第75話 化物
「なんだ‥‥‥コレは‥‥‥!?」
俺は足が震えるのを感じていた。今まで何百人も鑑定してきたし、幾多のモンスターも鑑定した。だが、この男は違う! なんだこの異常なステータスは‥‥‥職業スキルが16だと!? どうやったらそんな職業スキルの数になるんだ?
しかも“S”を超えるランクもある。“S”など今まで見たこともない‥‥‥“A”が限界値じゃなかったのか?
ステータスの数値も‥‥なんなんだ、この数値は!? 以前見た“統率者”の数値を超えている。人間のステータスじゃない!!
魔法やスキルの数も多すぎる。なのに大魔導士のレベルが“1”? あまりにも異常なステータスに俺自身、混乱していた。
どうする? こんなものレオの旦那に報告できるのか!? 信用してもらえない場合、俺の頭がおかしくなったと思われるかもしれない!!
どうしようか考えていると、ステータスのある項目に目が止まった。
【テイム】の項目だ。魔物使いになると現れるのは知っていた。その中の一つに目が釘付けになる‥‥‥。
岩の巨人 タイタン SSS
「‥‥‥‥え‥‥‥」
タイタン? ‥‥あのタイタン? ‥‥アメリカで突然消えた?
俺は全身から汗が噴き出すのを感じた。
マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ! とにかく、この男の近くにいるのはマズイ!! 化物‥‥‥異常すぎる化物だ!!!
――そう思った瞬間、男と目が合った。
「ヒッ!」
俺は震える足を無理やり動かし逃げるように人ゴミの中へと入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ん? 今、見られていたような気がしたが‥‥‥
「五条さん、今“大魔導士”になってるんですか?」
食べてばかりいる俺に、呆れた表情の桜木さんが聞いてきた。
「そうなんですよ。よく考えたら“大魔導士”として呼ばれてるのに“魔法戦士”のままだとマズイと思って、昨日慌ててなったんだけど‥‥‥」
「レベル1になってますけど、さすがに不自然なんじゃないですか‥‥‥?」
「まあ‥‥特に気にする人はいないでしょう」
◇◇◇◇◇◇◇◇
グレスが戻ってきたな。
「グレス、どうだった? 王を見てきたんだろ」
「あ、ああ、レオの旦那‥‥‥」
何故か、グレスはどこか上の空で表情も優れないようだが‥‥‥
「どうかしたのか?」
「い、いやなんでもない。王はさすがの能力だったぜ。副長の劉も強かったから連れていって大丈夫だろう」
「そうか、やっぱり王に期待して正解だったな。ロシアのチームはどうだ?」
「あれはダメだな。置いていくべきだ」
「そうか‥‥日本人も見てきたか?」
「えっ!? あ、ああ‥‥そうだな‥‥問題は無かったな。予想通りの能力だった‥‥」
「分かった。ありがとうグレス! 明日、出発するメンバーは決まったな。助かったよ」
グレスの後ろからフレイヤがやってきた。驚かせようとしているようだが‥‥‥
「わっ!」
「わあぁぁっ!!!?」
思った以上に大声で叫んだグレスを見てフレイヤの方が驚いている。
「な、なんだ。フレイヤか! 驚かすんじゃねえ!!」
不機嫌に悪態を吐いて、グレスは向こうに行ってしまった。
「グレス、機嫌悪かったのかなぁ?」
「さあな‥‥‥」
◇◇◇◇◇◇◇◇
ダメだ‥‥やっぱり話せねぇ‥‥‥。
俺が聖域の騎士団に入れたのは“魔眼”の鑑定力を買われたからだ。
この“魔眼”は、どんなにレベルが高くても、たとえ鑑定妨害の能力があったとしても正確に鑑定できる! 実際、鑑定不能と言われたレオやフレイヤの武器ですら鑑定した。
だから、あの日本人の“鑑定”が間違ってることはありえねぇ!! レオの旦那も、この“魔眼”には絶対的な信頼を置いてくれてる。
だが、今回は内容がデタラメ過ぎて信用してもらえない可能性が高い‥‥‥‥‥“魔眼”以外取り柄のねぇ俺が信用を失ったら終わりだ!
いや万が一信用してもらったとしても、余計な対立を起こしてぶつかり合うことにでもなったら‥‥‥あの男にはレオの旦那やフレイヤでも勝てない。
そんなことを色々考えていると、日本の魔法使いがレオたちのもとに向かって歩いていった。背筋が凍る経験を初めてすることになる。
◇◇◇◇◇◇◇◇
聖域の騎士団とは何度か顔合わせしているが、ちゃんと挨拶したことは無かったからな‥‥‥。改めて挨拶しに行った。
「レオ、ちょっといいか?」
「ああ、君は‥‥‥」
「五条だ! よろしく頼む」
レオは力強く握り返してきた。確か年齢は俺より少し上、30くらいだったと思うが、それ以上にしっかりした印象を受ける。
「こちらこそ! 明日は空路でフランスまで行って軍港であるブレストから出発する。忙しくなるぞ、よろしくな」
その後も、桜木さんや萩野さんが挨拶していく。聖域の騎士団の何人かのメンバーとも握手を交わした後、目に入ったのはフレイヤ・クルスの姿だった。
「五条だ。よろしくな‥‥フレイヤって呼んでいいか?」
「全然いいよ。私はゴジョーって呼ぶね。よろしく!」
どこか人懐っこそうな、屈託のない笑顔で握手してきた。この子なら話しやすそうだな‥‥。
「前から聖域の騎士団とは話をしてみたかったんだが、中々タイミングがなくて、君たちのことを色々教えてくれないか?」
「いいよ、私もゴジョーのことが知りたい! “爆炎の魔術師”って呼ばれてるんでしょ! どんな魔法が使えるの?」
その後、色々話をすることはできたが一方的に質問されることが多く肝心なことは、ほとんど聞けなかった。
そして出発の日を迎える‥‥‥。




