第57話 異能の集団
吉林省・長白山――
“朱雀”のメンバー31名が長白山の麓で行軍していた。この辺りは中国でも魔素の濃度が高い場所の一つで、“統率者”がいる可能性が高いと言われている。
何度か調査は行われていたが、いまだに発見には至っていない。また魔素の濃度が高いせいで強力な魔物が出るため、調査の度にかなりの被害を出していた。
この行軍する集団の最後尾に五条はいた‥‥。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「おいっ新人! もうへばってるんじゃないだろうな!?」
「日本から来たらしいが、帰りたくなってきたんじゃないのか?」
“朱雀”のメンバーの男たちに声を掛けられた。両方とも俺よりずっとガタイがいい‥‥30代くらいに見えるが。
「ああ‥‥大丈夫だよ。体力はある方なんで」
「ひょろっひょろの体に見えるけどなー。魔物が襲ってきたら俺たちが相手してやっから、お前は逃げ回って死なないようにしろよ!」
ガッハッハと仲間内で楽しそうに笑っているおっさんたちを鑑定してみる。
張 静
武道家 Lv48
HP 382/382
MP 18/18
筋力 310
防御 255
魔防 43
敏捷 412
器用 58
知力 29
幸運 33
【職業スキル】
武術 Rank C
【スキル】
俊敏(Ⅱ)
李 浩宇
戦士 Lv64
HP 506/506
MP 8/8
筋力 466
防御 302
魔防 60
敏捷 145
器用 85
知力 42
幸運 38
【職業スキル】
剣術 Rank D
【スキル】
筋力増強(Ⅲ)
武道家に戦士か‥‥‥職業スキルが一つしかない割にはステータスが高いな‥‥‥。
中国に来てから入団試験が終了するまで、色々な人間を鑑定してきたが、どれも俺が持つ職業ボードのステータスの伸び率より高い。
やはり職業ボードは、その職業の最低限のステータス上昇と【スキル】や【魔法】も最低限しか獲得できないのかもしれない‥‥‥‥。
まあ、職業ボード自体がドーピングみたいな物だから仕方ないか‥‥‥。
さて‥‥‥十‥二十‥三十か? 魔物が近づいてきているな‥‥‥“敵意感知”に反応がある。
“朱雀”という異能集団の実力を知るには丁度いい機会だ。
四方からウサギや猿のような魔物が飛び出してきた! “朱雀”の団員は全員が慌てることなく輪になって魔物に向き合う。背中を仲間に預け、死角を無くし四方の敵に対応できるように一斉に構えた。
無駄な動きは一切ない。
今日はじめて団員に加わる俺をはじめとした新人を輪の中心に置き、守るように陣形が組まれている。
魔物が一斉に襲い掛かってくる! 俺に声を掛けてきたガタイのいい男たちは、連携しながら魔物を迎撃していく、戦士の陳は持っている大剣で猿の魔物を切りつけ自分に注意を向けさせると、その隙に武道家の李が懐に潜り込み強烈な連撃で止めを刺した!!
なるほど‥‥‥口先だけじゃないってことだな。
特に王欣怡の戦い方は凄まじかった。最小限の動きしかせず持っている鉄製の棍棒を振るって次々に魔物を倒していく。
驚異的なのは彼女が使っている棍棒は魔鋼鉄製ではない。にもかかわらず魔物を一撃で倒していっている!!
よく見ると彼女の体を覆う気功が体だけではなく棍棒の先まで行き渡っている。
それによって、ただの鉄の棍棒が魔鋼鉄を含む武器以上に魔物にダメージを与え、棍棒が折れない固さに変わっている。
俺も“模倣”のスキルでマネてみようとしたが、うまくいかなかった。かなり高い技術がいるみたいだ。
彼らは数十匹いた魔物をモノの数分で倒してしまった。異能の集団“朱雀”か‥‥‥確かに世界に名を轟かすだけのことはある。
「怪我人はいないか? 各自で被害をチェックしろ!!」
王が団員に指示を出し、副長の劉がそれをフォローする。完成されたチームだと感心していた。だが、異変はすぐに起こる‥‥‥。
「これは‥‥‥?」
地面が揺れて小さな地響きのような音がする‥‥最初は地震かと思ったが違った。地響きは少しずつ大きくなり、やがて何かが近づいてきていることに気付く。
”朱雀”の団員の1人が口を開いた。
「魔獣大氾濫だ!!!」
何千何万という魔物がこちらに向かってくる! 極まれに魔物が集団で大移動する現象を大氾濫と呼んでいるようだ。
何かに追われるように、こちらに向かってくるな‥‥‥‥。
「さすがにこの数は無理だな。一旦退避する!!」
王が全員に指示を出す。
「待った!」
双眼鏡で魔物の動向を確認していた団員だった。
「一際デカイ虎の魔物がいる! ひょっとしたら“統率者”かもしれない!!」
「何!?」
王は団員から双眼鏡を奪い取り、巨大な虎を確認した。
「確かにあんな魔物は見たことがない‥‥‥」
王は少し考えてから団員に改めて指示をだす。
「アレが“統率者”なら、ここで引くわけにはいかない!! 私が仕留めるから他の魔物たちの相手を頼む! なんとか道を切り開いてくれ!!」
辺りは今までにない緊張感につつまれていた。




