第72話 国際会議
ジュネーブに到着した俺たちは、国連が用意したホテルにチェックインして、2日後に行われる国際会議に向け桜木さんたちと準備をした。
結構な高級ホテルだと思うが、料金は誰が払うのか気になってしまう。
桜木さんや萩野さんに会議に関する知識をレクチャーしてもらい、人生で初めてスーツを着ることになったが、ネクタイがかなりキツイ。
「五条さん! 公の場で恥をかかないためですから、我慢してくださいね」
「ハイ‥‥‥」
おとなしく桜木さんの言うことを聞こう‥‥‥。
◇◇◇◇◇◇◇◇
国際連合ジュネーブ事務局、会議当日――
今回は“異形生物の現状と対策”と題して会議が行われることになった。この場所には多くの人が集まっている。
ヨーロッパはイギリスを除いて“厄災の日”の影響が比較的少なかったようだ。聖域の騎士団の活躍もあって、社会全体が安定している印象を受ける。
実際、会議に参加するのもEU圏の国が多い。アメリカは臨時政府が作られ、国を立て直そうとしているが今回の会議には不参加だ。
日本政府も復興を優先して、正式な参加を見送っている。国際会議と言っているが、参加する国は国連加盟国の半分ほどしかいない。
予想以上に重厚な建物だと感心しながらジュネーブ事務局に入ろうとすると、後ろからスーツを着た10名ほどの男女がこちらに向かってきていた。
多くの報道陣に囲まれているのを見ると、あれが聖域の騎士団か‥‥‥一斉にフラッシュが焚かれる。
人気があるとは聞いていたが、ほとんどスター扱いだな。こっちには誰も取材に来ない‥‥‥まあ、いいけど。
建物の中に入ると控室へ通された。日本側五名で使うには少し大きな部屋だ。
「やっぱり人気があるんだな。全員がかっこよく見えるし」
「ヨーロッパではドラゴンの脅威は大問題になってますからね。私たちが遭遇したドラゴンも、本来あんな所にいるはずがないですし。それだけに聖域の騎士団に対する期待は大きいんですよ」
ドラゴンが急速に生息域を拡大しているとは聞いているが‥‥‥思っていたよりも深刻なのかもしれないな。
◇◇◇◇◇◇◇◇
控室から出て、会場入りしようとすると唐突に声をかけられた。
「五条!」
別の控室から出てきたのは王欣怡だった。
「やっぱり来ると思ってたぞ! 五条」
「王、久しぶりだな」
中国で別れて以来だからな‥‥副長の劉さんはいるが、他の“朱雀”の団員は見当たらないな‥‥‥。
「劉さんと二人で来たのか?」
「ああ、そうだ。中国にも魔物はまだ出るからな、全員連れてくるわけにはいかない」
“統率者”を倒したとはいえ、魔物は完全には消えない。いまだにどうしたら魔物の出現を止められるのかは分かってないからな。
「五条、当然ドラゴンの討伐には参加するんだろう?」
「ああ、そのつもりだけど‥‥王もか?」
「中国政府には難色を示されたが、五条がいるのに行かないわけにはいかないからな!」
「そうか‥‥」
俺たちは一緒に本会議場の中へ入った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
この人が中国“朱雀”の王欣怡さんか‥‥‥背が高くてかっこいい人だなー‥‥五条さんとかなり仲が良さそうだったけど‥‥。
「私の顔に何か付いてるか?」
「あっ‥‥いえ、なんでもないです」
すごい、いきなり英語で話しかけられた‥‥‥見た目も綺麗なうえにバイリンガルなんだ。
「君は日本政府の人間か?」
「はい、自衛隊の桜木です」
「そうか、自衛隊の人間か! 五条と同じだな。王欣怡だ。よろしく」
王さんに握手を求められ、がっちりと手を握られる。王さんと劉さんは萩野さんたちとも握手をして挨拶していた。結構律儀な人なんだな‥‥‥。
本会議が始まり、各国の関係者は所定の席に着いた。それぞれの国の言葉が分かるように、同時通訳のイヤホンを付ける。
最初に各国の討伐者たちが紹介され、短い挨拶をすることになり五条さんは私たちが作ったペーパーを棒読みしていた。
特に長かったのがロシアの挨拶だった。
「我々が討伐した“統率者”は20メートルを超える巨大なトロールで、とてつもない怪物だ!! アメリカにいたタイタンにも匹敵するだろうから‥‥」
隣で五条さんが微妙な表情になっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
最後にスピーチしたのは、聖域の騎士団のリーダー、レオ・ガルシアだ。レオがマイクを取ると一斉にフラッシュが焚かれた。
「我々は2つの地域で“統率者”を倒し、今はカナダの討伐を進めています。しかし我々が戦うのは名誉や利益のためではなく、人々の平和のためです」
俺や他の人の時と、マスコミの食い付き方が全然違うな。
「今回、ドラゴンの脅威が世界に広がろうとしています! 我々はカナダの討伐を一時休止し、イギリスの討伐に本格的に参加します!!」
オオーッと大歓声が上がり、各国の首脳陣が立ち上がり拍手喝采している。さすがにやりすぎじゃないのか? とも思ったが‥‥‥。
会議が始まっても、アドバイスを求められるのは聖域の騎士団のメンバーだけで、俺や他の人が意見を聞かれることは無かった。
1日目の会議が終了し、控室で帰り支度をしてから正面出入口に向かうと聖域の騎士団の3人、レオとフレイヤと背の高いイケメンの男がマスコミの取材を受けていた。
わざわざ着替えて、剣や杖、防具を身に着けている。
「何やってんだろ、アレ‥‥‥」
俺が桜木さんに聞くと。
「あの人たちは、色々な国や民間団体から資金援助を受けて活動してるので、ああいうマスコミ対応も必要なんだと思いますよ」
「そうか‥‥‥大変だな」
そのうち、写真集とか出しそうな勢いだな。それにしても彼らが持っている剣など豪奢な飾りつけが付いてて、凄いカッコいいな‥‥‥。
俺は軽い気持ちでレオが持つ“剣”を鑑定してみた――
<デュランダル> UR
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