第84話 断罪の光
空中に留まっているフレイヤやレオ、他の聖域の騎士団のメンバーも状況を見守っている。だが――
「ヴォォオオオオオオオ――――――――ッ!!!!」
炎竜王の咆哮が姿を覆っていた煙を雲散させる! その突き抜けた雄叫びは雲に風穴を開け、大地は揺れ、俺たちは立っているのも困難なほどだ。
炎竜王の叫びが収まった時、フレイヤとレオを乗せた飛竜がこちらに降り立った。
「グレス、どうだ!?」
レオがグレスに聞いたが、グレスは顔面蒼白になっている。
「ダメだ、旦那‥‥‥あいつはほとんどダメージを受けてない」
レオの表情に絶望の色が広がる。だが、本当の絶望はこのあと起こった。炎竜王の咆哮に答えるように大地が揺れ始める。
周りを見ると、常に目に入っていた山のように盛り上がっていた地面に次々とひびが入っていき、中から何かが出てくる。
甲羅を持ち、四足で歩行する巨大なドラゴンがわらわらと現れた! 体高は40メートル以上はあるだろう。一斉にこちらに向かってくる。
「グレス‥‥何だアレは!?」
レオの言葉を受けて、グレスは鑑定を行使する。
「アース・ドラゴン‥‥レベルは2000を超えてる!! もの凄い防御力だ。どうする、旦那!」
それだけではなかった。空からも黒い塊が接近してくる。飛竜の群れが大挙して押し寄せようとしていた。イギリス中のドラゴンが集まろうとしている。
「オイオイ‥‥まずいぞ、レオ! このままじゃ囲まれる!!」
ルカの言葉にレオは苦々しい顔になった。唇を噛み締めた後、俺たちに向かって叫んだ!
「撤退する! 囲まれる前にここを離脱するぞ!!」
全員、仕方ないと同意したが一人だけ納得しない者がいた。
「レオ!!」
フレイヤは今まで見たことが無いほど怒りに満ちた表情になっている。
「フレイヤ‥‥分かってくれ、一度撤退して次の機会を待とう」
「‥‥‥いや、それだけは嫌!!」
フレイヤはその場を駆け出し竜にまたがり、そのまま飛び立つ!
「フレイヤ! 行くな!!」
真っすぐ炎竜王に向かって飛ぶフレイヤに、レオの声は届かなかった。
「王!」
「どうした五条?」
「みんなの避難を頼む。なるべく遠くへ」
「‥‥‥‥分かった。気をつけろよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
ひたすらドラゴンの“統率者”に向かって飛んだ! 策があるわけじゃない。勝てる見込みがある訳でもない。
ただ、あの竜を‥‥‥私の家族を殺し、友人を殺し、国を奪ったドラゴンの王‥‥‥あの竜を必ず殺す!! それだけを人生の目標にしてきた。
“統率者”の近くまで来ると体が焼けるような熱気がある。呼吸をすれば喉も焼ける‥‥‥でも、構わない。たとえ体が全て焼け爛れようとも、この竜を殺すことができればそれでいい!
「ゲオルギウスの剣‥‥‥私に力を貸して」
右手に持った剣に全ての魔力を注ぎ込む! 剣は輝き、十倍以上の光の剣となってドラゴンの“統率者”に向かっていく。
竜の顔が間近まで迫った時、剣を真上にかかげた! これが私にできる最大の、そして最後の攻撃――
「――聖竜鋼断剣――!!!」
巨大な光の剣は確実に“統率者”の頭を捉え直撃した!! 光は爆発的に広がり辺りを飲み込む!
光が徐々に収まり竜の顔が見えてくると‥‥‥そこには僅かな傷が付いているだけだった。
竜の王は首を振り、口を開けて私に狙いを定めた。魔力が集まり口の中から炎が溢れ出す。もう避ける力も残ってない‥‥‥
ああ、ダメだった。ごめんね、みんな‥‥‥
「フレイヤーーッ!!」
レオの声が聞こえた気がした。瞼を閉じて、その時を待つ。
「まったく‥‥危なっかしいな」
「え?」
まだ生きてる? 目の前にはゴジョーがいた。
「どうして?」
突然のことに混乱したけど、徐々に意識がはっきりしてくる。そして、ありえない光景に目を疑った。
浮いてる‥‥? 目の前にいるゴジョーは空中に浮いていた。
風魔法だろうか‥‥いや、レオでもこんなことはできない! いったいなんなの、この人は‥‥‥?
「君だけならともかく、飛竜ごと助けるのは結構大変だからな」
「‥‥助けてくれたの? ゴジョー」
「あとは俺がやるから、フレイヤはここから離れてくれ」
そう言ってゴジョーは真っ直ぐ“統率者”のもとへ飛んでいってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「どうなってるんだ!?」
アレクサンダーが驚いたように言った。それはそうだろう、五条が突然消えたと思ったら、空中で“統率者”の放つ火球からフレイヤを助けていた。
なぜ浮いている? いつ火球を躱した? 疑問は尽きないが、それ以上にどうやってあそこまで移動したんだ!?
「レオ、五条が“統率者”ならフレイヤを助けたりするのか?」
ルカの言う通りだ。俺の考え過ぎだったのか? だが五条は謎が多すぎる。五条はフレイヤを助けた後、そのまま“統率者”の方へ飛んでいった。
「何をする気だ?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は炎竜王の目前まで飛んでいく。ドラゴンの“統率者”炎竜王からは凄まじい熱気が発せられている。
普通の人間なら近づいただけで焼け死ぬだろう。
この魔物を倒すには魔法や剣撃では通用しない‥‥俺の使う技でダメージを与えられるとしたら“メテオ・インパクト”だけだが、この空を飛ぶ相手に当てるのは難しいだろう。
より確実な方法でいくか‥‥‥
俺は自分の魔力を最大限に放出し巨大な魔法陣を展開する。いまだかつてないほど、体から魔力が抜けていく‥‥‥。
炎竜王は俺を睨み、明確な殺意を向けてくる! こいつを倒すにはこれしかない!!
巨大な魔法陣が輝き、天に向かって光の柱が立つ! 莫大な“魔素”が溢れ、大気は悲鳴を上げた。
「召喚!―――― 来い!!」
「―――タイタン―――!!!!」




