2.14話 戦勝の報酬
前回のお話:ボッズさん捕まえた!
「アンタがオグマ団長か?
この通り、スルーズ砦のボッズ隊は全面降伏する。」
「な、なんだって?!」
砦からの使者だという男は、白旗を掲げていた。
だが、身体にも甲冑にも、どこも傷付いた様子は無い。
まだまだ十分に戦えそうに見えるのだが、その瞳からは、戦意というものが全く感じられない。
そして、ただ淡々と粛々と役目をこなしているといった風に見えた。
どういう事なのかは、全く分からない。
だからこそ、というものだろう。
オグマ団長は、その報せを受けると、大急ぎで砦へと馬を駆った。
開け放たれたままの門に踏み入ると、砦内は、あまりの綺麗さだった。
戦闘の痕すら見当たらない。
それどころか、敵兵達は、倉庫から食料を出したり、調理したりと、作業中だった。
全くもって理解が及ばない状況だ。
「オグマ団長。ほら、敵将。」
そこへ、昨日入ったばかりの新入団員が、敵将を引き連れて現れた。
見た目は子供なのだが、存在感がおかしいと、出会った時から思ってはいたが……。
「レイリィ……!」
己が眼で見てはいるのだが、目の前で起きている事は、オグマ団長にはとても信じられる光景では無かった。
そんな常識は持ち合わせていないのだ。
「本当にたった二人で落としたのか!」
レイリィとニケ。
たった二人の子供だけで砦に向かった筈なのだ。
僅かな時間で、何をしたらこうなるというのか……。
300人からなる砦をたった二人で無血降伏させるなどと、聞いた事がない。
最早、オグマのレイリィ達に向けるその眼差しは、恐怖すらも孕んでいた。
「で、ボッズさん達はさ、オグマ傭兵団に入るって事で良いんだよな?」
「あ、ああ……。」
レイリィは、笑顔だ。笑顔で、敵将と話している。
だが……何の話をしているのだ?
オグマは、困惑した。
そこに補足を入れたのはニケだった。
「団長。良かったですね!団員増えますよ、砦に居る人全部!」
団員が……増える?
何故……?攻め滅ぼした街でもあるまいに。
オグマは、状況を理解するまで、少し時間を要した。
――
オグマ傭兵団が全員砦に入った所で、食事が振る舞われる事となった。
戦力として見れば依然として三倍する敵兵に慄いていたのは最初だけで、食を同じにすれば、恐怖心を拭うのはそれなりに早かったようだ。
「でさ、オグマ団長。砦を落とすって目的を果たしたよね。こっからどうすんの?」
「あ、ああ。本隊が到着次第、アーサに戻る。報酬の分配は戻ってからだな。」
「なるほどねぇ。てかさ、降ったボッズ隊の面々は、次の仕事まで食いつなぐ金はあるのかな?」
「どうなんだ?ボッズ。」
「アーサの街に入った事はねぇが……次の仕事がいつかに拠るな。早ければ何とかなるが……。」
「なぁ、団長。砦落とした特別ボーナスとか出る?」
「出るだろうな。」
「おお、マジか。どれくらいになる?」
「期間も掛かっていないしな、期待は出来そうだな。少なくとも10万リアーくらいはあってもおかしくは無いな。」
「ほほぅ……。」
――
正規軍は、翌日には来た。
半数近くが馬に乗っていた。
騎乗してるなら、もっと早くこれそうなんだがな。
まぁ良いさ。
砦にはちゃんと食料の備蓄はあったからな。
まぁ、兵糧というか保存食なんで、大したものでは無かったんだが、有ると無いとじゃ天地程の差がある。
お陰でニケを飢えさせずに済んだ。
ニケはガリガリだから、もっと肉をつけねばならぬよ。
少なくとも骨が浮かなくなるくらいにはな。
どう見ても15歳には見えないくらい小さいしなぁ……。
ん?おっぱいの話じゃ無いぞ?!身体全体の話だぞ!
……まぁ、おっぱいも含むが。
「ねぇ、レイ。今なんか変な事考えて無かった?」
ぎっくぅー!!
アーサに向かう行軍中、ニケに何故かツッコまれた。
何故だっ!オレは何にも言ってないだろ!?
「え゙ッ゙?なッ……何がかな?」
そんでもって、変ではないゾ?断じて!変な事では無い!オレは!ニケを!心配してただけ!
「うーん。なんとなく。」
なんとなく……だと?
センサーか何か搭載してんのかね?この娘。怖いわ。
「そっかー。なんとなくかぁー。
それはニケの気のせいだな!オレ、変な事とか考えない!そういう事考えれないタイプだから!」
「えぇ……。」
あらヤダ、ニケさんったら。そんな目で見ないでぇー!そーいう趣味は無いんだってばぁー!
「レイは、いっつも変だよ?」
「はっはっはっ!なーにをおっしゃいますやらニケさんったら。そんなわけがないでしょうがぁー。はっはっはっ!
あ、ほら、アーサの街が見えたよー!無事帰れたねー!良かったねー!めでたしだねー!」
「あ、うん。街だね。」
もうすぐ日も傾くかという頃、オレ達はアーサに到着した。
出撃時の、四倍になって。
――
「報告では、たった二名で落としたとあったが、誠か?」
「はい。事実です。」
街の広場に戻ると、オグマ傭兵団は待機となった。
なんでも、正規軍の偉い人が、直ぐ様報酬を支払ってくれるという事になったらしい。
それは異例な待遇という事だ。
「その者はおるか?」
「はい。レイリィ!ニケ!」
「ん?」
「えっ?なに?」
急に団長に呼ばれて、ニケと二人、前に出る。
「呼んだ?」
「ああ、特別報奨の支給だ。」
「あー、はいはい。本当に貰えるんだ?」
「おいおい、オグマ団長。何の冗談だ?子供二人では無いか。」
「いえ、見た目はそうなのですが……。恐ろしく手練でして。」
いや、手練では無いぞ?まだまだ修行が足りませんぜ。
アマネみたいには出来んよ。手練って、あーゆー事じゃないの?
ん?てか、そもそも今回武器使ってねぇな?そういえば。
まぁ、戦争に行ったけど、戦いに行ったワケじゃないからな。
「何を馬鹿な……。いやしかし、僅か1日で砦を落とした事は事実か。で、この特別報奨は誰に渡せば良いのだ?」
「ですから、このレイリィとニケにですね。」
「はんっ……。まぁ良い。オグマ団長。貴殿に渡しておこう。ではな。」
そう言い残して、正規軍の偉そうな人は帰って行った。
「すまんな二人とも。受け取ってくれ。」
それぞれ、中身ギッシリな感じの袋を渡された。
中々に重たいんじゃないかな、これ。
「お、ありがとう!で、これ、いくらあるの?」
「一人100万リアーだ。」
「ひっ……ひゃく……?!」
ニケが目を白黒させて狼狽しているようだった。
えーっと、1ヶ月1万リアーでなんとなく生活出来るとかいう話だっけ?
んじゃ、8年くらいは何もしなくても暮らせる額?
と、なると、軽く見積もって1600万円くらいの価値だろうか?結構な大金だな。
「ボッズさん!」
「あ?なんだ?」
「あんたら、報酬ないだろ?これやるから、元ボッズ隊全員に等分で分けなよ。まぁ割り切れる数字じゃ無いから、1000リアーだけ貰ってくな。300人なら、一人3330リアーだから。」
「な?!なんだと?!お前の金だろう!?」
「次の仕事が決まるまで、繋げる分があるか微妙だけどな!ま、何とか生きてくれ。」
「……ありがたく受け取るぜ。恩に着る。」
せっかく誰も殺さずに砦を落としたんだ。
今更死なれても後味が悪いってもんだ。
自前の金と合わせれば、二週間くらいは食い繋げるだろ?
ま、何とかやってくださいな。
ありがとうございました!
少しでもご興味いただけた、ちょっとは応援してやってもいいかなというお優しい皆様!☆評価☆やブクマ、是非よろしくお願いします!




