第79話 閃光
車で走ること1時間。まだドラゴンには出会っていない。中心地に向かっているので、もっとわんさか出てくるかと思ったが‥‥‥。
気になるのが、やはり地形だ。至る所に青黒い大地が隆起しているが、それ以上に山のように盛り上がった大地が異様な光景を映し出している。
「後、どれくらいでロンドンの中心部なんだ?」
王が運転しているアンナに聞いた。車に乗る時、邪魔だった如意金箍棒を20㎝くらいの長さに縮めている。
「何も無ければ2時間で着くはずだけど、そんな簡単にはいかないと思うわよ」
その言葉通り、しばらく進むと“敵意感知”に反応があった。かなりの数の敵が向かってくるな‥‥‥。前のワンボックスカーが止まり、こちらの車も止まる。
レオやフレイヤなど4人が車の外に出てくる。
「私たちも加勢にいかないと!」
王が急いで車を出ようとするのを、カルロが止めた。
「必要ないよ。君たちは車の中で待ってればいい」
カルロはゆっくり車を降り、手に杖を持ち何かを待ってるようだった。
「何をのん気なことを言ってるんだ! ドラゴンが襲ってくるなら全員で戦わないと!」
「君たちは知らないんだよ」
「何をだ!」
「あの二人の実力を」
前方から来るのは地上を走る恐竜のようなドラゴンだった。空からは数十体の飛竜が群れをなし襲い掛かってくる。
「カルロ!」
前からフレイヤが走ってくる。カルロは持っている杖をかかげて前方に魔法陣を展開した。
「ハイハイ‥‥召喚!」
魔法陣の中から一体の飛竜が姿を現す。以前、俺が倒した飛竜よりは一回り小さいようだが鮮やかな青い竜だ。そして最も特徴的なのは背中に“鞍”が乗っていることだろう。
「ありがと!」
フレイヤはそう言うと軽やかに飛竜の背中にまたがり、そのまま空に飛び立った! あっと言う間の出来事だったので王は呆気に取られていたが、カルロはいつものことなのか淡々としている。
「驚いた? あれがフレイヤの‥‥竜騎士の職業スキル、“竜騎乗”だよ」
空を見上げればフレイヤが乗った飛竜は通常の飛竜よりキレのある動きをしているように見える。地上では恐竜のようなドラゴンがレオに向かって突進してきた!
カルロは慌てることもなく二人を見ているだけだ。
レオが鞘から剣を抜いて横に一閃‥‥‥。十体近いドラゴンは上下に体が切断され、そのまま絶命した。更に後ろから一回り大きいドラゴンがレオに向かって飛び掛かった!
レオは剣を振り上げ、今度は縦に一閃! ドラゴンは左右に体が分断されることになる。刀身はドラゴンに一切触れていない。
あれは魔法剣、“風”の魔法剣か‥‥‥。
「分かった? アレがうちのリーダー。“風使い”のレオ・ガルシアだ」
カルロはそう言って視線を空へ向けた。
「そして――」
飛竜を迎撃するため、空に舞い上がったフレイヤ。右手で剣を抜き天にかかげた! 剣は輝き、空に無数の光が顕在化していく!
「――光源の流星――!!」
無数の光が的確に飛竜の体を貫く! 海底で使った時は命中率が低かったが、これが本来のこの技の威力なんだろう。
六体の飛竜が地上へと落ちていく。更に向かってきた二体の飛竜を寸前で躱し、返す刃の一閃で二体の首と胴体を両断した! フレイヤの持つ輝く剣は、あらゆる物を切り裂いていく。光の魔法剣か‥‥‥。
「すごいっしょ! うちのポイントゲッターね」
「確かに凄いな‥‥‥」
思わず王が感嘆の声を上げた。
「“閃光のドラグナー”フレイヤ・クルス。彼女はそう呼ばれてる」
上ばかりに気を取られていたが、地上を見れば狩人のルカが仰々しい飾りが付いた弓を使って魔力の矢を放つ! 一度射ただけで三体のドラゴンの頭を貫いた。
空を飛ぶ竜も、地上を走る竜も彼にとっては関係ないようだ。
アレクサンダーは大剣を構え、刀身に炎を灯した。向かって来るドラゴン二体を薙ぎ払っていく!
「確かに俺たちの出番はなさそうだな」
俺がそう言うと王は不満そうな表情をしていた。新しい武器を試したかったのかもしれないな。粗方敵が片付いた後、死骸をどけて再び車で出発した。
「カルロは、あの二人との付き合いは長いのか?」
車の助手席から、後ろに座っているカルロに声を掛ける。長い杖を横向きに置いているせいで、王はかなり邪魔そうだ。
「長いっていっても半年くらいかな‥‥‥ここにいる全員“厄災の日”以後に集められてるからね」
カルロは車の外を眺めながら答えてくれた。
「いる時間は短いけど、今では家族以上の絆があるんじゃないかな‥‥‥少なくとも俺はそう思っているけどね~」
「さっき出した飛竜は倒さずに生きたまま“テイム”したのか?」
「ん? よく分かったね。そうだよ!」
フレイヤだけは竜に騎乗したまま先行して飛んでいる。時間がたってもドラゴンが消える気配がないので通常の“テイム”と違うことは察しがついた。
「彼女はね。一部の竜と心を通わせることができるんだって、だから“テイム”なんてしなくても仲間にすることができるんだ。俺が“テイム”してるのは単に出し入れできるからだよ」
「すごいな。そんな能力は初めて聞く」
「でも皮肉な能力でもあるね‥‥‥」
「皮肉って?」
「フレイヤはイギリス人だ。家族をドラゴンに殺されてる‥‥‥誰よりもドラゴンを憎んでるはずだよ」
「フレイヤが? いつもあんなに明るいのに」
王が意外そうに呟いた。俺もそんな風には全然見えなかったな。
「彼女はね、選んだんだよ。ドラゴンの“統率者”を倒すために最も憎んだドラゴンの力を借りることを」
カルロは空を見上げながら、やさしく微笑んだ。
「このイギリス討伐が成功したら、彼女は聖域の騎士団を辞めると思うよ」




