第52話 英雄
タイタン消滅‥‥‥‥その事実はゆっくりと、しかし確実に世界に伝わっていった。
アメリカ・国防総省ペンタゴン――
巨人の襲撃で地上の施設はほとんど壊滅してしまったが、生き残った人々は地下のシェルターに逃げ延び、巨人に対抗するための準備を整えていた。
彼等が最も重要視していたのがタイタンの監視である。タイタンがどこに移動するかをアメリカ各地に点在する軍の生き残りや避難所に、あらゆる手段で情報を送っていた。
タイタンの移動した場所は“魔素”が強くなり、大小の巨人たちの出現率が上がっていくからだ。
そんな彼らのもとに信じられない情報が持ち込まれる。
「‥‥‥それは本当なのか? 間違いないんだな!?」
タイタンの消滅、それはまさに青天の霹靂だった。二度、何かが爆発したような震動を感知していたが、その直後からタイタンを確認できないという。
この情報は直ちに各地の避難所に伝達された。情報を受け取った人々の大多数は半信半疑だった。まったく信じなかった者もいたが、今までのタイタンの脅威を考えれば当然のことだろう。
そんな中、唯一彼らだけは違った受け止め方をしていた‥‥‥‥。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「タイタンが‥‥‥‥消えた!?」
「まさか‥‥‥」
ジョシュアが他の軍人と顔を見合わせる。この情報を受け取った多くの者はなぜタイタンが消滅したのか、その理由がまったく分からなかっただろう、だが彼らには心当たりがあった。
「ゴジョー‥‥あの人か? 巨人を操って俺たちを助けてくれた‥‥‥‥」
「それしか考えられないだろう‥‥‥」
近くで軍人の手伝いをしていたエルが驚いたように会話に入ってきた。
「それ本当なの!!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
ジョシュアたちの会話を聞いて僕はミシェルのもとに急いで走り出した!
このことを早く伝えたかったからだ! 僕は命を救ってくれた彼に勝手に嫉妬して、嫌って避難所から追い出した。
なのに! また助けてくれたうえ、僕の怪我まで治してくれた‥‥‥。
まだちゃんとお礼も言えていない。次にもし会えたなら‥‥‥その時は――
「ミシェル!!!」
避難民の女性たちと一緒に洗濯物を干していたミシェルが、笑顔でこちらに振り返った。
「どうしたの? エル」
「タイタンが消えたって‥‥‥今ジョシュアたちが言ってるのを聞いたんだ」
その場にいた誰もが僕の言っていることをすぐには理解できなかったみたいだ。
「まさか‥‥‥ゴジョーさんが!?‥‥‥そうなの?」
「きっとそうだよ! あの人がやってくれたんだ!!」
ミシェルは僕のことをやさしく抱きしめてくれた。そして声を出して泣き始めた。僕も一緒に泣いた‥‥‥大声で泣いた! 周りにいた人たちは驚いてこちらを見ているようだったけど、そんなこと関係ない。
嬉しくて、ただ嬉しくて泣きつづけた‥‥‥‥
この日、アメリカで生き残った全ての人々は“厄災の日”以来、初めて希望を胸に抱くことができた。
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日本――岐阜基地
清水が満面の笑みで俺の所に来た、何が言いたいのかは分かっている。
「聞いたか? 坂木!」
「ああ、聞いたさ‥‥‥‥やったんだな!」
「五条さんがホントにやっちまったな! まあ俺はできると思ってたけどな‥‥‥」
この話題は自衛隊の中でも広がり色々な憶測も飛び交ったが、やはり“爆炎の魔術師”が倒したのではないかと噂する者が多かった。
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大阪――首相官邸
「以上が防衛省から上がってきたアメリカに関する情報です」
「そうか‥‥‥‥これでアメリカは救われたな。あの国は強いから、ここから再建していくだろう‥‥‥」
事務次官からの報告を受け、執務室の椅子に腰を掛けた。それにしても日本に続いてアメリカまで救ってしまうとは‥‥彼に感謝すると共に、強い畏怖も感じる‥‥‥。
彼がこれからどこに向かうのか‥‥‥それがこの世界の運命を決定づける。そんな気がしていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
中国・ロシア・ヨーロッパと情報が拡散していく中、なぜタイタンが消滅したのかが話題となり、様々な憶測や噂がされたが真相にたどり着くものはいなかった。
しかし、やがて世界が気付き始めることになる。たった一人の男が起こした奇跡に‥‥‥‥




