第56話 気功武術
「最後は試合形式による試験で判断する。勝ち負けではなく内容が重要になってくるので、そのつもりで臨め!」
Bグループの中で同じくらいの力の者が対戦を組まれ、それぞれ戦っていく武器は木刀や棍棒、木製のトンファーなどを使ってもいいようだ。
俺が見る限り、あまり強そうな人物はいなかった。自分の対戦相手が誰になるのか考えていると、番号が呼ばれた。
「B-186番! 前に出ろ」
部屋の中心部に歩いていくと、向こうから1人の女性がこちらに進んでくる。どうやら彼女が対戦相手らしい。
女性なのでやりにくいかなと思ったが周りの反応がおかしいことに気付いた。
会場全体がザワついている。近くで見る女性は、長い黒髪を束ね精悍な顔立ちをしていた。落ちついた表情をしているが、只ならぬ雰囲気を漂わせている。
「王だ! 私は素手でいい、遠慮せずかかってきていいぞ!」
そうか、この人が王欣怡‥‥‥“朱雀”のリーダーか‥‥! 俺は鑑定を行使しステータスを見てみる。
モンク Lv64
HP 646/646
MP 120/120
筋力 580
防御 328
魔防 210
敏捷 1382
器用 87
知力 66
幸運 68
【職業スキル】
武術 Rank A
回復術 Rank C
気功武術 Rank B
【スキル】 【魔法】
俊敏(Ⅵ) 回復魔法(Ⅲ)
強化魔法(Ⅶ)
かなり強いな‥‥‥職業スキルは3つあるが、俺が職業ボードを使った時のステータスの伸びを遥かに超えている。やはり個人の才能に関係するんだろうか?
彼女は武器を持たずに構えた。それなら俺も――
「五条だ! 俺も素手でいい」
王は少し微笑み、1歩踏み込んできた。一瞬で間合いが詰まる!! 清水さんから聞いた事前の情報では王は“形意拳”という中国では有名な武術の達人らしいが、ステータスにかなりの差があるので攻撃を受けてもたいして効かないだろう‥‥‥そう思って王の突きを受けた。
俺の腕に王の拳がめり込む!!
――痛っ!! 腕に想像以上の痛みが走る! なんだ? この内側をえぐるようなダメージは!?
1歩下がった王をよく見ると体の周りに薄いオーラのようなものが見える‥‥‥ひょっとするとこれが“気功”なのか?
恐らくは“強化魔法”の応用によって、あの気功を出しているはずだ。俺は強化魔法なんて物を固くすることくらいにしか使ってこなかったけど、気功武術が上達していけば俺にも使えるようになるんじゃないか?
王は地面を蹴り、あっという間に距離を詰め、突きや蹴りを叩き込んでくる! 無駄な動きがまったくない!!
◇◇◇◇◇◇◇◇
最初にこの男を見た時、自分の前で計測器を殴った男とまったく同じ動きで計測器を殴っていた。少しだけ強くなるように調整したようだが‥‥‥そんなことができるのは圧倒的な実力がある人間だけだろう!
そして実際に相対して分かるのは、この男から感じる異様なまでの静かな威圧感だ。私には明らかに力を隠そうとしているように見える。
手合わせすれば、否応なく相手の強さは分かってしまう。“気功武術”のオーラこそ満足に使えないようだが、それでも私の攻撃を的確に防いでいる。
久々に見た“朱雀”にも中々いない強者だな!! やはりこの男は面白い!!!
◇◇◇◇◇◇◇◇
王は防戦一方になる俺に、息をもつかせぬ連撃を叩き込んでくる! 俺がわずかにバランスを崩すと、その隙を見逃さず間髪容れずに強力な一撃を繰り出そうとする。その瞬間、体に纏ったオーラの量が跳ね上がった!!
しっかりガードしないと危ないと感じたので両腕でクロスガードする。次の瞬間――
「そこまで!! もう充分だ!」
試験官が試合を止めた。会場はざわついたままだ。
「やっぱりスゲーな王さんは動きを目で追うのが精一杯だったぞ!」
「あの日本人、防戦一方だったな。かわいそうに‥‥‥」
「いや最後まで立ってただけでも充分じゃないか?」
色々言われているようだが、これで合格できるだろうか? 心配になってきたな。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「どうだった王?」
王に声を掛けたのは副団長の劉梓豪だった。
「久々に熱くなった。あの男、まだ本気を出してないな‥‥‥」
「だとしたら入団は決まりだな! “統率者”の討伐には、より強い戦力が必要だからな」
結局、この日の入団試験では五条を含む3人が合格となり、翌日からの“統率者”の捜索に参加することになった。




