第68話 迷宮の主
ロシア、アルタイ地方・バルナウル――
バルナウルのダンジョンは町に出現したため、“厄災の日”には多くの犠牲者をだした場所だ。このダンジョンに足を踏み入れた時、今までのダンジョンとは明らかな違いがある。
出てくる魔物はゴブリンやオーガではなく、グレムリンやグレンデルといった魔物だった。
個々のレベルはかなり高いようだが、不死鳥と魔法剣の斬撃で攻略を進めていく。アダマンタイトの大剣は狭い洞窟の中では使いづらいため、今はミスリルの剣を使っている。
このダンジョンも地下20階まであるようだが下に行くにつれ“魔素”の濃度がより高くなっているように感じた。それに伴い敵も強くなっていく!
地下16階――
ここまでアイテムを集めながら進んできたが、かなりの数の敵を倒したため2枚目の魔法戦士もカンストした。職業スキルは“B”にまで上がったので、俺は亜空間から3枚目の魔法戦士のボードを取り出しタッチした。
魔法剣は気功武術に並ぶくらい使える攻撃手段だからな‥‥上げられるだけ上げておこう。
集めたアイテムはこれだけになった。
風の魔石 U
癒しの魔石 U×2
召喚の魔石 U
強化の魔石 U
魔獣の皮 C
沈黙の種 U
古びた指輪 C
ポーション C×3
ハイ・ポーション U×2
エリクサー SR
霊薬 R
地龍の骨 U
コウモリの羽 C×2
金の針 U
太陽石 SR
それにしても、この魔石ってなんだろう? 魔力を宿してるみたいだけど具体的になんの役に立つのか分からないな‥‥‥。
更にダンジョンを下へと潜り、最下層へとたどり着いた。
開けた場所に出たが、むせるほどの“魔素”を感じる。そこに佇む魔物は角が生えていたので一瞬、オーガに見えた。しかし違う‥‥‥
俺は3度“統率者”に出会っているが、その時と同じ感覚。不死鳥の明かりが映し出す姿は強靭な体躯、身の丈は5メートル近くあるだろうか‥‥禍々しい鬼のような魔物だ。
鑑定すると――
スプリガン
妖精種 Lv3986
■ ■ ■
■ ■ ■
「間違いなく“統率者”だ!!」
俺は亜空間から大剣を取り出す。不死鳥は敵に向かって加速し飛んでいく!
スプリガンは巨大な金棒のような武器を振り上げた。不死鳥には物理攻撃は効かない! そう思っていると‥‥
振るわれた金棒の一撃で不死鳥は弾き飛ばされ炎は雲散霧消してしまう。
「炎を打ち払った?」
よく見ると金棒や身体が薄い魔力のようなもので覆われている。これは“気功”に似た力なのか? 他にもどんな能力があるか分からないからな、ここは‥‥
「召喚、来い!! ――キマイラ――!!!」
魔法陣から現れた銀色の獅子は、すぐに自分の敵を理解したようだ。その場から消える。
スプリガンに一瞬で無数の傷が付く! そのスピードにまったく付いていけないようだ。
中国とロシアの“統率者”の難易度は共に“A”だった。互角かと思っていたが、キマイラの方が格上なのか?
だがキマイラの攻撃ではスプリガンに致命傷を与えられないようだ。しかもスプリガンの傷は急速に治っていく。高レベルの自己再生のスキルを持っているのか!?
キマイラがスプリガンの左腕に噛みついた!! 深々と歯が食い込んだが噛み千切ることができない。
スプリガンは金棒を捨て、キマイラを掴んだ。大地に叩きつけ、上から思い切り殴り潰す!!
大地が割れ、キマイラは光の粒子となって消えていく‥‥‥
この“統率者”はパワーと防御が飛び抜けているようだ。オリハルコンの牙と爪でもあの程度の傷しか付けられないのか‥‥‥。
わずかに残った炎の欠片から、不死鳥が蘇る! 再び敵に向かっていこうとするが‥‥‥
「待て! 俺がやる」
大剣に“気”を宿し、大地を蹴って飛び上がり大きく振りかぶって全力で切り下ろす!! 相手も金棒で迎え撃ってきた!
互いの武器がぶつかり合う!! 凄まじい衝撃音と共に大地が割れ、周りの岩にもひびが入る。俺の一撃に耐えている!? この金棒もアダマンタイトなのか‥‥‥?
更に力を込めたスプリガンは俺を押し返した! 空中に放り出された俺は一回転して着地する。
「やはり強いな‥‥‥」
俺は時間を止めた。
スプリガンに歩いて近づいていく、このまま大剣で心臓を貫けば死ぬだろう。背後に回って、大剣を背中に突き立てた!
「な!? 刃がとまった‥‥」
5㎝ぐらいは刺さっているが、硬すぎて貫けなかった。次は首を切り落とそうとして大剣を横に薙ぎ払った!! ‥‥‥やはり刃が途中で止まる。
しかし切れてはいる。このまま何回も切りつければ止まった時の中で殺すことは可能だろう。
だが、せっかくこれだけの強者なんだ。俺がどれだけ強くなったのかを試すには丁度いい敵なんじゃないかな? 今まで身に付けてきた“魔法”“気功武術”“魔法剣”の全てをこの魔物にぶつけてみたくなった。
俺は時間を動かし、スプリガンと向かい合う。スプリガンは知らないうちに傷を負っていることに不思議そうな顔をしたが、すぐにこちらを睨んできた。
大剣に“気”を流す。体の前で剣を構え、魔力を込める。
「複合魔法・雷炎!!」
刀身が炎を纏う。“雷”“炎”“気”がそれぞれ混じり合い、金色に輝く大きな炎となった。
俺は高く飛び上がり、再びスプリガンに向かって大剣を振り上げる!
複合魔法剣
「――神鳥滅殺魔炎斬――!!!」
相手も金棒を振り上げぶつかり合う!!
大剣は凄まじい破壊音を放ち、スプリガンの持つ金棒を真っ二つに切断した。そのまま魔物とダンジョン自体も切り裂いた!!!
爆発的に炎が広がり辺りの物を焼き尽くしていく! その衝撃は全ての上層階を崩落させるのに充分な威力だった。
「テイム――!!」
そう叫んだ後、上から落ちてきた岩や瓦礫は全てを飲み込んでいった。




