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第八話 喧嘩をしたその後は

「もうあんたのことなんか知らんわ!」

「私だって! あんたがそんな人間だったなんて!」


 学校帰りの河川敷。

 高校生と思しき女子二名は、口喧嘩の末それぞれ逆方向に向かって歩き出した。

 それは小さな決別だった。


 *


「あー……ちょっと言い過ぎたかも」

 伊織才加(いおり さやか)は、ずるずると嫌な思いを引きずりながら歩いていた。足がちっとも前に進まなかった。

 発端は些細なことだった。

 才加には兄がいる。

 二個上なので、受験戦争真っ最中だった。

 頭脳明晰、スポーツ万能。

 そして妹思いの優しいお兄ちゃん。

 そんな兄を才加は好きだった。

 対して、先ほど絶交を誓った相手、橘薫(たちばな かおる)には兄妹がいない。

 なので、才加の言っていることがうまく伝わらないことがあった。

 今回は買い物の相談だった。

 今度の休みを利用して、服を買い行く話で盛り上がり「それならウチは兄貴がくるで」ということになった。

 そこで薫が異を唱えた。

 女の子の服を買いに行くだけなのに、兄が一緒に行くのはおかしい。それはシスコンなんじゃないの?

 売り言葉だった。

 となれば才加も黙ってはいない。

 返す刀で「そんなことあらへん普通やん」とバッサリ。

 いや絶対シスコンだ、いやそれ普通や、と二人は徐々にヒートアップ。

 最終的には。

「もういい! あんたとはもう口もきかない!」

「上等や! ウチかてあんたとはいられんわ!」

 というお決まりの文句が二人の口から飛び出た。

 これが決定打となった。


「もうあんたのことなんか知らんわ!」

「私だって! あんたがそんな人間だったなんて!」

 

 そして今に至る。


「ああー……自己嫌悪やわぁ……」

 才加は頭を抱えていた。

 せっかくの休みの日に、服を買いに行こうと誘ったのは才加だ。薫も行く気満々だった。

「やっぱお兄ちゃん連れてくのはあかんのかなぁ」

 背まで届く長い黒髪を手元でいじりつつ、後悔の念に苛まれていた。

 ──どうやって仲直りしよか?

 困り果てた才加だった。

 と、そこに──。

「困ってるわね」

 それは突然だった。

「は?」

 才加は急に掛けられた声に驚き、周囲を見回した。だが誰も見当たらない。

 場所は川端の土手の上。身を隠す場所などない。

「ここよ、ここ」

 その声は頭上から聞こえた。

 ──え?

 才加はゆっくりと『上』を見上げた。

 そこには。

「こんにちはー」

 少女が宙に浮かんでいた。

「……! ぎゃぁああああああっ!」

 ぱたし。

 哀れ才加は、その場に倒れ伏したのだった。


 *


「ねぇ、大丈夫?」

 才加が目を開けると、見知らぬ少女が心配そうに自分の顔を覗き込んでいた。

 ──ち、近い!

 才加は素早く起き上がり、後退った。

「な、ななな、なんやあんた!」

 背中には木製の囲い。目の前には見知らぬ少女。しかもさっき空を飛んでいた。

 逃げ場はなさそうだった。

「私? 私は高梨由羽(たかなし ゆう)。あなたは?」

「う、ウチ?」

「そう。他に誰が?」

 才加は辺りを見回した。

 先ほどと変わらず木製のベンチと囲いが目に入ったが、自分と由羽以外に人間は目に入らなかった。

「あー、そやね。他にはおらんなぁ」

 自分で言ってて変だと思った。

「でしょ? だから名前」

 才加は軽く咳払いした。その行動に特に意味はない。要は気の持ちようだった

「あー、ウチは伊織。伊織才加。高一や」

「へぇー。才加さんかぁ」

 由羽はその音の響きを確かめるように才加の名前を繰り返した。

「ってそないなことよりあんた!」

「え?」

「そ、空飛んどっててて、あぅっ!」

「どうしたの?」

「し、舌噛んでもうた……」

 どうにも会話が進まない才加だった。


 *


「落ち着いた?」

 そう言う由羽の手には、冷たい飲み物が握られていた。

「はい」

「あ、おおきに」

 ひんやりとしたスポーツドリングは、心地よい涼やかさをもって、才加の意識を現実に引き戻した。

「こ、ここは?」

「うん。あのまま道路で寝てると危ないから緊急避難。最寄りの公園ね」

「公園……」

 才加は上半身を起こし、初めてここに来たかのように周囲を見回した。長い黒髪が背中に流れた。

 才加は、その公園のベンチの上にいた。ベンチなのだが、四方に木製の囲いがあり、その上屋根まである。簡単な東屋のようだ。ここでは日光は遮られ、程よい涼しさが漂っていた。

 ──え、でもここで誰がウチを運んだんや? まさか──

「誰がここまで運んでくれたん?」

 才加が倒れた場所からこの公園までは結構な距離がある。

 見ると、由羽は自分を指差していた。

 ──えー? こない小さな子がウチをここまで運んだんかいな?

「他に誰が?」

 由羽は才加の心中を察したかのように、にこっと微笑んだ。

「え、だってウチ重いで? それを一人で?」

「ま、まぁそれにはコツがあるのよ」

 なぜか慌てる由羽。

 そして才加には思い当たる節があった。

 ──こいつ空飛んでたんちゃう?

 そう。

 由羽のファーストインプレッションは、空飛ぶ少女なのだ。

「な、なぁあんた」

「あんた、じゃなくて由羽」

 由羽は呼び名を訂正した。

「あー、由羽、さん?」

「由羽でいいわ」

「それならウチのことも才加で」

「りょーかい」

 由羽は軽く敬礼した。

 ──こいつ、案外いいヤツかもしれん。

 ノリのいい人間が好きな才加は、由羽を『いい人』認定したらしい。

「で、由羽はなんで空飛んどったん?」

「は?」

「だから、空」

「い、いやいや、飛んでないって!」

 思いっきり手を振って否定する由羽。

 才加にはその分かりやすい行動が面白くてしょうがない。

「さては由羽。あんた……」

「ぅ……」

 たじたじとなる由羽。

「実は天使やろ?」

「は?」

「空飛ぶ人間なんかこの世におらへん。おるとしたら幽霊か天使くらいや。でも由羽にはちゃあんと足が生えとる。となれば答えは一つや」

「だから天使?」

「どや? 当たっとるやろ?」

 ぷっ。

 一瞬の間。

 そして。

「あはははははは」

 二人はその場で笑い転げた。

「あーおかし。でもほんま、由羽は天使みたいや」

「言い過ぎだって。私はそんなんじゃないし」

「じゃあ、なんであそこにおったん?」

 才加は由羽が何者であれ、受け入れるつもりでいた。

 出会ってから過ごした時間はほんのわずかだが『いい人』は疑わない。それが才加の信条だった。

「あー、えーとね。もう一人いたでしょ?」

「……おったけどな」

 薫のことだ。才加の表情が一瞬陰った。

「ケンカ、したでしょ?」

 才加は答えない。

 答えなくない。少なくとも今は。

「私はね、友達がいないから」

「由羽……」

「くそうるさい兄貴ならいるんだけどね」

「おおっと、そうきたかぁ。ウチにも兄貴がおってん」

「そうなの?」

「そや。で、どうなん? 由羽のお兄さんは優しいんか?」

 由羽には答え難い質問だった。

「……会えばケンカになる、かな?」

 そうとしか言えない。

 実際、大喧嘩して公園を一個潰した実績がある。

「仲悪いん?」

「や、いいとか悪いとか、そんなんじゃないけど……」

 実はお互いが分身だなんてとても言えない。

「とにかく、私のことは置いといて」

 由羽は見えない箱を横に置いた。

「由羽はおもろい子やなぁ」

「そうかなぁ?」

「自覚なしかい!」

 ちゃんと突っ込む才加だった。

「それはそれとして」

 由羽は話を戻した。

「さっき、才加と一緒にいた子。名前はなんて言うの?」

「んん?」

 才加は聞こえないフリをした。

 だが由羽は容赦なかった。

「才加といたもう一人の子」

 才加はぶすっとした顔で明後日を向き、さらに小声で呟いた。かつての友人の名前を。

「……薫」

「そうそう。その薫さんとケンカしたのはどうして?」

 質問が直球だった。

「由羽って結構ズバズバ言うタイプなん?」

「あら失礼」

 由羽はほほほと、口に手を添えて笑った。

 ──こりゃかなわんわ。

 才加はあっさり降参した。

「まぁ大したことじゃないんよ」

「でもケンカしてたし」

「まぁそれはなー」

 才加の目が宙を泳いだ。何もない空間を見つめ、言葉を選び紡ぎ出す。

「ウチにも兄貴がおってな」

「うん」

「そいで、今度の休みに服買いに行こう言うたんよ」

「薫さんに、だよね?」

「そや。で、そん時にな、ウチの兄貴がついてくるでって言うたん。そしたら薫のやつ、なんて言うたと思う?」

「シスコン」

 由羽はズバリと答えを出した。

 その答えっぷりに、才加は二の句が継げなかった。

「当たり?」

「……うん、まぁそのなんや……やっぱそうなんかいな……そういうのってシスコンになるんか……」

 才加はひどく落ち込んだ。

 少なくとも、自分が知る二人の女の子に同じことを言われた。

 ──一〇〇パーセントやないか……。

「それでケンカになった訳?」

「……そや」

「ふうん……」

 由羽は頤に手を当て考え込んだ。

 しばし、沈黙が周囲を支配した。

 ──気まずくないか、これ?

 才加は、とにかく手より口が出るタイプだ。沈黙など一分も耐えられない。

「な、なぁ由羽」

「んー?」

「何を考えてん?」

「いやね、どうやったら才加と薫さんが仲直りできるか考えてるんだけど……」

 由羽は小首を傾げ、ペロッと舌を出した。

「思いつかないや、やっぱり」

 ──そらそうや。

 由羽は薫を知らない。さらに言えば才加の兄も知らない。事情も関係も何も知らないのでは、ケンカの仲裁など出来っこない。

「せやなー」

 そう言いつつも、才加は由羽が言う『仲直りの方法』に興味を持った。

 思えば、才加は薫と一緒に行動することが多かった。

 だが家は反対方向だし、標準語と関西弁の違いもある。

 成績だって、薫は優等生だが、自分は中の下くらいのポジションだ。

 つまり、才加は薫に何も勝っている所はない。

 せいぜい優しい兄がいるくらいだが、それを今日、薫に否定された。

 でも。

「薫とは中学からの友達なんよ」

 自然に薫のことが口から出た。

「ふうん?」

「で、いつも一緒にガッコ行って、一緒にご飯食べて」

「仲いいんだ?」

「さっきまではなー」

 才加はあくまでケンカ中であることにこだわった。

 だが由羽は、そんなことは気にも留めない。

「で? 続きは?」

「うーん……。そやなー。休み時間も好き放題喋って笑って。それに宿題も見せてもろうて助かるし、勉強でわからんトコ教えてくれるし……」

「うんうん、それで?」

「休みの日も一緒に遊んで、買い物したり、奢ったり奢られたり……」

 喋っているうちに、何かが頬を伝った。

 泣いている。その自覚はあった。

 だが才加は言葉を絞り出すことをやめない。

「楽しいんや。一緒におると。気を使わんでええし、楽だし、話は合うし……」

 その後はもう、言葉にならなかった。

「うん。分かったよ。もういいよ才加」

 由羽は、才加の頭をぎゅっと抱きしめた。

「あなた達が大事な親友同士なのはよぉく分かった。だから泣かないで。ね? それにさ」

「ん? なんなん?」

「ケンカなんて本当はしてない。きっと何かがズレただけ。そう思わない?」

 才加は、由羽の真意を図りかねた。

「な、何が言いたいん?」

「だって、そんなにいつも一緒にいて、お互いに相手のことを知っているのなら、ケンカする理由がない。もっと言えば、お互い信頼し合っているんだから、ケンカに見えるかも知れないけど、実はちょっとだけ話が噛み合わなくなっただけじゃないかな。違う?」

「や、それは……どうなんやろ……?」

 才加はゴモゴモと口の中で疑問を呈した。

「才加は薫ちゃんを嫌い?」

「いや、嫌いやない」

 才加は即答した。

 さっきまでケンカして、もう口も効かないなどと罵りあっていた相手だ。だが才加の口から出た言葉は、それを微塵も感じさせない明瞭さがあった。

 由羽はそれを聞いて、優しい微笑みを返した。

「それなら話は簡単。ズレているならそのズレを戻せばいい」

「そない簡単に言うけどな。何から話したらいいか見当もつかんて」

「誰が話し合いするなんて言った?」

 ──え?

 ケンカをしたなら話し合いで解決するとばかり思っていた。

 だが由羽は違うと言う。

「違うん?」

「そう、違う。私はズレを直すだけ。後は才加と薫ちゃん次第」

「なんやよう分からんけど……」

 だが由羽は、きっぱりと言い切った。

「すぐに仲直りできる魔法をかけてあげる」

 由羽は才加の両肩に手を置き、とびっきりの笑顔を見せた。


 *


「で、魔法ってなんなん?」

 才加は沈黙に耐えられない。しかも気も短かった。

「ん? ああ、魔法ね。それには準備が必要なの」

「準備?」

「そう。あ、別にトカゲの黒焼とかじゃないからね、一応」

「そんなん食わんで」

「そりゃそうだわ」

 由羽はベンチから立ち上がった。

「この魔法には、才加の協力が必要なの」

 そう言う由羽の手には、いつの間にか得体の知れない木の棒が握られていた。

「なんや、本格的やなー」

「こういうのはまず形からってね」

「で、どうするんや?」

「こうするのよ」

 由羽は、手を天に翳した。

 途端、才加の視界が闇に遮られた。

「な、なんやこれ!」

 声は出るが、自分がどこにいるのかさっぱり分からない。足元も地面の感触はなく、一体、落ちているのか浮かんでいるのかさえも分からない。

「由羽! どないなってん! 由羽! 由羽ってば!」

 由羽の名前を何度も呼び、何度目かの呼び掛けで、やっと反応が返ってきた。

「才加! 今から五秒! 目閉じて!」

「いや目開けてても真っ暗やて」

「いいから目閉じて!」

「あーもーヤケや!」

 ぐっと目を閉じる才加。

 そして数を数える。

 五、四、三、二……。

 ここで閉じているまぶたに暖かい光を感じた。

 一、ゼロ!

 目を開けた。

「うわ、まぶし!」

 一瞬日差しが目に飛び込み視界がホワイトアウトしたが、それも徐々に薄れ、何かが見え形になった。

「薫?」

 目の前には、先ほどケンカした相手が立っていた。

「え? え?」

 見回すと、それは河川敷。公園のベンチではない。

「あれぇ? なんでウチここにおるんや?」

「何寝ぼけてんのよ、急に立ち止まったと思ったら変なこと言い出して。まさか本当にボケたの?」

「そんなんやないて。いや、ちゃう。由羽はどこ行ったん?」

「ユウ? 誰のこと?」

 ──え?

 才加は混乱した。

 先ほどまでいた公園はここから見えない。

 その公園に自分はいたはずだ。

 そして由羽というちょっと変わった女の子とお話をしていたはずだ。

 なのに今目の前にいるのは、ケンカの真っ最中の薫で、由羽はどこにもいない。

『すぐに仲直りできる魔法をかけてあげる』

 まさに魔法だった。

「おかしなぁ……」

 才加は首を傾げたが、それで何かが変わる訳ではない。

「ねぇ、それよりさ」

 薫が気軽に話しかけてきた。

 ケンカの真っ最中なのにもかかわらずだ。

「今度のお休み、あんた予定ある?」

 ──なんや、これは!

 これは、ケンカを始める直前の状況だ。

 次の休みの予定を立てようと河川敷で話をしていた、そしてその後ケンカに発展する寸前の会話だ。

 才加は、咄嗟に空を見上げた。

 雲は出ていたが、日差しを遮るほどではない。

 だが人間は浮かんでいなかった。

 ──ウチは夢でも見てたんか?

「? ねぇ才加?」

「うん?」

「だからお休みの日の話」

「え、ええとああ、そやったな、次の休みの予定の話やろ?」

「そうそう」

「ウチ、ちょうど服買いに行こう思てん」

「あ、それいいね。私も行こうかなぁ」

「ええでー。あ、でもウチの兄貴もくるかも知れんで?」

 ──ここや!

 ここから先は慎重に言葉を選ぶ必要がある。

「えーと……いいんじゃない?」

 ──は?

「いいよ、一緒に行こう? 私も才加のお兄さんに会ったことないし」

「あ、でも受験で忙しいかも知れへん」

「いいんじゃない? その時はその時で二人で行こう」

「ああ、うん、そやね」

 才加は狐につままれたような、妙な感覚に襲われた。

 ──話の流れがさっきとちゃうやん?

「才加?」

「え?」

「どしたの?」

「え? ううん、大丈夫や」

「それならいいわ。じゃ決まりね」

「う、うん……」

 結局。

 二人はケンカすることなく、才加のお兄さん付属で買い物に出かけることになったのだった。

 楽しい休日になりそうだった。

 ──由羽、ありがとな。

 才加は空を見上げ、心の中で呟いた。

 ──仲直りの魔法、ちゃんと効いたで。


 *


 才加と薫のはるか頭上では、祐一と由羽がのんびりと浮かんでいた。

 

「今回は疲れたわー」

「そうだねー」

「時間を巻き戻すのと同時に、二人にケンカの原因を自覚させる。で、私達は姿を消す。祐一にしちゃいいアイディアだわ」

「最後の一言、余計じゃないか?」

「友達同士のケンカってのは、ちょっとしたきっかけなのねー」

「そうでしょ? だから僕が言った通りにして正解だっただろ?」

「うん、まぁね。今回は認めてあげるわ」

「何その上から見下した感は」

「あら何か不服ですかしら?」

 由羽は手を頬に添えホホホと笑った。どうやらその所作が気に入ったらしい。

「いや……それちょっと気色悪い」

「なんだとお!」


 はいはい。そこまで、そこまで。


 天から声がし、二人の口喧嘩を止めに入った。


 君達がケンカすると、とんでもないことになるからね。


「いや別に、ケンカしてないでしょ?」

「そうよ、これはケンカじゃないわ」

 二人は、揃って反論した。


 そうかい? でも後一分くらいしたらケンカになりそうな勢いだったよ?


「そうかなぁ」

「ねぇ?」

 二人は一様に首を傾げた。


 まぁいいさ。でも二人同時に接触してお互いの『ケンカのきっかけ』を封じたのは見事だったね。


「そりゃそうさ。僕だってちゃんと考えてるんだ」

「そうなの?」

「由羽、お前さぁ、もうちょっと年上を敬いなさいよ」

「誰が年上なの?」

「……僕」

「私達はお互いの分身でしょ? そこに上下関係はないと思うのよ」

「それは違うな。たとえそれがほんのわずかであっても、この世界に少しでも長く存在したら、そこに生まれるのは上下関係だ。僕達のいる世界はそのシンプルさが利点だろう?」

「えー? でも私は、祐一の『ある時点』からの分身だから、結局存在していた期間は同じじゃない!」

「それ、詭弁じゃないか?」

「あ、そんなこと言う?」


 はいはい。そこまで、そこまで。


「ちょっと貴方は黙っててくれないかな?」

「そうよ、これは大事なことなの。はっきりさせないと」


 あー。だから言ったのに……。


 結局。

 二人の口喧嘩は延々と続き、決着はつかなかった。


「だからあんたはバカ兄なのよっ!」

「あーバカって言ったな! バカはバカって言った方がバカなんだぞ!」

「何よ、じゃ私がバカだっての?」

「他に誰が?」

「むきーっ!」


 やれやれ。


 天も呆れる兄妹喧嘩だった。

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