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ヤンデレ王子と風の精霊  作者: 東稔 雨紗霧
3st監禁

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29/38


 「おーほほほほ、ざまあないわね!所詮、貴女は中位!!貴女程度が高位精霊である私に叶う筈がないのよ!!貴女はそうやって惨めに這いつくばっている方がお似合いよ!」



 あんなに綺麗だった花畑は二人の放った暴風で全て散り、多くの場所が地肌を見せている。

 その地面となった場所のひとつでボロボロのアリアが地に伏しており、その顔を同じくボロボロになった姿のフーイが踏み付けている。

 二人ともまさしく満身創痍と言う他ない姿だった。

 顔を踏まれながらも闘気を宿した目で睨みつけてくるアリアにフーイは鼻を鳴らす。



 「あら、何かしら? 無残に負けた敗北者風情が何か言いたいことがあって?」

 「…た……………ま」

 「なあに、もっと大きな声で言ってくれないかしら?」



 アリアの顔から足をどかし、にやにやしながら傍にしゃがみ込んだフーイの頬にアリアは唾を吐いた。



 「くたばれクソあまって言ったのよ」

 「このっ!」



 逆上したフーイはアリアの腹を何度も足蹴にする。

 何度も、とは言っても普段あまり運動をしないフーイは数発蹴ると体力の限界に達し、肩で息をしだしたため直ぐに辞めた。

 ぜいぜいと荒い息を整えながらハンカチを取り出すと汗と唾を拭う。



 「まあ、負け犬の戯言に熱くなってしまうなんて、私ったらはしたないわ。こんな姿をレイン様に見られてしまったら幻滅されてしまうかもしれないわね」



 ぱたぱたと身なりを整えたフーイは指を鳴らし、アリアを風で浮かばせて穴へと運ぼうとするが、お互いに限界まで消耗戦を行っていた為に少しの風を出す力しか残っていなかった。

 その事に眉をしかめ、舌打ちをすると徐に地面に倒れているアリアの腕を掴んで引き摺り立たせ、人間界へと続いている穴へと引っ張っていく。



 「この、重いのよ……少しは痩せたら、どう……!」

 「やめて!触らないで!!」



 アリアを掴み、人間界へと続く穴へと引き摺るフーイをアリアは残った力を絞り出して抵抗する。



 「何よ、そんなに嫌がらなくても良いでしょう? 傷付くわね。本当なら最初はメラが来ようとしていたのよ?

 彼だったら問答無用で貴女を捕まえてそのまま穴から飛び降りていたでしょうね。私が来たことに感謝すらして欲しいわ。お陰で楽しめたでしょう?」

 「何を恩着せがましく言っているのか分からないけれども、どうせレインが自分の知らない所で私を異性と一緒にするのを嫌がったから貴女になったのでしょう?!」

 「チッ、ごちゃごちゃ喚くのもいい加減にしてさっさと落ちろ!」

 「あんな所に行くのなんか絶対に嫌よ!!」

 


 涙を流しながら全力で抵抗するアリアが腕を振り払った勢いにでフーイが足を滑らせた。

 皮肉な事に先程アリアを蹴る事で体力を消費したため、フーイには崩れた体勢から踏ん張れる程の体力は残っていなかった。

 その上、身の回りを全てお世話される高位精霊のフーイよりも自分で自分の事を全てこなす中位精霊のアリアの方が私生活で身に付く筋力は多く、それが勝敗を分ける事となる。

 フーイが足を滑らせ倒れた先にはアリアを引き摺り落とそうとしていた穴があり、その穴の上へと投げ出された彼女はそのまま吸い込まれる事となる。

 予想外の出来事にフーイは驚いた顔をしたが直ぐに口を歪ませた。



 「どうせ貴女もすぐこちらに来ることになるわ」



 そう言って彼女は震えて待っているがいいわと高笑いを残しながら人間界側へと姿を消した。

その笑い声を聞きたくなくてアリアは両手で耳を覆う。



 「絶対に嫌よ、私は二度とレインには関わらないと決めたの……!」



 両手で塞いでいるはずの耳の奥にはフーイの高笑いがこびり付き、アリアはただただ震えながら蹲る事しかできなかった。



✻✻✻



 気が付くとアリアはぼうっとヴァンの墓標にもたれる様にして座っていた。

 どうやってあの森から帰って来たのか全く記憶に残っておらず、買った筈の荷物も手元に無かったが、いつもの精霊具だけはちゃんと手首で揺れている事に安堵する。

 召喚拒否のその精霊具を祈る様に握り締め大丈夫だと自分に言い聞かせるが一向に不安は晴れず、カタカタと不安と恐怖で体が震えだす。



 「ヴァン……怖いわ……私、貴方が傍にいないだけなのに、心細くて仕方がないの…………ヴァン、お願い、助けて……」



 鼻を啜りながらヴァンの墓標に縋りつく。


 ああ、いやだ、恐ろしくて恐ろしくてたまらない。

 あの時はヴァンが居たから、彼が居るからたとえレインに囚われようが希望を潰える事なく脱出までの日々を過ごす事ができたのだ。

 ヴァンが居たから、二人だからレインから逃れる事ができたのだ。

 やっとここに帰ってきて、ヴァンを連れてくる事ができて、穏やかに暮らせると思っていたのにどうしてそっとしておいてくれないのか。


 ポタポタと墓標にアリアの涙が零れ落ちては吸い込まれていく。

 その震える肩を抱き慰める者はいなかった。


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