第63話 武神
魔獣キマイラは俺に向かって猛スピードで駆けてきた。だが、ダメージの影響で明らかに動きが遅く、目で追うことができる。
それでも俺より、ずっと速いが“神眼”を使えば、ある程度の速度の差など関係ない!
俺はギリギリで躱し、腹のあたりに3発ぶち込む!! 魔獣は口から血を吐き、たたらを踏む‥‥‥。
今度は一転、逃げ出そうとするが、時間を止めて先回りする。時間を動かし、目の前にある魔獣の鼻っ柱を“気功”を纏った拳で思いっきり殴り飛ばす!!
魔獣は何が起きたのか分からず、よろめくがその隙に左足に“気”を込め魔獣の右前脚を蹴り飛ばした!
辺りに、ミスリルの破片が飛び散る。
俺がもう一発殴ろうとした時、死角から何かが襲ってくる。とっさに“気功”を纏った左拳で打ち払う!!
それは、蛇のような形をしたキマイラの尻尾だった。
尻尾はこちらとは逆方向に飛んでいく。その時、魔獣の向こう側に王が突っ込んでくるのが見えた。俺に打ち払われた蛇の形の尻尾は軌道を変え、そのまま王に襲いかかる!!
魔獣との戦いに集中しすぎて、周りが目に入ってなかった。そのため王が近づいてくることに気付けず、時間を止めるのが一瞬遅れた――
◇◇◇◇◇◇◇◇
私や“朱雀”の団員たちは、その戦いにくぎ付けになっていた。五条が銀色に光るライオンのような魔物と一対一で戦っている。
どちらも凄まじい速さで異能者である私でも目で追えないほどだ。
特に驚愕するのは五条が纏う“気功”の量だ。全身から溢れ出し、白く輝くようにハッキリと見える。あれは私の“気功”の優に数倍はあるだろう。
戦いは五条が押してるようだ‥‥‥あまりの強さに見とれてしまった。まさに私が憧れた強さ。ああなりたいと願った強さだ!
まるで武神のような、その拳に、その一撃に自分の理想を重ねてしまう。
だが、この戦いは五条1人に任せるわけにはいかない。相手は“統率者”だ! なんとか加勢しないと‥‥‥そう考えていると魔物はこちらに背を向け五条と向き合っている。
これは又とないチャンスだ。今ならアイツは五条の方に意識を集中している。うまくすれば一撃を与えられるかもしれない。
仮に失敗しても魔物の注意が私に移り、五条が有利になるだろう。
そう思い一歩を踏み出した。
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キマイラの尾に襲われた後、棍棒を掴んだままの王の両手が地面に落ちる。
俺は時間を止め、すぐに王を抱きかかえ、その場から離れる。回復魔法を掛けてやりたいが、時間を止めたままではできない。
下手に時間を動かすと魔獣が逃げだす可能性がある。王を劉の近くまで連れていった。
劉は“モンク”だから回復魔法を使える。劉がいれば王の傷も、ある程度は治してくれるだろう。
俺は魔獣と決着をつけるために、奴のもとへ歩み出した‥‥‥‥。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「かはっ‥‥!」
何が起きたんだ!? まったく分からない‥‥‥どうなった?
腕が熱い‥‥‥見ると自分の両腕が無かった。なんだこれは‥‥‥現実とは思えない。
「王!? お前、腕が‥‥‥!」
すぐ後ろに劉がいた。確か魔物の近くまで行ったはずだが‥‥‥どうして?
「じっとしていろ! すぐに回復させるから」
劉は私に回復魔法を掛けてくれた。大量に出血していたが、徐々に血は止まり始める。
「五条は‥‥」
「人のことより自分の心配をしろ! あいつは大丈夫だ」
地面に寝かされ動けない状態だったが、劉の体越しに五条が見えた。空中に浮かび上がった魔物の前で、爆発的な“気功”を放っている。
◇◇◇◇◇◇◇◇
蛇の形をした魔獣の尻尾を手に取った。その尻尾を地面に置き、真上で片足を上げ時間を動かした。
足に“気”を纏い、全力で尻尾を踏み潰す!!!
「グガァァァアーーーーーッ!!?」
尻尾は原型が無くなるほど、ぐちゃぐちゃになっている。魔獣は必死になって俺から逃げようとした。瞬間移動で先回りする。
見えてさえいれば、俺が後れを取ることなどありえない!
目の前にある魔獣のアゴを思いっきり蹴り上げた!! 空中で1回転し再び顔をこちらに向ける。両方の拳と身体に纏う“気功”を最大限まで高めていく!
「うおぉぉぉおーーーーーっ!!!」
数百発の拳が魔獣の身体にめり込む! 金属の体表は砕け、血を噴き出しながら吹っ飛んでいく!!
木々をへし折りながら、山の斜面にある岩に激突する!! 辺りには砕けた岩と金属の破片が散乱していた。
「テイム!!」
魔法陣から溢れ出した光がキマイラの身体を包んでいく。テイムのリストボードには確かに“キマイラ”の名前が表記された‥‥‥。
「やっと終わった‥‥‥」
疲れがどっと出てきた‥‥もうフラフラだ。




