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第百話〜頑固ジジイの庵を訪ねました〜

 翌日、ゆっくりして英気を養った……養ったか? まぁとにかく、俺達はキャンプ地から撤収して御座とやらに赴くことになった。


「別に何か特別な儀式をするわけじゃないけどね。準備はいい?」

「……おう」

「……はい」

「……ええ」


 俺、リファナ、エルミナさんの順で返事をする。エルフは特定の神を信奉することは殆ど無いとのことだが、流石に神に対する敬意は俺よりもずっと上だ。神の居る御座に向かうということで、今更になって緊張してきたらしい。

 これは緊張しているのだ、いいね。決して昨日の起こした過ちを引きずっているのではない。そういうことにしておいていただきたい。


「ねぇ、今の世界の始祖神とも言えるボクに対しては全く緊張しないのに、バルガンドに会いに行くってだけでなんでそんなに緊張してるの?」

「これは緊張してるとかじゃなくてね……まぁ、確かにあなたはあんまり神様っぽくはないけど」

「うん、深く追求しないで頂戴。あと、確かにリアルちゃんは神様って感じではないわよね」

「というかどマイナーだから神って言われてもウーンって感じなんじゃね? むしろ珍生物というかUMA枠だと思うよ、お前は」

「UMAって何さ!? こんなに可愛いのに!」


 俺達の言葉にリアルはちょっと不満げである。自分を有名だと思っていたのに実は誰にも知られていなかったと知った自称有名人みたいな気分なんだろうか。


「まぁいいや、実際に御座に連れていけばその認識も少しは改まるでしょ。んじゃ、いくよー」


 パッと景色が変わる。白いドーム状の施設が見えていた視界が突然切り替わり、堅牢な石造りの砦のようなものが目の前に聳え立っていた。というか、だね。


「はい着いたー! あれ、三人ともどうしたの?」

「「「寒い!」」」


 辺り一面銀世界である。というか、めっちゃ吹雪いてる。横殴りの風が激しく雪を俺達の肌に叩きつけてきていてぶっちゃけ痛い。リファナとエルミナさんは震えながら悲鳴を上げて俺の陰に隠れてるし。


「ああ、ごめんごめん。ほいっと」


 リアルが手を振ると急激に寒さが緩和し、俺達に吹き付けられていた吹雪も収まった。いや、収まってない。吹雪が俺達を避けているだけだ。


「し、死ぬかと思ったわ。息も苦しかったし……耳が変だわ」

「この格好で吹雪は辛かったわね……頭が痛いわ」


 まだ体温が戻らないのか、二人は俺に抱きついたままガタガタと震えている。俺はそこまでではないが、まだちょっと寒い。息苦しさは全く感じなかったが、二人は結構辛かったようだ。


「ここは高山か?」

「うん。マウントバスの最高峰、クシャナ山の山頂近くだねぇ」

「馬鹿。俺はともかくこの二人は普通の人……じゃなくてエルフなんだからもう少し考えろよ。気圧差で鼓膜でも破れたらどうすんだ」

「だからごめんて」


 身体の不調を訴えるリファナとエルミナさんに回復魔法をかけながらリアルを叱る。いや、普通に考えれば俺もヤバい筈なんだけど俺はなんともないんだよな。恐らくVIT補正のせいだろうけど。


「あ、ありがと……マシになったわ」

「もう大丈夫よ、ありがとう」


 まだ少し顔色が悪いが、なんとか自力で立ち上がった二人の体を両手で支えて目の前の砦のような建物を見上げる。


「ここが御座か……なんか砦みたいだな」

「バルガンドの趣味だね。とりあえず立ち話もなんだし行こうか」


 リアルが砦のような建物の扉を開き、スタスタと中に入っていく。俺も二人を抱き支えながらその後を追った。


「中は普通だな」

「バルガンドは極端に華美な装飾とか嫌いだしね」

「いいね、俺と趣味が合いそうだ」


 俺も武器に無駄な装飾とかをつけるのは苦手だ。俺自身に芸術的なセンスが無いだけかもしれないが、武器に限らず道具の美しさというものは機能面を極限まで磨いた先に自然と芽生えるものだと思っている。完成された道具というものはそれだけでただ美しい。

 そんな事を石造りの廊下を奥へと進んでいくと、微かに騒音のようなものが聞こえてきた。それは奥に進むごとに大きく、力強く響いてくる。うん、これはあれだな。


「何かを鍛造しているみたいだな」

「そうだねぇ。バルガンドは暇さえあれば何か打ってるから」


 そんな話をしながら奥へと進むと、少しずつ熱気が伝わってきた。いよいよ鍛冶神の御座に近づいてきたらしい。


「うおぉ、これはすげぇ光景だ」


 通路を抜けた先の光景に俺は思わず呻いた。

 ここはそう、まるで活火山の火口の中のような空間だった。奥にはグラグラと煮立ち、時折吹き上げるマグマが見える。ここが本当に火口の中なら俺達は全身大火傷間違い無しだろうが、不思議と火傷をするほどの熱気は感じない。もしかしたら高温から身を守るための結界のようなものでもあるのかもしれないな。


「凄まじい光景ね……この世のものとは思えないわ」

「でも、部屋は結構お洒落よ?」


 まずは真正面に見えるマグマに目が行きがちだが、この部屋は確かに小洒落た雰囲気の部屋だった。相変わらず無骨な石造りの部屋なのだが、壁面や床は光沢が出るまで磨かれているし、壁には柔らかい光を発する魔法文字のようなものが等間隔で刻まれている。

 正面のマグマを望むテラスのような場所の近くには炉のようなものが何基も並んでおり、その中央にある一際立派な鍛冶設備を使って一人の筋骨逞しい老人が一心不乱に何かを鍛えていた。

 右を向けばそちらには涼し気な生活スペースのようなものがあり、リアルは何かを鍛えている老人を無視してそちらへと向かってテクテクと歩いていっている。


「おい、あの爺さんがバルガンドじゃないのか? 見覚えあるぞ」

「うん、そうだけど何かを鍛えている間はてこでも動かないからね。終わるまでゆっくり待ってよう。熱いし」

「お前それでいいのか……」


 とは言ってもあの爺さんのことを一番よく知っているのは間違いなくリアルなので、その言葉にはおとなしく従うことにする。

 生活スペースのような場所にはガラステーブルや革張りのソファ、それに酒でも入っていそうな幾つかの大樽や馬鹿でかい寝台しかなかった。割と殺風景である。

 台所のようなものが見当たらないんだが、あの爺さんはメシを食わないのだろうか?


「殺風景な部屋だな」

「本来、神は食事も睡眠も休息も必要ないしね。どれも嗜好品みたいなものだよ」

「楽しめるだけマシだな」

「そうだねぇ、長寿の最大の敵は退屈だから色々と娯楽は必要なものさ。バルガンドは何かを鍛えるのが大好きで、その他は気が向いたらって感じだから部屋が殺風景なんだよね」


 リアルがどこからか一抱えほどの小樽を取り出し、ガラス製のショットグラスのようなものにその中身を注ぐ。


「はい、どうぞ。バルガンドの愛飲してるお酒だよ」

「酒、ねぇ」


 VIT補正のせいかあんまり酔わないんだよなぁ。

 ショットグラスに注がれた液体はほぼ透明だ。香りを嗅いでみると、かなり強い酒精を感じる。こりゃなかなか度数が高そうだな。


「んっ、おぉ……いいね」

「でしょ?」


 喉が焼けるような強い酒を愉しむ。この胸がカーっと熱くなるような感じがたまらんな。後味もキリッとしていて実に美味い酒だ。ツマミが欲しくなる。


「こ、これは強いわね」

「げほっ、けほっ」


 エルミナさんは酒の強さに目を白黒させ、リファナに至っては咽てしまっている。強い酒に慣れていないとこの酒をストレートで飲むのは辛いだろうな。ウォッカみたいな酒だし。


「でも、身体が温まるわ……」

「うぇほっ、えっほ!」

「おいおい……ほら、半分くれ。水で割ってやる」


 咽てしまって会話どころではないリファナからショットグラスを取り上げ、半分ほど飲んでから水で割ってやる。これなら咽るほどじゃないだろう。


「あ、ありがと……こんな強いお酒は初めてだわ」


 割と余裕なエルミナさんに対してリファナは涙目である。というか鼻水も出てる。気管にでも入ったんか君は。淑女としてあるまじき様相のリファナに手拭いをそっと渡しておく。


「なんだ、母上殿――ふん、あの時の小僧も一緒か」


 リファナに構っている間に鍛造が終わったらしく、筋骨隆々の爺さんが生活スペースへと入ってきた。あんなに暑い場所でずっと槌を振っていたのにも関わらず、汗一つかいていない。


「エルフの娘っ子まで連れて何用だ? 儂はヴォールトどもの乱痴気騒ぎに加わっておらんぞ」

「その子達はおまけだよ。ボクとタイシはバルガンドに用があって来たんだ」

「儂は今回の件にこれ以上関わる気はないぞ、母上殿。先日の件以上にヴォールトどもに加担する気はないし、その逆に母上殿達にも加担する気もない」


 バルガンドはそう言ってリアルの近くに空いていた椅子にドカリと座り込み、ガラステーブルの上にあった小樽を持ってそのままガブガブと中身を呷り始めた。酒豪ってレベルじゃねぇなおい。


「そう言わないでさぁ。バルガンドだって進歩のない今の状態が良いとは思ってない筈でしょ? 技術レベルはここ数百年で殆ど進歩してなかったわけだしさ」

「そうでもない。ヘイゲルの秘蔵っ子のお陰で相当進んだ」

「ああ、マリアちゃんねぇ。でもヴォールトのことだから、きっと潰すつもりでしょ?」


 リアルの言葉にバルガンドは答えず、無言で小樽の中身を呷る。


「なるほど、この前ヴォールトに協力してたのはそれをダシにされてたわけだね? 黙認させることを条件に取引したわけだ」

「母上殿には関係なかろう。どちらにせよ小僧を助ける義理はない」

「そう邪険にすることはないでしょ。タイシを助ければもっと技術革新が進むよ?」

「行き過ぎた技術革新は人間同士の争いを生む。そんなことは母上殿が一番よく知っているだろう」

「今の人間達にはまだそんな余裕はない筈だよ。誰かが煽らない限りはね?」

「……」


 バルガンドが押し黙る。話の内容の半分も理解できないんだが。

 ヘイゲルの秘蔵っ子ってのはミスクロニア王国のマリア=シドウ伯爵の事だろうというのだけはわかった。あの人も俺と同じような異世界から来たようだったし、彼女の入れ知恵でミスクロニア王国軍はかなり強化されているみたいだったな。


「ねぇ、バルガンド。ボクの意図はもう知っているだろう? ボクの意図とキミの意図は合致しているじゃないか。きっと楽しいことになるよ。だから、ね?」

「儂はどちらにも肩入れしない、それで良いだろう」

「それじゃあダメだね。選ぶんだ。ボクを裏切り、自分を殺し続けてヴォールトの配下であり続けるのか。それとも、自分の意志の赴くままに振る舞うかのどちらかをね」

「母上殿についても結局は同じことではないのか?」

「ボクが今まで君達に何かを強要したことが……まぁ無かったとは言わないけれどね! でも、ヴォールトのようなやり方はしてこなかっただろう? ボクはね、ヴォールトのやり方を今まで見守ってきた。放置してきたと言っても良い。世界再生を終えた後は君達が世界を運営していくべきだと思ったからね。でも、あれからどれだけの時間が過ぎた?」


 バルガンドは何も答えず、小樽を見つめる。

 俺とエルミナさんとリファナは完全に蚊帳の外だ。酒のおかわりも無いようだし、氷水でも飲んで酔いを覚ますか。エルミナさんとリファナも欲しそうな顔をしたので、同じように用意してやる。


「存続ではなく繁栄が必要だよ。今のままじゃどこまで行っても神々の手の平の上だ。かつての君達のように手の平の上から飛び出していくくらいじゃないとダメなんだよ。それじゃないと面白くないし、腐っていくよ? 君達は父であり、母であるべきだ。家畜を育てる牧場経営者だよ、今のままじゃ」

「その言葉は耳に痛いがな……」


 白熱した議論を交わしているなぁ、と二人――いや、二柱か?――を眺めていると、こちらをチラリと見たバルガンドと目が合った。


「だが、母上殿。この小僧に現状の打破をする何かがあると? ただむやみに力を持っただけの小僧ではないのか?」

「そりゃ普通ではないさ。女と見ればどんな相手にも物怖じせず受け入れる度量を持ってるからね」

「ちょっと待って。俺だって相手は選ぶよ?」

「ははは、またまた。力を抑えていたとは言えボクまで抱いて正気を保ってるんだから普通ではないよ」

「母上殿を!?」

「しかも一度や二度じゃないよ」

「冗談だろう!?」

「ちょっと? その反応はどうなの? 怒るよ?」


 顎が外れるんじゃないかってくらいにバルガンドが驚き、その反応を見たリアルが額に青筋を浮かべる。


「まぁいいや。君達は人間に固執しすぎなんだよねぇ。元奉仕種族達もこの世界の子供達だっていうのにさ。人間だけに固執するから色々とおかしくなるんだよ。タイシにはそんな偏見がないからね、後々はそっち方向で頑張ってもらうつもりだよ」

「儂は今更そんな偏見は持っておらんが……ふむ、そういえば確かにこの小僧のつがいには元奉仕種族が多めだったな。ふぅむ……なるほど。この小僧を」


 バルガンドの俺を見る目が変わった気がする。なんというかこう、その他大勢を見る目から興味の対象となったような感じだ。

 なんなんですか? 一体何が始まるんですか?


「この小僧の発想は確かに面白いものがあった。今後も楽しませてくれそうだと、そういうことだな?」

「そうだよ。きっとこの先も面白おかしく引っ掻き回してくれるさ」

「良いだろう、面白い。ではこの小僧が儂を楽しませてくれたら母上殿にお味方しよう」

「そうこなくっちゃね」


 何か話がまとまりかけてるぞ、俺の意思とか全く関係なく。


「ねぇ、なんだか雲行きが怪しいけど大丈夫なの?」

「知らんがな」


 鍛冶の神様を楽しませるとか何をしろと言うんだ。一発芸でもすればいいのか?


「おい、小僧。何か打ってみせろ。儂を唸らせるようなものだ」

「唐突だなオイ。お題くらい寄越せよ」


 何かとか言われても困るわ。


「ちょっとタイシくん。相手は鍛冶神なのよ? もう少し礼儀を持って接しなさい」

「いきなり無茶振りしてくるファッキン老害に礼儀もクソもありませんよエルミナさん。このクソジジイには俺の渾身の二振りと恩人に作ってもらった鎧をぶっ壊されてる恨みもあるんで」

「口の利き方がなってないクソガキだな」

「はぁん!? 喧嘩売ってんのかおらァン!?」

「なんで急にチンピラみたいになってるのよ……」


 ぶん殴られた恨みもあるんだよ。あれは痛かった、というかあれが致命傷だったからな。


「まぁまぁ、落ち着きなよ。タイシだってお嫁さん達のところに早く帰りたいでしょ?」


 リアルが睨み合う俺とバルガンドの間に割って入る。ちっ、この恨みはいつか別の方法で返すとするか、仕方ない。


「お題もボクが出そう。自分の子供に贈りたい一振り、ってのでどうかな?」

「ふむ、良いだろう」

「俺の子供ってことか……」


 自分の子供、自分の子供かぁ。今ひとつピンと来ないが、やることをしっかりやってる以上そのうちできるだろう。そうして分別がある程度つくようになったら護り刀の一つくらいは贈るのも良いな。

 そうなると素材は何が良いか? 当然最も良い素材を使いたい。オリハルコンか神銀が良いだろう。手間はかかるが、やはりここはオリハルコンが良い。俺の子供に贈るというなら最高のものにしたいし、財力的にも可能だしな。

 だが、本当にそれでいいのだろうか? 子供にそんな高価で強力なものを持たせて良いのか? 良くないだろう。

 ではオリハルコン以外にするべきだろうか? いいや、それもナシだ。いざという時にポッキリと折れてしまっては元も子もない。一見普通の鋼製に見えて、本当の緊急時にはしっかりと目的を果たすのが良い。


「よし、決めたぞ」


 オリハルコン製の短剣を鋼鉄でコーティングする。問題はどうやってコーティングをするかだが……オリハルコン製の短剣の刀身を鋳鋼で覆って研磨するか? 強度が心配だな。できるだけ鍛造したい。

 ではオリハルコン製の刀身を仕上げてから鋼鉄を被せて鍛造するか? オリハルコン製の刀身なら鋼を鍛える程度の温度とかには耐えそうだが、どうだろう。

 いや、もっと別の方法を考えよう。つまりピッタリと隙間なくオリハルコン製の刀身が鋼の刀身の芯になれば良いんだ。別に素直に鍛造する必要はないじゃないか。


「鍛冶道具を使うぞ」

「好きに使え。鉱石も揃っている」

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