第80話 アモン
ロンドンの市街地に入ってから道路の荒れ方がひどくなってきた。車なども乗り捨てられボロボロの状態で放置されている。
「これ以上、車で進むのは難しいわね」
アンナの言うように道は瓦礫や車で塞がれている。前の車も止まって何人かが降りてきた。どうするか話し合ってるようだ。
俺たちも車を降り、レオのもとへ向かった。
「ここからロンドンの中心部まで10キロほどだ。歩いても行けるから車は置いていこう」
レオの言葉に従って全員歩くことになった。アレクサンダーはかなり大きい荷物を背負っている。あれで10キロ歩くのはキツいんじゃないかな? それにしても聖域の騎士団は結構な量の荷物を持ってきているが、何が入ってるんだろうか‥‥‥?
しばらく歩いていると“敵意感知”に反応がある。こちらに向かってきてるようだ。俺たちに気付いているのか? 数百‥‥‥いや、もっとか。
「レオ! ドラゴンが近づいてくるぞ。かなり多い」
俺の言葉にレオも反応する。
「ルカ、感じるか?」
「ああ、何体かは確認できるが‥‥」
「戦いやすい開けた場所に移動するぞ!」
全員、車などがあまりない大きな交差点にやってきた。聖域の騎士団のメンバーは荷物を置き、戦いの準備をする。
「来るぞ!」
ルカの言葉に緊張が走る。
「グギャ‥‥ギッ‥‥ギャッ」
ビルや車の陰から恐竜型のドラゴンがわらわらと出てくる。中心地に近いせいか、前に見たものより大きい感じがする。
ビルの上には大型の翼竜が居並んでいる。俺たちを確認し一斉に飛び立つ!! 通常の飛竜も合わせれば百体以上のドラゴンが滑空してきた。
フレイヤが迎撃のため飛竜と共に飛び立つ!
地上からも数百体のドラゴンが獲物を求め、我先にと襲い掛かってくる!! 俺も加勢しようと前に出たが‥‥‥。
「待て、五条!」
王が止めてきた。
「お前がやるとすぐ終わってしまう! 私にも戦わせてくれ」
「新しい武器を試したいだけだろ?」
「もちろんだ! どれくらい使えるのか知りたくて仕方ない。私も以前よりも強くなってるぞ、五条! 見ていてくれ」
そう言って王はドラゴンの群れの中へ飛び込んでいった。“気功”を流し大きく伸びた如意金箍棒でドラゴンを叩きつける! “気功”を纏った一撃はそうとう重いらしくドラゴンの頭蓋を砕いたようだ。
王の新しい武器は凄まじい威力だな‥‥‥。
棒が伸びる力を利用して突きを繰り出せば相手の体を貫き、空に向かって伸ばせば、どこまでも伸びるため空を飛ぶ飛竜すら打ち付け、そのままビルの側面に叩きつけた!!
間近に迫ってきたドラゴンには一瞬で棒を縮め、二体のドラゴンを棒で打ち払い三体目を回し蹴りで鮮やかに倒した。
「凄い威力だ。五条! 私も成長してるだろう!」
満足げな王だが、確かに以前より強くなってる。あの武器もそうとうな物だな‥‥。他に戦っている聖域の騎士団のメンバーに目を向けると‥‥‥。
レオは風魔法で広範囲のドラゴンを攻撃し、近づいてくるドラゴンはエリアスの“結界術”のシールドで完全に防御している。
他のメンバーも魔法陣や弓矢を使ってドラゴンを迎撃し、飛竜と戦っているフレイヤも苦戦している様子はないな。
念のため、いつでも魔法が使えるように亜空間から“魔道の杖”を取り出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「すごいね~王は。そんなに戦うのが好きなの?」
のほほんとした表情でカルロが尋ねてきた。
「カルロ! お前は戦わないのか? 他のメンバーは奮闘してるぞ」
「もちろん戦うよ。女性だけに戦わせるわけにはいかないからね~ところで王、この討伐が終わったらデートしてくれない? 君のことが気に入ったんだ」
カルロは確かイタリア人だったな‥‥‥イタリアの男は皆こんな感じなのか?
「私は弱い男には興味がない!」
「五条とは仲がいいよね。彼は強いの?」
「当然だ! 私は五条より強い男を見たことが無いからな」
「じゃあ、彼より強いと証明できたらデートしてくれる?」
戦いの最中に何を言ってるんだ。この男は‥‥‥。
「そんなこと出来るわけないだろ!」
「だったら見せてあげるよ‥‥‥」
杖をかかげたカルロの雰囲気が一変した。
「グリーン・ランドの“統率者”を――」
カルロの前で大きな魔法陣が展開する。
「召喚 ――悪魔――!!」
魔法陣の中から赤黒く血生臭い肉片が渦を巻きながら生物の形へと変わっていく。現れたのは角の生えたおぞましい悪魔そのものだ。
二体のドラゴンが悪魔に向かって飛び掛かる! 悪魔は軽く両腕を振っただけでドラゴンは細切れになって死んだ。
「ちょっと数が多いからね。減らしていくよ!」
むせかえるほどの“魔素”が悪魔を取り囲み、魔力が膨れ上がる。
「殲滅しろ!――猛毒の黒炎――!!」
悪魔が睨んだドラゴンは黒い炎に包まれ灰になるまで焼き尽くされた。飛竜も地上にいるドラゴンも悪魔に睨まれれば逃れることはできない。
炎に耐性があるはずのドラゴンが次々に消し炭になっていく。
大量にいた敵がほぼ壊滅したのを見て、悪魔は満足げな笑みを浮かべると黒い粒子となって消えていった‥‥‥。
「王、どうだった。結構強いでしょ?」
「お前‥‥意外とやるな‥‥戦えるなら最初から真面目にやれ!」
ハハハと笑うカルロを見てちょっと腹が立つが、どこか憎めない男だ。残ったドラゴンは地上にいる数十体のみ‥‥‥早々に片付くと思った時、異変が起きた。
「あらら‥‥‥これはヤバイかも‥‥‥」
空を見上げてカルロが呟いた。何かと思って振り返ると、向こうから空を覆い尽くすほどの黒い点がこちらに向かってきている。
「なんだ? アレは」
「ワイバーン‥‥飛竜よりは弱いが、あの数はマズイね。目的地に着く前に魔力が尽きてしまうよ」
「なんで急に現れたんだ?」
「うーん、もしかしたら悪魔の魔力に反応したのかもしれないな‥‥‥」
「お前のせいか!!」
「まあまあ、そんな怒らないでよ」
どこまでも飄々とした男だな‥‥‥。その時、向こうの通りにいたレオが大声で叫んできた!
「カルロ! 一旦退避するぞ!! 建物の中に逃げ込んで――」
「万雷」
あたりが光に飲み込まれる。




