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逆襲途中でクラスごと勇者召喚された虐められっ子だけど、今度こそは!  作者: 氷純
第三章 一人でも生きる覚悟

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第十一話 魔法石防衛戦

「間に合わなかったのです」


 完全に包囲された広間の中、ユオナは魔法石を片手に魔法を放ちながら傍らのサラに声を掛ける。


「本気で逃げようとしていたか疑問ですけどね」

「それを言われると言い返せないのです」


 不用意に頭を出した騎士に向けて火の玉を連続で撃ちだす。騎士が慌てて頭を引っ込めたが、通路が一本道である以上逃げられるはずもない。


「コウ様の魔法石が凄いですね」

「語彙が死んでるですよ」

「でも、凄いとしか言えないですよね?」

「まったく、とんでも魔力なのです」


 ユオナは苦笑する。

 包囲される前に通路に穴を開けて放り込んでおいた、コウの魔力が篭った魔法石。この魔法石から漂う魔力により、包囲している騎士団も魔法師団も魔法が使えずに広間への攻撃ができずにいた。

 弓矢の類は稀に飛んでくるものの、ユオナたちが盾にしている巨大な魔法石へ傷が付くのを恐れてか狙いが大きく外れている。牽制以上の効果は出ていないため、ユオナ達も弓矢は半ば無視していた。

 もっとも、コウの魔力を知っている帝国軍はすでに魔法石を探し始めている。もうしばらくすれば、魔法師団の飽和攻撃の後に騎士たちが走り込んでくるだろう。


「もう少し広間にコウの魔法石を置いておければよかったのです」

「いざとなれば破魔ナイフもありますから、少しは凌げます」

「それを使い始める前にカティアレンが乗り込んで来れば、人質に取って逃げ出せるかもしれないですが、望み薄なのです」


 カティアレンが危険を冒して広間に乗り込んでくる意味がない。現場の指揮ならば第二騎士団長や第一魔法師団長で事足りる。


「どうしようもなくなれば、この魔法石を砕くしかないのです」


 どこかに隠せとナリヤ・エンラシは言っていたが、帝国に利用されるくらいならば壊した方がいいだろう。

 最初から壊そうとしなかったのは、欲が出たから。


「これが残っていれば、コウを召喚する事が出来るですが」

「恨まれそうですけどね」


 苦笑したサラも、コウを再召喚する事に異を唱えない。


「コウが居なくても生きていけるのと、コウが居なくても生きていくのは別なのです。コウはそこが分かってないのですよ。文句言ってやるのです」


 冗談めかして呟くが、文句をぶつける機会は訪れそうにないと思う。

 通路から魔法石が投げ込まれた。見覚えのある形状のそれは、ユオナが放った火球の魔法を大きく減衰させた。

 通路に仕掛けておいた、コウの魔力が篭った魔法石だ。


「見つかったですか」

「まだ投石があります」


 投石と言いつつ、サラは転がっている矢を半ばから折って手頃な長さにすると、通路へと投げつける。

 ユオナの魔法が減衰したのを見て好機と取った騎士団員が二人、通路から飛び出してきたが、サラが投げつけた矢を受けて地面に転がった。


「追撃です」


 サラが今度は石を投げつけて、起き上がろうとした騎士の兜を大きく凹ませる。


「サラ、胸を狙うのです。的が大きいですし、胸部装甲が凹めば呼吸が難しくなって動きも鈍くなるのです」


 動きが鈍くなれば、魔法で仕留める事が出来る。

 サラが頷いて、別の騎士の胸部装甲を的確に凹ませる。

 サラの横で、ユオナは細い石の槍を魔法で形成して撃ちだした。魔法石が放出するコウの魔力の影響圏ギリギリを抜けた石の槍は正確に騎士の胴体に穴を開ける。

 そうこうしている内に、別の通路でもコウの魔法石が発見されたらしい。広間に魔法石が放り込まれ、騎士が走り込んでくる。

 大きな盾の類は渓谷を越える際に置いてきたらしく、どの騎士も身一つで飛び込んでくるのはサラたちにとって幸運だった。

 駆けてくる騎士に対して、サラがユオナから手渡された魔法具を投げつける。

 ほとんど一直線に飛んでいった魔法具は、コウの魔法石の影響圏を抜けた直後に炸裂した。発動の起点が魔法具であるため、コウの魔法石のそばを通っても威力が減衰しないのだ。

 炸裂した魔法具は周辺に鉄条網を展開する。以前にジャグジャグに使用した魔法具の簡易版であり、周辺の魔力を持つ生物に反応して鉄条網を巻きつけるだけの効果だ。騎士たちは鎧を着こんでいる事もあり肉体へのダメージは皆無である。

 しかし、鉄条網に絡め取られた騎士たちは即席の壁となって後続の進路を阻んだ。


「行ってきます」

「気を付けるのです」


 サラが身体強化をその身に施し一気に走り出す。

 鉄条網に絡め取られていた騎士たちがサラの接近に気付くがもう遅い。

 サラが鉈状の短剣を横に一閃すると騎士たちの首から上が飛ぶ。

 短剣を振り切った勢いで一回転したサラは、渾身の蹴りを騎士たちの死体に叩き込み、後続の騎士ともども通路へ通し戻した。

 サラがすぐさまその場を飛び退く。直後、先ほどまでサラがいた地点に別の通路からいくつもの矢が突き刺さった。

 ただでさえ白兵戦が得意なラッガン族の中でもキメラであるサラの動きを捉えきるのは難しい。ユオナがいる巨大な魔法石の下まで駆け抜けるサラにいくつかの矢が飛来するが、タイミングがずれすぎているためサラは避ける動作も必要なかった。


「ただ今戻りました」

「お疲れなのです」


 滑り込んできたサラに労いの言葉を掛けながら、ユオナが手元で魔法具を発動する。

 ユオナの正面に鋭い棘が無数についた石球が形成される。拳大のそれは二十個を数えるまでに増えるとコウの魔法石を広間に放り込んだために魔法を防げなくなっている通路へと飛び込んだ。


「どっかんなのです」


 ユオナがぐっと拳を握り込むのと同時に、通路から小さな爆発音が響き、絶叫がいくつも木霊する。


「シュグラート族の魔法具技術を見たかです!」


 勝ち誇っているユオナが弓で狙われている事に気付いたサラが手を伸ばして巨大魔法石の裏に引っ張り込む。


「まだ来るですか」


 巨大魔法石の裏から通路を確認して、ユオナは呟いた。


「二十人くらいは仕留めているはずなのです。向こうは何人いるですか」

「各通路に十人はいるみたいです。建物の外にも本隊が控えているようです」

「外の様子までわかるですか?」

「いえ、話し声が聞こえるので」


 身体強化しているサラの聴覚には、通路で交わされる会話も筒抜けらしい。

 ユオナは手元の魔法具の数を確認する。


「後四十人倒せるかどうか。そろそろ覚悟を決めた方がいいかもなのです」


 そう言って、ユオナは巨大な魔法石に目を向ける。


「これを壊したら、多分、もう二度とコウに会えなくなるです」

「でも、この魔法石を帝国にみすみす渡してしまったら、それこそコウ様に怒られそうです」

「絶対に怒るですね」


 はぁ、と深いため息を吐いたユオナが魔法石を破壊する覚悟を決めた直後、一部の通路から歓声が上がった。

 何事かと目を向ければ、二人の男が歩いてくる。帝国貴族然とした豪奢なマントを羽織った軍人だった。


「栄えある帝国軍が小娘二人にこんなにも損害を出すとは」

「地の利は向こうにあるとはいっても、これ以上は面目が立たんな」


 コウの魔力が宿った魔法石を蹴り飛ばした二人の男を見て、ユオナは警戒を強める。


「両方とも師団長なのです」

「指揮官が直接ですか?」

「小娘二人に戦力を磨り潰されては帝位簒奪の戦で士気が落ちるとでも考えたのですよ。同数の実力者を出すのは悪い判断ではないのです」


 小手調べに火球を撃ち込んでみるが、魔法師団長らしき男が杖の先に浮かべた水であっさりと打ち消される。


「帝国軍第一魔法師団長エンズだ。こちらも忙しいのでな。ケリを付けに来た」

「同じく第二騎士団長キーラン。小娘ども、降伏しろ」


 悠然と、余裕ぶって歩いてくる師団長二人に、ユオナは魔法具を投げつけながら言い返す。


「卑怯者の帝国軍に降伏なんてお断りなのです!」


 ユオナが投げつけた魔法具に、エンズが無言で杖を向ける。

 直後、石礫が魔法具に着弾し、粉々に打ち砕いた。


「降伏しないのならば仕方がない。殺すとしよう」


 エンズの杖の先に水が形成されていく。ぐつぐつと煮立ったそれは、人にぶつけても即死させる事が出来ないだろう。しかし、巨大な魔法石へ傷をつけることなくユオナ達をあぶり出せる魔法でもある。


「――おっと」


 エンズの隙を見つけてサラが投げつけた破魔ナイフを、キーランが長剣を盾にして防ぐ。破魔ナイフの効力でエンズが作り出していた沸騰水が八割方消滅したのを見て、キーランは眉を顰めた。


「おいおい、こんな隠し玉もあったのか。用心して身体強化しなくてよかった」


 破魔ナイフを蹴り飛ばして、キーランはサラたちを警戒するように長剣を構える。

 サラが悔しそうに、蹴り飛ばされた破魔ナイフを視線で追う。キーランが身体強化していれば、破魔ナイフの効果を受けて身体強化が歪に解けて戦闘不能になっていた。そうなれば、魔法使いのエンズを相手にサラが近接戦を挑んで勝利の目もあった。


「覚悟を決めるのです」

「仕方がないですね」


 ユオナの言葉に頷き、サラは巨大魔法石を見る。

 二人の視線から何をするつもりかを察したらしいエンズが沸騰水を操作する。ヘビのようにうねる水流は巨大魔法石の裏へと到達し、サラたちを強制的に飛び退かせた。


「このっ!」


 せめてもの抵抗に、ユオナは魔法具を投げる。さほど威力のある物ではないため巨大魔法石を破壊できるかは賭けだったが、結果が出る前にエンズが操作する沸騰水に打ち払われた。


「これで形勢逆転だな」

「というか、もう勝負は決まったろう」


 巨大魔法石のそばに立ったエンズとキーランが合図をすると、通路から魔法師団が現れる。

 巨大魔法石という盾を失ったユオナとサラに対して、高威力の魔法を放つことにためらいはないだろう。


「……万策尽きたのです」

「もっと早く魔法石を壊すべきでしたね」


 言葉を交わしながらも、抵抗の意思は衰えずに武器を構える二人に、エンズが感心したように頷く。


「胆力は認めよう。次は帝国人に生まれるよう願って死ね」


 そう言って、エンズが魔法師団に合図を送ろうとした、その瞬間――エンズとキーランの背後で強い光が放たれた。

 エンズとキーランが驚いて振り返る。


「――この水貰うよ」


 エンズが言葉の意味を認識するよりも早く、巨大魔法石の周囲にあった沸騰水の制御が奪われる。

 瞬時に圧縮された水の槌が高速でエンズに振り下ろされた。


「――エンズ!」


 キーランがギリギリ反応して、エンズを助けるべく手を伸ばす。しかし、届かない。キーランは全身の筋肉が断裂した音を聞いた気がした。

 直後に、エンズの頭に圧縮された水が叩き落される。その重量の前に人の首など、花を支える茎と変わらない。

 頭部を強打され、首の骨を砕かれ、地面に倒れたエンズの横にキーランが倒れ伏す。その上に沸騰水が覆いかぶさった。圧縮された水により、エンズとキーランの身体が一瞬で潰され、沸騰水に赤いモノが混ざり出す。

 何が起きたのか理解できたのは、サラとユオナだけだった。

 師団長二人をあっさりと殺してみせた黒髪の少年、杉原巧が魔法師団と、未だに通路を塞いでいる騎士団へ目を向ける。


「――因果応報はお前らにも適用されるんだよ、拉致犯」



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