第64話 おちょくってんのか?
魔獣が倒れた場所に行ってみる。やはり“魔核”が落ちていた。鑑定してみると――
<神速> SSR
神がかった速さを身に付ける。
俊敏のステータスを5倍まで引き上げることができるようだ。俺が元いた場所に戻ると‥‥‥
「五条‥‥」
王が劉の肩を借りながら、こちらに歩いてきた。
「あの魔物‥‥“統率者”を倒したのか?」
「ああ‥‥もう大丈夫だ」
王は安心した表情を浮かべた。
「五条、お前は強いんだな。ここまで強いとは思わなかった‥‥どうやってそんなに強くなったんだ!?」
「君のおかげだよ」
「え?」
「君が“気功武術”を使うところを見て参考にしたんだ。それが無ければ、こんな短期間で取得することはできなかったと思う」
「‥‥そうか‥‥」
王は複雑そうな表情をしてうつむいた。
「だが私はもう武術はできそうにない‥‥‥両腕を失ってしまった。五条のような強い武道家でいたかったんだが‥‥‥“朱雀”のリーダーも、これで引退だな」
「腕は俺が治すよ」
劉が首を振りながら俺に言った。
「回復魔法はすでに掛けた。血は止まってるし傷口も塞がっている。これ以上は無理だ!」
当然の意見だが、俺の場合は無理じゃない。王に近づき、手をかざした。
温かい金色の光が王の身体に注がれる。王と劉は見たことの無い回復魔法に、ただただあっけに取られている。
「完全なる治癒!」
光が収まると、王の腕は元通りの形で再現されていた。
「腕が‥‥腕が元に戻っている!? こんなこともできるのか?」
俺が笑顔で返すと‥‥
「ハハ‥‥すごい奴だ! お前は史上最強の“モンク”だな」
みんなで“朱雀”の団員と合流し、全員で山を下りた。来た時よりも魔物の数は大幅に減っている。麓まで来た時、王に声を掛けられた。
「五条、お前が“統率者”を倒したことは中国政府にも報告しておく! 中国を救った英雄として歴史に名を残すことになるぞ」
王はうれしそうに言ってきたが、劉が王の言葉を制した。
「王、これは“朱雀”で行なった討伐だ。五条だけの成果にはならないよ」
王は驚いたように目を見開いた。
「何を言っている。“統率者”は五条1人で倒したんだぞ! “朱雀”が倒したわけじゃない! 正当に評価されるのは当然だろう!!」
「仮に政府に報告したとしても認められるはずがない。国の威信に関わる問題だ。五条には悪いが、あくまで“朱雀”としての遠征の結果だ!」
王は劉の胸ぐらを掴んで詰め寄った!
「劉! 本気で言っているのか? よくそんなプライドのない言葉が言えたな!!」
劉は静かに、王の目を見て言った。
「死んでいった奴らを‥‥‥英雄として死なせてやりたいんだ」
王は絶句した。それ以上、言葉が出てこない。
「さっき五条にも頼んだんだ。そうしてくれないかと‥‥‥彼はいいと言ってくれたんだ。恥知らずなのは分かってる! 俺はなんと言われても構わない‥‥それでも‥‥」
「俺もその方が助かるよ。王、目立ちたいわけじゃないから、そうしてくれ」
王は拳を握りしめた。心なしか震えているように見える‥‥‥。
「分かった。五条、お前には恩がある。お前がそうしろと言うならそれに従う」
何かを飲み込んだような表情になった王は、真剣に俺の顔を見つめた。
「五条、中国に来い! お前ほどの実力があれば報酬も待遇も望むままだ。中国は経済力もあるし、日本より“厄災”の被害が少ないから条件はいいはずだ」
本気で俺のためを思って言ってくれてるんだろう‥‥‥だが俺は首を横に振って答えた。
「せっかくだけど、遠慮しておくよ。見返りのためにやってるわけじゃないから‥‥」
特定の国の利益だけを考えるわけにはいかないからな。
「‥‥そうか‥‥残念だ‥‥」
王は少し寂しそうに俯いた。
「俺は行くよ」
「‥‥日本に帰るのか?」
「いや、まだ行く所があるんだ」
「そうか‥‥お前には借りが山ほどある。必ず返しに行くからな!」
「ああ、待ってるよ。また会おう」
そう言って、俺たちは別れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
中国・安徽省 黄山――
切り立った山々が美しい景観を作り出している。その山頂に俺はいた。
忘れていたが、キマイラを倒したことで“モンク”の職業ボードがカンストしているな‥‥‥確認すると――
モンク Lv99
【職業スキル】
気功武術 Rank B → A
獲得“魔法” 強化魔法(Ⅰ)×2
気功武術が“A”にまで上がったか‥‥この力には助けられたな。
「さて‥‥‥あとはコイツをどうするかだな‥‥‥‥」
俺の頭上には、青い炎を揺らめかせ旋回しながら飛んでいる火の鳥“不死鳥”がいる。
キマイラと違ってコイツは“千里眼”ですぐ見つかった。まさか放っていくわけにもいかないだろう‥‥‥。
だが倒すこともできないしなー‥‥封じるとなると時間の止まった亜空間の中に入れることができれば捕まえられるのか? 色々考えていると、俺のすぐ上でクルクル回り始めた。
「おちょくってんのか?」
そう呟くと不死鳥は俺の目の前まで降りてきた。羽をたたむと頭を垂れるような仕草を見せている。なんだろうと思ったが‥‥‥‥。
「ひょっとして‥‥お前、俺と一緒に行きたいのか?」
精霊の考えることは分からないが‥‥と言うか考える脳みそ自体あるのか? 今まで“テイム”は相手を倒さないとできなかった。
今のような状態でも“テイム”できるんだろうか? とりあえず試してみることにした。
「テイム!!」
不死鳥のすぐ下に魔法陣が現れ、輝きだすと不死鳥は光の粒子となり消えていく‥‥‥リストボードを確認すると、本当に不死鳥の名前があった!
思いがけず、成功してしまった‥‥‥‥これで中国での脅威は無くなったな‥‥次は――‥‥‥
見つめる先には黄山の山々、そしてその先――――ロシアだな!!




