水晶の竜
水晶谷は、文字通り水晶の谷だった。
チカチカと網膜を淡く焦がす反射光のシャワーの中を進むと、時折洞窟のように抉れた空間があり、その中にはさっきの白い竜によく似た感じのデカイのが、まぁ……寝てる。
てか、多分そんな感じのを10匹くらいは見た気がするが、全部寝てた。
どういうこった? お昼寝の時間か? 保育園かなにかか? ここは。
いやいや、白の一族の住処なんでしょうよ。そうやって聞いてきたぜ?
あ、まさか、夜行性か? 今は普通に人間でいうところの深夜なお時間帯ですかね?
そりゃ大変失礼なタイミングでお邪魔してしまった……のか?
いや、単に眠りのスパンが長ーい可能性もあるな。
そういえば、食事も100~200年単位みたいに聞いたわ。
そうであれば、睡眠もそういう可能性があるよなぁ。
もしそうなら、さっきの喋ってたやつ、起こしちゃった感じなんだろうか。そうだったら悪いことしたな。
そんで、まぁ、そりゃわざわざ案内してくれるわけもないわな。
と、まぁ全部仮説でしかないのだが……
警戒を完全に解いているわけではないが、普通に歩いててもトラブルひとつない。
いや、なくていいんだわ。なくていい。
あるのが前提の前世だったし、今生もその傾向が強いからって染まってはダメだ!
オレが目指してんのは平和で平穏で平凡なライフなんだから!
トラブルとかなくていいんだ!
「レイ殿や。」
「ん?」
不意にフウカに話しかけられた。このお方も"オレの心にトラブルを"。が、キャッチコピーかと疑わしきところあるからなぁ……。
「これまで見た白い竜族は、みな寝ておるえのう。」
と、少し疑っていたが、普通の話だった。そうそう。わりと真面目なんだよな。族長だしな。
「そうだなぁ。寝てるなぁ。あ、そうだフウカ。先代と戦ったっていう竜族の色って覚えてるか?」
「……ああ、色かえ。確か、禍々しい……赤黒い色だったように思うぞえ。」
ふぅむ。この前対峙して退治したのもそんな感じの色だったなぁ。
「フィーネ。今まで戦った竜族って、白いのいたか?」
「あらぁ~~ん? ワタシとお話したいのかしらぁ~~ん? ぐふふふぅ~~!」
いや、ちがうぞ。聞きたいことがあるんだ。決して話したくはない。ああ。話したくはないんだ。その顔やめろっ!
「もぉ~~ん! なぁに~~? そのか~おっ! ツンツンしちゃうわよ~~ん?」
コイツ、懲りねぇなぁ……
と、思った瞬間には当然のように、アマネが動いていた。
「ひょっ?! ちょちょちょちょちょっとぉ?! やめてやめて~~~ん?!」
黒刃をフィーネの喉元に突きつけるアマネである。いつものように速すぎて見えないんだよなぁ、一連の動作。
「……ご主人様に近づかないでくださいませ。」
アマネは容赦ないんだから、そろそろ覚えたらいいのに……
あ、覚えれねぇのかな……? まぁそうかもなぁ……こんな調子だもんなぁ。
「しっ……白いのは初めてみたわぁ~~ん! ほらぁ、答えたわよう~~?! 下ろしてそれぇ~~ん!」
ポンポンと軽く頭を叩くと、アマネはふいっと刀を仕舞う。少し満足そうな表情である。やり切った! みたいな感じだろうかね。
ふむ。しかし、竜族と戦い続けてたってフィーネが知らないとは、白の一族は珍しいのかな。
それとも、襲いに来ないのか……? だが、そんなことあり得るのだろうか?
だとすれば、どうやって生き永らえているのかって話になるが……
まさか、食わなくてもいける系なのか?
「客トハ……珍シイ……」
ん?
声が頭の中に響いた気がした。キョロキョロと辺りを見回すが、オレたちと水晶の壁くらいしか目につかない。
いや、少し離れた背後には、寝ていた白い竜がたくさんいたはいたが……
「我ニ……何カ用カ……?」
やっぱりめっちゃ聴こえるな……? こりゃ気のせいじゃないぞ。
「えっと、どこだ? 一応用は用だし、話せるようだし話したいが……」
と、口に出してみつつ、周りを再び見回してみるも……やっぱり分からない。まさか、フウカの術みたいな感じか?
「何ヲ言ウカ……ココニ居ロウガ。上ヲ見ルガ良イ」
上……?
壁しかなかった気がするけどなぁー……と、思いつつも、言われた通りに上を向くと……
「おお……? なんだこりゃ……」
「ご主人様……。これは……」
「なんと……!」 「ニャッ?! アレが喋ったのかニャ!?」
「わー! きれーだねー!」
「こんな竜族いたかしらぁ〜〜ん?」
そこは、水晶の壁かと思いきや。
水晶っぽい竜とでも言うべきか……竜っぽい水晶というべきか。
巨大な輝く水晶竜がいた……というかあった。かなり鉱物っぽい感じだが、動けるんだろうか?
さすがに皆驚きの声を上げている。
「敵意ハ……無イ様ダガ……何用カ?」
そして、水晶っぽい竜。どっからどう声を出してんだか知らんが、とても響きよる。頭に。
「いや、神狐の郷って知ってるか? そこが、赤っぽい竜族に襲われたんだよ。まぁ、話せる感じでもないから退治したんだけどさ。こっちとしては、あんまり殺し合いみたいなのは好きでもないし避けたいんだ。で、空の浮島に来てみたら、緑っぽい竜族に襲われたんだよな。」
「ホウ……シテ、竜ハドウシタ」
「ああ、それなら、コレだ。」
卵を取り出して見せる。
「……? ドウイウ事ダ? ソレニ襲ワレタノカ?」
「ああ、襲われたから、襲えないようにしたんだ。卵に戻した。」
あんまり能力については話したくはないんだがなぁ……。仕方ないよな。
「コレハ異ナ事ヲ……。ソノ様ナチカラヲ持ツト言ウカ……」
「まぁ、そうだな。そういう能力がある。で、その緑っぽい竜族がさ、白の一族がどうとか言っててさ。敵対してるっぽかったから、ここに来てみたんだ。話でもできないかなって思ってね。」
しかし、話はしたいんだが、遥か上を見上げっぱなしはキツイな、首が。オレはお子様サイズなんだからよ。もうちょい目線をだな……合わせてくれまいか、とちょっと思う。
ほら、おもちゃ売り場みたいにさ、子供の目の前に売りたいモノ置く的なさ!
「ソウカ……」
水晶竜はそう言ったきり、しばし沈黙した。
ちょっと溜めすぎじゃないか? ミリ〇ネアのみ〇もんたじゃねんだからさぁ、早くなんか言ってくれよなぁー。
「ム……。スマヌ。ソノ、戻ス能力ヲ……我ニ使ッテクレヌカ。動ケヌヨウニナッテオル。」
ふぇ? やっと喋ったと思ったら、ソレ?! ま、まぁいいけど……。
仕方がないので、リクエスト通りに……
と、水晶に歩み寄って、ひたりと手を触れる。
あー。なるほど……。
頭の中に流れ込む過去映像。中々のボリューム感ではあるが……ひたすらに長いだけで、あまり出来事的なものはないな……。
とにかく探りに探りまくって、コイツが動いていたっぽい辺りを見つけだして……神力を流して、リセット!
「オオ……?!」
カッと光に包まれた小山程もありそうな水晶竜は、光が収まったころには……
「ウム。すまぬな。」
わりと普通に話せる感じの、透明感すごい白い竜になり。
さらに……
「しばし待たれよ……」
パッと光り出したなーと思ったら。
「ヨシ。コレで話し易かろう。」
ドラゴン娘とでもいうのかな。背中に羽の生えた、太いしっぽと角を持つ、ウェイビー白髪ロングヘアな、全裸のお姉さんになっていましたとさ。
お前もかよ!!
お読みいただけまして、ありがとうございました!
今回のお話はいかがでしたか?
並行連載作品がある都合上、不定期連載となっている現状です。ぜひページ左上にございますブックマーク機能をご活用ください!
また、連載のモチベーション維持向上に直結いたしますので、すぐ下にあります☆☆☆☆☆や、リアクションもお願いいたします!
ご意見ご要望もお待ちしておりますので、お気軽にご感想コメントをいただけますと幸いです!




