第74話 魔眼
ジュネーブのホテルの一室に集められたのは、日本、ロシア、中国、聖域の騎士団の4つの討伐関係者だ。イギリスのドラゴン討伐に関する最終的な意思確認をする。
「俺は討伐に参加する。そのために来たからな」
俺の言葉に王も‥‥‥
「私も行く、ドラゴンがどれほど強いのか興味がある!」
「ロシアも参加する。君たちにアドバイスもできるだろう」
んー‥‥正直、来てほしくないが‥‥‥
「会議で言った通り、我々聖域の騎士団も正式に討伐に参加する」
国連の職員が各国の意見をまとめる。
「では今回の討伐に関しては聖域の騎士団を中心に進めてもらう形で行います。また各国の軍との連携もありますので重要事項は後程、改めて通知します」
大まかな意見の合意が得られたので、その場は解散となった。
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「とりあえず、私たちはホテルで待機ですね。討伐の具体的な計画は彼らが作るでしょうから、こちらは大人しくしていましょう」
桜木さんの言う通り、俺はのんびりホテルで過ごすことにした。
翌日、俺たちはジュネーブ事務局に呼び出された。そこには聖域の騎士団と軍服を着た人たちが待っていた。レオが会議室の壇上に上がる。
「今回の作戦にはNATO軍即応部隊にも全面的に協力してもらうことになった。即応部隊のハンゼン陸軍大将とゲルハルト空軍大将もこの場に来てもらっている」
紹介されたハンゼン陸軍大将は分厚い資料を出し、マイクを使って説明を始めた。部屋の前にはプロジェクターが置かれ、その奥に用意されたスクリーンにイギリスの地図が映されている。
「まずイギリス攻略における目的はいくつかある。一つは王族や政治家など要人の発見と救出! もう一つはドラゴンの“統率者”の発見及び討伐だ。要人の発見は可能だと思われるがドラゴンが跋扈している中での救出が困難であるため“統率者”の発見を最優先の目的とする」
ハンゼンはスクリーンのロンドン付近をポインターで示した。
「“統率者”がいる可能性が最も高いのがロンドンだ。被害が大きく強力なドラゴンが多いと言われている。情報が少ないため正確なことは分からないが“深淵の穴”と呼ばれる場所があるのは確実なので、そこを中心に捜索する」
「もし見つからなかったらどうすんだ?」
ロシアのチームのリーダーが聞いてきた。ハンゼンは改めてポインターを使い説明する。
「その場合は目的を変更する。北上してアイルランドに入り要人の捜索を開始し、可能ならば救出してもらいたい」
「そもそも、どうやってロンドンに上陸するんだ? 船を使うのか!?」
王が確認する。尤もな質問だ。空から向かうのは危険すぎるし、海を渡るのもかなり難しいだろう‥‥‥俺なら瞬間移動で行けるが‥‥。
「潜水艦を使う」
「潜水艦?」
「海の中を移動するドラゴンは確認されていない。現状もっとも安全なルートだ」
確かにそれが一番無難かな‥‥‥ロンドンに着くまでに全滅したら元も子もないしな。
「決行は明日の夜! 細かい役割などは追って知らせる。以上だ」
軍人の説明が終わると、恰幅の良い中年の男がマイクを握った。
「いやいや、皆様お疲れ様です。明日、偉大な功績を残される皆様に心ばかりの“壮行会”を今夜エスペランスホテルにて開かせていただきます。どうぞご参加ください」
「‥‥アレ、誰ですか?」
俺は桜木さんに聞いてみた。
「聖域の騎士団のスポンサーですね。一番出資している企業の‥‥確か‥‥‥名前はサルマンさんだったと思います」
「そうなんだ‥‥‥それにしても“壮行会”って、のん気すぎないかな?」
「多分、お偉いさんやマスコミなんかを呼んで大々的に聖域の騎士団を売り込もうとしてるんじゃないですかね? サルマンさんはヨーロッパ有数の富豪で平和になった後のビジネスに彼らを利用したいんだと思いますよ」
ということは、今回の討伐をもう成功した気でいるってことか? 難度Sのイギリスだからな‥‥簡単じゃないと思うが‥‥‥。
「どうします? 私たちも行きますか?」
「気は進まないけど‥‥‥」
彼らと話が出来ればガチャのことを色々聞けるかもしれないしな‥‥‥行くとするか‥‥‥。
◇◇◇◇◇◇◇◇
エスペランス・ホテル――
そこには思っていた以上の人が集まっていた。政治家や企業家、マスコミ、国連職員、軍人などが大勢いる。桜木さんの言う通りヒーローとなる聖域の騎士団のお披露目会といったところか‥‥‥。
「それでは、まず最初にサルマン氏にご挨拶していただきます」
サルマンは満面の笑みで壇上に上がる。
「あー、あー、皆様ありがとうございます。私やここにおられる企業家や政治家の皆様に多大な支援を頂いた聖域の騎士団が今、世界を救おうとしております。思い起こせば“厄災の日”にー‥‥‥‥」
この後も延々と話が続いたが、俺は無視してバイキングの料理を食べていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
フレイヤたちと話をしていると、後ろから声を掛けられた。
「レオ! 君に紹介したい人がたくさんいるんだ。一緒に来てくれたまえ」
サルマンのビジネスに付き合わされるのはいつものことだが‥‥‥フレイヤを始めメンバーは全員サルマンが苦手らしく、目を背けている。
「サルマンさん、分かりました。一緒に行きますよ」
「レオ、君には期待しているが最近わがままが過ぎるようだね。ドレスデンのヨハンが愚痴っていたよ。ほどほどにね」
「恐縮です」
俺たちが行こうとすると、また別の人物に声を掛けられた。
「レオの旦那、戻ってきましたぜ」
「おお、来たかグレス」
「ケッケッケ、カナダのチームは全員ひきあげました。これでチームは揃いましたね」
「早速だが頼めるか? ここに集まった異能者の鑑定だ。足手まといになる奴は連れていきたくないからな」
「お安い御用でさあ」
グレスは会場の人ごみの中に消えていった。
「彼は?」
「グレス・スティンガー、我々のチームのメンバーです。彼には“魔眼”という特殊なスキルがあって、いかなる人や物でも完璧に“鑑定”できるんですよ」
「“魔眼”か‥‥それで役に立たない人間を切ることができると? いやはや、抜け目ない所はさすがだよレオ君。それでこそ投資をした価値がある!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
さてと、まずは中国の王だな。旦那がご執心だって話は聞いてるからな‥‥‥。会場の一角で中国の関係者と話をしていた王を見つけた。
「さてさて、どんなもんですかね~‥‥」
なるほど、予想通り職業スキルが3つあるな‥‥職業スキルは多ければ多いほど強いと言われている。
現状、最も多い職業スキルがあるのがレオの旦那の5つだ。次いでフレイヤの4つ‥‥‥それ以上は確認されてないからな、3つもあれば充分だろう。
“モンク”としてのレベルも高い、隣の劉って奴も職業スキル3つ持ちの“モンク”か‥‥‥王ほどではないが、なかなか強いな。この二人は連れていっても大丈夫だろう。
次はロシアの連中か‥‥五人いたガタイのいい男たちを鑑定するが‥‥‥
何だ!? このステータスの低さは、異能者ですらない奴もいるぞ! コイツらが“統率者”を倒したっていうのは嘘だな。先に鑑定しておいて正解だった。連れていったら真っ先に死ぬことになるぞ‥‥‥!
最後は日本から来た魔法使いだな‥‥‥爆炎の魔術師の異名を持つ“大魔導士”と聞いているが、上級職なので職業スキルが3つくらいあってもおかしくないはずだ‥‥‥。
日本人がいるテーブルを見つけた。小さい眼鏡を掛けた女が目に付いたので鑑定してみる。この女も異能者か‥‥‥“探索者”ね、ただレベルはかなり低い‥‥その隣にいるのが例の魔法使いか、バイキングの料理を食うのに夢中になってやがる。
俺はその男を鑑定してみた――
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」




