洗脳搾
今なんか、こういう幼馴染ざまあが流行ってるって、聞きました!
こういうので、いいんですよね!?
この世界はクソだ。
何故クソか。
何故なら……知らないうちに、この俺……溜杉 兵斗にヘイトが溜まっていくからだ。
何故だ。
何故に俺はここまで嫌われるのだ。
いや、皆まで言うまい、理由はわかっている。
全ては、あの。
口だけが上手い、クソ幼馴染のせいだ。
アイツが……何の因果か知らないが、幼稚園から小学校の9年間、呪われた様に同じクラスになって、俺に付きまとったせいだ!
「兵斗よ~い。
お早う~。
朝だぞ~!」
布団の中で呪詛を唱えていると、件の幼馴染が、朝っぱらから人の部屋に押し入り俺を起こし始めた。
「新しい朝だぞ~。
美しい世界に、全く持って、感謝だな!」
幼馴染は、劇場にいる演者の様な、大仰で迂遠で冗長な喋り方をしながら、勝手に人の部屋のカーテンを開き始めた。
実に五月蝿い。
そして眩しい。
俺は頭からすっぽりと布団をかぶり直すと、立てこもりを決めることにした。
「成る程、それが答えか……ならば仕方あるまい、朝から、使わせてもらうぞ!」
布団の隙間から幼馴染をのぞき込むと、彼女が両手人差し指をこめかみに当ててグリグリしているのが見えた。
彼女なりのルーチン。
その後には……アレが、くる。
「さぁ、兵斗よ。
こうして陽は昇り、約束の扉は開かれた。
花は咲き、鳥は歌い、光は満ち、風は光っている。
そう、すなわち、今こそ、ついに!
無知蒙昧たる我らが、神の名の元、目覚める時が、来たのだ!」
少女は穏やかに目を閉じ、『すしざん○いのポーズ』でつっ立っている。
そして、多分幻視だが背後に後光が差して見え、多分幻聴だが後ろでパイプオルガンの音が聞こえる。
うぐッ……これは……!
新興宗教教祖モードで来たか……!!
新興宗教教祖……凡百の一般人すら蒙を啓かせ覚醒した使徒へと変えるその説法の力を。
まさかただ単に!
……一般中学生の眠気を覚ますことのためだけに使うとは……!
強制的に睡魔を祓われ覚醒した俺は、もはや静かに布団から這い出るほかない。
幼馴染の少女はそんな俺を見て、改めて勝ち誇った顔をしている。
このクソ女こそが、『口だけ』だと自他ともに認める究極の変人。
……朽岳 馬子、その人であった。




