第71話 飛竜
書籍化決定しました! 読んで下さる皆様のおかげです。詳細決まりましたら活動報告等で書いていきたいと思います。
大阪で総理と会談してから1週間――
大阪国際空港から政府専用機でスイスのジュネーブまで向かうことになった。俺の他には桜木さんと内閣府の萩野さん、それと政府の人間2名が同行する。
見送りには清水さんと、坂木さんが空港まで来てくれていた。
「桜木、五条さんのことを頼んだ。五条さんは常識外れな所もあるから、お前がしっかりするんだぞ!」
「ハイ! 任せてください」
「いや‥‥なかなか失礼なこと言ってますけど、俺はけっこう常識人ですよ」
全員に空々しい目で見られてしまった。
「五条さん、心配はしてないが気を付けろよ!」
「清水さんも、せっかく自衛隊に戻ったんだから、上官の坂木さんの言うことをちゃんと聞いてくださいよ!」
俺たちが政府専用機に乗り込むのを、二人は手を振って見送っていた。
飛行機の中は思ったより、ゆったりとした座席の並びだ。飛行機自体に乗ったことないけどファーストクラスって、こんな感じなのかな?
俺の隣には桜木さんが、斜め前の席には萩野さんが座っている。
「ジュネーブまでは、13時間ほど掛かるそうです」
「結構かかるんだな、俺の瞬間移動なら一瞬で行けるけど」
坂木さんたちには俺の能力の一部については、すでに話してある。なんなら今からでも一瞬で行けるが‥‥‥。
「‥‥‥五条さん、それが常識が無いってことですよ」
「あ‥‥」
一抹の不安を抱えつつ政府専用機は、スイスに向かって飛び立った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「行っちまったな」
「ああ、そうだな」
俺と清水は政府専用機を見送っていた。
「“一緒に行きたかった”って顔してるぞ」
「そんなことはない! 俺には仕事があるし、桜木に任せれば大丈夫だ」
まったく無いと言えば嘘になるが、俺が行ってもなんの役にも立たない。そんなことは俺が一番よく分かっている。
「本音を言えば五条さんには、ずっと日本にいてもらいたいんだが」
「清水‥‥」
「あの人がいてくれれば、この先何があっても大丈夫だって気がする」
清水も、そんなわけにはいかないことは分かっているだろう。だが、確かに日本にどんな危機が訪れるか分からない。
「今回、イギリスには五条さんだけじゃなく最強と言われる聖域の騎士団もいるんだ。ドラゴンを倒して、すぐ帰ってくるさ」
「何が最強だ! 五条さんより強い奴がいるわけないだろう!!」
「俺もそう思うが、彼らの実績は本物だ。ここ数ヶ月で次々に“統率者”を倒したんだ。普通の人間にはできない」
「確かにな‥‥今では世界的な英雄扱いだからな」
俺と清水は空港を出て、車に乗り込んだ。清水は何かを考えるように黙り込んでいる。
「どうかしたのか?」
「なあ‥‥似てると思わないか?」
「ん? 何がだ」
「五条さんだよ! 聖域の騎士団も五条さんも“厄災の日”があってから異常な強さを以って“統率者”を倒してる! そして五条さんは、なぜ自分がそんなに強くなったのかを言おうとしない‥‥‥」
「何が言いたいんだ?」
「分かるだろう! 聖域の騎士団と五条さんには共通の秘密みたいなものがあるんじゃないか!?」
「あくまでお前の想像だろう」
「かー頭の固い奴だな! ああそうだよ、俺の妄想だよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
12時間経ち、スイスに到着するようだ。ほとんど寝てたが、けっこう快適な旅だったな。
まだ寝ぼけていた状態だったが、“敵意感知”に反応があった。窓の外を見ると雲の中に黒い影が映る。
「どうかしたんですか?」
「何かいる」
「え?」
雲の中から巨大な体が現れ、飛行機に急接近してきた。気流が乱れ、機体が激しく揺れる。
「きゃっ!!」
桜木さんや萩野さんなどの悲鳴や驚きの声が上がる。窓の外を見た時、そこには目を見張る真っ青な体の、紛うことなきドラゴンがいた!
「あれがそうか‥‥」
「なんなんですか!?」
慌てる桜木さんを落ち着かせて、座席から立った。
「ちょっと行ってくるよ」
「ハイ? ‥‥って、いない!?」
俺は瞬間移動で飛行機の外に出た。空を飛んで視認したドラゴンは、尻尾まで入れれば優に30メートルはあるだろうか‥‥‥。
巨人と並ぶ最強種と言われているからな‥‥‥試してみるか。
「召喚!――不死鳥――」
空中に魔法陣が現れ、その中から青い炎の鳥が飛び出しドラゴンに向かって突撃していく!
不死鳥と竜が空中で錐揉み状態でぶつかり合う! 何度目かの衝突で不死鳥が光り輝き、ドラゴンの間近で爆発した。
「普通の敵なら、これで沈むが‥‥‥」
煙の中からドラゴンが姿を現す。身体に多少の傷がある程度だ。これが魔法も物理攻撃にも耐性があると言われる竜の防御力か‥‥‥。
炎の中から蘇った不死鳥と再びぶつかり合う!!
「ギュァァァアアーーーーッ!!」
「キュロロロロロッ!!」
激しくもみ合った後、ドラゴンは口を大きく開け高熱の火球を不死鳥に向けて放った!
爆発的な炎が不死鳥を飲み込む。一瞬姿を消した不死鳥が巨大な赤い炎の鳥となってドラゴンの前に立ちはだかる!
炎の槍のようにドラゴンに向かっていくと、さっきの何倍もの爆発が起こった。
さすがに今度は効いたようだ。煙を上げドラゴンは下に向かって落ちていく‥‥‥。
「テイム!!」
ドラゴンの真下に魔法陣が現れる。ドラゴンが魔法陣の真ん中を通過すると光の粒子となって消えていった。
テイムのリストボードを見ると“飛竜”の名前がある。
「強さのランクは“B”か、巨人の中位くらいの強さはあるな」
不死鳥が俺に近づいてきて平行に飛行する。
「俺たちが空港に到着するまでの護衛を頼むな」
不死鳥を外に残し、瞬間移動で機内に戻った。
「えっ!? 五条さん、大丈夫ですか? 爆発音がしてましたけど‥‥‥」
「もう大丈夫ですよ。俺、もうちょっと寝ますんで着いたら起こしてください」
「ええ~‥‥‥」
この後、無事ジュネーブ空港に到着した。




