2.5話 南地区も酷い。
前回のお話:街かと思ったら難民キャンプだった件
アーサの街、南地区。
「あらぁ、カワイイぼうやねぇ。どう?おねぇさんとイイコトしない?」
しなを作り顎に指を添えてくる女……
「なんだぁ?ガキ二人連れでこんなトコによぉ?」
凄むように絡んでくるチンピラのような風体の男……
「お、そこな坊ちゃん。そちらのお嬢ちゃん、お売りしませんかい?」
揉み手で近付いてくる、少しだけ身形の良い男……
いやぁー……。
何コレ?オレ、宿を探しに来たんだったよな。治安悪っ!
なに?アウトロー大賞決定戦とか開催中?
ふーむ。ここら一帯は盛り場ってやつなんだろうか?
西区の難民ばかりのスラムとは違って、建物は建物だ。
木と石と土で造られた、平屋や二階建ての家が、ごちゃっと立ち並び、通りには客引きをしている娼婦や、喧嘩中の酔客に、人買い、甲冑姿の兵士?なんかもいる。
こっちはこっちで、雑多だな。
「ニケさんや……。宿はどこかのぅ……。」
「なに?レイ。変な喋り方して……。」
「いや……なんか、こんな人混みは久々過ぎてさ……。ちょっと疲れちゃってね。気分がおじいちゃんなんだよ。」
「おじいちゃんって……。レイって変な事ばっかり言うよね。」
ううむ。それは仕方無かろう。オレはこの星から見たら、宇宙人ってやつだったからな。
カルチャーギャップはお互い様だろうさ!
――ドンッ!!
不意に後ろから、薄い何かをぶつけられた感覚がした。
くるーりと振り向くと……
「な、なんだこのガキ……刺さらねぇ!」
ナイフを握り締めた男が、たじろいでいた。
えぇー……?!どゆこと?!オレ、なんかした?!
何でいきなり後ろから刺されてんの?!オレはステーキじゃないぞ?!
「キャッ……」
いきなりの事態にちょっとパニクっていたら、その隙にニケが、ナイフの男の仲間と思しき輩に担ぎ上げられていた。
「……は?ちょ、何してんだ?!」
「チッ……!女は捕まえた!ズラかんぞ!」
「お……おう!」
「えっ……?!レイ!レイ!」
ニケは、担ぎ上げられたまま、バタバタと暴れてはいるが、所詮は少女の力だ。丸太の様な腕に掴まれたまま、逃れられないでいた。
つーか、まぁそりゃ、周りは確かに暗くなってるけどさ?
普通の往来のド真ん中で、人攫いってか?!マジで勘弁してくんないかな?!しかも、問答無用でぶっ刺してってか?!どーなってんのよ!!
さすがにちょっとイラッとしたぞ?
すっと、脚に力を込めて、二人組の輩の前に回り込んだ。
「な……!なんだこのガキ?!いつの間に……!」
「チッ……!構うコタねェ!蹴倒せ!」
――ドッ!!ガッ!!
ニケを肩に担いでいた輩の腹を、オレを刺した奴の頭を、それぞれ一発ずつ殴ってやった。
もちろん、軽ーくだぞ?
「ギャッ……!!」
「グボォエァ……ゴバァ……!!」
腹を殴った方は、口から色々汚らしく吐き出していたが、殴って屈んだ瞬間に、ニケは奪い返したから、セーフだ。オレたちは汚れてない。清いままである。
頭を殴った方は、きっと今頃良い夢を見ているだろう。
……アマネが居なくて良かったね、キミたち。
「うう……。レイ……!ありがと……。」
謀らずしもお姫様抱っこをしてしまったのだが。
ニケはオレの首に腕を回して抱き着いてきた。
アイギスが硬い。
うん……まぁ、実はアイギスがあるから、ニケは普通の人間に傷を負わされるような事は、無いんだけどな。
「いや、お礼言われるような事じゃないけどさ……ってか、硬いわ!」
「えっ?あっ……!ごめんよ!」
ストッとニケを地面に降ろすと、刺してきた輩の方に近付く。
まぁ、腹パンさんは、汚らしく吐瀉物を撒き散らしながらのたうち回ってるから、ちょっとお近付きになりたくない。
とりあえず、身体検査って事で。
先ずはさっきのナイフと……
お?ロープとかあるな。いいじゃないの。縛っとこ。
後はー……お?お金発見!ジャラジャラ音のする小袋をゲットした。
うむ。装備も一応貰っておくか。
「お゙ィ゙……!小僧……!」
腹パンさんが、口をきけるようになったらしい。
すえた臭いが酷いので、あまり近寄りたくは無いんだけどなー。
「俺達にこんな真似して……タダで済むとは思うなよ……?
俺達はなぁ……」
「はいはい。それ以上は言わんくていいよ。
まぁ、そりゃこんな目立つ所で堂々と人攫いしてんだし、よっぽど自信があるんだろ?
でもさ、オレにはあんまり関係ないのよね。」
「――!?」
腹パンさんは、汚かったので、ちょっと神力効率は悪いけど、触れずにリセットしておいた。
綺麗にもなったし、記憶も飛ばしたし、身包みも剥いで縛ってやったし、小金もゲット出来たし、まぁ結果オーライか?
とりあえず二人とも裏通りに投げ込んどいてやった。
もう会う事は無いだろう。さようなら。
「レイってさ……やっぱり強いんだね……。」
「まぁ割とそうみたいねー。ってか、ニケだって、アイギスとタラリア使いこなしたら、あんな輩には負けないぞ?」
「そっか……。」
「とりあえず、宿行こうぜ?だいぶ遅くなったしなぁ。」
「ごめんよ。アタシのせいで。」
「いや、ニケのせいじゃないだろ。襲ってきたアイツらが悪いんだしな。まぁ、奪われた時間分の対価は貰っといたけどな!ははっ!」
――
クソ程治安が極悪な街を彷徨い、やっとの思いで宿屋らしき場所を探し当てた。
のだが……
「あー、泊まり……ですかい。で、アンタらお二人でって?」
「そうだけど?いくら?」
「……60リアー。」
「高くね?」
「ウチはね、女代込みなんでさぁ。女連れなんてお呼びじゃあねぇんですわ。」
どうやら、宿屋が娼婦を斡旋してるようだった。
娼館っていえる程の高級感も無い、 中々ボロい建物なんだが。
うーん。どうしたもんか。
人攫いから徴収した金があるから、足りるは足りるんだが……
ちょっと面白くない気分ではある。
つーか、この金で剣か何かをニケに買ってやろうと思ってたからなぁ。
何か無いかなー……。
腰袋をゴソゴソすると、シンザーリルにもらった綺麗な石が二個と……
マウラ山の時のライチが!
お前、残っててくれたのかー!
くふふ……。
「なぁ、マスターよ。」
「な、なんだ、マスターって?!」
「宿屋のマスターだろ?まぁそれはいい。
少し相談だ。オレはな、珍しい果実を持ってるんだ。いや、珍しいんじゃあないな。この世界には本来無いものだ。ま、言うなれば神の果実だな。食えば元気になって、寿命も延びちゃうぜ?しかも、美味いんだ、これが。」
ライチに神力を少し込めて、淡く光らせ、宿屋のオヤジに見せる。
宿屋は怪訝な顔を一変、目を見開いた。
「おぉ……?なんだこりゃぁ……?!見た事ねぇ……!ものすげぇもんだ……!」
「そうだろう?で、提案だ。今後、オレとニケ……この少女の宿泊は、タダにしてくれ。
そうしてくれるなら、これをやろう。食うなり売るなり、好きにしたらいい。どうよ?」
「おぉ……分かった!アンタら二人をタダで泊めりゃあいいんだな?構わねぇから、それ……早くくれよ!」
暫しの拠点、ゲットだぜー!
ありがとうございました!
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