120. 孵化
「ねーボスーほらー! みてたー?」
「おお、ルビィすごいじゃないかー」
なんだか……のんびり過ごすのも久しぶりな気がするな、オレ。
今日は、ルビィの修行風景を見ながらボーっと……もとい、卵を温めている……いや、神力を流しているのだ。
まぁ、部屋に籠って卵に神力流してるんでもよかったけどさ。
ルビィが新しい技出来たって言うし、見に行こうかなって感じで。こうして見ているってわけだな。
ちなみに卵は抱っこ紐的な感じで装着しているのだ! ちょっと懐かしいなぁ、抱っこ紐。息子が小さかった頃を思い出すぜ……って、まぁ、卵は動くわけじゃないし、手足もないけどな。
ふーむ。
しかし……もしかしたら。地球で元気だっていう我が息子、今のオレよりでっかくなってるんじゃないか? 肉体年齢的にはありえなくはないよなぁー。
「ルビィ様も、風の力を使えるようになったようですね」
隣からの声に、ふと思考を戻された。
「おお、ホントにちゃんと修行してるみたいだなー。偉いもんだよ」
得意気に風を操って見せてるルビィを、まぁ……当然のようにアマネはオレの隣で見ているわけなんだよな。
「ねー? ボスー? みてるー?」
「おお、みてるぞー」
今までルビィは神能を使う時、基本的に狼型に戻っていたが、今は人型でしっぽをブンブン振っているのだ。まぁ、美少女だし、これはこれで悪くはないな。
そしてルビィは決め顔である。
「ほらーいくよー? 風狼」
渦を巻くつむじ風が、あっという間に起こったかと思うと……みるみるうちに。
「あ」
「ああ~!?」
竜巻になって……
――ゴバアッ!!
デカイ音を立てながら、修行場を何かの跡地にしてしまったのだった。
「ルビィしっぱい……」
そして、砂粒と小石が雨のようにパラパラと降り注ぐ中。反省のポーズなのか、がっくり肩を落として、耳をペタンとしたルビィである。たまにしゅんとするんだよなー。
「これはまた……フウカ様に知れると……」
そしてアマネが追い打ちをかけているのだが。まぁ、オレとしてはだ。
「まぁ、バレる前に戻しとくわな」
「ボースぅー……」
ちょっと涙目で上目遣いのルビィの頭を軽く撫でて、廃墟みたいになった破壊現場に立つ。
大気に意識を溶け込ませるように、神力を流していく。
うんうん。
まぁ、かなり見知った場所だし、今なら戻す時間も大したことない。そんなに苦労することもないな。
というわけで、3分も戻せばいいだろうと、さくっとリセットである。ふむ。インスタントラーメンだなぁ。そういえばそういう便利な食料とか、この世界にきてから見てないなー。まぁ、食事が必要ない身体なんだが……。
「ご主人様、卵への神力注入と並行してそのような……あまり無茶をされないでください……」
ん? なんだかアマネに心配されてしまったな。まだまだ神力枯渇までは余裕あるけどな? ほんと、再会してから心配性に磨きがかかったよなぁ……。
「ま、だいじょうぶよ、これぐらいならさー」
「そう……なのですか? 以前なら倒れられても不思議はない神力の消費量でしたが……」
え? そうなの?
ふーむ。
ってことは、ちっとは成長してきてるのかねぇ? アーズガルズでのヒドイ生活も無駄じゃなかったのかしらん。ここから旅立って以降、修行ってほど修行もしてな……あ!
もしかして、アイカフィアーのこっつんこかなぁ……? 力を渡したとかなんとか……言ってなかったっけ?
神族のシステムがいまいちわかんねーけど……思い当たるとしたらそれぐらいしかないしなぁ……。
んー。
まぁいいか。体感的にでしかないけど、まだまだ大丈夫そうなわけだしな。神力が強くなってるんなら、今後の戦い……は、したいわけじゃないけどさ。しかたなくだが……誠に遺憾だがっ……役に立ててやるんだからねっ!
「ボースぅー!!」
「あっ」
内心で奥歯をギリギリしていたら、ルビィが飛び掛かってきていた。これはもう避けれんな。まぁ、避けたりはしないんだけどさ……。
――――
――
今日も今日とて、オレの顔面はべちゃべちゃのねちゃねちゃである。
リセットに感謝したらしいルビィに、これでもかとなめ散らかされたからな! その間、実に30分 (体感)
もふみの足りない美少女姿だったが……な。どうせなら狼姿のほうがいいのだが……。まぁ、ルビィにはそんなことはわからないんだろうなー。
「よっし、準備完了!」
なんかもう拭くのもだるかったので。まだ昼前ではあるが、オレは早々に露天風呂を楽しみにきたのである。
「言いつけてくだされば、ご用意いたしますのに……」
風呂の準備はオレが担当だ。なぜなら、オレしか好んで入らないからな! でもアマネはそれが不満らしい。ちょっと唇を尖らせて伏し目がちになっている。
アマネさんや。そんな顔するでないよ。そろそろ自分の顔面の破壊力がどんなもんなのか、しっかり覚えた方がいいぜ? オレに効く。
いや、それにさ……準備しなくてもさ、毎回オレの身体はすみずみまで洗ってるよね……? だいぶ慣れたけどさぁ……まぁまぁ抵抗あるんだぞぅ?!
というわけで、お風呂恒例の性別リセットをして、と。抱っこ紐を解いて、卵を持つ。
なんだかちょっと発育の良さげな感じの双丘に、ピタッと収まる卵。なんとも言えない気分だなぁ。あらやだ、これって母性かしらん……?
いやいや。ガワを女にしたとて、内面が変わった感じって全くないんだよな。だから違うはずなんだぜ! そう、違う! オレは男の子である!
「さぁ、ご主人様。こちらへどうぞ……」
という、全裸のアマネにやっと慣れてきたオレの心は、男で間違いないのだっ!!
だって慣れるまで結構かかったんだもんよ!! オレは頑張ったよ!!
そんなこんなで、アマネに隅々まで綺麗にされ。ちゃぷんと露天風呂に浸かったのだが。
「そういえば先ほど、この卵を洗ったとき……少し神力を吸われたように感じました」
アマネがまた、なんか言い出した。
「え? そうなの?」
「はい」
「ふーん。コイツ、何でも吸うのかな?」
だとしたら、中々食いしん坊だな。あんまりみんなに触らせない方がいいのかもしれん。
「少しなので、私はあまり影響を受けておりませんが……しかし、どの程度で孵るのでしょうね?」
「あーそれはオレも気になってたわ。長はその辺り、なんにも言ってなかったしなー」
「すでに、かなり溜まっているように感じられますが……」
アマネはジトっとした目で卵をみている。……竜族、あんまり好きじゃなさそうだな。まぁ、竜族の性質を考えたら、他種族が好感を持つわけもないんだがな。
そんな怪訝な顔のまま、アマネはペタリと卵に手を置いた。
「ああ、やはり私の神力も吸い込むようですね……」
「お? だいじょうぶか? それ。あんまり無茶したら――」
その時突然、卵が光り出した。
「あ」
「うお?! なんだこれ?!」
ぽわっとした光かと思ったのもつかの間。閃光のような光が卵から迸り、辺りを包んだ。目がァーって言いたい。
――ピキピキッ




