルキナには焼けた肉の匂いがキツいかもしれないので、厚切りステーキは二人から少し離れた場所に置く。そして鍋敷きの上に野菜味噌汁の入った鍋を置いて焼きたてのパンが入ったバスケットや炊いたお米の入ったお櫃も配置する。


「しまった、食器を用意してないじゃないか」

「取ってくる」

「私もいきます」


 獣人三人娘がぱたぱたとキッチンに駆けていくのを横目に見ながら、デボラが冷しゃぶに視線を向けてクンクンと鼻を鳴らす。


「サラダの上に茹でた薄切り肉……? 味付けはしてないみたいだね?」


 二つずつ、合計四つの小壷に分けたゴマダレとポン酢、そして刻んだ大葉や大根おろしを盛った小皿を出す。


「茹でた薄切り肉にこのゴマダレかポン酢を適量つけて食ってくれ。ゴマダレは濃厚な味わいで、ポン酢はさっぱりとした味わいだ。ポン酢にはこの刻んだ大葉を足せば更にさっぱりするし、大根おろしにポン酢をかけておろしポン酢にして食ってもいいぞ」


 どれどれ、とデボラや他の嫁達がゴマダレやおろしポン酢を指先につけて味見していく。


「あら、美味しいねこれ」

「あ、この酸っぱいの好きです」

「私もこっちが好きね」

「お腹に子供がいると酸っぱいものが欲しくなるのよ」

「私もこちらが好きですね……さっぱりとしていて」


 マールとメルキナはやはりポン酢がお気に召したようだ。


「ふむ、妾はこちらのゴマダレが好きじゃな」

「私もこの濃厚で香ばしいソースは美味しいと思います」

「そうですわね。今までに味わったことのない風味のソースですわ」

「これはゴマよね? うん、美味しいわ」


 ゴマダレも好評だ。ふふふ、そうだろうそうだろう。元の世界で売っていた市販のタレにも負けない出来だと思うぞ。

 そうしているうちに食器が運ばれてきたので、配膳して夕飯にする。冷しゃぶというかゴマダレとポン酢は大層好評だった。特にポン酢が妊婦二人に大好評だった。


「これ、凄く良いです! 実は最近食欲が落ち気味だったんですけど、これなら食べられます!」

「おろしポン酢がいいわねー。お肉だけでなく野菜にも合うわ」


 なお、ゴマダレも評判が良かったため、ポン酢と合わせてデボラとシータンにレシピを教えてみたら一ヶ月も経たないうちに俺の作ったものより出来の良いポン酢とゴマダレが完成した。

 このレシピによって作られたゴマダレとポン酢が後にクローバーの特産品として売り出されることになるのだが、それはまた別のお話。


 ☆★☆


 意外と好評だった夕食後、食休みがてら皆でリビングで寛ぐ。うん、こういう時間が欲しかったんだよ、俺は。


「ご主人様、尋問結果の報告をしてもよろしいでしょうか?」

「えー、やだー」

「ええ……」


 フラムに困惑されてしまった。だってやっと皆で過ごせるまったりとした時間なのに、尋問結果の報告とかめっちゃしんどいじゃないか。する方もされる方も。もう少しまったりしようぜ。ほら、デボラの膝枕がモフモフむっちりで最高だぞぐりぐりぐり。


「ふふ……なんか子供みたいになってるよ」


 デボラが笑いながら俺の頭を撫でてくる。はぁ、なんだかんだでデボラは俺に甘いよな。甘えたらいくらでも甘やかしてくれそうだ。でも、甘えてばかりもいられない。頃合いを見計らってデボラの膝枕から身を起こす。


「すまん、フラム。折角苦労してつらい仕事をしてくれたのにな。聞かせてくれ」

「はい。では……」


 フラムが捕虜達に尋問した結果を報告してくれる。捕虜となったのは爆心地から比較的離れた場所に展開していた兵達で、その殆どが徴用された農民兵だった。装備だけはそこそこ立派なものが支給されたということだ。

 自分達を徴用した貴族の名前はわかるが、そいつがどうなったかはわからない。爆心地となったのは部隊のほぼ中央部で、その辺りには攻め寄せてきていた貴族の擁する騎士や私兵、商人達の子飼いの冒険者などの主力とも言える腕利きが展開していたのだとか。恐らく殆ど生き残っていないだろうとの話だ。

 だが肝心の貴族や商人達は後方に布陣していたらしく、無傷ではないだろうが逃げおおせている可能性が非常に高い。実際、捕虜の中にそういった人物はいないし回収した死体の中にもそれらしきものの姿はなかった。

 更に後方の輜重部隊や後詰の戦力は完全に無傷だろうから、恐らく逃げ延びた貴族や商人もそいつらと一緒にいるだろう、という証言であったらしい。


「奴らが大樹海の外に出るのにどれくらいの時間がかかる?」

「ある程度切り拓かれた道があるとはいってもご主人様が敷設した横断街道ほどに整備されているわけではないようです。恐らくは三週間、どんなに早くても二週間ほどはかかるのではないかと」

「なるほど……うーん、首謀者が殆ど生き残ってるのかぁ」


 どうしようか。主だった戦力が壊滅したなら危険はないだろうけど、直接ぶん殴ってやりたい気持ちもあるにはあるんだよな。でもなぁ……魔物除けもなく、戦力も減じた状態で大樹海を突破していくってのも十分罰ゲームだとは思うんだよな。もう少し放置するか?


「主殿、追撃するか?」

「うーん、悩むな。降伏勧告をするというのはどうだ?」

「降伏勧告ですか」

「ああ。今あちらさんがどうなってるかは知らんが、大被害を受けて敗走中だろう? 俺がその鼻先に攻撃魔法を叩きつけて、降伏勧告するんだ。降伏するなら捕虜として保護する。そうしないなら数日放置して、また降伏勧告しに行く」

「それなら期限を付けて、後になればなるほど条件が厳しくなるようにした方が良いですね。最終的には殲滅すると脅せば良いでしょう」

「マーリエル……貴女、結構過激ですのね」

「タイシさんの不在を狙って侵攻してくる相手にかける慈悲はありませんよ。もしタイシさんが戻ってきていなかったら、ケンタウロスさん達に飛翔魔弾と魔導砲を持たせて追撃させていましたね」


 やだこわい。それほぼ間違いなく一方的に蹂躙することになるよね。


「最終的には叩き潰すのですし、わざわざ旦那様が手を下さなくても良いのでは? 放っておけば勝手に数も減るでしょうし」

「ティナも割と過激なことを言うなぁ。それもそうなんだけど、弱ってるところに畳み掛けたほうが効くかなぁって思ったのと、とっとと片付けたいというのがあってな」

「早急に、ですか……確かに、放置するリスクはありますが、ご主人様がリスクを負ってまですることではないのでは?」


 マールは条件付きで賛成、ティナとフラムは消極的反対といったところか。


「ネーラはどう思う?」

「私としてはあなたが直接手を下さずとも、足の早いケンタウロスや獣人達に任せるのが良いと思いますわ。ただ、最終的には望むままにするのが良いかと」

「どうしてそう思うんだ?」

「あなたは民に色々と配慮をしすぎです。自分達の国は自分達が守る。そういう気概が薄くなってはこの国の行く先が危うくなります。ですが、この国の成り立ちそのものがあなたに依っているのも事実。権威をより強化するためにあなたがその力を思うままに振るうことも不正解ではありません」


 キリッ、という感じでネーラが小難しいことを言う。


「マール、ネーラが難しいことを言って俺をいじめる」

「理屈っぽいですからねー。だから盛大に空回りして失敗するんですよ」


 いつの間にか俺の隣に座っていたマールに抱きついて甘えると、マールはニコニコしながら俺の頭を撫で始めた。あー、頭の中身がとろけるわー。


「真面目に考えているだけですわっ! 貴方達が感覚的に生き過ぎなのですっ! というか、マーリエルに甘えすぎですわよ! ズルい!」


 ネーラがバンバンとテーブルを叩きながら怒る。ははは、ネーラは怒っても可愛いな。


「まぁ真面目な話、ゲッペルス王国に乗り込む前に不安要素を排除しておきたいのと、攻撃の材料に使えるかと思ってな」

「うーん、どうでしょうね? アッサリ切り捨てると思いますが。ゲッペルス王国の国王はそういうところは冷徹なので」

「そういやあっちはどう弁明してるんだ? どっちかの王国経由で抗議はしたんだろ?」


 以前ゲッペルス王国の王城に殴り込んた際、口約束ではあるが王子やその他貴族による敵対行動を封ずると確約させた。だが、結果は見ての通りである。カレンディル王国の地方貴族も侵攻に加担したようではあるが、主力を担っていたのはゲッペルス王国の貴族だ。これは完全に約束を破ったという認識で間違いないだろう。


「ゲッペルス王国は出兵を厳に禁ずる布告を出してはいましたね。もし出兵した場合は反逆罪として王国軍を差し向けるって内容で。結局そんな布告を無視して地方貴族達は攻めてきてますけど」

「なんだそりゃ……侵攻軍の奴らは自分の領地に軍が差し向けられているのに、それを無視して攻めてきているってことか? そんなことあり得るのか?」

「実際に差し向けられている王国軍の戦力はかなり小さいみたいですね。城壁を囲んでほとんど負傷者の出ない一進一退の攻防を繰り広げているそうです」


 つまり、出兵を禁じた布告もゲッペルス王国軍の出兵もただのポーズで、ゲッペルス王国は侵攻軍――というか地方貴族達の行動を半ば黙認しているということだろうか。そうだよな、聞く限り全然本気って感じじゃないみたいだしな。


「キレそう。マジでちょっと痛い目に遭わせるしかねぇな?」

「ですね」

「そうじゃな」

「そうですわね」

「私もそう思います」


 全会一致の制裁決議が採択された。さもありなん。奴らは俺達を怒らせた。


「じゃあ制裁内容を考えようか。俺の希望としては、ゲッペルス王国の王族と貴族だけにダメージを与えて国民の生活には影響を与えないという感じのものが理想なんだが」

「難しいですね」

「無理じゃろ?」

「難しいですわね」

「王族と貴族を行方不明にするのがいい」

「はい、カレンから掟破りのダイレクトアタック案が出ましたー。俺はありだと思うね」


 貴族の当主を次々に『行方不明』にしてやるというのは良い案だと思う。これはミスクロニア王国の綱紀粛正に目覚ましい効果があったからな。俺なら深夜の貴族の邸宅に忍び込んで当主を強制的に拉致するのなんてわけもない。大樹海に放り捨てておけば後始末も簡単だし。


「もう少し穏便に、貴族の邸宅を破壊したり財産を奪うというのはどうですか?」

「なるほど、それもアリかな?」


 うん、俺にかかれば宝物庫やら金庫の中身を頂戴するのも朝飯前だ。隠形と空間魔法を駆使する俺を阻めるものなど殆ど無いからな。金貨とかただの宝石とかなら足もつかずに色々と利用できるだろう。


「うーん、でもそれだと結局民衆に皺寄せが行くのでは?」


 ティナの出した案にマールが反論する。ネーラもそれに同意するように頷いた。


「マーリエルの言う通りですわね。経済的なダメージを与える方向でいくのであれば、民衆に負担を強いたら今度はお前の命をいただく、というような脅しを一緒にかける必要があるでしょう。それなら家族や本人を行方不明にした方が手っ取り早いと思いますわ」


 行方不明が暗殺の隠語として飛び交うこのリビング、かなり怖いですね? いいぞ、俺の嫁達。もっとやれ。


「そこまで民衆を気にかける必要があるのか? 大いに迷惑をかけてやれば良いではないか。その上で愚かな王族や貴族が我らに手を出したせいでこうなったのだ、と喧伝してやれば良い」

「おっと、ここで更に過激な意見が出てきたぞ」

「そうですね。でも私はクスハさんの案が一番良いと思いますよ? 民衆の不満が高まって一番困るのは上に立つ者達ですからね」

「そうですわね。国に仕掛ける以上、その国の民に負担をかけないなどというのは土台無理な話ですわ。そもそも、王や貴族の力の源泉は民なのです。そこにダメージを与えずに国にダメージを与えるというのは絵空事ですわよ」

「ネーラの正論が心に痛い」

「おおよしよし。まったくあの人は怖いですねー」

「今! 貴女も! 同意していたでしょう!?」

「ははは、ネーラは可愛いな」

「いい加減に気分を悪くしますわよ?」

「「ごめんなさい」」


 額に青筋を浮かべ始めたネーラにマールと二人で謝る。ネーラをからかう時は引き際が肝心だ。あまりやるとガチ泣きするからな。

 ちなみに、このリビングには全員が居るが話し合いに参加しているのは王女三人組とクスハ、フラムとカレンくらいである。他の嫁達は話し合いを聞いてこそいるものの、話し合いに参加するつもりは無いようで少し離れた場所のソファに座ってあっちはあっちで何か話し合っているな。小声で話しているので、何を話しているのかはこっちには聞こえてこない。

 あっちはあっちで何か真剣に話し合っているので邪魔はしないでおこう。


「話が大幅に逸れたな。最初の議題は追撃、追撃だよ」

「そうでしたね。ええと、どうするんでしたっけ」

「降伏勧告をしようという話じゃったな。妾はそれで良いと思うぞ」

「そうですわね。投降した者は武装解除してからクローバーに移送、拘束後収監という形で良いでしょう」

「では拘束するための部隊を明日の朝招集しておきます」

「頼むよ。じゃあ降伏勧告の内容を詰めようか」


 暫く降伏勧告やゲッペルス王国への制裁について話し合い、内容が纏まったところで食後の家族会議はお開きとなった。

 ちなみに、今日の夜はネーラが相手だった。明日のこともあるので程々に頑張りました、程々に。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前に、嫁達の料理の腕の大雑把なまとめでネーラは嫁の中で二番手、カレンはマールの薬レベルの劇物しか作れない とあったはずですが?
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