第62話 白銀の統率者
その生物の見た目は、獅子のような美しい“たてがみ”があり、しなやかな体はメタリックな輝きを放っている。
近くで見れば、体毛も皮膚も、そして眼球さえも金属でできている。鑑定を行使する――
キマイラ
魔獣種 Lv3882
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間違いない“統率者”だ! 更に細かく鑑定すると、体の部分の金属はミスリル(高純度)と出た。色の少し違う爪と牙を鑑定すると“オリハルコン”と表記されている。
だから俺の体を易々と喰いちぎったのか‥‥‥。
時間を動かせば、この魔物を見失うだろう。止まった時の中で決着をつける!! 俺は両手にミスリル製のナックルを付け、魔獣の体をおもいっきり殴った!!
十数発殴ったところでナックルが粉々に砕ける。やはり高純度ミスリルと低純度の物では、かなりの差があるようだ。仕方なく素手で殴るが凄い固さだ。
数百発殴った時、俺の拳が血まみれになっている。しばらく待てば“超回復”で再生されるがかなり痛いな。
時間を止めているので、殴っている衝撃のエネルギーは蓄積されているはずだ‥‥‥いくら素手とはいえ、それなりのダメージは与えられるだろう。そう考えて、さらに何十発と蹴りも入れたが、今度は靴がボロボロになった。
かなりの打撃を叩き込んだので、さすがに効いてるだろうと思い時間を動かした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
私の真横から、もの凄い衝撃音が聞こえた! 一瞬、左耳の鼓膜が破れたかと思ったほどだ。
振り向くと一匹の魔物が木を薙ぎ倒しながら、さらに向こうの岩の壁に激突して地面に落ち、煙を上げている‥‥‥。
何が起きたんだ!? 目の前には五条がいる。
「なんだ? 五条、何をした!?」
「王、ここから動かないでくれ」
そういった瞬間―― 五条は消えていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
思ったより効いてないのか? かなり向こうまで吹っ飛ばされた魔獣だったが、それほどダメージを受けていないように見える。
魔獣が、わずかに体勢を低くした。マズイ! また移動される。俺はすぐに時間を止めた。
もう、さっきまでの場所に魔獣はいない‥‥‥辺りを見回すと、俺の後ろ数百メートルの位置にいた。嘘だろ!?
あの一瞬でここまで移動できるのか!? それにコイツは空を飛んでるわけじゃなく、たった一歩で一キロ近く移動してるんだ!
だから足跡を探しても見つからなかった。俺は魔獣に近づき、今度は数千発の打撃を叩き込んだ!!
手や足からは出血したが“超回復”で治しながら殴り続けた。
時間を動かす――
魔獣は弾け飛ぶように吹っ飛び、間近の岩場に叩きつけられた! ダメージは与えられたか? 動きが鈍くなってくれればと思ったが、立ち上がるとすぐに消えた。
目に見えないほどの超スピードと隠密系の能力で気配すら感じさせない。
俺は時間を止め、魔獣を殴り続けた。繰り返すこと4度、時間を動かし吹っ飛ぶ魔獣を確認するが相手に致命傷は与えられていないようだ。
「頑丈すぎるだろう‥‥」
俺の心の方が折れそうだ。せめてあいつの体を貫ける武器があれば‥‥‥‥その時、自分の両手が熱くなっていることに気付く。
最初は出血するまで殴ってるんだから当然だろうと思っていたが違った。
手に光が集まってくる。手だけではなく全身に! これは間違いなく“気功”だ! やっと“模倣”の効果が出てきた。
魔獣が移動しようとしたとき、時間を止めた。
だが、どうする? 時間を止めた世界では魔法を使えない。強化魔法の応用である“気功”も使うことができない。どうすれば‥‥‥‥
ふと、あることを思い出した。こいつは地面を蹴って移動している。決して空中を移動してるわけではない! だとしたら‥‥‥
俺は魔獣の腹を思いっきり蹴り上げた! 更に一発、更にもう一発と蹴り上げていった。
時間を動かす――
魔獣は空高く吹っ飛んでいく! 俺は瞬間移動で後を追った!!
◇◇◇◇◇◇◇◇
五条の姿も、魔物の姿もどこにも見えない‥‥‥だが、衝撃音だけが至る所から聞こえてくる! 劉や他の団員も何が起こっているのか分からず右往左往している。
五条は今、一人で魔物と戦っているんだ。それもただの魔物じゃない“統率者”を相手にだ!
私も戦わなければ、五条には動くなと言われたがそんな訳にはいかない!! 襲われた団員のためにも私がこの手で‥‥‥。
◇◇◇◇◇◇◇◇
魔獣はもの凄い速度で飛んでいく! やはり空中では動けないらしく足をバタつかせているだけだ。
魔獣が来る場所へ瞬間移動し、風魔法で作り出した超高密度の“空気の玉”を足場にして、相手に向かって加速した!
魔獣は無防備な背中をこちらに見せ向かってくる。足に“気”を集中し、思いっきり背中を蹴った!! 魔獣は“く”の字に曲がり、メリメリと音を立て逆方向へと吹き飛んでいく!!
「ガアッ!?」
魔獣は短いうめき声を上げる。初めて手応えがあった!
飛んでいった先に瞬間移動した。“空気の玉”を足場に、今度は拳に“気”を集中させる!
全力で殴ると金属の体表が割れ、血も流れ出している! 魔獣は苦悶しながら反対方向へと飛ばされた!! 瞬間移動で回り込み、右手の拳を左手で包み込み両手に“気”を集中させ全力で上から下へと振り下ろした!!
あまりの衝撃に魔獣も顔を歪める。そのまま真下の地面に叩きつけられた!
少し離れた場所に着地した俺は魔獣が落ちた場所を確認する。よろよろと起き上がるが、明らかにダメージを受けている‥‥‥。気功の打撃は表面だけでなく内側にまで衝撃が浸透する。
気功武術の想像以上の威力に、俺自身が驚愕していた‥‥‥‥。




