第33話 絶望の足音
五条が岐阜基地に逗留してから五日、大阪では魔法禁止法案が緊急事態基本法により正式に可決された。これによって法律上魔法を使用した場合、10年以下の懲役が科されることになった。
「坂木! どうなってんだ‥‥‥‥これから五条さんを中心に自衛隊が協力して日本の奪還ができるかもって思ってたのに、これじゃ政府の方が足引っ張ってるんじゃないのか!?」
「俺に言ったってしょうがないだろう! 俺だって納得はしてないんだ!! 上には何度も抗議した」
「まだ五条さんには法案のことは伝えてないんだろ! お前が伝えるのか?」
「いや、山本空将補が伝えることになってる。今後は自衛隊の管理下で五条さんを戦わせるつもりなんだ」
「うまくいくと思ってんのか? 彼は自衛隊員じゃない。一般人だ。政府の言うことを聞いて戦う義務なんてないんだからな!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は寝室のベッドに横になりながら、今後どうするか考えていた。山本さんが言うには政府の正式な許可が下り自衛隊の指揮下であれば魔法を使った戦闘は可能だと言う。
できれば、すぐにでも魔物が溢れてるという福岡や東京にいって戦いたいが、政府や自衛隊と軋轢を生むのも良くないと思ってるしな。
どうなるか、しばらく様子を見るか‥‥‥‥そう考えていた時
「んっ?」
何か違和感を覚えた。かなり遠くの方からだ。
「これは大阪か‥‥‥?」
“敵意感知”の能力が僅かに反応しているようだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
大阪府大阪市――
午前0:00時、それは大阪市の中心で起こった。
夜の闇の中、細い亀裂のように光の輪が現れる。光の輪が次第に大きくなり巨大な輪が地上から10mの地点でクルクルと回っている。
光の輪の内側には何かの文字が書かれているように見えるが誰も読むことはできなかった。
大阪市には元々いた住民と避難してきた難民で人口は溢れている。その大阪市の各地に合計5つの光の輪が現れ、その中からゆっくりと巨大な体躯が姿を現す。
官邸に一報が入ったのはその直後だった。
「総理! 起きてください。緊急事態です!!」
眠りに就いていた総理の多田は、SPにたたき起こされることになった。
「化物が大阪の市内に現れ、現在、自衛隊と交戦中です。すぐに避難の準備を!」
「‥‥‥ここから避難しなければならないほど状況が悪いのか?」
「かなり苦戦を強いられているそうです。ここも戦場になる危険性がありますので、どうかお早く!」
「だったら避難より先に岐阜基地にいる五条に救助要請を――」
そう言いかけた総理は窓の向こうに今まで見たことも聞いたことの無い巨大な化物がいることに気付いた。
「なっ!? なんだアレは」
化物は巨大な口を開けこの世の物とは思えない咆哮で、仮設の首相官邸を吹き飛ばした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
“千里眼”で大阪の上空から様子をうかがった時、異様な魔物の姿が目に入った。
「あれは‥‥‥」
“鑑定”でその魔物のステータスを確認する。
ドラゴンゾンビ
アンデッド(最上位)
Lv98
HP 1028
MP 646
筋力 822
防御 562
魔防 1496
敏捷 230
器用 18
知力 72
幸運 16
【スキル】 魔法耐性(Ⅴ)
これはヤバイ‥‥‥人間が勝てるレベルじゃないな。
瞬間移動ですぐに向かおうと思ったが、勝手に行くと問題になるかもしれない。
そう思って部屋を出て、山本さんや坂木さんへ知らせてから大阪に行こうとしたが、警備をしていた自衛隊員に呼び止められた。
「どこへ行かれるのですか?」
「山本さんか坂木さんに緊急で知らせることがあるんだが」
「夜も遅いので明日でよろしいのでは?」
「緊急なんだ」
「分かりました。では呼んできますので少々お待ちください」
そこから20分近く待たされた‥‥‥‥いや、こんなことをしてる場合じゃないんだが‥‥‥‥。
「どうしたんだね。こんな夜遅くに!」
やってきたのは山本だった。もう寝ていたのかあからさまに不機嫌そうな表情で話しかけてくる。
「大阪が強力な魔物に襲われている。すぐ助けに行かないと!」
「そんな報告は受けておりません。そもそもどこから入ってきた情報ですか?」
「説明するのは難しいですが、そういう能力があると考えてくれれば、俺は行きますんで坂木さんにも伝えておいてください」
そう言って行こうとすると警備していた自衛隊員が立ちはだかった。




