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第101話〜酒神の御座を訪ねました〜

百一とか一〇一ってなんかしっくりこなかった……最初から普通の数字にしておけばよかったね_(:3」∠)_

 打った。打ちまくった。

 オリハルコンという金属は本当に面倒くさい金属だ。というか俺はただの金属じゃなくて金属生命体か何かじゃないかと思っている。

 丹念な温度管理だけでなく、叩く際にしっかりと適正な魔力を篭めなければならない。槌を通して魔力で会話をするような感じだ。しかも超ドMな叩いて欲しがり屋なのだ。満足するまで叩き尽くさないと望んだ形に成形できないし、強度にムラが出る。


「おらぁっ! ここかっ!? ここがいいのかっ!? このドMがぁ!」


 あまりに面倒くさくて罵声も口から飛び出てこようというものだ。しかもこうやって罵ったほうが上手く成形できる気がする。本当にこいつら生きてるんじゃあるまいな?


「傍から見ると変な人ね」

「何で罵ってるのかしら……」


 ヒソヒソとリファナとエルミナさんの声が聞こえてくる。俺だってこんなことしたくないんですよ! でもオリハルコンはこういう金属なんだよ!

 だからあんまり鍛えたくないんだ、こいつは。俺が神銀を作ったのもこの面倒臭さを嫌ったためだからな。


「フン、つまらんな」

「さぁ、どうかな? 最後まで見てから評価したほうが良いと思うよ」


 なんとかオリハルコン製の短剣の刀身を鍛え終えたので、次は一回り大きい鋼鉄の短剣を鍛造する。オリハルコンと比べて鋼のなんと素直なことか。

 丹念に丹念に鍛えて日本の短剣を並べる。うん、形は全く同じで一回り大きさの違う短剣が二本できたな。そこで俺はストレージから神銀棍を取り出した。これからやる作業には必要なものなのだ。


「小僧は何をしているのだ」

「さぁねぇ、まぁ見てようよ」


 外野の声を聞き流しながら魔力と意識を集中する。空間魔法でオリハルコンの短剣を三次元で完璧にトレースするのだ。切っ先の鋭さも逃さずに完璧にトレースをするのはとても疲れる。膨大な情報量に頭が破裂しそうだが、なんとかトレースを終えることができたのでトレースしたそのままの形に鋼鉄の短剣の中身を空間切断の魔法でくり抜いた。

 くり抜かれた鋼鉄の短剣の中身がカラン、と音を立てて転がる。


「しんど……」


 だがこれで終わりではない。今度はオリハルコン製の短剣を中身をくり抜いた鋼鉄製の短剣にピッタリとハマるように転移するのだ。こっちはくり抜くよりもずっと楽だった。


「よぉし」


 ここまで来たら後は柄や鞘の拵えを整えるだけだ。鍛冶場に用意してあった素材の中から良さげなものを選んでサクサクと終わらせる。この辺りの作業はもう慣れたものだ。

 かくして鋼鉄とオリハルコンの二層構造の短剣が出来上がった。柄頭に四つ葉のクローバーの刻印を掘って完成だ。


「できたぞ」

「ふん、鋼鉄とオリハルコンの二層構造か。どういう意図だ?」

「子供に持たせるにはオリハルコンの短剣は荷が勝ちすぎるだろ。だから鋼鉄でコーティングした。使って使って使い潰して鋼鉄部分が摩耗しきったらオリハルコンの刀身が現れるってのも面白いだろ。それに、もし鋼鉄じゃ断ち切られるような攻撃を受けた時にも真価を発揮する」

「手間がかかりすぎるな。量産には向かん」


 そりゃそうだろ。今回のお題は俺が俺の子供に贈る一振りなんだから。


「だがまぁ、丁寧には作ってあるな。それに、作り方も斬新だ。儂から見れば邪道だが、創意工夫がある。儂ならオリハルコンの短剣を芯にしてそのまま打つがな」

「オリハルコンの刀身に歪みが出るかも知れねぇだろうが」

「そんなもの腕次第でどうにでもなる。それにこの作りだと、強烈な衝撃を受けた時に外側の鋼鉄部分がひしゃげて使い物にならなくなるぞ」

「そんな衝撃受けるようならオリハルコンの刀身が出てくるさ。それに空間切断で一切の隙間無く嵌め込んでる、そう簡単には歪まねぇよ」

「フン、鍛造して圧接すればそんな心配も無いと言っておるのだ。未熟者め」

「んだとこの野郎」


 バルガンドと睨み合う。やっぱりこいつとは一度殴り合って白黒つけたほうが良い気がするぞ。


「はいはいそこまで。どうしてこう、君達は仲良くできないのかな」


 リアルが割って入ってきた。なんでと言われてもなぁ、こいつには恨みがあるんだから仕方ない。俺が丹精込めて作った神銀自在剣と晶芯刃銀剣はもう帰ってこないのだ。


「で、どうなんだ? ケチつけてきたってことは失格か?」

「未熟だが、創意工夫は認める。鍛冶一辺倒の儂では思いつかん方法だった。応用も効きそうだしな。ギリギリ合格にしてやるから、今後も精進しろ」

「わかった」

「あら、以外に素直」

「鍛冶神の思いつかない方法だったって言わせただけでそれなりに満足だ。俺だってまだまだ突き詰めていけばもっと良いものが作れると思ってるからな」


 そもそもものづくりなんてのは果てがないものだろう。その時点での自分の最高の作品、というものは存在するだろうが、努力を続ければ十年後にはきっともっと腕が上がっている筈だ。ゲームのように上限値が決まっているということもないだろうしな。


「では、儂の祝福をくれてやろう」

「おう、貰ってやろ――ごあぁっ!? 何すんだてめぇこのやろう!」


 こいついきなり鍛冶用の小槌で俺の頭をぶん殴りやがった。


「鍛冶神なのでな、こういう方法でしか祝福を与えられんのだ。許せ」

「ギギギギギ……まぁいい、それで次は?」


 これ以上この爺に構っていても腹が立つ一方だ。ここはさっさと次に行ってこいつとおさらばしよう。


「ああ、次ね。メロネルのところに行こうか」

「儂も着いていこう。酒が無くなってきたのでな」

「いいね、タカりに行こう」

「お前もついてくるのかよ」


 折角おさらばできると思ったのについてくるらしい。畜生め。


「二人とも静かだな」

「いや、神様を前に私達にどうしろっていうのよ」

「神様相手にも態度が変わらない、というかむしろ態度が悪くなるタイシくんがおかしいと思うわよ?」

「そんなもんですかね」

「はいはい、ほらいくよー」


 借りてきた猫のように大人しい二人と話していると、視界がまた急に切り替わった。ここはどこだろう? 見渡す限り砂だらけ。見た感じ砂漠のようだが、この大陸に砂漠なんてあっただろうか?


「砂の海……もしかしてここは第二大陸?」

「正解、よく知ってるね。正確にはプラム大陸って言うんだけどね」

「ああ、そういや他にも大陸あるんだったっけ。確かサンドレイス帝国とかいうところにメロネルが降臨したとか前に聞いたことある気がするわ」

「メロネルはよく酒場で人間とどんちゃん騒ぎしてるみたいだからねぇ」


 エルミナさんとリアルの話を聞きながらメニューでマップを表示して現在地を確認する。どうやら現在地は今まで俺達がいた第一大陸――ピート大陸から遥か北東に位置するらしい。適当にここらへんにマーカーを打っておこう。そうしておけば長距離転移のワープポイントとして使えるし、こっちの大陸で活動する足がかりになる。


「それで、メロネルの御座はどこなんだ?」

「ほら、あそこあそこ」

「あん?」


 リアルの指差す先を見ると、空に何かが浮かんでいるのが見えた。


「浮島? おいおいファンタジーだな」

「メロネルの御座はあの浮島にある宮殿だよ。眷属に囲まれてあそこで悠々自適に暮らしてるんだ」

「なにそれ羨ましい」


 思わず本音が出た。そして左右から脇腹を抓られた。なんでや。


「それじゃ行こうか」


 ふわりとリアルが浮き上がり、浮島へと飛んでいく。バルガンドも同様に飛んでいく。


「えっと」

「流石にあそこまでは飛び上がる自信ないわね」

「俺が抱っこしていきますよ」


 両腕に二人を抱きかかえ、俺も飛行魔法で浮き上がる。酒神メロネルか、どんな奴かね? 多分あの恵比須顔の恰幅のいいおっさんだとは思うが。


 ☆★☆


「ほんじゃなんか美味いツマミ作ってもらおか」

「それが試練?」

「せやで。楽でええやろ?」


 宮殿に着いて事情を聞くなり、メロネルはそんなお題を出してきた。話が早いのは良いんだが、無茶振り過ぎる。ちなみにバルガンドの爺はメロネルに酒を貰ってさっさと帰った。あいつ、本当に酒をタカりに来ただけだったな。


「いや、俺別に料理人でもなんでもないんだが……」


 頭を掻きながらリアルに視線を向ける。頑張れ、とでも言いたいのかビシっと親指を立てて見せてくる。や、困るんですけど。

 エルミナさん……に頼るのは無謀だな。リファナはどうだ? あ、無理ですかそうですか。そんな泣きそうな表情でブンブン首振らなくても。


「期待されても困るぞ?」


 とりあえずメロネルの眷属である女性に案内されて厨房へと向かう。

 メロネルの御座である空中神殿にはメロネルだけではなく、多くの美女達が一緒に住んでいた。どの女性も美人で、巨乳である。メロネルは巨乳スキーらしい。太鼓腹に恵比須顔のおっさんだが、いい趣味してるな!


「どうした?」

「いえ?」

「別に」


 何故かエルミナさんとリファナが後ろを着いてきていた。まぁ、神とその眷属しかいないところで俺と離れるのが不安だったんだろうな。俺が目を離している間に二人に何かされたら困るので、俺としても助かる。


「いや、心配だったのはね……?」

「アンタというか周りの女の人が心配だっただけよ」


 二人に俺の考えを伝えたらこんな失礼な反応が返ってきた。


「君達は俺を何だと思ってるんだ」

「うーん、でも、ねぇ?」

「油断も隙もないわよ」


 解せぬ。まぁいい、さっさとツマミを作ろう。ぶっちゃけ、酒のツマミと言われても俺は飲ん兵衛ではないのでどんなものが良いのかよくわからない。まぁ、ちょっと塩辛い感じの食い物で、簡単に片手でつまめるようなものが良いだろうな。


「何を作るの?」

「んー、煮ベヘモスと昆布の佃煮でいくか」


 厨房にあった調味料などを確認してからメニューを決めた。

 塩漬けのベヘモス肉を水に浸して塩抜きをしながら鳥人族の集落で密かに譲ってもらっていた海産物の干物や干した昆布を取り出す。

 乾燥した昆布とシジミのような小さな貝の身を水で戻しながら佃煮に使う調味料を適当に合わせる。前にケットシーの集落で手に入れた醤油と、この調理場にあった砂糖、あと米酒っぽい酒があったのでこれを使う。

 しかしこれからまだ少し時間がかかるな、催促が来そうだ。


「こういう時は手抜きするに限るな」


 ストレージから各種缶詰を取り出す。とりあえず塩味濃いめのビスケットは鉄板だな。シチューも出してみるか。他にはドーム状の施設の食堂で手に入れた缶詰はまだ試してなかったな。


「これは……」


 俺の握り拳と同じくらいの大きさの箱型の缶詰である。円柱状の缶詰が多い中、この缶詰は一際異彩を放っていた。開けてみると、中には挽肉を固めたようなものが入っている。


「これは、アレだよな」


 缶詰に書いてある文字はわからないが、どう見てもアレである。迷惑メールの代名詞ともなったアレである。少し味見してみると、やはり塩辛い。少し脂っこい感じがするところもまさにアレである。俺は割と好きで、元の世界でたまに買って食べたりしていた。近所のスーパーにも割と普通に置くようになってきてたし。


「なに、それ?」

「肉の缶詰」

「それ、肉なの? 全然肉に見えないんだけど」

「肉を丹念にすり潰して、塩とか混ぜて味付けて加熱したやつだな」


 スプーンで少し掬って突き出してやるとリファナは警戒しながらも肉の缶詰を口にした。もにゅもにゅと暫く咀嚼してから飲み込む。


「しょっぱいわ」

「だろうな。そのままよりも多分火を通したほうがウマいぞ」


 まな板の上に中身を開けて少し厚めにスライスする。油を引かずにそのままフライパンで両面を焼き、フライパンの上で三等分して木串で刺してリファナとエルミナさんにも渡す。もちろん俺も食う。


「うん、生よりこっちのほうが好きだわ」

「だよな」

「ちょっと塩辛いけど美味しいわね。パンに合いそう」


 品評をしている二人を横目に鳥の卵を溶いて卵焼きを作り、同じくスライスして焼いた缶詰の肉を同じ皿に盛る。見よう見まねのポークたまごである。温めたシチューの入ったマグカップや開封したビスケットの缶詰と一緒にお盆に載せてメロネルの眷属に持っていってもらった。

 そうしている内にベヘモス肉の塩抜きと昆布や海産物の戻しが終わったので、煮ベヘモスと昆布の佃煮を作る。佃煮のどっちも煮るだけの雑料理だが、酒のツマミなんてこんなもんでいいだろう。というか、俺にまともな料理を期待されても困る。


『この料理を作ったのは誰やぁ!?』


 なんか遠くでおっさんの騒いでいる声が聞こえてくる。女将を呼べ! とでも言い出しそうな剣幕だなおい。つか、自分で作ってこいって言ったんだから誰も何も俺しかいないに決まってるだろ常識的に考えて。

 ズドドドドッ、と何かが走ってくる音がする。いや、もう何が走ってきているのかは言うまでもないんだけどさ。ストレージから先程料理に使ったのと同じ肉の缶詰を取り出し、構える。


「さっきの肉と卵のりょうぐべぁっ」


 人体に当たっても缶が潰れたりしないギリギリの力加減で投擲した肉の缶詰がメロネルの顔の中心部に突き刺さる。


「厨房に走って入ってくるんじゃねぇ。埃が立つだろうが」

「うごごごご……はっ!? こ、これはスパンミー缶!? 夢にまで見たスパンミー缶やないか!? どどっど、どこでこれを手に入れたんや!?」

「とある場所で遺跡探索してたら見つけた。根こそぎにしてきたからもう俺が持ってる分しか無いぞ」

「なんやて!? わ、わいにゆずってくれ! たのむ!」

「だめだ! いくらつまれても、ゆずれん」

「後生や! たのむってほんまに!」

「うん、まぁいいけどさ。俺用に三つは確保させてもらうぞ?」


 ネタの通じない相手にネタ振りをすることのなんと虚しいことよ。まぁ、ころしてでもうばいとる、って言われても困るけどな。手に入れていたスパンミー缶とやらを自分用のものを残して全部出す。

 三個一パックになっているので、一パックだけ俺のストレージに確保して、あとは全部譲ることにした。そんなに沢山いらないしな。


「ここ、こんなにええんか!? ええんか!? 後で返せ言うても返さんよ!?」

「いや、いいよ。その代わり、わかってるよな?」

「勿論や! 祝福くらいいくらでもしたるで」


 酒神はチョロかった。こんなんでいいのかって感じだが、本人がそう言うなら良いだろう。


「つか、そんなに軽くていいのか?」

「ええんや。わいはそもそもヴォールトはんのやり方は好かんし。母上殿も今回は本気みたいやし」


 メロネルが似非関西弁でそう言いながらどこからか炊いた米の入ったお櫃を取り出した。そしてさっさとスライスしたスパンミーを焼き、俵状に握ったメシの上に乗っけてかぶりつく。


「っかぁー! これや! 久々過ぎて涙が出そうや!」


 まぁ、いるよな。特定の食品に傾倒する人って。メロネルにとってはスパンミー缶がそれだったのだろう。そういや元々は古代人で、擬神格をその身に取り込んでた奴らの成れの果てなんだっけな、こいつら。なら旧世界の食品には何かしら思い入れがあってもおかしくはないか。

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