第32話 悪い予感
俺は怪我をした自衛隊員を集めてもらって広範囲の回復魔法を掛けた。回復魔法の精度や威力が大幅に上がっていたため、重症の隊員も問題なく治すことができた。
手足を欠損した人は個別に魔法を掛ける。光が溢れ手足が元に戻ると隊員から感嘆の声が上がった。
「すごい‥‥‥これが魔法か‥‥‥」
「傷が、あっと言う間に治ったぞ!!」
さすがに全員の治療にはかなりの時間が掛かったが、なんとか治すことができた。多くの自衛隊員から感謝されたのは生まれて初めて感じるうれしさがあった。
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おかしい‥‥‥‥‥彼を最初に“鑑定”した時、職業は“大魔導士”だった。でも今“鑑定”すると僧侶、レベル99とでる。
間違えたわけじゃない‥‥‥‥明らかに変わっている。
桜木は散々迷った挙句、意を決して直接聞いてみることにした。
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「あ、あの五条さん‥‥‥質問があるんですが、いいでしょうか?」
「え? あっハイ‥‥‥」
この子は確か坂木さんのとなりにいた‥‥‥
「桜木といいます、私は“鑑定”という能力を使って特殊な能力を持つ人たちを色々見てきました‥‥‥でも、五条さんほど強い人は見たことがありません! なんと言うか‥‥桁が違うというか次元が違うというか‥‥‥どうしてそんなに強くなれたんですか!? 教えてください! お願いします」
「ええっと‥‥‥それは‥‥‥」
真っすぐな目で純粋に聞いている‥‥‥‥どうしよう‥‥‥‥まさか突然現れたガチャに給料突っ込んで強くなりましたなんて言ったら頭のおかしい奴だって思われるだろうし‥‥‥う~~ん
「それはー‥‥その、なんというか“運命的な感じ”で‥‥こう‥‥たまたま強くなったっていうか‥‥‥」
ああヤバイ‥‥意味不明な言葉しか出てこないぞ。
「運命‥‥‥」
「おーい。五条さん、こっちに来てくれ。大阪から、あんたに会いたいって自衛隊のお偉いさんが来てるんだ。案内するよ」
「あ、ああ、ハイ! ちょっと呼ばれてるんで行ってくるよ」
良かった‥‥真面目に答える語彙力は俺には無いからな‥‥‥桜木さんは俺に何か言いたげだったが、逃げるようにその場を去った。
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五条に会いに来たのは統合幕僚長の林田だった。
「初めまして、あなたが五条将門さんですね。この度は自衛隊に多大なご助力をいただいたそうで誠にありがとうございます。大阪にいる総理からも感謝の意を預かっております」
「人を助けるのは当然のことですから、気にしないでください」
「そう言ってもらえると、とても助かります‥‥‥」
林田に席を勧められ、俺と清水さんの向かいに幕僚長の林田さん、そしてその隣に岐阜基地の責任者と名乗った山本という人が席に着いた。
「五条さんの“魔法”ですか‥‥‥これに助けていただいたのは間違いないのですが、現在とても難しい状況になっておりまして‥‥‥‥」
「どういうことでしょうか?」
「今までは緊急事態ということで魔法という、ある種の武力を行使されていたことは『やむを得ない行為』となるので問題ありませんが、今後魔法を行使すると法的な問題になる可能性があります」
法的な問題と言われてもピンとこなかったが、林田は話を続けた。
「我々としては五条さんにご迷惑をお掛けしたくないものですから、できれば政府の方で結論が出るまで魔法の使用を控えていただきたいのですが‥‥‥‥」
「そうですか‥‥‥分かりました。みなさんにご迷惑をお掛けするわけにもいきませんからね」
「ご理解いただき、ありがとうございます。お疲れでしょう、基地の施設にお休みになる場所を用意しておりますので、どうかお越しください!」
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「五条さん! 腹が立たないのか、あいつら体よく五条さんを扱おうとしてるんじゃないのか!? もっと怒っていいと思うぜ」
俺は正直、憤慨していた。この窮地を救ってくれたのは間違いなく五条さんだ。それなのに魔法を使用するなと言い始めている。自分たち自衛隊のメンツが潰されたと思ってるんじゃないのか?
「かまわないよ‥‥‥自衛隊の人と揉める気はないからね」
五条さんはそう言うが俺は今後、悪い方向に進んでいかないかそれが気がかりだった。
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「どういうことですか!? 事実上の軟禁状態にするということですか?」
「そうだ。本人には、なるべく気づかれないようにしろ」
坂木は山本の言葉が信じられなかった‥‥‥壊滅寸前の自衛隊を、日本を助けてくれた恩人に仇で返すようなものだ。
「なぜです? そんなことをする必要がどこにあるんですか?」
「よく考えろ坂木! あれほど巨大な力が暴走したら誰にも止められなくなるんだぞ!! 我々自衛隊が管理しコントロールするというのが政府の考えだ」
「コントロール?」
「じきに大阪で臨時国会が開かれて“魔法”に関する法律が制定される見込みだ。そうなれば魔法を使うこと自体、違法となる。我々の許可がなければ使えないということだ」
「こんな世界になって法律にどんな意味があるんですか?」
「もしも奴が暴走した場合、坂木! お前が対処するんだ。これを使え‥‥‥‥」
山本が取り出したのは、木箱に入った銃弾だった。
「魔鋼鉄で造られた銃弾だ。何人かの隊員にはすでに持たせてある最悪の場合はこれを使って対処しろ。所詮は人間だ至近距離から撃たれれば無事ではすむまい」
坂木は絶句し、その場で凍り付いた。




