第37話 ダンジョン
東京――
日本で最も被害を受けた都市は凄惨な光景を晒していた。
その中でも青黒い大地が一際、盛り上がっていた場所に俺は立っていた。
東京に行くと言った時、自衛隊にも何か協力できないかと坂木さんに言われたが、丁重に断った。
『足手まといになりますよね』と言った坂木さんに犠牲者が出るのが一番困るとハッキリ言って納得してもらった。
目の前には坂木さんが言った通り、巨大な穴がポッカリ空いていた。まるで多くの者が入ることを歓迎するかのような、漆黒の穴に“空間探知”で探りを入れてみると確かにずっと奥まで複雑な迷路のように地下に続いているのが分かる。
「ダンジョンっていうのは意外に的確な表現なのかもな‥‥‥」
俺は空間から1枚の職業ボードを取り出した。“探索者”のボードだ。ダンジョンがあるならこの職業ボードがあるのも納得できる。
職業ボードの表面をタッチして職業スキルを見る。
探索者 Lv1
【職業スキル】
魔術 Rank SSS 称号“魔術王”
回復術 Rank SS
複合魔術 Rank B
マッピング Rank F
探索者の職業スキルは“マッピング”か‥‥‥確かにダンジョン攻略には役に立ちそうだ。空間探知は、大雑把に空間や生物の配置は分かるが細かくは無理だったからな‥‥‥。
俺は巨大な穴に向かって足を進めた。漆黒の闇が体を飲み込んでいく。
◇◇◇◇◇◇◇◇
『なんだ、この違和感は‥‥‥‥‥‥何者かが我が住処に侵入したのか?』
闇の中に揺れるその影はわずかに興味を抱くが、すぐに思い直す。虫けらがいくら中に入ろうと、ここまでたどりつくことはない‥‥‥‥その結論は揺るがなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ダンジョン5階――
「フーやっと5階かーこんなにアンデッドが多いとは‥‥‥予想以上だなー‥‥‥」
俺は右手の上に展開された3Dマップを見ながらため息を吐いた。化物が溢れているとは聞いていたが倒しても倒しても壁などから次々生まれてくる。
ここから生まれたアンデッドが地上に溢れて、それが人々に襲い掛かっているのか‥‥‥やっぱり、ここにボスがいると見て間違いないだろう。
それにしても、この3Dマップは便利だ。細かい道順や敵の位置まで手に取るように分かった。今は5階だが、すでに8階までマッピングされている。そして――
「探索者がカンストした‥‥‥経験値はそうとう入ってくるからな‥‥‥‥」
そう言って俺は職業スキルを確認した。
探索者 Lv99
【職業スキル】
マッピング Rank F → C
獲得“スキル” 鑑定(Ⅰ)× 2 寒熱耐性(Ⅰ)× 1
マッピングは“C”にまで上がった。このダンジョンを攻略するには充分だろう。
「さて次の職業は――」
俺は次になる職業をすでに決めていた。職業ボードを取り出しタッチする。ずっとなりたかった職業だ!
賢者 Lv1
HP 1416/1416
MP ∞/∞
筋力 554
防御 378
魔防 780
敏捷 420
器用 711
知力 1568
幸運 563
【職業スキル】
魔術 Rank SSS 称号“魔術王”
回復術 Rank SS
複合魔術 Rank B
マッピング Rank C
魔道図書 Rank F
SRの賢者! SRは成長が遅いので後回しにしていたが、このダンジョンなら経験値が豊富に手に入るし、ボスまでいるならここでなるのが効率的だと思った。
賢者の職業スキルは“魔道図書”か‥‥‥‥よく分からないな。まあランクが上がっていけば分かるだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇
我は、遥か昔からここに居る……自分の記憶は徐々に薄れてきているように感じるが、そんなことは関係なかった。ただ魔力を大地に流し大量のアンデッドを作り出すことを繰り返している。
それが自分の使命であることだけは理解していた。そのことに疑問を持つこともない。
今日もいつもと同じ作業の繰り返し、暗闇の中でただひたすら‥‥‥‥しかし突然、暗闇を切り裂く無数の炎が飛んできて壁や地面など燃やし始め、闇を奪っていった。
「なんだ‥‥‥!?」
見上げると上層階の入り口付近に1人の男が立っていた。
「いやー暗かったんで、明るくしてみたよ」




