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次の日、お昼の少し前に迎えにきたフーイと共に買い物を楽しんだアリアは両手に荷物を抱えご満悦だった。
ふんふんと鼻歌を歌い出しそうな彼女の様子にフーイも頬を緩める。
「随分と楽しそうね」
「そりゃあ、実際に楽しいもの!前々から気になっていたお店にもフーイのお陰で入る事ができたしね」
「ふふ、そんなに喜んでもらえるのなら連れて行った甲斐があったわね」
フーイの案内で高位精霊御用達のチョコレート専門店やスイーツ雑貨店で買い物をできたアリアは大満足だった。
今日二人で楽しむための物の他に明日以降も食べられる物をたくさん買い込んだので彼女の持っている買い物袋はパンパンである。
最初は風で浮かして運んでいたのだが、フーイの家の途中には風通りの強い場所があり、浮かしていると飛んで行ってしまう事があると忠告され、その場所を通るまでは手で持って歩くことになった。
両手にかかる重みに少し買い過ぎたかなと後悔したが、どうせそこを過ぎてしまえばまた浮かばせて運べるのだ、少しの我慢我慢とアリアは己に言い聞かせる。
「じゃあ、これからあの森に入るから足元には気を付けてね」
「ええ、分かったわ」
フーイの家は町はずれにある端の森と呼ばれる近隣にあまり住む者の少ない森を抜けた先にあると言う。
気位の高いフーイならば高位精霊の集まるお洒落な都市部の住んでいそうと思っていたが故にどちらかと言うと田舎と言う言葉が似合う場所に住んでいる事にアリアは意外だなと言う感想を抱く。
フーイが言うには確かに都市部も良いが自分はこう言う自然に囲まれた中で静かに暮らす方が好きなのだそうだ。
どちらかと言うと周りに中位精霊や低位精霊をはべらかしてお茶会やエステに行く方が好きそうだなと思いこんでいたアリアは自分はフーイに先入観を持って接していたんだなと思い至り恥ずかしく思った。
「あ、そうだわ、途中に陽光花の群生地帯があるのよ。丁度今が見頃で凄く綺麗なのだけれど途中少し寄らない?あ、ごめんなさい。荷物があったわね」
「陽光花?」
「あら? 知らないのかしら?一年の内に3日だけ咲く花で昼は夜の星明りの色で発行するから夜空花。
夜は太陽の光を吸収して光り輝くから陽光花と時間帯によって名称が変わる珍しい花なのよ。今の時間は夜空花が咲いていてまるで足元に宇宙が広がったかのような光景が見られるのよ。
とっても綺麗だから是非アリアに見せたいと思ったのよ」
「へえ、フーイがそこまで言うのなら本当にとても綺麗なのでしょうね。じゃあ、折角だし行ってみようから」
「本当? あ、でも荷物が……」
「これくらい平気よ。さあ、案内して頂戴」
「ええ、こっちよ」
フーイの案内で森に敷かれていた道から外れ森の中へと入っていく。
道を外れて十分程だろうか、突然開けた視界の先には宇宙が広がっていた。
「うわぁ!」
そう声を漏らしたきり目の前の夜空花の群生が織りなす絶景に目を釘付けになるアリアの様子にフーイは笑みを零した。
そして、アリアの精霊具の付いていない方の手を引いて花畑へと足を踏み入れる。
「こっちに来て、ここから眺めるのも綺麗だけれども、花畑の中央に立って見るともっと素晴らしいのよ」
「え、でも花を踏みつぶしてしまわないかしら」
「少しくらい大丈夫よ」
少し強引とも言える力強さで腕を引くフーイに引っ張られアリアも花畑へと足を踏み入れた。
夜空花はアリアとフーイの膝程の高さがあり、二人の足に触れて揺れるとそこから流れ星が流れていく様に発光する。
「わあ、これも凄く綺麗ね」
「アリア先を歩いてみて、先に歩いた方が星が流れているのが良く見えて綺麗よ。中央への道案内は私がするから安心してね」
「分かったわ」
フーイに言われた通りに先頭を歩くと確かに先程よりも星が流れていく数が多い。
楽しくなってワザとフラフラと蛇行すると危ないからちゃんと歩きなさいと後ろにいるフーイから注意が飛んできた。
そろそろ中央かなと思ったアリアがねぇ、とフーイに振り返った時、左手にしていた荷物が強い力でぐんっと下へと引っ張られる。
咄嗟に荷物から手を放し、横へ飛びのいたアリアは先程まで自分がいた場所へと視線を向けると夜空花の色に紛れるかのようにぽっかりと大きな穴が空いているのが見えた。
穴の周辺には手放した筈の荷物が転がっていない事からあの穴の中へと吸い込まれたのだろうと推測する。
何故あんな所に穴がと疑問に思うよりも早く思考が回転し、答えを導き出したアリアはもう片手に持っていた荷物から手を放し、いつでも動けるような姿勢をとる。
「そう、そう言う感じなのね」
残念だなと言う気持ちとやっぱりかと言う気持ちがせめぎ合いアリアは大きくため息を吐いた。
「あーあ、あともうちょっとだったのに、残念」
ちっとも残念ではなさそうにそう言うフーイにアリアは視線をきつくする。
「最初からこのつもりだったのね。だから真名も明かさなかったし私生活の事も全部はぐらかしていたのね」
「ええ、そうよ。大体、高位精霊たる私が貴女何かと本気で仲良くなりたいと思う訳ないでしょう?本当におめでたい頭ね」
「……信じていたのに!貴女が言った様に人間界での関係を精霊界では持ち込むものではないのだから、これからは貴女と仲良くできたら良いなって……できると思っていたのに全部、全部嘘だったのね!!」
「そうよ、貴女と仲良くしたいだとかレイン様の事も全て忘れていこうとか全部、ぜ~んぶ真っ赤な嘘♡。本当は面倒で面倒で堪らなかったわ」
「っ!!嘘吐き!貴女なんて、フーイなんて大っ嫌い!!」
「あら、失礼ね。少なくとも過去は過去っていう考えは嘘ではないわよ?ただ、私はまだレイン様の契約精霊だからまだあの事は過去になっていないってだ・け。
あーあ、折角ここまでは順調にいっていたのにどうして最後の最後で振り向いてしまうのかしら?本当、悪運が強い女ね」
吐き捨てる様に忌々しそうにそう言ったフーイは自分の直ぐ横にある穴を指差す。
「ねえ、私も暇ではないの、一刻も早くレイン様からの任務を遂行してお傍に戻りたいのよ。だから、ここから落ちてくれない?」
こてんっと可愛らしく首を傾げてそうアリアに告げるフーイにアリアは嫌悪を強くする。
「嫌だと言ったら?」
「この綺麗な場所を荒らしたくないでしょう?それに私も手荒な事は苦手なのよ。服に埃がつくじゃない。ただでさえ、こんな土で汚れる場所にいるので不快なのに余計な事をしたくないわ」
「ふん、あの人間界で私に一度も精霊術を当てられなかった事、まさか忘れたの?」
「っ!」
鼻で笑って挑発するとフーイの頬が赤く染まる。
アリアを力強く指差し、わなわなと震える唇で宣告した。
「あれは偶々よ、中位精霊如きが高位精霊に叶う筈がない事をその身をもって分からせてあげるわ!!」




