第45話 診療所
「俺が巨人といたことは内緒にしておいて‥‥‥」
助けた姉弟に、お願いしてミラー・パークの中に入っていった。明らかに疲弊した人たちが球場にいくつものテントを張って、肩を寄せ合って暮らしているようだ。
この光景を見るだけで今のアメリカがいかに酷い状況か、よく分かる。
「ここでは充分な支援はできないが、生活に必要な最低限の物は支給する。安心していいぞ」
軍人の言葉に姉弟は安心したようだった‥‥‥俺はここでタイタンに関する情報を集めるのが目的だから一旦姉弟とは別れて行動することにした。
「ミシェル‥‥‥あの人、大丈夫なのかな? 巨人を操れるなんて何かおかしいよ!」
「エル! 私たちは彼のおかげで助かったのよ!! 彼がいなかったら二人とも生きてないわ」
「でも‥‥‥‥‥」
◇◇◇◇◇◇◇◇
軍人に聞いて回った結果いくつか分かったことがあった。
「タイタン討伐戦に参加したのは、そうだな‥‥‥ここではジョシュアぐらいかな、ここでリーダーをしてる奴だ。あんたたちをここに案内した男だよ」
タイタンと戦った軍人はほとんどが死んでしまったらしい‥‥‥‥ここでは唯一ジョシュアという人だけ生き残ったみたいだ。ジョシュアに話を聞きに行くと。
「ああ、確かに作戦には参加したが、後方支援だ。前線に出ていた奴らは全員死んだよ。俺もタイタンは直接見ていない」
「タイタンに関して他に何か知ってることはないかな?」
「どうしてそんなにあの巨人のことを知りたがるんだ‥‥‥‥俺からしたらもう思い出したくない記憶だ!」
どうやらここで得られる情報は多くないようだ‥‥‥後は何人かの一般人にアメリカの現状を聞いたら早々に出発するか‥‥‥‥。
そう思っていたところ、目に留まった場所があった。
「あそこに人が運び込まれているようだけど、何があるんだ?」
「あれは診療所だ。怪我人や病人が手当を受けてる、良かったら行ってみるか?」
ジョシュアの後に付いていくと、診療所には思っていたより多くの患者がいた。元々は野球選手の控室みたいな所だが、壁をぶち抜いて広いスペースを確保している。
医者が数人いるようだったが、満足のいくような医療設備もなく軍人や民間人が手伝いながら、なんとか診療所を回している様子だった。
「怪我人は巨人にやられたのか?」
俺がジョシュアに聞くと、苦い表情をしながら答えてくれた。
「そういう奴らもいる‥‥‥巨人に襲われ命からがら逃げてきた‥‥お前らと同じだな。他には軽い病気に罹ったが食べる物や医療道具が満足に無いせいで、重症化した者‥‥‥ここにはそんな奴らが大勢いる」
俺が回復魔法で一遍に治してもいいが、騒ぎになっても困るしな‥‥‥あんまり目立ちすぎると自衛隊の時のように軋轢を生むかもしれない。
「俺にも手伝わせてくれないか? 何かしないと落ち着かないからさ」
「本当か? それは助かる。ここの責任者と話してくるから待っててくれ!」
少し離れた所にいたミシェルが会話に入ってきた。
「あ、あの私にも手伝わせてください!!」
「ミシェルだったな。分かった! 人手は多い方がいいからな」
その日の夕方から、ミシェルと一緒に診療所の手伝いをすることになった。手伝いといっても、包帯の取替や自分で歩けない人をトイレに連れて行ったり、後は動けない人の体を拭いてあげたりするだけだ。
医者じゃないから医療行為はできない‥‥‥だけど――
「目の傷は痛みますか?」
「ん? 新しい人か‥‥‥いや、もう痛みはないよ。目は完全に潰れていて二度と見えないらしいが‥‥‥」
目に包帯を巻いて手足にも怪我をしている患者の体を拭いていた。直接手で触れば体のどこが悪いのか感じ取ることができる。
“回復魔法”を使った。一度に治してしまうと余計な混乱が起きるかもしれないからな‥‥‥ある程度治して後は自然治癒力を高めて徐々に治るようにしよう‥‥‥‥。
回復術のランクが“SS”なので、かなり応用が利くようになったから大抵のことは出来る。
その後も、何十人かの患者の体に回復魔法をかけ、その日はミシェルと一緒に宿泊施設に行くことにした。施設と言っても建物内の通路に板などで衝立をしたものだ。
宿泊する場所はかなり狭いが1人分のスペースがしっかり確保されている。ゆっくり休めと言われているが、その前に‥‥‥‥
俺は瞬間移動でミラー・パークの外に来ていた。“空間探知”でこの周辺に巨人がうろついていることが分かったので、念のため駆除しておくことにしたからだ。
万が一、ミラー・パークを襲われても困るからな‥‥‥!
その後も、近づいてくる巨人がいれば周りに気付かれないように駆除していった。




