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逆襲途中でクラスごと勇者召喚された虐められっ子だけど、今度こそは!  作者: 氷純
第三章 一人でも生きる覚悟

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第十三話 逆襲

 潰れた肉塊に興味もないので、僕は周囲を見回す。

 魔物生産施設の広間だ。

 再召喚は成功したらしい。足元にある魔法石を拾い上げてみる。魔力は欠片も残っていないようだ。

 グットンには感謝しておかないとね。

 魔力が足りなければ発動しないけれど、僕が召喚されるとも限らなかった。最悪、クラスメイトの誰かがこの場に立っていたかもしれない。

 一応、教室に僕の魔力を分散させてみたり、バルコニーに出て大飯田たちの周辺に魔力を配置するなんて保険は掛けていたけど。

 まぁ、賭けには勝った。

 後は、目の前の連中に勝つだけだ。


「さて、指揮官はどいつかなっと」


 唐突な僕の登場に呆気にとられている間に仕留めて混乱させたいところだ。


「サラ、二重強化。指揮官へ投石!」

「……あの、今コウ様が倒しました」

「……え、こいつら?」


 潰れている二人を指差すと、サラとユオナが頷いた。

 遅ればせながら指揮官の死を理解した魔法師団が大混乱に陥る。


「と、逃亡勇者だ!」

「魔法は撃つな!」

「身体強化も駄目だ!」


 混乱はしてるけど、僕の情報はちゃんと知ってるらしい。


「サラ、手当たり次第に投石。ユオナ、通路の出入り口に魔法具を投げ込んで」

「はい!」

「はいなのです!」


 ぎょっとした顔で魔法師団が僕たちを見る。

 慌ててユオナへ魔法で攻撃しようとする魔法師団たちに先んじて、僕は魔力をユオナの周囲に展開した。

 指揮を執る者がいないにもかかわらず、周囲に声を掛けて複数人で魔法を発動する事で威力を上げようとしている。

 十個の頭を持つジャグジャグと同じ要領で威力が向上した魔法は、ここが室内であることを考慮した石の塊。無数の棘の先から紫色の液体がしたたり落ちている。

 僕の魔力に関して情報共有が成されているはずだ。あんな手の込んでいそうな魔法を発動するからには、何か仕掛けがあるのだろう。


「失礼します」


 サラがユオナを抱える。二重強化状態でもあり、すぐに僕がいる巨大魔法石の裏に飛び込んできた。

 魔法師団があからさまに動揺する。


「なるほど、この魔法石は無傷で手に入れたいって事なんだね」


 カティアレンが反乱を起こそうとしているのはもう疑いようがないか。どうでもいいけど。


「お、大人しく投降しろ! 貴様らは完全に包囲されている!」


 魔法師団から一人、ちょっと偉そうなのが出てくる。どこかで見たことがあると思ったら、ユオナを狙ってデムグズで襲ってきた部隊長だ。

 どうにかして僕たちを交渉の場に引きずり出すか、指揮系統が回復するまで時間を稼ぎたいのだろう。僕にばれてる時点でもう意味がない行為だけど。


「指揮官が死んでいるこの状況で、投降した人間の安全を保障する権限があなたにあるとは思えないので交渉の余地がありません」


 正論砲を撃ち込んでみると、偉そうな部隊長は鼻白む。


「というか、権限を逸脱した適当な事を言うのは国家に雇われている軍人としてどうかと思う。あなたは帝国の威信を背負っているんだから、嘘を吐くなんてもっての外だよね。帝国の威信にキズが付いちゃうよ。そんなモノはとっくにない、なんて開き直りも駄目だからね? 帝国軍人なんだから、意地でも帝国には威信があると抗弁しないといけない立場だよ。さぁ、どうする? 権限もないのに降伏を促して安全を保障できず嘘つきとして帝国のありもしない威信にキズを付けてみる?」

「コウ、おちょくるのはよすのです」

「いや、よさないね。ガンガン煽ろう。――ほらほら、帝国の威信にかけて何か言ってみなよ! それとも帝国軍人は腰抜けなのかな? 栄えある帝国軍人さんやーい」


 三三七拍子の拍手で煽る。


「カレアラムはもっと頑張ってたよ? あ、そっか、君って部隊長かな? 副師団長のカレアラムと比べるのはかわいそうだったね。カレアラムよりも無能なんだもん。多くを求めちゃいけないよね!」


 偉そうな部隊長さんが顔を真っ赤にしている。まぁ、部下の手前ここまでコケにされてるんだから怒って当然だ。


「あれれ、でもなんで無能な君が指揮を執り始めたの? でしゃばっちゃったの? 自分でも頑張れるって思ったの? 総攻撃の指示も出せないのに? 困った子だなぁ。ほら、部下の皆さんにごめんなさいしないとダメでしょ!」

「人が下手に出れば――」

「下手に出る? 権限逸脱して結果的に嘘を吐く形になってだまし討ちしようなんてセコイ真似を仕掛けたくせに下手に出たつもりだったの? さっきまで面白半分に馬鹿にしてたんだけど、もしかして本当に無能なの? 状況を理解できていないなら部下の人と代わった方がいいよ?」

「――三方からフラッシュフロードを仕掛ける! 総員準備!」


 ブチギレた部隊長さんが魔法師団全員に指示を出す。僕たちの正面と左右に分かれた魔法師団が杖を構える。

 部隊長さんが騎士団の偉そうな人に目配せをすると、何らかの意思疎通が行われたらしく騎士団も動き出す。

 彼らの動きを見ていたユオナが眉を顰めた。


「フラッシュフロードと瓦礫の合わせ技なのです」

「フラッシュフロードって何?」

「鉄砲水を起こす魔法なのですよ。暴徒制圧に使われるのです」


 あぁ、僕に魔法が通用しないのを見越して、鉄砲水の運動エネルギーを乗せた瓦礫を叩きつけようって考えなのか。


「結構ゲスく煽ったつもりなのに、ちゃんと考えてるなぁ」


 デムグズの住人には勝てないや。


「残念そうにしていますけど、さっきのコウ様はちょっと……」

「サラにドン引きされるのは相当なのですよ。コウは改めた方がいいのです」

「気を付けるよ」


 と言いつつ、僕は魔力を展開する。

 デムグズで戦った事もあり、魔法師団の部隊長は僕が魔法を跳ね返せるのを知っている。けれど、魔法の捕獲、流用については知らないはずだ。グットンとの情報交換でも、僕が相手の魔法を流用できるという話が出ていなかった。

 さっき指揮官二人を殺した時に沸騰水の制御を奪ったけど、魔法石の陰になっていて見えなかっただろう。


「――やれ!」


 部隊長の号令一下、三方向に配置された魔法師団が同時に魔法を行使する。直後に騎士団が身体強化をして床を踏み砕き、魔法師団の後方に下がった。

 魔法師団が生み出した水の奔流が瓦礫を巻き込んで僕たちに殺到する。魔法で制御しているためか左右に広がる事なく、見えない管の中を通るように勢いを強めながら突っ込んでくる。


「――いなして」


 僕は周囲に展開した魔力で水流の進行方向を微修正して頭上へいなし、三方向から来た水流を一本にまとめる。

 水流に乗っていた瓦礫も頭上へと飛んでいくけれど、せっかく提供してくれた魔法だ。有効利用させてもらおうか。


「捕獲完了っと」


 僕の頭上で水流が渦を巻く。当然、僕の魔力でまとめたのだ。

 偉そうな部隊長が唖然として僕の頭上の水流を見上げる。


「あの量でも、駄目なのか……」


 なんだ、僕が指揮官を殺したところ、ちゃんと見えてたのか。

 周囲を見回すと、目があった魔法使いたちが怯えたように後ずさる。


「諦めるな! 魔法を無効化していた魔法石を投げつけてやれ!」


 騎士団の指揮を執っていた部隊長が周りを鼓舞しながら、率先して魔法石を投げ込んでくる。

 ぽちゃん、と間抜けな音がして、魔法石が僕の上から降ってくる。

 当然、水流は消えていない。


「な、なんで?」


 なんでって言われても、僕の魔力は精霊を散らすことで魔法を打ち消すんだから、すでに逃げ場のない精霊の塊にぶつけても効果が無いんだよ。

 教えないけど。


「気が済んだでしょ?」


 頭上の水流を成形。高密度の水の棒を作り出す。長さにして四メートルを超える水の棒は圧縮され過ぎて水圧が異常に上昇し、まだ水の中にあった瓦礫を砕いている。

 この水の棒をまずは右に向けまして、


「どんっと」


 一瞬だけ先端部分を開放する。噴き出た水の勢いは魔法師団が繰り出した魔法とはもはや別物だった。

 悲鳴より先に血飛沫が上がった。僕たちの右側にいた魔法師団と騎士団が纏めて水に吹き飛ばされて壁に叩きつけられたのだ。

 ウォーターカッターになるのを期待したけれど、混入した瓦礫の量が足りなかったらしく切断力はない。それでも、衝撃だけで人が吹き飛ぶ高威力の水鉄砲である。


「――退避!」


 部隊長が叫ぶ。その指示を待っていたとばかりに魔法師団も騎士団も区別なく、広間から通路へと逃げ出していく。

 指揮官死亡の上に攻撃を無効化するどころか逆に利用する相手。すでに士気も崩壊気味で指揮系統も混乱中。

 いったん逃げてカティアレンを旗頭にまとまるのが正解と考えたのだろう。


「追いますか?」

「必要ないよ。逃げ場のない通路にこれを向ければ終わりだし、ほら」


 帝国軍が逃げ出した通路に水の棒を向け、先端を開放する。

 一発で悲鳴と絶叫、二発目で懇願と哀願、三発目で沈黙。

 小賢しくも複数の通路に分散して逃げ出しているから手間ではあるけど、向こうからの反撃がないなら後は単純作業だ。

 とはいえ、流石に反撃してくる奴もいるようだ。

 ひゅんと風切音が聞こえたと思ったら、サラが僕の横から飛んできた矢を空中で掴みとっていた。


「矢だ! やつには物理攻撃が通用する!」


 まぁ、僕には効くよ。


「コウ様、二重強化を」

「ほら」

「ありがとうございます」


 サラの強肩が矢を投げる。掴みとった際に折ったらしい矢は中途半端な長さだったけれど、サラがダーツでも投げるような軽い動作で放ったその矢は僕に向けて弓を引いていた帝国騎士の首を正確に貫いた。

 二重強化状態で感覚が増しているのもあってか、物凄い命中精度だ。

 二重強化状態のサラが駆けだす。広間に残っている帝国軍人に急接近するや否や、鉈を一閃して敵が構えた剣をひしゃげさせ、伸ばした左手で相手の頭を掴むと力任せに床へと叩きつけ、ダメ押しに踏みつける。胸を踏みつけられた衝撃で敵が血を吐くのを見もせず、足の甲を相手の身体の下に潜り込ませると蹴り上げた。

 浮かび上がった敵の首の後ろを掴み、弓で狙っていた別の敵への盾にする。


「俺ごと、魔法で!」


 盾にされている事に気付いたその騎士がかすれ声で叫ぶ。

 悔しそうな顔をした魔法使いが魔法で形成した石の槍を撃ちだす。

 しかし、サラは防御もしなかった。

 必要なかったのだ。

 サラにぶつかる寸前、石の槍が消滅する。

 二重強化はサラの周囲に精霊を集めて固定するために僕の魔力で覆う技だ。当然、外部からの魔法攻撃を無効化する。


「反則だ、こんなの」


 涙目で呟く魔法使いに、サラは慈悲も見せず鉈を振るう。

 そこからはもう、一方的だった。

 広間に残っていた帝国軍が必死で逃げる。あっさりサラに追いつかれて抵抗しようにも、サラとの距離が縮まると僕の魔力に触れて身体強化が解けてしまう。

 一矢報いようと僕に攻撃する者もいた。


「無駄なのです」


 投げ込まれた瓦礫が、仕掛けてあった魔法具に迎撃される。


「拠点を守るのは大得意なのですよ」


 ドヤ顔をするデムグズ一の魔法具城塞(他にあったのかは知らないけど)の設計者ユオナ。

 ユオナは巨大魔法石から魔力を抜きながら水を発生させる魔法を使用し、僕が使っている水の棒に給水もしてくれている。

 広間の敵を全滅させる頃には、全ての通路に攻撃を加え終っていた。

 静かになった広間には血の臭いが漂っていて、あまりいい気分ではない。


「どうしますか?」

「この魔法石はいったん放置。外にいるカティアレンを確保しよう」

「カティアレンを?」


 説明は道中に、と僕は二人を促して通路へ走る。

 このまま僕たちが雲隠れしても、帝国は魔力が溜まり次第いつでも勇者召喚を行える。

 仮に帝国が再度勇者召喚を行った場合、僕以外のクラスメイトも再召喚される可能性がある。

 ここまで来てまた振り出しなんて御免だ。


「そんなわけで、カティアレンを捕まえて勇者召喚をできなくする」

「そんな事が出来るんですか?」

「今ならギリギリね」


 けれど、要になるのはカティアレンだ。あいつだけは生かして捕まえる必要がある。

 通路を駆け抜ける。サラが外への出口に耳を向けて、聞き取った音から推察される外の状況を報告してくれる。


「混乱していますが、まだ逃げてはいないようです」

「真正面から食い破って、カティアレンを捕縛する。サラ、二重強化するからカティアレンを捕えてきて」

「はい!」

「煙幕の魔法具を持っていくです。軍の中で炸裂させれば同士討ちを恐れて矢を使えないはずなのですよ」


 ユオナから魔法具を手渡されたサラが礼を言う。

 通路の先に光が見えてくる。

 僕たちが外に出た瞬間、喧騒が聞こえてきた。

 壊滅の報告でも聞いたのか、施設の外で慌てふためいている帝国軍の生き残りとその中央にいるカティアレンを見つけて、僕はサラの背中を押す。サラはカティアレンを見たことがなかったけれど、この戦場で一番豪華な服を着た女性なんて目立ちすぎるほどに目立っている。

 通路から出た僕たちに気付いた帝国兵士が何かを叫ぶより早く、サラが煙幕の魔法具を起動しながらカティアレンへと一直線に駆け込んだ。

 帝国軍の中に煙幕の筋が割って入ったかと思うと、この場には不釣り合いな女性の悲鳴が上がる。

 直後、悲鳴が急速に僕たちへと近づいてくる。

 煙幕の中からサラが飛び出してきた。片手でカティアレンを引きずって戻って来たらしい。せっかくの豪華な服が泥まみれになっているカティアレンは、安全確認がされていないジェットコースターでも乗ってきたような酷い顔をしていた。

 いい気味だ。


「――皇女カティアレンの身柄は預かった! 全員武装を解け」


 煙幕が晴れると同時に、僕は帝国軍に対して降伏を勧告した。




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