121. 性別不詳なら中性的なのがたぶんいい。
――ピキピキッ!
白かった卵が、強烈な光を発したなって思ったら、何やら割れてるような音がした。
これ、意外と早く孵化したのか?!
つっても……眩しすぎてっ! 目がァー! 目がァー!
くっ?! 卵抱えてるから目が塞げねぇっ!?
「ご主人様……!」
どうやら光を防ごうとしたんだろうな。パシャっという水音。そんで、プニョンとした感触が、オレの顔に……?!
ちょ……アマネってば、どこで目ぇ塞いでんのよ!?
ソレはよくないだろ!? 仮にも、うら若き美少女がだよ?! 実年齢はまぁ……だけどさ!! そりゃ控えめな大きさだけど!! ちゃんと柔らかいしさ!! 弾力もあるんだよっ!! ああああもうっ!!
と、内心焦ってる間にも、卵からはパキパキと剥がれていくような音が続いている。
そして。
「キュアアーー!!」
閃光の中から聞こえた……たぶんコレ、産声よな……。
「ご主人様……これは……」
「お、おお……」
アマネの控えめな双丘に顔を挟まれたオレ。そんなオレの、これまた控えめな双丘に挟まれた、何だか変な感触の……なにか。
どんな状況やねん。
くっ?! 目が見えねぇってのが不便なのは神も人間も変わんねぇな!
……いや、オレがまだまだ未熟なのか。神力の流れだけで色々把握出来る……んだよなぁ、神族はさ。
「ミュイー?」
む? どうやら動いたぞ? 首を傾げているのか?
「ご主人様! 動いています!」
「えっ? うん……ソウネ……」
珍しく。本当に珍しく。アマネが焦ったような声を出した。やっぱ、竜族嫌いなんだろうかな?
てかまぁ、そろそろ目も慣れてきたぜ!
というわけで、なんとか薄目を開けてみると。
相変わらず微妙に光ってやがるソイツは、白い小さな竜だった。
そんで、瞳と鬣っぽいのが、紫っぽかった。
なんでだろ。真っ白って話じゃなかったっけ? 白の一族の長、ちゃんと漂白したって言ってたような?
「ミッ? ……ミィ!」
「いっ……たくはないか」
何やら、チビ竜。軽く齧りついてきてた。
いや……オレ、母乳とかでないぞ? じゃれついてきてるのか? ついクセで痛っとか言っちゃうけど、痛くはないんよなー。
とはいえ、このままガジガジされてんのもなー。ちょっとなー。
「ご主人様、この竜族……神力が混ざっているような……」
「ふぇ? なんて?!」
――――
――
「ミィー」
「ふぅむ……。こなたも竜族についてなど、あまり知識も持ち合わせてはおらぬえ……。しかして、感じる神力はレイ殿と同じものと……アマネ殿のものが少し混ざっておるように感じるえのう……」
とりあえず、あの後――服を着て、チビ竜をフウカに見せにきた。
フウカは顎に手を当てながらマジマジとチビ竜を見ている。
そんな仕草ですら、やたらと色っぽいんだよなぁ、このエロ狐……。いや、神力修行の先生ではあるんだけどさ。
「先ほどアマネ殿も卵に触れたと言っておったえ。おそらく、それであろうえ。いずれはこの竜のものとして統合されよう。見たところ、不都合は今のところ感じぬぞえ」
ふむ? フウカ先生的には問題なし、と。
まぁ……じゃあいいのかなぁ。アマネの神力の影響で、真っ白じゃないってことね。
「私の神力とご主人様の神力が……そ、それって……」
なんだか、アマネが目を丸くしながら、頬を赤く染めているようだなぁ。珍しい顔だわ。
いや、今後はこうやって色んな表情をするのが普通になるんかなぁー。それはそれでいいことだなー。
「して、どうするのかえ? この竜に名付けでもするのかえ?」
「ミュ?」
おおん? そうか。名前かぁー。いるっちゃいるかぁー。
ううむ。
ペットの名前ってそういえば考えたことないな。ルビィはルビーってのをちょっと変えただけだしなー。
「名前いるかな?」
「こやつをどのように扱うかであろうえ。白の長の言うように、味方とするならば、このままでは……あっさり冥界であろうえ」
「そ、そっか」
まぁ、そうよなー。生まれたてだし、感じる力もまぁ……知れてるもんな。
この前戦った二体の竜族ほどの威圧感は感じない。
竜族と戦うのに連れていけば……うーん。ダメだろうな。
「ミュー! ミュー! クェー!」
チビ竜は、何だか訴えかけているように、ぴょんぴょん跳ねたり、てしてし前足を地面に打ち付けている。
ふむ。鬣しかないし、もふみが足りないが……これはこれで悪くないかも知れんなぁ。
「ご主人様。名付けをされるのですか……?」
「うーん。まぁ、考えるかな―。アッサリ逝かれてもだしさー」
「そう……ですね……」
アマネはなんだか歯切れが悪かった。やっぱ、竜族嫌いなんかねぇ?
ってか、そういえば、コイツはオスなのかメスなのか……? しまった。ドラゴン娘に、そのあたりのこと聞いておけばよかった!
と、とりあえずどっちでもいいの考えるか……?
じーっとチビ竜を見る。
わりとイメージ通りの子竜だな。背中に小さい羽。トカゲみたいな顔。硬そうな鱗。
でも、頭から首にかけて馬の鬣みたいなのがある。黒紫で、艶やかだ。瞳孔が縦長で、爬虫類っぽくはあるが、黒のような濃い紫の瞳もよくよくみれば多色に輝いているようで、白い鱗にマッチしてて、わりとカッコいいかも知れん。
なんだっけ? なんかそんな黒だけど透かすと多色な希少石、あったな……。
ふと思い出して、神スマホを取り出す。
ぽちぽち検索すると……
ふむふむ……
おお、この語源、いいなー! これにすっか。
ちょうど竜って言ったら洋風だしな。なんか横文字っぽいのがいいだろ。
「ミュ?」
何かを察したのか、チビ竜が首を傾げていた。
そっと、掌を頭の上に置く。
「ミュー……」
撫でられてるとでも思ってるのか、スリスリしてきよる。
ふむ。硬い。
「決めたのかえ?」
「おお。決めた。……この者に、セレンディピティの名を与える!」




