ファミ
はいはい、クソクソ、俺様ってば、中学校になっても、相変わらずヘイト集めにご執心だわ。
自己嫌悪も甚だしく、心中全身全霊で自身にヘイトを向けながら、俺は改めて、無駄に声を張り上げる。
「……んじゃ俺、書記に、立候補、するわ」
静まり返ったクラス。
その状態で俺は席を立ち、部屋を縦断しながら、更に言葉を続けた。
「文句言ってる暇があったら、自分で手を挙げれば~?」
馬子に向かっていたクラス全員からのヘイトが、今まさに、この一身に集まっているのを、感じる。
もう良いわ、早くも友達作りは諦めたわ。
「お、おい、兵斗よ~い……」
クソ幼馴染……朽岳 馬子が、困惑したように俺に声をかける。
だから、俺たちは、他人なんだって。
「朽岳さん、それじゃあ、さっさと、委員決めしましょう」
俺が改めて、苗字呼びして突き放す。
「あ、ああ、そうだな、溜杉くん!」
なのに、何故か、アホは俺を苗字呼びしながら、嬉しそうにしている。
脳の病気かな、可哀想に。
俺は担任教師が馬子に渡した紙を奪い取ると、黒板にチョークで委員の名前を書き始めた。
うーん。
美化委員とか、飼育委員とか、まあ誰もやりたがらないだろうなあ。
そんなことを考えながら作業をこなしていると。
何やら無駄に自信を取り戻したらしい馬子が、両手人差し指をこめかみに当ててグリグリしていた。
……ふぅん。
この状態を切り抜けるのは、普通に考えて至難の業だぞ。
一体、何モードを出すつもりなんだ?
黒板に書く手を止めて、少し彼女に注目していると。
「よろしい、それでは、諸友よ」
少女は、左手を顔の近くでわきわきさせながら。
某大国大統領よりも、更に威厳に満ちた声で、クラスメートへ、言葉を投げかけた。
「私の味方になれば、世界の半分を諸友らにくれてやろう!!」
多分幻視だが背後に雷に光る魔王城が見え、多分幻聴だが後ろで荘厳なバトルソングが聞こえる。
……おおう。
なんのつもりかわからんが。
こいつぁ、大魔王様モード、なんだろう。
これは、初めて見るかもしれないな。
ぽかんとしているクラスメート達に、馬子は言葉を続ける。
「そう諸友らに、我が権能を授けよう。
まずは……『モンスターテイマー』『ジェノサイダー』『ユグドラシルマスター』!
権能が欲しい者は、手を掲げよ!」
……何を言っているんだ、このアホは。
……ふむ。
なるほど。
なるほどなるほど。
理解が追い付いていない教室の中、やっと理解した俺は、静かに黒板に文字を書いて行く。
飼育委員
美化委員
栽培委員
ちゃんとふりがなも忘れない。
いやあ、こいつは面白い。
大魔王様……世界を支配し、跪かせ、有り余る能力を下僕供に下賜するその豪声を。
まさか、ただ単に!
……各種委員会を決定するためだけに使うとは……!
いやぁなるほど面白い、アホ幼馴染も、アホなりに、ちゃんと考えているな。
多分この3つは、委員の中でも特にハズレの部類だ。
朝早く起きたり、毎日ルーチンがあったり、普通はやりたいことではない。
それを、カッコいい名前と権能とかいうおためごかしで、なんとか立候補してもらおうという算段なのだろう。
ここでやっと理解したクラスメート達は、何やら少しずつ盛り上がりを見せ始めた。
「ぶはッ! 権能とか、マジかよ!」
「無駄にかっけーな、委員決めるだけなのによォ」
「イヒヒ、俺、リアルにモンスターテイマーなら、やってもいいかも……!」
主に男子が、面白がっているようだ。
ここで、3本の手が上がる。
全員、女子だった。
俺は名前を確認し、それぞれの役割に名前を書いて行く。
「……よろしい、相田に、飯田に、宇井田。
諸友らに、我が権能を、授けよう!」
得意げになる馬子の横で、俺は少しだけ、感心する。
……なるほど、もしかして、これが、目的、だったのか?
確かに、一般人にとっては、植物の世話とか、動物の世話とか、クラスの掃除とかは、ハズレクジだ。
やりたくない、と、思う。
そう、普通は。
でも、中には、植物の世話が好きだったり、動物の世話が好きだったり、片付けが好きだったりする人は、存在する。
相田と飯田と宇井田は、多分そんな奇特なヤツらだ。
しかし、そんな人たちだって、ハズレクジを押し付けられる形で選ばれるとなると、良い気はしないはずだ。
だけどもし、特に『押し付けられた』感なく、むしろ『人気のある委員を選ぶことが出来た』と思わせることが出来たら?
その決定は、誰も損しない、素晴らしい結果といえるだろう。
……あれ?
これ、ちょっと、凄くないか?
俺が一人でそんなことを考えていたが、まあ多分、クソ幼馴染は、そんなことは微塵も考えていなかっただろう。
「よし、諸友ら3人を、このクラスの『三人官女』に位置づけよう!」
うわクソだせぇ。
ガン萎えだわ。
もっと、『三大天』とか、『三権皇』とか、カッコいいのが、いろいろあるだろう。
「よし次は、『給食委員』『体育委員』『音楽委員』『放送委員』『図書委員』!
5人を持って、『五人囃子』と位置づけよう!」
……へぇ。
ほうほう。
なるほど上手い……。
五人囃子といえば、男性。
三人官女が全員女子だったこともあるし。
これでは、男子が手を上げざるを得ない……!
……ネーミングは、ダセェけど。
「図書委員は女教皇だぞ、枢機卿なら、俺がなるわ!」
「よし、採用!」
「音楽委員は、ちょっと可愛すぎるかもな、吟遊詩人なら、やっても良いぜ!」
「よし、採用!」
……こうして馬子は、ロングホームルーム終了時刻の5分前くらいに、何とか委員決めを終了することが出来た。
比較的ヘイトの少ない、話し合いだったと、思われる。
集まったヘイトも、ふざけたことに、多分、俺にのみ、向かった。
……ちなみに、後々決まった副委員長と会計が、それぞれ『右大臣』と『左大臣』とかいうダセェ二つ名を馬子から頂戴した。
俺にも変なあだ名が付くのかと若干ヒヤヒヤしたが、特にそう言うものは、なかった。
ふう、良かった、良かった。
陰では『お内裏様』だけどな。




