1.26話 スローな暮らしIN神狐の郷③
昼食の後は、またも館裏の広場にて、神力の修行だ。
教師はフウカ先生である。
まぁ、先生って言うと嫌がるんだけどな。
「では、瞑想から始めるぞえ。」
瞑想……オレ、めっちゃ苦手。
無になるって感覚が難しいんだよなぁ。
身体の隅々まで意識をってセクションは出来るんだけどなぁ……。
意外な程、何も考え無いって、難しい。まぁ、オレ脳内煩いタイプだしなぁ。仕方ない。
尤も失敗したとて、禅僧みたいに叩かれたりはしないんだけどさ。
不思議な事にルビィは逆で、集中は苦手だが、無にはなれるという……。
犬だったからか?良く分からんが、得意不得意があるもんだな。
「レイ殿。無ぞえ。そなた、また考え事をしておろう?全にして個、個にして全……現世は一様、彼我も無くぞえ。」
……また小難しい事言っちゃってさぁー。余計考えこんじゃうって、それー。
自他の境界を無くすってやつなんだろうけど……。
空間に溶け込む様な感じなんだろうなぁ。それも、自然に。だから、無。
溶ける……溶ける……無……無……無……
……
…………
………………
「それまで。」
お、ちょっと良い感じだったかも。頭の中のノイズが消えてたかも知れん。まぁ、ちょっとづつでいいから、慣れたいとこだな。もしかしたら、気配消すとか出来る様になるかもだしなー。ニンニン。
「では、次。神力の循環ぞえ。」
これはまぁ、わりと神能使ってるから、ある程度出来てると思う。
てか、神族として創り直された時に、標準化したのか、寝てた十年で安定したのか、ちょっと意識を身体に向けるだけで、神力の廻りが分かるみたいなんだよな。
ルビィはまだまだ苦手のようで、オレが神具を使う時間も、ずっと循環修行をしている。
一頻り神力循環をしたら、オレは神具を使う時間だ。
今ある神具は、刀が三振りと、扇子だ。
扇子の神具は、フウカの神具と似た感じで、服になる。
変身グッズだな。
裾に炎柄があしらわれた、朱色の羽織と、黒装束的な格好になる……んだが、お子様サイズの今のオレには、あんまり似合ってないんじゃなかろうか?という、言い知れぬ不安がある。
誰も何も言わないし、怖いから、写真も撮っていないが……。
この神具、火神の加護を受けたものらしく、ある程度の温度変化に耐えられるらしい。これを着てたら、あの熱い火神の山も、快適に過ごせるのかも知れない。
戦闘面でも、多分……かなり優秀な気がする。
この世界に於いて、どんな戦闘力が標準なのか分からないから、あくまで"多分"ではあるが。
なんと、刀の神具達と合わせ技が出来たりするのだ。
というわけで、今日も練習です。
淡墨を抜き、上段に構え、神力を込めて、振り下ろす。
すると、雷が落ちる。
これを、全身に神力を循環させて、羽織にまで神力を込めつつ行うと、炎を纏った雷になる。
煉華の場合だと、赤火→青火→白火と、色が変わっていく。色が変わると温度がかなり違うようで……。
白は、最早アニメとかのレーザービームみたいだった。
こんな危険な技、いつ使うんだ……。
雪月花は、単体だと、水を出したり、温度を下げたり、氷を出したりと、中々便利に使えるんだけど……。
合わせ技だと、お湯が出る。
風呂が沸かせる!という、超有難い性能から……
水蒸気爆発まで出来た。
怖過ぎる。
てか、神具総動員したら、もしかしたら、核爆発すら起こせそうな気がする。オレは、一体何と戦うんだろう……。
めちゃくちゃ不安なんだが。
まぁ、不安がある方が、修行も捗るってモンです。
という事で、各神具を、省エネ高効率で使うべく、一つ一つ繰り返し使っていく。
しっかり狙って的に当てる。
最初は、動かない的に当てるのすら難しかったけど、今は動かない的になら確実に当てれる。
慣れて来ると、神力でホーミング出来るらしい。
それを目指して頑張るのだ。
――
「では、神能の練習ぞえ。」
神能は、大別すると、二種類ある。
一つは、完全に固有のもの。オレだと、リセット。
もう一つは、汎用性のあるもの。世界中に在る、超自然的なものを、神力を利用して顕現させるとの事。
これは、この世界を形作った原初の神の力が、世界に廻っているから可能なんだとか。
まぁ、要するに、火を起こしたり、雷を落としたり、みたいな事だ。
オレは、その辺の事は、神具でやってるんだけど……、ちゃんと練習すれば、例えば、治癒力を上げたりとかも出来るらしい。
ゲームとかの魔法みたいだねぇ。まぁ、特に呪文は無いんだけど。
神力の操り方と、現象の具体的イメージが大事って感じらしい。
という事で、最近のオレは、治癒力向上を練習しているのだ。
なぜならば。
リセットでも、怪我は治る……というか、元に戻る。
だが、治癒力向上の方が、神力的にめちゃくちゃエコなのだ。アメ車とプリウスくらい違う。
神力は、切れると最悪死ぬ。エコに越した事はないのだ。
ルビィは、フウカ先生お手本の元、炎を出そうとしている。
火神の加護を受ければすぐらしいが、神力だけでやるのは大変みたい。
だからこその、基礎練習なんだなぁって感じ。
という事で。
オレは今日も傷付けてしまった森の木々を、治していく事としよう。
折れた枝をくっ付け、神力を込めた手で折れた箇所に触れる。元通りに治るイメージを持って、自分の神力と木の内包しているエネルギーとを、混ぜ合わせながら、徐々に注ぎ込む。
すると、あら不思議。
にょきにょきと、管の様なものが伸び、千切れた繊維同士が接合していくのだ。
地球には、接木なんて技術があったけど、あれは植物の治癒力の高さを利用した技術なんだろうな。
多分これ、接木完了めっちゃ早い!って感じなんだと思う。
治癒力向上を練習するなら、植物からが良いって言われたのは、そういう事かも知れないな。
さてさて、まだまだたくさん折れたり傷付いたりしてるから、ここら一帯、全部やりますかねぇ。
――ガササッ
「ピピヨ……!ピー……」
おん?
傷付いた木々を探しながら歩いていたら、怪しい物音。
「なんだ……?」
音の方に目線を送ると……
「ピー……」
茂みから飛び出したであろう、鮮やかな黄色い鳥と……
――ガササッ
いつぞやの蟷螂だった。
「うーわ。なんか出たよ。まーたお前か……」
クコの森に初めて来た日に遭遇した巨大蟷螂。
3mはあろうかという巨体、そして、1mほどはある両手の鎌。
どうやら、鳥を追っていたようだが……こちらに気付いたみたいねぇ。気持ち悪い逆三角顔が、ばっちりこっちを見てやがる。
例の如く、声は無い。鎌を広げながら、ジリジリとこちらに迫ってきている。どうやら、小さな鳥なんかより食いでがありそうとでも思われたらしい。
ふっ。あの時のオレと同じだと思うなよー?
斬り合いの有利を求めるならば、雪月花だろう。だが、奴は、確か火に弱かったはず。
と、いうことで、煉華をすうっと抜いた。
――ヒュッ!
素早く振り下ろされる蟷螂の両の鎌。
――カカッ!
だが、残念!正眼から突き出した煉華にぶち当たり、当たったた先が、どこかにクルクル飛んでいった。
「はっはっは。グエンさんからの贈物は凄かろう?前みたいな木の枝じゃなくて、残念だったなー。」
……っても、お師匠さんなら木の枝で瞬殺してるんだろなぁー。
――ビュアッ!
「っと……!」
鎌を半分無くしながらも、蟷螂はしつこく向かってきた。
あーもー、仕方ない。
煉華に神力を込める。
ぼうっと紅く輝きだす刃
――ヒュッ……ゴッ……ボッ!!
その場で一振り。刃から放たれた、細い炎は、直接的に蟷螂目掛けて襲いかかった。
ゴボゴボと、沸騰するかのように、蟷螂はその場で蝋のように溶けだした。
おー……く、訓練の時の、実際使うとこうなるのか……。
怖っ。
「ピー……」
「あ、そうね。いたね、キミ。」
蟷螂は、ブスブスと地面を焦がす染みになっていた。
黄色い鳥に歩み寄り、そっと持ち上げる。
「ピー……」
「はいはい。怪我してんのな。ちょいと待ちなよ……」
身体と、大気の神力を掌に集めて、怪我を治すイメージを……
「ピーヨ!ピピイ!」
「お、治ったな。散々植物で練習したかいあったなー。」
黄色い鳥は、怪我が治ると、オレの掌から元気よく飛び立っていった。
あ、なんかつい同情した感じで治しちゃったけど、まさか時々食卓に並ぶ鳥って……
ま、まぁいいや。
今日は図らずもたくさん練習になったし、戻るかぁ。
――
「あぁーー!つーかーれーたー!」
神能の修行を終えて、館に向かう途上。
ルビィが大きな溜息を漏らしながら、ぐったりと頭を垂れながら、足取り重く歩いている。
「お、ルビィ、どうだった?火は出せたか?」
「あ、ボスー!ちょっとだせたー」
「おー。凄いじゃないかー!」
わしわしと頭を撫でてやったが、飛びかかって来なかった所をみると、相当疲れたらしい。まぁ、倒れて無いだけ、今日はマシではあるがな。お互いに、だけど。
「まぁ、美味い飯食ってさ、元気出そうぜ!」
「うんー」
そうして、いつものように石の廊下を歩き、食堂に向かうのだった。
ありがとうございました。
またよろしくお願いします。




