第91話 偶然と必然
俺はその“玉”を手に取って鑑定する――
ドラゴンブラスト UR
全ての物質を消滅させる
光の波動を放つことができる。
倒した魔物の特性が現れてるスキルだ。だから今まで、これが魔物の“魔核”なんだと思い込んでいた。
だが、よく考えればこれはガチャから出てきた“アメ”と同じ物だ。
続いていた‥‥‥‥ガチャの自販機が消えて終わったと思ってたけど、そうじゃなかった。
この“魔核”だと思っていた物は誰かが置いてるんだ。ガチャと同じように俺の前に‥‥‥‥だとしたらガチャを見つけたのも偶然じゃないのかもしれない。
もし全てが誰かの思惑なら‥‥‥。そんな考えが浮かんで、ゾッとした。俺に何かをさせようとしてるのか?
考えても分からないことだらけだ。俺は亜空間を開き“ドラゴンブラスト”の玉を中に放り込んだ。とても食べて取り込む気にはなれない。
空を見上げた。
今も誰かに見られてるのか‥‥‥?
◇◇◇◇◇◇◇◇
「やったのか? 五条が‥‥‥」
光の線が何本か走ったと思ったら、ヒュドラの姿が突然消えた。五条が剣を使って倒したのか?
「レオの旦那‥‥ヒュドラの気配が完全に消えた。やったんだ五条が!!」
俺たちは急いで五条のもとへ向かった。特に王はすごいスピードで走っていったので、誰も追いつけなかった。
俺たちが着いた時には、五条と王は会話をしていた。気のせいだろうか? あれだけの偉業を成し遂げたのに、五条はどこか浮かない顔をしているように見える。
「五条‥‥倒したんだなヒュドラを!」
「ああ、間違いなく倒したから安心してくれ」
「ゴジョー! もっと強い竜が出てくるとか無いよね!?」
フレイヤも心配そうに五条に聞いていた。
「ないない。もうさすがに勘弁してほしいよ。この辺り一帯に強い竜はいないし、竜の数自体も減っていくと思うよ」
その言葉を聞いて、俺を含めここにいる全員が安堵の表情を浮かべた。やっと終わったんだ‥‥‥。
◇◇◇◇◇◇◇◇
とりあえず、みんな助かったし竜も倒せたんだから良しとするか。なんにせよ今回は、この剣に助けられたな。
俺が右手に持っていた剣を見ると‥‥‥
「あっ!!」
「どうした五条!?」
俺の声に驚いたレオが聞いてきた。
「壊れてる‥‥‥」
「え?」
レオやみんなの視線が剣に集まる。俺が持っている剣は全体にヒビが入り、ボロボロになって刃こぼれしていた。
俺が無茶な使い方をしたせいか‥‥‥‥。
ただでさえ勝手に持ってきたのに、あまつさえ壊してしまうとは‥‥サルマンって人に激怒されそうだ。
「大丈夫、俺がサルマンさんに言っておくから」
レオが笑顔で言ってくれた。おおお‥‥もはや本物の勇者にしか見えない。
「お願いします」と言って、レオに壊れた剣を渡した。今の俺の鍛冶職のレベルじゃ、あんなレアリティの高い武器は直せないからな。
もしかしたら、とんでもない賠償金を払うハメになるかもしれないが‥‥‥。
「とりあえず一旦、戻ろう」
俺はそう言って亜空間に切れ目を入れ、出入口を開いた。空間の向こうは、フランスのブレストに繋げてある。
「この中を通れば他の場所に行けるのか?」
王は興味深々で聞いてきたが、劉さんを始め聖域の騎士団のメンバーは戦々恐々としている。
そんな中、グレスが先に切れ目に入った。
「俺は死ぬほど入ったから、もう慣れたよ」
グレスが諦めたように言って、向こう側の世界に消えていくと王も躊躇なく入っていった。二の足を踏んでいる聖域の騎士団のメンバーもいたので‥‥‥。
「維持してるのも結構大変なんで早めに入って」
俺が催促したので、結局全員でブレストに移動した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【NATO軍参謀本部・ハンゼン陸軍大将】
「聖域の騎士団が戻ってきた!? 本当か!」
本来“統率者”を倒したなら、アイルランドに入って生存者の救出を行うはずだ。発見できなかったとしてもアイルランドに入ることは決まっていた。
軍艦や潜水艦もアイルランドへ派遣する予定だったからな‥‥‥。
聖域の騎士団はアイルランドからしか帰る方法が無いはずなのに、どうやって帰ってきたんだ?
「各司令官と政治本部長を集めろ。会議を開く! 準備ができしだい第一会議室にレオを呼べ」
NATO軍の海上部隊が全滅したのを聞いて、彼らの生存も絶望的と思われていたが‥‥‥さすがに“異能者”ということか。
その後、緊急の会議が開かれることになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「入ります」
目の前の扉を開けると3台の机がコの字に並べられ、NATO軍の幹部が着席している。
「レオ、無事で良かった。心配したぞ」
「恐れ入ります」
「さっそくだが、ドラゴンの“統率者”を討伐した。ということなのか?」
「ハイ。“統率者”を確認し、その後討伐しました」
その場にいた者の「おお~」と感嘆の声が部屋に響く。
「どんなドラゴンだったんだ!?」
「ああ、詳しく説明してくれ」
出席者から質問が飛んだ。当然、色々なことが知りたいだろうが‥‥‥。
「“統率者”は赤い巨大なドラゴンです。かなりの難敵でしたが、仲間と協力してなんとか倒すことができました」
「で、ドラゴンに止めを刺したのは君なのか? レオ」
最終的に誰が倒したのか知りたいようだ。俺は一呼吸置いてから答えた。
「それは‥‥‥」
◇◇◇◇◇◇◇◇
――数時間前
俺たちはブレストの軍施設で待機していた。今は控室で全員が集まっている。
「それで五条、君のことを教えてくれないか? 無暗に口外しないと約束するよ」
レオが真剣な面持ちで聞いてきた。話すって約束したからな‥‥。俺は今まで自分に起きたことを全部レオたちに話した。
ガチャが現れたこと、自衛隊や不死の王のこと、アメリカでの戦いなどだ。
俺の話を黙って聞いていた王や劉さん、レオを始めとする聖域の騎士団のメンバーも半信半疑といった感じだった。
「うーん、でも信じがたい話だね。何か証明できる物とかってあるの?」
カルロが困惑した表情で言ってきた。証明か‥‥‥。
「こんなのはどうかな?」
俺はカルロの持っていた指輪やブレスレットを机の上に置いた。それを見せると一瞬思考が停止したように黙った後、驚いて聞いてきた。
「それ! 俺が嵌めてたやつ!? どうやったんだ?」
「時間を止めたんだ」
「「えっ!?」」
全員、絶句していた。
「そんなこともできるのか!?」
グレスでさえも驚いている。グレスは俺のステータスが全部見えてるって話だったが“時空間操作”の表記だけだと分からなかったのかな?
「それが“ガチャ”で身に付けた能力なのか? 他にはどんなのがあるんだ!?」
王が目を輝かせて聞いてくる。よほど興味があるのか‥‥‥。
「他には“不老不死”かな、年を取らないみたいだ」
「そんなのもあるのか!! いいな‥‥私も欲しいぞ!」
王はテンションが上がっているみたいだが、レオや他のメンバーは遠い目をしていた。まあ、それが普通の反応だろうな‥‥‥。
俺は亜空間から“魔核”だと思っていた物を取り出す。
「これがヒュドラのスキルを取得できる“玉”だ。ガチャから出てきた物と同じ物だと思う」
俺の手に乗った“玉”をレオたちは興味深そうに見ている。
「使ってみるか? レオ」




