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逆襲途中でクラスごと勇者召喚された虐められっ子だけど、今度こそは!  作者: 氷純
第二章 生き残りの宣戦布告

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第八話  盗難被害

 魔法陣の基礎を学ぶのに要した日数は二日。本当に基礎の部分だけではあったが、教本として渡されたモノを読み解けるだけの事前知識は身についた。


「最初からある程度の基礎は齧っていたのですね」

「ギルドにあった魔法陣の本を読んだくらいだよ」


 後は数学的な作図の仕方とかは魔法陣を描く上で役に立った。計算その他の学問は世界が変わっても応用できるものらしい。

 精霊学とかはどうにもピンとこないけど、教本を片手にその都度調べていけば理解はできる。


「それじゃあ、僕の魔力についての調査は今日から解禁という事で」

「ようやくなのです。コウを罠にはめてやるその日が楽しみなのです」

「倍返ししてあげるよ」

「コウのへなちょこ魔法具なんか目じゃないので――サラ、その目は怖いのです!」


 売り言葉に買い言葉を交わしていた僕とユオナの間にサラが面白くなさそうな顔で割って入って来た。

 ユオナはどうもサラが苦手らしい。


「――っと、そうなのです。森に行って罠の回収をしないといけないのです」


 サラの視線から逃れるように僕の後ろに隠れたユオナが思い出したように言い出した。


「罠の回収?」

「コウたちが来るまでは森に仕掛けた罠で魔物を狩って魔法具の材料や食料を手に入れていたのです」

「意外と野性児」

「何を言うですか!」


 ポカポカと僕の背中を叩きだしたユオナはサラの視線に気付いてびくりと飛び退いた。


「と、とにかく回収しに行くのです。誰かに盗まれても面倒なのです」

「もう外は暗いよ?」

「暗い方が好都合なのです。姿を見られないで済みますから」


 そう言ってユオナが歩き出した方向はこの地下工房から出るための上り階段ではなく、工房奥の棚だった。

 何か道具を取ってくるつもりかと思ったら、棚の側面にある突起をレバーのように下げた。

 カコンと小さな音がして、カラカラと棚が横にスライド。その裏から暗い通路が現れた。


「地下通路?」

「この建物の元の持ち主が密売をやっていたようなのです。これはいわば秘密の搬入経路です。今のデムグズでは密売なんてやれないですけどね。なにせ、持込み品に制限がないですから」

「何を持ち込んでも合法って事かな。流石はアウトローの街」


 それでいいのか、と思わないでもないけど。

 通路はかなり奥まで続いているらしく、先が真っ暗だった。

 ユオナに導かれるままに通路の奥へと進む。僕を真ん中に、前をユオナ、後ろをサラの順番だ。横に並んで歩くにはどうにも狭い。


「どこまで続いてるの?」

「防壁の外まで行けるのです」


 ユオナの言葉通り、かなり長く感じた通路の出口はデムグズを囲む防壁の外だった。

 こんな抜け道があるのか。


「ユオナなら、変装魔法具で買い出しに出かけることもできるんじゃないのか?」

「『どっかそこらのだれかさん』は携帯できる大きさの魔法具じゃないのです。あれは魔力をかなり消費するですから、頻繁には使えないですし、携帯用の変装魔法具じゃ男の子の振りをするのが精一杯なのです」

「背丈は誤魔化せないって事?」


 訊ねると無言で頷きが返ってくる。分かってはいたけど、魔法も万能ではないのか。

 サラを見ると、耳をせわしなく動かして気配を探っていた。


「コウ様、周りに人の気配はありません」

「魔物の気配はあるって事だね」

「向こうにひとつ」

「魔法具を仕掛けた方角なのです」


 ユオナが仕掛けたという魔法具にかかった魔物だろうか。

 現場に向かうべく歩き出す。

 この辺りはデムグズの住人も足を踏み入れない森の奥らしく、木々が鬱蒼と茂り、じめじめと淀んだ空気とすえた臭いが充満している。


「コウ様、その木に触れてはダメです」


 サラに袖を掴まれて足を止める。暗くて頼りない足元に注意して、支えを求めた手が触れそうになったのは何の変哲もない一本の木だ。


「暗くてよく見えないんだけど」

「昼間でも薄暗い上に触るとかぶれる木がたくさん生えているせいで誰も近付かないのです」


 そういう絡繰りか。

 革手袋を持って来れば、かぶれる成分を採取してビンに詰めたりボールに塗ったりして護身用の武器に出来たかな。

 奥へと進んでいくと、魔物が倒れていた。猪のような魔物だ。この辺りではよく見かける。

 魔物を見たサラが目を細め、僕とユオナを止める。


「近付かないでください。寝た振りをしているだけです」

「おかしいのです。この辺りに罠を仕掛けたはずなのですが」

「迂闊に動くと危険って事か。僕が破魔ナイフを投げるから、サラが止めをお願い」

「分かりました」


 言葉と同時に、僕は破魔ナイフを魔物に投げつける。

 寝たふりをして寝転んでいた魔物だったけど、僕が破魔ナイフを投げた事に気付いて飛び起き――ようとして倒れ込んだ。当然、破魔ナイフが魔物の腹部に突き刺さる。

 破魔ナイフの有効圏内に入ったせいで身体強化が使えずに起き上がれなかったのだろう。

 戸惑った様子でなおも立ち上がろうとした魔物の首筋にサラが投げつけたナイフが突き刺さる。

 魔物は身体強化が使えない上、サラは身体強化込みでナイフを投げつけたものだから、魔物の首に深く突き刺さっていた。あれでは呼吸できないだろう。

 魔物の喉から空気が漏れ出る音がする。立ち上がる事も出来ず、魔物はそのまま絶命した。


「こんなにあっさり倒せる魔物じゃないはずなのです」


 納得いかないような顔のユオナはもしもに備えて構えていた魔法具をポケットにしまった。

 聞けば、炸裂すると同時に前方にいる魔力を纏った物へと破片を飛ばす魔法具らしい。えげつない。


「罠はどこに仕掛けたの?」

「この魔物が寝ていたところに埋めてあるはずなのです。炸裂していないとおかしいのです」

「コウ様では?」

「僕は何もしてないよ」


 魔法具を無効化するのが趣味な人、みたいに思ってない?

 クラスのケダモノ連中じゃあるまいし、人が努力して作った物を台無しにするなんて必要に迫られない限りやらないよ。

 魔物の死骸を木に吊るして血抜きしつつ、魔法具を探す。

 ユオナは魔法具を埋めた地面を掘り返して調べた後、立ち上がった。


「……盗まれているのです」

「盗む?」

「はいです。こんなところまで来る冒険者はまずいないはずなのですが……」


 念のために周囲を見回して痕跡がないかを確認して、ユオナは諦めたように歩き出した。


「帰るのです」

「盗まれた魔法具はどうするの?」

「罠として森に仕掛ける以上、誰かに見つかって盗まれる可能性くらいは考慮しているのです。掘り返した時点で自壊するので技術を盗もうとしても無駄なのです」

「自壊機能までつけて守ろうとする技術なの?」

「……早く帰るのです」


 話を打ち切って足を早めるユオナについていく。

 ユオナ独自の技術に触れる質問だったのかもしれない。

 単純に気になっただけだったんだけど、不躾な質問だったか。

 魔法具に魔力を供給する電池の役割を果たす魔法石は互いに干渉してしまうため、二つ以上組み込むことができない。余計な機能をつけるとその分魔力を消費するから、大きめの魔法石が必要になってしまう。

 それくらいなら、盗まれても問題のない基礎的な技術だけで魔法具を作ってしまった方が効率的だと思ったんだけど、ユオナにも何か事情があるのだろう。

 岩陰に隠してある地下通路の入り口に入り、擬装用の魔法具を起動させる。出入口を施錠した後、まっすぐに地下通路を歩く。


「この地下通路、手掘りじゃないよね」

「魔法具を使ったのでは?」

「便利だね」


 掘削用魔法具、なんて工事用重機みたいなものもあるのか。

 ユオナを見ると、肩を竦められた。


「ただ掘るだけならわざわざ魔法具を使わなくても普通に魔法を使えばいいだけなのです。コウやサラは魔法が使えないから分からないと思うですが」

「そうなんだ。っていうか、魔法石の採掘している人達は魔法使ってなかったな」


 身体強化でつるはしを振るっていた。


「魔法は細かい調整が難しい事もあるのです。魔法石に傷がついたり、間違って砕いてしまうよりは手掘りの方がいいはずなのです。適材適所という言葉を頭に刻み込んでおくのをお勧めするですよ」

「魔法ってものがどうもピンと来なくてね」


 自発的に使った事すらないから。


「そういえば、注文していた魔法具の方は?」

「ちょっとずつ作ってるのです。コウに魔法陣を教えてその合間に作っているのであまり進んでないですが、半分くらいは出来てるのですよ」


 まだ僕が魔法を使う日は遠いらしい。


「僕の魔力の調査ってどうやるの?」

「まずは精霊球で魔力の適性を見るのです」


 やっぱりあれか。召喚初日に城で触るように言われた、中にいる精霊の反応で魔力の適性を見極める水晶。

 取引の結果だから仕方ないとはいえ、精霊に疎まれる魔力と知ってどんな反応をするのやら。

 工房に戻って棚を再びスライドさせて元の位置に戻す。


「確かこの辺りに置いてあったはずなのです」


 部屋の隅に置かれた木箱の中身を漁っていたユオナが見覚えのある水晶玉を取り出した。

 テーブルの上に水晶玉を置き、ユオナが魔力を込める。すると、ユオナの魔力に引かれた精霊が集まったのか、水晶玉が光を放ち始めた。

 以前、城で見た勇者たちの中で魔法適性のある大飯田たちはもっとまばゆく水晶玉を光らせていた。ユオナの魔力は大飯田たちよりも魔法適性が低いのだろう。


「さぁ、触ってみるのです」

「いいけど、こんなだよ」


 人差し指で水晶玉をちょんとつつく。ただそれだけで水晶玉から光が消え失せた。

 驚いたように瞬きして水晶玉を見つめていたユオナは、僕と水晶玉の間で視線を行き来させた後、大きく頷いた。


「魔法を打ち消す魔力というのは嘘で、精霊を遠ざける魔力だったのですか」

「そういう事」

「凄く便利なのです。いや、コウ自身にとっては使い勝手が悪いと思うですけど。この魔力を使えば魔法石に込めた魔力のロスをほぼゼロに出来て、燃費がすっごく良くなるのですよ」


 精霊が逃げ出した水晶玉を抱えて、ユオナは感心したように言う。

 すぐに魔法石と絡めた利用法を考えつくあたり、やはり魔法具職人だけはある。


「僕の魔力はこの通り特徴的だから、他言無用でお願いね」

「分かってるのです。こんな本人特定が容易過ぎる魔力、ペラペラしゃべったりしないのです。ここはデムグズ、ほとんどの人が隠れ住むために移住してくる街なのですよ」


 誰から隠れているかは人それぞれだろうけどね。僕みたいに帝国から逃げている人って他にもたくさんいたりするのだろうか。

 クラスのケダモノ連中から脱走者が出たりとか?

 ないな。メリットがない。上手く日本に帰れても脱走者はクラス全員から睨まれるだろう。

 それくらいなら帝国と一緒に僕を殺すことで合意するだろうし。




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