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逆襲途中でクラスごと勇者召喚された虐められっ子だけど、今度こそは!  作者: 氷純
第二章 生き残りの宣戦布告

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第三話  素材集め

「ど、どち、どちらーさま?」


 動揺しまくりの声が玄関の扉越しに聞こえてきた。

 確かに、若い男の声だ。


「すみません。魔法具の注文と魔法陣についての講義をお願いしたいんです。時間がないようでしたらまた明日、改めて訪問しますが」

「ちょっ、ちょっと待って。……庭のトラップは?」

「トラップですか? 存じませんが、それらしいものはちらほら見かけましたよ」


 発動しなかったからどんな効果のトラップなのかさえ分からないけどね。

 僕の魔力は精霊を遠ざけるだけだから、魔法具が壊れているとは思えないけど。

 玄関越しに小さな唸り声が聞こえてくる。


「魔法具の注文って話、詳しくどうぞ」

「手持ちがあまりないモノで、銀貨三枚くらいで発動するようなものを一つ作ってほしいんです。発動さえすればその効果は問いません。ただ、目に見える形で発動する物でないと困りますけど」

「……銀貨三枚はちょっと、足元見過ぎでは?」

「材料など、森で取れる物であれば取ってくるつもりです」

「素材持込みならまぁ納得。そこに居てください」


 玄関先で待たされること数分、玄関扉の下の僅かな隙間から一枚の紙が差し出された。

 色々と書かれている。ほとんどが魔物の素材で、魔法石についても書かれていた。何故か肉や野菜の類まで書かれている。


「そこにあるモノの内、最低でも七つは持ってきて、箱詰めして玄関先に置いておけば、三日以内に作ってやります」

「ありがとうございます。ところで、魔法陣についても色々とご教示願いたいんですが」

「手の内は晒さない」

「ごもっともです。では、素材を持ってきますね」


 結局一度も顔は拝めないまま玄関先で別れを告げて、僕はサラと一緒に庭を通り抜けて敷地を出た。当然と言うべきか、トラップの魔法具は発動しなかった。


「この様子だと、僕が魔法具を使うのは難しそうだね」

「コウ様の魔力で精霊が逃げてしまうので、魔法具の発動条件を満たせないのでしょうか?」


 庭を振り返りながら、困ったような顔でサラが呟く。


「サラの予想通りだと思う。ただ、精霊が逃げないようにあらかじめ魔法具の周りを僕の魔力で囲んでしまえば、発動できるかもしれないね。庭に仕掛けられてるトラップで試すわけにもいかないから、素材を集めて持って行かないと」


 改めて、渡された紙を見る。

 魔物の肉や野菜、野草などの食材は多分、魔法具製作者のあの若い男の人が食べるためのモノじゃないかと思うけど、見ず知らずの僕みたいな奴に自分の口に入る物を任せるとも思えない。ちょっと不思議だ。

 まぁ、いいか。


「最低でも七つって言われたけど、魔法石以外は手に入りそうだね。さっそく、明日から集めて回ろう」



 翌早朝、僕たちはさっそく森へと出かけた。


「これかなっと」


 革手袋を付けて毒草を根っ子から採取する。

 少し離れたところで戦闘音がしているのはサラが魔物を斬り殺しているからだ。


「コウ様、取ってきました!」

「お疲れ。顔に血が付いてるよ」

「あ、すみません」


 タオルを渡して、サラが持ってきてくれた魔物の尻尾を袋に詰める。


「あとはスロラピオの尻尾の先と――」


 魔法具の材料として指定された品物は数こそ多いけれど、採取に苦労する物はほとんどなかった。

 強力な魔物でも、身体強化をしてツッコんできてくれるから僕の魔力で即死させられる。


「スロラピオです」

「どっち?」


 サラに先導してもらって歩き始めると、森の奥にあるだだっ広い沼に獲物がいた。沼の水面を眺めてこんな早朝から黄昏ているスロラピオには悪いけど、お亡くなり頂こう。


「サラ、当てられる?」

「尻尾を使うなら、頭に当てて挑発しますか?」

「二重強化でいってみよう。初撃で殺せるならその方が安全だし」


 身体強化中のサラの身体の回りに僕の魔力で精霊を集めて、身体強化の効果を跳ね上げる。僕が二重強化と呼ぶことを提案したこの連携技は効果も折り紙つきだ。

 サラが二重強化状態で石を投げつける。

 サラが腕を振り切ったのとほぼ同時に、三百メートル先に居たスロラピオの頭が砕け散った。石が着弾したと思しきスロラピオの後ろの水面から噴き上がった水柱が飛び散ったスロラピオの諸々を洗い流した。


「……前にやった時より威力上がってるね」

「コツが掴めてきました」


 ぐっと右手を固めて、サラは尻尾を左右に振る。二重強化状態のせいで尻尾はまるで鞭のような鋭い音を立てている。

 出会った時はスロラピオに殺されそうになっていたのに、今じゃ遠距離からワンショットキル。これが成長だとしても振れ幅大きすぎる。

 まぁ、半分くらい僕のせいだけど。


「今の状態でレシパとかと戦ったら、骨も残しません」

「戦わないで済むならそれが一番だけどね」


 スロラピオの尻尾を回収して、ついでに近場にあるという魔法石の鉱脈を見に行く。デムグズの街が管理している鉱脈ではあるけれど、そこらに転がっている屑石の類であれば勝手に拾って行って構わないらしい。

 そして、注文した魔法具の材料には魔法石の屑石も欲しいと書かれていた。


「屑石っていうくらいだし、使い道がなさそうなんだけど」

「凄腕の魔法具職人だそうですから」


 なんで屑石と呼ばれているのかもわからない僕が考えても仕方ないって事なのかね。

 鉱脈ではむさ苦しい男たちがつるはしなどを担いで仕事に精を出していた。

 邪魔な屑石はそこらに山を作っているから適当に持って行っていいらしい。


「これが屑石」

「小さいですね」


 サラの言葉通り、屑石は数こそ多いけれどとても小さかった。

 魔法石は宝石店で扱われているのを見るくらい高価で需要が大きな石だけど、ここにあるのは大きな別の石に埋まった小指の爪ほどのサイズの小石ばかりだ。

 屑石は何も小さな魔法石だけを指している言葉ではないらしく、商品価値のない石は総じて屑石と呼ばれているらしい。おかげで、小さな魔法石を探すのも大変だった。

 僕だけでは日暮れまでかかりそう。

 ――というわけで、


「サラ、二重強化」

「はい」


 サラの身体能力を引き上げて、視力を向上させる。

 屑石の山を眺めながら周囲を回っていたサラは時折り小石を拾い上げては皮袋に入れていく。

 山を三周回るだけで済ませたサラの手元の皮袋にはこんもりと屑石が入っていた。


「素晴らしい効率。ついでにその小石同士を擦りつけて削って、魔法石部分だけ取り出して」

「はい!」


 がりがりと研磨機さながらの音を立てて小石を擦り合わせたりかち合わせて大ざっぱに削っていき、魔法石を取り出していく。

 そんな作業をするサラの横で、僕は少し遅めの朝食の準備を始めた。

 道中で狩ってきた魔物の肉だから熟成も不十分で美味しくはないけど、贅沢を言っても仕方がない。


「肉は少なめでいいかな。どうせおいしくないし。山菜メインでいこう」


 てきぱき調理中、鉱山でピクニック気分に朝食を準備する僕たちを奇異なモノを見る目で過ぎ去る鉱夫のおじさん達にお肉を振る舞う。串を刺して焼いただけのシンプルなものだ。

 軽食にどうぞと渡すと案外喜ばれた。狩ったばかりの肉だからそんなに美味しくないはずだと伝えたのにもかかわらず。

 空腹は最上のソースという事か。


「出来ました」

「早いね」


 小粒の魔法石をいくつも手の平に乗せて見せびらかせてくるサラを褒めて、皮袋に魔法石を保管しておく。

 代わりに朝食を差し出して、僕は集めるべき素材を確認する。


「一通りそろったかな。魔法陣用のインクとかは作り方を知らないし」


 個人で揃えられるのはこれが限界だろう。

 朝食を食べ終えたら木箱に入れて魔法具職人の玄関先に置いておこう。

 そう思いながら木の実の入ったパンを齧った時、串肉を頬張っていた鉱夫の一人が顔を上げた。


「坊主、魔法陣用のインクだったら個人で作れるぞ」

「そうなんですか?」

「おう。魔力を込めないようにして、炭と膠と魔法石を砕いた奴を混ぜて、食用油で伸ばすといい。最近じゃあ、ある種の魔物の皮か毒液でも作れる」

「毒液って、スロラピオとかですか?」

「そうだ。って、持ってるのか」


 僕が取り出した細長い袋状の素材を見て鉱夫が声を上げる。

 さっき仕留めたスロラピオの毒腺である。ギルドで買取してくれるから採集してきたんだけど、正解だった。

 鉱夫さんたちに教わりながら魔法陣用のインクを作成する。


「手際が良いな」


 やってることは化学の実験とあまり変わらないからね。基本的に混ぜるだけだし。

 毒液に関しては中和する必要があるのが面倒といえば面倒だったけど、難しい作業でもなかった。

 僕に作り方を教えている間、鉱夫さんたちの作業の手が停まっていたけれど、流石はアウトローの街、出来高制だから時間の使い方をとやかく言われることはないらしい。


「串肉の礼だ。気にすんな」

「では、残りのお肉もどうぞ」

「いいのか?」

「どうせギルドに売るだけですから」


 ここで食べるのに少し削っているのもあって、買い取ってもらえるか分からないのもある。

 サラと二人で食べるにはあまりにも多すぎるので、買い取ってもらえない場合は宿屋の厨房におすそ分けしようかと思っていたくらいだ。持ち運ぶ手間を考えるとここで引き取ってもらっても同じである。

 仕事が終わったらバーベキューだと意気込んでいる鉱夫たちに別れを告げて、僕は出来上がった魔法陣用のインクやその他の素材を持って、サラと一緒にデムグズへと帰る。

 街道を歩いて防壁を潜り、その足で魔法具職人のご自宅へ直行する。


「コウ様、また庭を素通りするおつもりですか?」

「玄関に置けって言ったのは向こうだからね」

「それはそうですが、脅迫しているようなものでは?」

「僕は丁寧に振る舞ってるよ」


 取引にも値切りせずに応じたし。

 そんなわけで、今回もお庭を突っ切らせて頂こう。


「罠、増えていませんか?」

「前回、僕に反応しなかったから増やしたんでしょ。だから玄関に置けって指示を出したんだよ」


 デバッグ作業とか、そんな感じ。

 まぁ、無意味なんですけどね。

 何事もなく平穏無事に玄関前に到着して、僕は扉をノックする。


「昨夜の者です。素材を集めて来たのでここに置いておきますね」

「……はいです」


 ちょっと落胆したような、諦めたような声が扉越しに応じてくれた。


「勝った」

「コウ様、時々子供っぽいです」


 サラも言うようになったね。



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