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逆襲途中でクラスごと勇者召喚された虐められっ子だけど、今度こそは!  作者: 氷純
第三章 一人でも生きる覚悟

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第二話  漁夫の利を待つ株守り

 ガッテブーラに到着した僕たちは真っ先に宿を取りに向かった。

 勇者ことクラスのケダモノ連中の居場所はすでに分かっている。街の中で対角線上にある小さな、それでいて防犯がしっかりした宿を取って、僕たちは部屋に荷物を置いて一息ついた。


「それじゃ、まずは作戦目標からおさらいするよ」

「はい!」


 サラが居住まいをただし、隣でユオナが穴の開いたマントを繕い始める。


「第一に、勇者に関しての情報収集。戦闘能力や人数、グループで別れているならその内訳についても調べよう。これはまず、一緒に戦ってるはずのギルドで聞き込みする。第二に、魔物の製造拠点の情報。位置情報さえあればいいけど、望み薄だね。最後に、帝国軍について」


 勇者の情報は必須だ。敵を知り己を知らばとも言うし、僕の勝利条件がクラス全員の帰還である以上、あいつらについての情報が勝利の鍵になる。

 二つ目の魔物の製造拠点についての情報は、魔力の調達に利用できるかもといった程度。

 ユオナが製作した送還魔法『帰省』は魔力消費が非常に大きな魔法だ。

 ユオナ一人では魔力を賄えず、地脈から回収する事になる。けれど、魔力を手に入れるもう一つの方法として、魔物の製造拠点を制圧する事も視野に入れた。

 地脈からの回収という腹案がある以上、危険を冒してまで製造拠点を制圧する必要がないものの、勇者たちが先に製造拠点にある魔法石を手に入れてしまう事態は避けねばならない。

 帝国が素直に約束を守るとは思えない。けれど、勇者を日本に帰す可能性も否定できない。ならば、その目は潰しておくべきだろう。

 帝国軍の動きについてはさらに重要性が落ちる。これを調べるのは勇者との協力関係を築いているかどうかの見極めと、魔物の製造拠点を落とした後にどう動く可能性があるのかを予測するための材料だ。

 ガッテブーラに来る前に打ち合わせしていた事もあり、二人からも異論は出ない。

 僕はユオナに目を向けた。


「変装用魔法具はあとどれくらい使用できるのかな?」

「コウの魔力のおかげでロスが極端に少ないのもあって、まだ半日は連続使用できるのです。でも、くれぐれも気を付けるのですよ」

「分かってるよ」


 ユオナが使っていた変装用魔法具を今回は三人分用意している。手配書を警戒してのものだ。

 体格を誤魔化すことはできないけれど、顔の形を微細に変化させるくらいは出来る。特殊メイクみたいな魔法だ。

 とはいえ、魔法具である以上は僕の魔力で打ち消される。つまり、魔法具を使用している間は僕が戦闘に入った途端に変装が解けてしまう。


「サラ、護衛はよろしくね」

「お任せください」


 意気込んだサラが尻尾を左右に振る。虎模様の三角耳もピンと立っていて、やる気が伝わってくる。


「では、作戦開始」


 僕は二人に告げて、立ち上がった。



 ガッテブーラ冒険者ギルドは二階建ての建物が三棟、さらに魔物の解体を行う解体棟と情報を取りまとめる部署と資料室が入った情報棟の全五棟からなる巨大な施設だった。

 僕はサラとユオナを連れてギルドの表玄関に向かう。


「帝国軍とは仲が悪いみたいだね」

「どこのギルドも同じですね」

「帝国好きの少数民族なんてそれこそ少数なのです」


 表玄関前で監視役の帝国軍人と警備役の冒険者が睨み合っている。その間を通り抜けた僕たちはさっさと冒険者ギルドに入った。

 入り口の雰囲気から予想はしていたけれど、ギルド内の冒険者たちも殺気立っている。

 職員まで簡易的ながら武装しているとは思わなかった。

 彼らには、帝国軍が侵略者にしか見えないのだろう。魔物に対抗するために派遣された援軍という見方をしている人はどこにもいないらしい。

 掲示板に貼り付けてある依頼票を流し見る。


「護衛依頼はなし。納品がいくつか。討伐依頼もなし」

「前線なのに討伐依頼が無いんですね」

「帝国軍が悪さしていないか付近の村を回っている時に一緒に片付けてるんじゃないかな? 護衛依頼が無いのも同じ理由だと思うけど」


 納品依頼が溜まっているのは、冒険者が単独で出かけると帝国軍の奇襲を受ける可能性がある上に複数人で受けると稼げないからかな。


「――坊主たち、新入りか?」


 頭をそり上げた強面のお兄さんが声を掛けてきた。

 今の僕たちは全員が男。それも僕と同じ十八歳くらいに見えるよう変装魔法具で調整しているから、特に違和感は抱いていないらしい。見回した限り、僕の手配書も貼られていないようだ。

 お兄さんは僕たち三人を値踏みするように見た後、何を納得したのかうんうんと頷いた。


「お前らも帝国と勇者の動向を見極めに派遣された若衆ってところか。どこの者だ?」

「若衆?」

「警戒すんな。表にいた連中を見ただろう。このギルドにいる連中はみんな、帝国を警戒して集まってるんだ」


 何の話?

 少数民族で構成されている冒険者やギルドが帝国軍を警戒するのはおかしな話ではないとしても、わざわざ動向を見極めるために人を派遣するのか?

 しかも、帝国軍だけではなく勇者まで警戒対象となると……。

 まぁ、話を合わせてしまえばいいか。


「僕たちみたいに派遣された人って他にもいるんですか?」

「あちこちから来てるぞ。帝国軍がどうこうっていうより、勇者の戦力を見極めるためだけどな。情報交換もやっている。お前らはどこの出身だ?」

「申し訳ないですけど、今は言えません。そうですね、生き残り、とだけ」


 少し視線を厳しくして、帝国への敵愾心をにじませておく。

 お兄さんはピクリと眉を動かすと、小さく頷いた。


「そうか。詮索して悪かった。聞かなかった事にしよう」


 魔法石同期技術を持っていたシュグラート族を始め、幾つかの少数民族が帝国に滅ぼされている。生き残り、といえば有用な技術を持っていたり、体質を持っている場合が多いため出自を隠すのは当然――と考えてくれたらしい。


「こちらにこい。地図を囲んで話をしよう」

「いいんですか? 自分で言うのもなんですが、自分たちの事でさえ僕たちは情報を提供できません」

「構うもんか。こちらも提供できるのは周知の事実のみだ。それだけでも、ガッテブーラに来たばかりのお前たちには有益な情報だろうよ」

「感謝を」

「よせやい。照れちまうわ」


 丸坊主の頭をつるりと撫でながら、お兄さんが笑う。

 案内されたのはギルドの奥にある大きな丸テーブルだった。身なりの良い者、逆に悪い者、腕が立ちそうな者もいれば、真っ当な仕事をしていなさそうな人相の者まで、色々な人がテーブルを囲んでいる。


「全員がガッテブーラの情報通だ」


 お兄さんが紹介してくれる。

 僕はお兄さんに礼を言って、情報通と紹介された人たちの前に出る。


「一人頭銀貨一枚で話せるところまでお願いします」

「作法は知ってるみたいだな」


 いや、適当な金額設定だったけどね。

 僕が代表であることを示す様にテーブルを囲む席に座る。

 銀貨を配ると、情報通たちは僕を見据えながら口を開いた。


「勇者は帝国軍の指揮下にある。基本的には森の中で魔物の間引きをやっているな」

「戦闘風景を見た人は?」

「ギルドの冒険者が何人か。とんでもない化け物ぞろいだそうだが、どうも勇者たちも一枚岩ではないらしい。詳しい内情は調査中だ」

「帝国軍の指揮官は?」

「バリエス将軍。勇猛だが突撃するのはここぞという時だけ。伏兵を良く用いる」

「なるほど。地形を調査、把握できないと伏兵は使えませんし、適材適所ではあるんでしょうね」


 帝国としても最優先は製造施設の制圧か。少数民族に対して何かを仕掛ける方が優先かも知れないとうっすら考えていたけれど、すぐに敵対するつもりがないのは朗報だ。

 しばらくガッテブーラを拠点にしたいと思ってるから、騒ぎを起こされると僕らにも飛び火しかねないのだ。


「バリエス将軍は政治に強い方ですか?」

「政治?」

「はい。帝国内での権力争いです」


 銀貨一枚で引き出せる情報ではないのか、情報通たちが僕を値踏みするような目で見始める。


「勇者を率いているくらいだ。政治力はあるだろう。すくなくとも、皇帝に信頼されていなくては、まとまった戦力の指揮権を持ってこんな辺境まで派遣されない」

「仮に勇者が不祥事を起こしても、バリエス将軍が更迭されることはない、と?」

「何をするつもりだ、お前たち」

「何もしません」


 僕らが勇者にちょっかいを出してバリエス将軍の更迭理由を作ろうとしている。そう考えたらしい情報通たちの目が険しくなった。


「バリエス将軍の政治力は高くない。だからこそ、更迭させるのはギリギリにするべきだ。具体的には、勇者連中が製造施設を制圧して疲弊した時に仕掛ける。妙な動きはするな」

「そちらで動く予定があるのなら構いません」

「ちっ、話したくない事まで口を割らせやがって」

「追加料金です」


 銀貨を二枚渡すと、情報通は面食らった顔をした。


「いけすかねぇ」


 それでも銀貨は回収するんですね。

 それにしても、と僕はギルドの中を見回す。

 ずいぶんと人が多いと思ったけど、まさかね。


「冒険者は魔物の討伐に出てないんですか?」

「勇者と潰し合わせないと帝国が調子に乗るだろう」

「勇者の人数は順調に減ってます?」

「今のところ、脱落者はいないらしい。本当に化け物ぞろいでな」


 これで決定、と。

 ここの人達、自分で魔物を討伐しようなんて欠片も思ってない。

 魔物の討伐後、帝国に反旗を翻すために冒険者という戦力を温存し、勇者と帝国軍を魔物と潰し合わせるつもりだ。

 異世界から召喚した勇者を使い潰すことに申し訳なさなんて感じてもいない。まぁ、召喚したのがこの人たちではないからといえばそれまでかも知れないけれど。

 僕がクラスのケダモノ連中と一緒に日本に帰ったら、この人たちも残った魔物と戦う事になる。でも、帝国軍と押し付け合うんだろうなぁ。

 まぁ、知った事じゃないや。


「勇者たちによる生産施設の捜索はどのくらいまで進んでますか?」

「地図の赤枠までだ」


 テーブルに広げられている地図を指差される。

 あまりにも適当な地図だ。測量なんてしているとも思えない。こんなもので赤枠までと言われても、照らし合わせる事も出来ない。

 この人たちは魔物の討伐を勇者に任せきりだから正確な地図なんて必要ないんだろう。

 いくつかの魔物の情報を聞いて、僕たちはギルドを後にした。



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